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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生37巻9号

1973年09月発行

雑誌目次

特集 老人健康診査

老人健康診査の役割

著者: 山下章

ページ範囲:P.580 - P.581

 一般に健康の保持増進については,本人およびその家族が主体である.しかもそれは,老人になってからの問題より「上手に齢をとる」ためのそれ以前に基盤がある.
 ところが,老人福祉法第1条には「この法律は,老人の福祉に関する原理を明らかにするとともに,老人に対し,その心身の健康の保持および生活の安定のために必要な措置を講じ,もって老人の福祉を図ることを目的とする」と述べており,社会的弱者である老人に対しては,国および地方公共団体の行政責任としての主体性がうかがえる.このことは第4条に「国および地方公共団体は,老人の福祉を増進する責務を有する」と明らかにしている.そして保健上の具体的な事項として,第8条には保健所が行なうべき業務,第10条には健康診査を市町村の義務としている.この両条項を実施することにより老人の健康を管理せよというのが趣旨であると解される.

老人保健行政

著者: 苫米地孝之助

ページ範囲:P.582 - P.586

 老人福祉法が制定されてから本年で丁度10年になる.老人福祉はその基本的理念として同法第2条に「老人は多年にわたり社会の進展に寄与してきた者として敬愛され,かつ,健全で安らかな生活を保障されるもの」となっており,その理念にもとづいて昭和38年から老人健康診査が,48年から老人医療費支給制度が実施されている.
 また,法律によらない予算措置として昭和45年から老人性白内障手術費の支給事業を,47年から在宅老人機能回復訓練を実施しているが,老人保健課の事業は以上4つの業務に過ぎないので老人保健行政を課の業務にしぼればこれだけになってしまう.しかし老人保健を本格的に取り上げるとするとやはり健康増進から予防医療,リハビリテーションまでの一貫した体系を考える必要があり,その観点を是認すれば老人福祉課など他の社会局の行政や医務局,公衆衛生局など厚生省全般にわたることになる.

老人の健康診査

著者: 相澤豊三

ページ範囲:P.587 - P.591

 最近,日本人の寿命が延びて70歳を超えようとし,人口構成は壮年から老年層に移ってきた.従来おそれられていた感染症では若い人が死ねなくなってきたからである.当然の結果,血管の病気と癌とがとり残されて老人を襲う主たる疾病となったわけである.
 最近のやかましくいわれている成人病なるものは老化現象を伴なっている健康異常であると解釈されているが,やはりその重点は循環器病と腫瘍(癌)にあるといってもよいであろう.現在,わが国民死亡の頻度は,脳卒中・癌・心臓疾患,老衰,事故死の順であることからもそれが判る.上述のうちに老化現象,老衰ということばが出たが,それはいったい何を意味するのか,老化現象にとって老人の健康診査はどのような意義があるのか.また乳幼児の健康診査との違いといった点に問題を絞って話しを進めていこうと思う.

老人健康診査における一般診査と精密診査

著者: 五島雄一郎

ページ範囲:P.592 - P.598

 老人人口の増加に伴ない,老人医療の無料化をはじめ,老人の医療問題は大きな社会問題としてとり上げられてきている.昭和38年に老人福祉法が制定されて10年になるが,厚生省でも老人問題についてプロジェクトチームを作って今後の方針を検討することになったと伝えられている.このような時代に老人の健康診査を実施することによって疾病の予防および早期発見を行ない,老人の健康保持につとめることは意義の深いことである.
 編集部から,老人の健康診査における一般診査と精密診査とのちがい,また一般診査によって見出せないものが精密診査によってどれだけ発見できるか,また現在の老人健康診査の問題点などについて書けという要求であり,このような要望に十分答えられるかどうか疑問であるが,一応いくつかのデータを提示して責を果たすこととする.

老人保健と医療供給体制

著者: 朝倉新太郎

ページ範囲:P.599 - P.604

 健診は,何も老人健康診査に限ったことではないが,必要な治療が確保されることによって,はじめてその目的が完結する.これは当り前過ぎる話であるが,老人健康診査の場合,この原則はあいまいなまま実施されて今日に至っている.そのため,たとえば先般発表された行政管理庁の「行政監察結果」が指摘されているように,健康診査そのものが,きわめて不十分なものになってしまっている.
 そもそも厚生省は,この老人健康診査の目的を「老人は一般に有病率が高く,疾病に対して強い不安をもっているにもかかわらず,社会的および経済的理由により,受診の機会を阻まれている例が多いので,老人に受診の機会を与えることによって,疾病の予防および早期発見を行ない,老人の健康保持に資する」(福祉と国民生活の動向,昭和41年版)ことにおいているらしい.この文脈によると,ややうがち過ぎる読み方かもしれないが,疾病の予防,早期発見」と「老人の健康保持」の間にあって然るべき「適正な治療」とか「医療の確保」といった文は何故か欠落してしまっている.この矛盾,原則無視の結果は,老人健診自身がそれ程のびなかったことによって余り表面化しなかった.しかし,老人医療費の無料化という伏兵が現われて,今や事態は急変した.

老人健康診査と保健指導—保健婦の立場から

著者: 大工原秀子

ページ範囲:P.605 - P.610

§1.心の健康の重視
 常識的には,「健康」というと肉体の健康,つまり身体の健康を意味する.しかし,ここで私は「健康」という場合,身体の健康とともに,必ず「心の健康」をも十分に,極端にいえば身体の健康よりも重視するくらいに考慮しなければならないことを強調したい.
 この意味は,保健婦の行なう保健指導が,地域住民の「心の健康」に役立たねばならないということである.

老人健康診査の実態—東京都の場合

著者: 藤波襄二

ページ範囲:P.611 - P.615

 老人福祉法の中に保健措置として定められているのは,第8条の保健所の役割と第10条の健康診査であるが,この両者ともまだその活動はきわめて未熟である.
 たまたま東京都の23特別区と都下にある25の市における昭和46年度の老人健康診査の実施状況について調査する機会があったので,その概要を述べその結果からいくつかの問題点について考えてみたいと思う.

老人健康診査の実態—大阪市の場合

著者: 大和田国夫

ページ範囲:P.616 - P.620

 老人問題については種々論じられているが,基本的には生活保障,住居,保健医療,労働に関する四つの問題にしぼられるといわれている1).その中の一つである老人の保健については,まず老人の特性として,健康状態の追求がなされ,地域社会における老人の実態が調査され,報告されはじめた.老人でなんらかの自覚症を有するものは70%に及ぶとの報告2)や,また都市の一地域に在住する老人が違和感を自覚するものは40.3%であったが,健康診断の結果,有疾患者は78.0%に達したと報じられたり3),さらに自覚的に重大な疾患を有せず,日常生活に支障のないものでも(自覚的健康老人),健康診断の結果,有疾患者は69%に認められ,健康者と考えられるものは,自覚的健康者の3割内外に過ぎないといわれていて4),老人では真の健康者はきわめて少ないというのが大方の考えである.
 身体障害などによる,いわゆるねたきり老人は,大都市における調査では70歳以上の老人のうち,8.9%に認められ5),他地域での80歳以上の成績では16.6%におよんでいる6).厚生省の全国調査(昭和38年)7では,65歳以上で5.6%に認められたというから,65歳から70歳までの5年間に増加するのは当然であるが,70歳以後の増加は著しいものと思われる.

発言あり

独居老人

著者: ,   ,   ,   ,  

ページ範囲:P.577 - P.579

生きるとは何か?
 老人問題を考える時,いつも思い出すのは,数年前,山奥の無医地区へ検診に行った時の出来事である.その日,役場の保健婦から往診を頼まれた.老衰のため数年前から寝たきりのおじいさんで,山奥なので医師も往診に応じてくれない,死ぬ前に一度でいいから医師に診てもらいたいという家族の強い要望なので,是非頼むとのことである.医師免許証が涙を流しているような医者だから……と丁重にお断りしたが,どうしてもという保健婦の粘りに負けて,重い腰をあげた.
 患者宅に着いてみると,途中で保健婦から聞いた話の通り,家族全員が献身的に世話をしている様子が一見して分かった.おむつを当てたままだが,褥瘡ひとつない.型通りの診療をしてみたが,多少耳が遠いだけで,やぶ医者の小生には病的所見は全く見当らない.まさしく「枯れた」としかいいようのない状態である.眠っている間以外は天井を見つめたままの毎日だという,こんな時どう説明したらいいのか,言葉の持つ意地悪さを恨みながら必死に考えたが,どうもうまい言葉が見当らない.そして,口をついて出た言葉はわれながら情けなかった……"どこも悪くないから,まだ長生きできますよ".つぎの瞬間,老人のはじめてつぶやいた一言が雷のように耳に響いた……"長すぎます".小生は恥しさで逃げるようにしてその家を辞した.

対談

医療と法

著者: 唄孝一 ,   西三郎

ページ範囲:P.622 - P.630

 医療と法についての多くの論議は,医療事故をめぐる医師と,患者の代理人である法律家との間に交されるだけだったと思われる.現在,国の医療政策の基本を,患者の治療から包括医療ないし総合保健へと転換しようとしている.そこで,人間の生存に係わり,患者(国民)と医師の信頼関係の上に成り立っている医療を,法律家の視点から「医療と法」と題してお話しいただいた.公衆衛生従事者にとり,患者(国民)の医療に対する権利・意思の尊重についての論議の発端になればと思う.

研究

東京スモッグにおける被害症状とシアン化合物との関係—(第1報)症状の分析とシアン化合物の症状

著者: 南雲清 ,   天谷和夫

ページ範囲:P.631 - P.636

I.各学校別にみた症状の比較
 1970.7.26.立正高校(杉並区),1972.5.12.石神井南中(以下「石南中」と略す)(練馬区),1972.6.1.大森一中(大田区)に発生した一連のいわゆる「光化学スモッグ」事件は,単にオキシダントのみによるものとは考えにくい.よってその症状を分折し,原因物質の究明について医学的考察をおこなった.

資料

宮城県の保育所児童および家族に発生した耐性菌による赤痢集団発生例について

著者: 土屋真 ,   北川郁夫 ,   三浦庄四郎 ,   佐藤徳助 ,   松松寿 ,   佐々木テル子 ,   佐藤幸八

ページ範囲:P.638 - P.640

 近年,化学療法の濫用により不完全治療等による耐性菌が,種々の細菌において問題になっている.赤痢菌においても薬剤耐性頻度の著しい上昇が指摘され,耐性菌による赤痢集団発生の報告も多い.
 このたび気仙沼市の保育所に発生した赤痢については,すでに一部報告1)したが,赤痢防疫対策本部を解散したあと再び流行するという事態を生じ,耐性菌に対する従来の防疫対策を深く反省させられたので紹介する.

健康に関する権利規定・9

社会主義国の憲法

著者: 西三郎

ページ範囲:P.641 - P.642

 社会主義国の憲法の最初のものは,ロシア革命による1918年「勤労被搾取人民の権利の宣言」に基づいて作られた「ロシア社会主義連邦ソビエト共和国憲法」1918年である.ソビエト連邦の憲法としては,1924年が最初で,その後1936年新憲法が設定され現在にいたっている.第2次大戦後社会主義国の誕生に伴ない,同憲法が次々と制定されていった.現行社会主義国憲法の制定をみるとソ連1936年,ブルガリア1947年,朝鮮民主主義人民共和国1948年,ハンガリー1949年,アルバニア1950年,ポーランド1952年,中華人民共和国1954年,キューバ1954年,ベトナム人民共和国1959年,モンゴル人民共和国1960年,ユーゴスラビア1963年,ルーマニア1965年,ドイツ民主共和国1968年,チェコスロバキヤ1969年となっている.これらの諸国の憲法より,ソ連,中国およびルーマニアについて英訳憲法より健康に関する条文を和訳した.なおチェコスロバキヤの1969年憲法が入手できなかったので1960年旧憲法によった.
 社会主義国の憲法は,その形態をソ連邦の憲法から強い影響を受けている.健康に関する規定においても,紹介した4か国とも似た条文となっている.

調査報告

大気汚染の植物に対する影響(第1報)—仙台市内における街路樹葉の重金属含量について

著者: 関敏彦 ,   阿部幸史 ,   星川秀彦 ,   井上康子 ,   回谷教男 ,   近藤師家治

ページ範囲:P.643 - P.647

 自動車排気ガスやその他大気汚染物質,地下水の欠乏等により,市街地においては街路樹の枯死,衰退がめだって多くなってきている.
 大気汚染の影響に関する調査研究の一環として,さきに仙台市内の街路土壌の重金属汚染について調査し,発表した1)が,今回は仙台市内に植裁されている落葉広葉街路樹を対象として,葉中および葉面に付着した重金属成分量を調査検討したので発表する.

根をおろす医師会活動

熊本県医師会・地域保健活動—県ぐるみの推進運動

著者: 井尾重雄

ページ範囲:P.621 - P.621

 一口に地域保健活動といっても,その守備範囲はなかなか広い.あるときは,地域に密着した地味な仕事であり,あるときは,マスコミに大きく取り上げられるような仕事もある.
 県医師会や郡市医師会が,地方自治体またはその他の団体と協力し,あるいは独自の計画によって実施している保健活動の種類は,枚挙にいとまがない.その例を挙げると,妊婦検診,乳幼児検診,三歳児検診,就学前児検診,学童検診,成人病検診,老人病検診,胃がん・婦人がん検診,無医地区検診または診療,健康教育活動,予防接種,地域グループ活動等である.昭和46年度に,これらの活動に参加した会員数は,延べ10,536人に及んだ.すなわち,1年間に,1人平均8回の協力をえたことになる.

私たちの保健所・38 埼玉県・大宮保健所

現況と将来

著者: 高橋暉良

ページ範囲:P.637 - P.637

 わが保健所は,昭和19年10月1日に逓信省簡易保険健康相談所が県に移管されて発足した.当時は大宮市大門町にあり,一大宮市外6町19力村を担当していた.その後,昭和27年5月19日に大宮市吉敷町1の124の現在地に,新築移転し,昭和39年7月1日に,鴻巣保健所ができて,鴻巣市・桶川市・北本市・吹上町が分離した.その間,鹿児島県の衛生部長をやった島崎祐三民や,静岡県の衛生部長だった春日斉氏等も所長をやり,私で11代目である.
 庁舎は,平屋建673m3で,移転当時は,衛生教育室などもあって,なかなかハイカラのものであった.

日本列島

急を要する精神障害対策—沖繩県,他

著者: 伊波茂雄

ページ範囲:P.604 - P.604

 戦前,沖繩県には精神病床はなかったといわれる.戦後昭和24年米軍の指導の下に精神障害者の収容治療が行なわれるようになり,さらに長期的展望にたった精神衛生対策の樹立のために精神障害者の実態を把握する必要が生じたため昭和41年,当時の琉球政府厚生局は日本政府の援助の下に精神衛生実態調査を実施した.
 結果は,精神障害者の人口千対有病率は25.7で本土(沖繩を除く都道府県)のそれ,すなわち人口千対有病率の12.9に比し約2倍である事が推定された.特に精神分裂病は本土では人口千対2.3であるに比し,沖繩県では8.2となっており,精神病については3倍近い有病率となっている.また,施設に収容を必要とするものは約3,826名と推計されている.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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