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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生38巻12号

1974年12月発行

雑誌目次

特集 第15回社会医学研究会

演題一覧

ページ範囲:P.644 - P.644

 第15回社会医学研究会は,1974年7月20日,21日,名古屋市の愛知県婦人文化会館で開かれた.名古屋での社医研は第5回(1964年),第10回(1969年)に続いて3回目である.いずれの回においても,この地方の社会医学の分野でのとりくみの発展を基盤としたテーマをもうけることが会の運営の大きな特色をなしてきており,今回のそれは,要望課題となって現われた.これに,全国世話人会で要望された保健所職員の身分問題を含む特別討議「保健所再編問題をめぐって」が加えられた.
 当日223名の出席者の間で熱心に討議がおこなわれた.この会の記録内容を,報告を中心に解説を加えて,司会を担当していただいた方々に作成していただいた.

要望課題Ⅰ

いのちと健康を守る国民の運動の発展と保健・医療の職場の民主主義

著者: 水野宏 ,   神谷昭典

ページ範囲:P.645 - P.663

 地域の住民・労働者・農民のいのちと健康をまもる自主的な活動は,住民自治の拡大や,職場での権利の拡大と結びついて年毎に成長をとげ,保健医療の従事者に対しては,住民,労働者,農民の立場にたった協力が強く要求されるようになりました.こうした住民や労働者と手を握りあうためには,保健医療の従事者が,これまでの立場をみつめなおし,自らの職場における国民の健康をまもる民主的な活動の条件をきりひらいていく努力が必要となってきています.しばしば例として引き出される「住民の要求は保健所を素通りする」という現実や,大学にみられる「住民・労働者・農民の要求への無関心・回避・拒絶,反動的加担」などの現実も,こうした考え方の上に検討しなおして,積極的な生きた実例をつくりあげていく必要があります.実際のとりくみの中で,国民との結びつきはどのようにして育てられたか,その結びつきを,職場や学会や,そのほか保健医療の従事者の間にどのようにしてひろげていったか,そのひろがりを大きくしたり,内容を深める上で,どんな困難にぶつかったか,そうした活動の条件は,職場でどのようにして育てられていったか,などを検討する実例はいくつか育っていると思います.そうした問題をつっこんで討議するために上記のテーマをもうけました.(第15回社医研総会案内から)

要望課題Ⅱ

国民の健康を守る運動における学習方法とその効果

著者: 大橋邦和 ,   南雲清 ,   五島正規

ページ範囲:P.664 - P.671

 地域の住民・労働者・農民は,いのちと健康をまもるとりくみの中で,自らのおかれている生活や労働の実態を科学的にとらえ,いのちと健康についての認識を,被害の後追いからのみならず,予測によって深めていくための創意にみちた学習の資料を,8ミリ,スライド,パンフ,ちらしなどの形でつくりあげてきました.そうした努力をみのらせていく上で,多くの分野の教師,科学技術者などが,学問の成果を活用して協力し,その活動の中から,新しい学問の内容を育ててきました.こうしてつくりあげられた宣伝,学習の教材をもちより,その作成の経過,内容などを討議し,卒直に評価し,いのちと健康をまもるための科学的な認識をよりいっそう深めていく方法についての検討ができるように,上記のテーマをもうけました.実物を映写あるいは展示し,説明を加え討議評価し,資料交換も同時におこないます.

特別討義

保健所再編をめぐって

著者: 小栗史朗 ,   相磯富士雄

ページ範囲:P.672 - P.679

 昨年の第14回社会医学研究会は,曽田長宗の特別講演「地方自治と公衆衛生」を基調にして,地方自治体と保健医療をテーマとした.
 その中で相磯富士雄は,衛生行政や保健所問題を考える場合,日本資本主義の進む方向やそれらを推進させる国家政策の基本的方向づけをみる必要があるとして,戦後の保健所の3つの転換点を指摘し,現在の保健所再編を歴史的に,また国家政策的に位置づけた.すなわち,28,9年頃のシャープ勧告に基づく地方自治体の緊縮財政政策により,保健衛生関係予算が頭打ちにされた時期を第1の転換期とする.これは朝鮮戦争特需を経てアメリカ従属の経済型となり,石油化学工業化を中心に重化学工業を中核とした産業経済の転換の推進,石炭より石油へのエネルギー転換の推進という背景がある.第2は,型別保健所や共同保健計画がうち出されたところで,所得倍増計画がスタートし,日本独占資本主義の強化のための高度経済成長政策が確立した時期であり,産業構造の強引な転換の矛盾が"公害"過疎過密問題となって表面化してくる.第3は,新日本全国総合開発計画が固まり,基幹保健所構想がではじめる44年頃で,コンピュータ等を中心とした情報産業に,生産財中心から消費材中心の流通機構に,石油エネルギーから原子力エネルギーへと転換が計られてくる社会背景がある.

一般報告

今日の医療をめぐる問題点

著者: 水野洋

ページ範囲:P.680 - P.683

1.僻地の医療問題
 西郡の報告「木曽谷における地域精神衛生活動の反省」の要旨は,主として昭和35年以降の長野県木曽保健所管内での精神衛生活動の経過とそこからの反省点,今後の課題を述べられたものである.長野県においても国の精神衛生施策が直ちに反映され,昭和36年の精神衛生法一部改正による施行通達の結果,措置入院の促進,生活保護から措置入院への移行が進められ,医療扶助に名をかりた措置入院は3年間で3倍化するに到った.昭和40年には"精神障害者の連絡に関する申し合せ"と称する精神障害者の人権を無視した県衛生部長,県警本部長,検事正の3者の申し合せが出されたりしている.木曽谷地方でもこの傾向は1年遅れの形で,しかも顕著にみられていたが,とくに木曽谷は精神科無床地区であった.保健所が地域精神衛生活動に着手しはじめた契機は,昭和44年に県立木曽病院に郡下唯一の精神科が開設され,外来担当医師が常勤する時点からであり,それまで保健所には精神衛生嘱託医は居たが,これは入院,収容のための出先機関的な色彩が強かった.木曽病院精神科外来開設以降,保健所と人的交流も含め相互連繋を深め地域精神衛生活動が前進し,医療の名のもとに進めちれる措置入院における患者の人権無視の実情を明らかにし,人権無視の形での措置入院を46年以降ゼロとし,外来治療を中心にする方針をとっているが,過去5年間には入院させざるを得ないケースは約70件に達している.

薬害・有害食品被害者の救済・復権をめぐる問題点—スモン事件の特質と森永ミルク中毒問題のその後

著者: 東田敏夫

ページ範囲:P.684 - P.688

 食品あるいは薬品の安全性を確保することは,食品企業あるいは製薬企業に課せられた,何にもまさる義務であり,企業がその義務を果たすように監督,指導することは,国民の生存権を守らねばならない国の行政責任に属している.「食品衛生法」あるいは「薬事法」等はそのためのものである.有害食品あるいは薬害の被害者は,いわば国民の健康を守るべき義務を果たさなかった欠陥行政の犠牲である.したがって,有害食品や薬害による被害には,産業廃棄物等によるいわゆる企業公害より以上に,行政の責任がきびしく問われるだけでなく,被害者救済の行政責任があるはずである.森永ミルク中毒,カネミ油症,スモンなど,その例である.しかし,率直にいって,国は,有害食品や薬害を防ぐ責任を果たさなかっただけでなく,被害者救済にとりくまず,「無辜の民」の苦しみ,生存権,生活権,幸福追求権の侵害をみのがしてきた.このような加害企業だけでなく,行政の被害者無視の無責任状態がまかり通るかぎり,被害者らは,止むなく,加害企業に加えて,国を相手どって「損害賠償請求」の民事訴訟を提訴せざるをえなかった.しかし,わが国の未成熟な法体系と欠陥の多い裁判制度において,被害者らがもとめる「正当な救済・復権」をかちとることは容易でなく,むしろ"訴訟のあり方"によって偽かえって被害者・原告らの苦痛と負担は増大し,しかも加害者・被告の「免罪」がまかり通ることになりかねない.

発言あり

公費医療の拡大

著者: 北尾玲子 ,   北原龍二 ,   重久房子 ,   清水寛 ,   吉田哲彦 ,   ,   ,   ,   ,  

ページ範囲:P.641 - P.643

真の社会福祉を求める姿勢を
 社会的諸施設・サービスのなかには,受益者や利用者を特定することができないために,料金・使用料のような負担を課さないものが多く存在する.道路,公園,公衆便所,行政サービスの一部などがこれにあたる.また直接の受益者は特定しているが,間接的利益を考えれば,それにあずかる人間の範囲が大きく拡がる場合にも,無償サービスが導入される.伝染病発生のさいの諸処置,あるいは火災と消防サービスなどがその具体例である.またこの場合には,「緊急性」も重要な条件となっている.
 これらの経費は,租税によってまかなわれる.その意味で,無償というのは,大気を呼吸したり風景を眺めるさいの無料と同一ではない.何らかの理由から,利用度や受益度の大小にかかわりなく,いわば,共同で負担するところに本旨がある.この共同負担の領域において,近年急速に抬頭しているのが,医療の問題である.

資料

定期健康診断における学生および35歳未満職員の検尿・血圧測定の意義

著者: 松浦千文 ,   重信卓三 ,   松下弘 ,   西本幸男

ページ範囲:P.691 - P.694

 各種疾病の早期発見の手段として定期健康診断あるいはドック健診が行なわれているが,後者はまだ一般的とはいえないのが現状である.
 定期健康診断は,各種の法規に基づいて行なわれる.本学では学生にあっては学校保健法,職員にあっては人事院規則10-4(職員の保健および安全保持)に基づいて実施されている.

保健所・47

福島県二本松保健所―原点に立って住民サイドの行政を

著者: 柄沢良子

ページ範囲:P.689 - P.689

沿革 東北本線沿いの福島と郡山市の中間に位し東は阿武隈山系深く西は安達太良山頂迄510km2.麓には岳温泉と塩沢温泉,冬はスキー,夏は登山,近くにゴルフ場あり外来客の多い観光地も擁している.昭和19年逓信省簡易保険健康相談所が県に移管二本松保健所として職員8名で発足.昭和25年現在地に木造瓦茸一部二階建170坪を新築移転現在に至る.管内人口10万300,1市4町2村を管轄.R4型保健所.職員は少数精鋭23名,3課1室制で行政を担当.かって管内は地形的に山間高冷,道路交通網不備,医療に恵まれない僻地などの低開発地域をかかえ,農家は出稼ぎの収入が大きな割合を占め多産多死,手おくれ状態で医師にかかる等人命軽視の傾向強く乳児死亡率は国平均の2倍,結核受診率は40%で低率,死亡率は高率,流水使用による赤痢集団発生等山積する保健衛生上の問題があった.昭和35年共同保健計画と綜合保健対策をうち出し,市町村毎に保健白書作成を指導・保健所は問題解決の方策として地区診断を実施,社会経済的背景,住民意識の実態やニードの調査を行なった.それらを基礎資料として地域保健計画と事業実施のため技術援助と助言に努力.特に母子衛生対策を最重点とし「住民の健康を守る運動」を展開,「乳児死亡ゼロをめざして」を提唱,僻地の5カ町村に母子健康センターの設置をみた.

特集をふりかえって

「医制100年」をよむ

著者: 津田順吉

ページ範囲:P.690 - P.690

 100年だからどうということではなくとも9月号の本誌医制100年号は有益であったし,私のような老懶には100年という文字を本誌によってはじめて知った.そして「発言あり」に始まって,「対談」「明治初期の人脈」,「医療制度と医療技術」「資料」と判りよく解説的にならべてあったのは,私の斜読みにも有難いものであったが,しかし深い考察があって難解ともいうべきであろう.とは云っても,このように100年間を小冊子にまとめて頂いたことは,いかに有意義であるか,特に川上武氏のものは,1つのテキストブックだと思った.また,曽田長老と橋本氏の対談は,聞き手のおかげで,楽しいお話となり,子母沢寛の小説「落葉」と同じように面白く,相良知安のまわりに,妖しく青い鬼火が燃えるように思われたり,相良知安のような入を狷介不羈というとか,後藤新平にそれを感じさせた石黒忠悳のこと.このような相良知安が日本の最初の医学をドイツにしたのだったことを若い人達は知っておくべきかと思った.
 昭和10年頃,東大小児科の裏に相良知安を偲び,入沢達吉博士という人々が,碑を建てられ,その碑を上野の山の方に向けられたなど,相良知安が,大学を上野の山に建てるつもりだったこと,不忍の池に大きい橋をかけることだったなどを思われての心であったと12月の午後六時頃満員の講堂の学生達に課外講義を楽しくやっていられた入沢博士を思い出した.只,どなたも,安田徳太郎氏にふれておられない.

日本列島

北海道公衆衛生学会/中国地区公衆衛生学会開催—岡山県

著者: 吉田憲明

ページ範囲:P.663 - P.663

 昭和49年9月11日(水),12日(木),2日間にわたって,北海道公衆衛生学会が盛大に開催された.
 これらに先立って,本年6月20日に北海道公衆衛生協会が設立され,会長に道学校保健会会長藤女子大学教授稲垣是成氏が就任し,今後,大いに北海道の公衆衛生活動を活発にしようというわけである.

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基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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