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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生38巻3号

1974年03月発行

雑誌目次

特集 農村の地域保健活動(広見町の場合)

広見町における地域保健活動のあゆみ

著者: 堀田励二

ページ範囲:P.136 - P.140

 愛媛県北宇和郡広見町は昭和30年旧5カ町村(戸数4,054戸,人口21,033人)が合併した農山村である.総面積152km2でそのうち林野が82%もあり,総戸数の80%が農家である.激しい過疎化により,現在では戸数3,840戸,人口13,512人と減少している.農閑期に700〜800人が京阪神を中心に出稼ぎに出かけ,残る主婦も暇をみて,日稼ぎ,内職に追われている.働き盛りの主婦の貧血症,農夫症の多発を引きおこし,さらに老人,子供の健康にも大きな影響を与えている.著しく変貌する農村生活の実態,健康破壊の実態を的確にとらえ,地域住民の福祉行政,健康行政を進めなければならない.それが自治体の重要な役割である.広見町は昭和39年下大野地区診断の実施以来一貫して町共同保健計画に基づいた健康行政を推進している.昭和47年には保健文化賞受賞の光栄に浴したが,この10年間の広見町の地域保健活動のあゆみをふり返ってみたい.

僻地対策としての広見町健康センターの役割

著者: 新田則之

ページ範囲:P.141 - P.145

 農村における過疎化の進行は著しい.この過疎現象,一方では過密現象をひきおこした直接的原因はいうまでもなく人口移動,つまり産業構造の変化に伴う労働力の都市への集中である.その背景は昭和30年来の高度経済成長政策の核としておしすすめられた地域開発政策にもとめられる.しかも過疎,過密を解消するという政策目標を掲げた新たな地域開発がじつは新たな過疎,過密を生みだしてきている.僻地という条件の上にさらに過疎化の進行が加わってきている.この過疎化の進行は農村の生活を大きく変貌させ,さらには健康破壊へと追いやっている.この健康破壊に対し健康を守るとりくみは全国でその試みが種々なされている.愛媛県広見町では昭和39年以来共同保健計画に基づく健康管理活動をすすめてきたが,昭和45年広見町健康センターを設置し,健康管理活動のより前進に努めている.ここでは広見町健康センターの僻地における健康管理活動の推進の上でもつ役割を検討してみたい.

地区衛生組織活動と保健従事者の役割

著者: 岡田尚久

ページ範囲:P.146 - P.150

 高度経済成長政策は,農村の生活基盤そのものを崩壊させ,さらに,健康破壊を引き起こしている.また,農村では,過疎化がすすみ若者がつぎつぎと都市へ去っていったため,地区組織の構成員は老齢化し,日稼ぎや内職などの兼業の増加,出稼ぎの増加は,地区組織の構成員の時間的余裕をうばうなど地区組織活動の停滞をもたらした.
 しかし,ますます進行する健康破壊のなかで,地区住民の健康に対する要望や意見は,次第に大きく高まってきている.このような健康破壊は,個々人の努力では,とうてい解決しえないものが多く,健康を守る活動は,部落ぐるみ,地区ぐるみの組織的な活動になっている.

広見町における地域保健活動に期待するもの

著者: 加茂甫

ページ範囲:P.151 - P.155

 健康を守るとりくみはその努力の起源をたどると1),人類社会の歴史と共に極めて古い.それはいつの場合も,その国の,その時代の経済的,政治的諸条件により性格づけられた健康破壊へ対応して生みだされている.
 地域保健活動はいうまでもなく,現代社会の健康破壊へ対応した概念であり,人類社会の歴史的必然の要求である.

地域保健活動における住民の健康意識

著者: 薬師神久義

ページ範囲:P.169 - P.173

共同保健計画と共に歩んだ10年
 昭和47年,私たちの広見町は第24回保健文北賞を受賞致しました.町民のひとりとして,また下大野地区住民のひとりとして私はその要因が共同保健計画の推進による保健活動にあり,更にそれは昭和39年の下大野地区診断が契機となっていることに,誇りと喜びを感じております.この私たちの歩みは遅々として,時には同じことばかりやっている場合もあれば,立ちどまっていることもあると思います.しかし,10年をふりかえってみて私は今,自分と地域の健康や生活を向上させ守ってゆくために,この地区診断の歩みは間違っていなかったという確信を深めています.
 広見町共同保健計画の原点であると同時に県下最初のモデル地区診断である下大野地区診断が実施された時,私は下大野地区の区長をしていました.その関係で昭和41年度まで広見町と下大野地区の衛生委員となり,その間,健康会議の結成をはじめ,幾度かの地区診断や研修会にも役目を終えてからもすすんで参加してきました.今,その歩みをふりかえってみますと,コツコツと歩んだ道程が次々と思い出されます(表1参照).

座談会

盛りあげる農村保健活動

著者: 大西新吉 ,   平井和光 ,   永見宏行 ,   高村勝久 ,   大竹忠盛 ,   稲葉峯雄

ページ範囲:P.156 - P.168

 稲葉さんの「草の根に生きる—愛媛の農村からの報告—」は共感され拍手の渦に巻かれています.ともすれば都市型の発想にとらわれがちな公衆衛生に鋭い問題点を突きつけながら,愛媛の農村地区に盛りあげられてきた地域保健活動の成果には,文字どおり草の根に生き抜く人々の汗と血がにじんでいます.関係者の卒直な実感や反省の声をお聴きください.

発言あり

耐乏生活

著者: ,   ,   ,   ,  

ページ範囲:P.133 - P.135

これからも険しい道へ
 石油危機にともない高度成長から安定成長が要求され,耐乏生活が強調される昨今である.戦中,戦後の耐乏生活を強いられた私にとって,このことが公衆衛生を20年前に逆もどりさせるとは考えられない.20数年の間に国民生活も変化し,耐乏生活を強いられたとしても,石油ストーブやプロパンガスのない都市生活は既になりたたないまでに社会は変化している.
 20数年前流行した急性伝染病に代わり,経済発展の影に各種公害病が注目をあびている.有機水銀による水俣病,カドニウムによる "いたいいたい病",PCBによる油症患者,砒素ミルクによる中毒の後遺症,大気汚染による "ぜんそく",キノホルムによるスモン,サリドマイドによる胎児の奇型等近代社会がもたらした新らしい疾病の発生に対し,公衆衛生は何の寄与をしたであろうか.不測の事態を予測しこれらの疾病を予防することは公衆衛生従事者によって不可能だった場合もあろう.あやまちは二度としてはならない.またこれらの犠牲者に対しての社会的保障制度の確立は公衆衛生の一分野であろう.健康な人等の耐乏生活は要求されたとしても,これら公害病患者の救済を中止するわけにはいかない.

研究

タバコ煙中の有機塩素農薬と人体への移行

著者: 滝沢行雄 ,   貴船育英 ,   皆川興栄 ,   篠川至

ページ範囲:P.175 - P.181

 古来,タバコは,一種の陶酔感を味わう喫煙として薬用や強壮剤に用いられていたが,これを医学的にとりあげてみると,すこぶる困難な問題が内臓されていて,いまだ解明されない事象がすくなくない.タバコの中の麻酔や興奮を誘起する成分はニコチンを主体とするアルカロイドである.その他有害成分としては一酸化炭素,シアン化水素,硫化水素,ヒ素などがあげられるが,ごく微量なので問題にならない.
 ところが,近年タバコの健康に及ぼす影響の研究が進歩し,とくに肺癌との関連が注目される1)ほか,有機塩素農薬や水銀,カドミウムなどの重金属類の混在も指摘されるようになった.しかも,一般に欧州人がタバコを「ふかす」のに対して,日本人ではこれを深く「吸う」傾向があり2),疫学的に重大な意義をもっている.しかし,この分野に関する研究は,依然として具象性に乏しく,かつ,実態調査的であって総合的知見に欠けている憾みがある.

北九州市における喘息を中心とした気道性疾患の大気汚染との関係について

著者: 中川俊二 ,   吾郷晋浩 ,   中川武正 ,   石崎達 ,   石松保生

ページ範囲:P.182 - P.195

 1901年に八幡製鉄所(今日の新日鉄)が発足し,以後北九州市は鉄の都,日本の代表的重化学工業都市として発展してきた(第2次産業による法人会社は大小併せて1,466社).1960年を契機として燃料が石炭から石油に変わるとともに,汚染物質が無数に現われ,本格的な大気汚染の状態を現出した,これが10数年につづいて,人体に対する影響が大きくクローズアップされてきたことは事実である.北九州市の大気汚染に対する対策として,公害防止例の制定,さらには被害者救済地域の指定も確立され,医学的にも本格的な調査が進められるようになった.
 われわれは昭和46年から48年の3カ年にわたって,「北九州市の大気汚染の影響の実態」を調査し,とくに汚染地区における工場勤務者の健康状態の疫学的調査(すなわち喘息を中心とした気道性疾患の大気汚染との関係)を行なったので,これについて報告する.

患者搬送と救急医療

著者: 小川道雄

ページ範囲:P.196 - P.199

 今日わが国の救急医療体系は管轄官庁の相違によって大きく2つに分けられている.患者搬送は正式には救急業務とよばれ,自治省の管轄のもとにあり,法律的には消防法で定義づけられている.一方,その患者に対する医療は厚生省の管轄で厚生省令により定められ,両者は互いに独立している.しかし,救急業務が医療機関に傷病者を搬送している事実を考えると,搬送と救急医療との連携が不可欠であるのは当然である。
 現在の救急医療体制のなかにあってこの搬送がその後の傷病者の治療にどの位かかわりをもつかは極めて興味ある問題である.本稿ではまず最近の調査結果を中心にして,救急搬送と医療との関連を検討し,あわせて筆者の提唱する重症患者治療のための医療システムを紹介し,そのなかで患者搬送の占める位置について言及したいと思う.

特集をふりかえって

「新・保健婦論」について

著者: 丸岡秀子

ページ範囲:P.174 - P.174

 本誌2月号の特集,「新・保健婦論」を深い関心をもって読んだ.そして,保健婦活動の重要さにもかかわらず,それをささえる条件と理解はまだまだ十分ではない.それが引きつづいての辛い気持だった,"引きつづいて"というのは戦前からのものである.
 わたしは,戦前,農村を歩き,工場街のセツルメントや共働社(消費組合)運動にも,ささやかながら関係した.いま,時代が一変して,どんな活動も,その社会的観点が強調される時代になったわけだが,それでも保健婦活動はじめ社会的な意味を持つ仕事への理解は低い.

日本列島

地方造船所の公害騒ぎ—宮城県/札幌市北保健所誕生

著者: 土屋真

ページ範囲:P.140 - P.140

 三陸沿岸の漁港,気仙沼港の湾奥には多くの中小規模の造船所があって,野天で作業が行なわれている.このため粉塵や塗装用ペンキ,船舶を洗う海水などが附近住宅や通行人に飛散し,また騒音が住民の苦情としてたびたび訴えられた.
 ことに3年来,鉄鉱船の錆とり用として使用されてきたブラックダイヤサンドという鉱石にカドニウムを含有していることが分って,住民の不安感を増させ騒ぎとなった.それ以前は硅砂が使われてきたが,現在は硅砂と五色砂が用いられている.県公害技術センターと市の調査により,粉塵,海水,米,岸壁下の海底底質中のカドニウム含有量は,基準等よりはるかに微量で問題ないとされたが,騒音は基準をこえていた.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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