寄稿 欧州再遍歴の旅から
老人問題の社会医学的研究
著者:
吉田寿三郎1
所属機関:
1大阪医科大学衛生学教室
ページ範囲:P.465 - P.476
文献購入ページに移動
この−1972年−9月欧州から帰ってみると,有吉佐和子の"恍惚の人"という老人性痴呆を扱った小説がベスト・セラーになっていた,家族のものにすすめられて早速通読した.主人公の父がボケて終焉していく過程を小説らしく紆余曲折しながら紹介している.適当に事件を起こして最後に人間らしく割りに短い期間で昇天して行く.この老いの厳しさが読者たちには余程ショッキングであったようである.模擬的な自己体験効果をもつ芸術の力に大いに敬服した.その後老人問題の専門家とみられている方から有吉女史はあまりに世間騒がせであるなど非難をまま耳にしている.しかし私は20年近く取組んできた老人問題がいよいよ重大な,きわめて困難なものであるとますます感じているだけに,この問題を知性の上で諒解するとともに情緒の上に刻印することを高く評価する.
めちゃな妊娠中絶が加わったあまり急激な出生率の低下で,日本の人口構成に抜きがたい大きな歪みができた.この将来が気にかかっていたが,昭和30年代に入ってようやく西欧の老人国を訪ねることができた.しかし当時厚生技官としては,老人問題の研究などというテーマでは海外出張はできなかった.成人衛生を勉強する名目で,Sweden政府の援助があって北欧へ渡った.