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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生38巻4号

1974年04月発行

雑誌目次

特集 産業医

産業医の現状と問題

著者: 高田勗

ページ範囲:P.204 - P.208

1.産業保健医療活動の変遷
 昭和22年9月に労働基準法が制定されて以来,労働者の保健ならびに労働条件の改善は,産業社会の進展とともにはかられてきた.労働衛生上の諸問題についてみれば,昭和20年代においては,第2次世界大戦の敗戦により社会的混乱と貧困をもたらし,結核対策が,重要な課題であった.
 戦後の復興がはかられ,産業界の活動が活発化するにおよんで,産業結核対策のみならずいわゆる職業病対策が登場してきた.

地域保健と産業医

著者: 西川滇八

ページ範囲:P.209 - P.213

地域保健
 地域保健というと,地域社会の住民を対象として提供される保健問題に関連する一貫した医療,公衆衛生,社会福祉サービスのことであるといえよう.しかし,イギリスのティトマス教授が警告しているように,「果たしてコミュニティ・ケアは実現するであろうか,単なる幻で終るのであろうか.」その実現は,関係者の理解と協調によるといわなければならないであろう1)
 地域社会における保健活動は,地域住民の生活の基盤をおくところであるから,学校・職場など,他のあらゆるコミュニティにおける保健活動の中核としなければならないものであり,また実際に中核となりうるものであろう.そのためには,全住民についての健康管理記録を保有しておき,システム化された方式での活動へと展開することも可能である.

地域医師会と産業医

著者: 田中茂

ページ範囲:P.214 - P.221

 結論から先に述べると,わが国の産業医制度を支える重要なものの1つは,地域医療を担当する地域医師会であるということである.
 つぎに,その理由と医師会の産業保健活動の内容について述べることにする.

産業医と公害

著者: 三浦豊彦

ページ範囲:P.222 - P.226

産業医というもの
 産業医問題については,日本産業衛生学会が,すでに10年以上も前から討議してきたところであるが,産業医の定義という点ではかなり人によって考え方に相違がある.たとえば労働衛生に関連のある研究者まで産業医にふくめる意見もある.しかし一般的には事業所で労働衛生管理,健康管理を行なう専門家としての医師や,事業所の診療所や病院で,従業員の健康管理や実際診療を行なう医師を産業医とよぶのが普通である.
 ILOでは1959年に雇用の場における労働衛生業務に関する勧告112号を採択している.この勧告では労働衛生業務に従事する医師が,完全な職業的ならびに倫理的独立を亨有すべきであるという基本的原則を,きめている.またこの勧告では病気欠勤の正当性を検証することを産業医の業務から除外している.その上産業医学の本質的に予防的な性質を強調しているものでもあった.

労働衛生コンサルタントに望む

著者: 小沼正哉

ページ範囲:P.227 - P.231

 労働安全衛生法による労働衛生コンサルタント制度は,法的には昭和48年4月1日から施行されたわけではあるが,ごく一部の無試験資格の人を除いては,昭和49年2月上旬に第1回試験の面接が行なわれており,実際に効力が出るのは昭和49年4月からということになる.この制度は画期的なものであり,衛生関係では他に例が無く,健康管理コンサルタントなどの呼び名は一部で使われていても,公式に法制下されるのは初めてである.そのために,名称からだけ解釈すると,いままでの通念により,その法的資格に誤解が起こるので,最初に制度の解説から述べてゆく.

発言あり

人口ゼロ成長

著者: ,   ,   ,   ,  

ページ範囲:P.201 - P.203

予測と行動の谷間に立って
 医者は病気の診断がつくと,それだけで自分の仕事の9割がたが終ったような錯覚をもつことがあります.しかし,正しい診断も適切な治療にむすびつかなければ意味がありません.自分の診断の正しさが病理解剖台の上で証明されたのではいけないのです.公衆衛生の領域でも同じことが言えます.公衆衛生の診断学は疫学だと言われますが,疫学的な業蹟があがれば,その問題は公衆衛生的にかたがついたと思ってはいけません.例えば煙草が肺癌の原因であることが疫学的に証明されることと,喫煙習慣をなくする方策が確立されることとは別個の科学的アプローチを必要とする異なった問題なのです.すなわち,問題の分析と解決は別のものだという認識をもつことが必要です.
 さて,最近,人口爆発が原水爆や環境汚染とならんで人類滅亡の原因として注目されるようになりました.世界人口は,あと30年で2倍の70億となり,80年後には4倍の140億に達すると予測されております.宇宙船 "地球号" は積み込まれている限りのある資源を急速に使い果たしつつあり,あまり遠くない将来において人類の滅亡が心配されております.今日,この人口爆発という問題提起には,うてばひびくように人口抑制という答が返ってきます.この危機にある人類を救う唯一の道は人口抑制にほかならない.人口問題は人間自身の "生" の問題になったという訳です.

研究

脳卒中対策の効果—循環器成人病に関する行政的研究

著者: 新井宏朋 ,   野尻雅美 ,   村山美千代 ,   秋山雅晴 ,   中村てい ,   本木正勝

ページ範囲:P.233 - P.240

 わが国における循環器成人病の研究で,最もおくれているのは,この疾患の予防対策を地域の公衆衛生活動として,いかに行政的に定着させてゆくかに関する研究であろう.
 すでに,疫学的にはわが国の循環器疾患が西欧諸国と異なり,東北地方に典型的にみられるように,虚血性心疾患の発生は少なく,中年期脳出血の多発という独特の病像をもち,その成因も脂肪の過剰摂取や肥満とは関係のうすいことが明らかにされつつある今日,これに対する公衆衛生活動が遅々として進まないのは,行政研究のおくれによるところ,大なるものがある.そして,この行政研究のおくれている原因としては,わが国で循環器疾患を研究している公衆衛生学者が,ややもすると,狭義の疫学的研究にのみ目をむけて,行政研究を軽視するきらいのあること,ならびに,これに協力する臨床医学者も国際的に重視されている心臓疾患に興味をうばわれがちであるためと考えられる.

蛍光染料の皮膚に対する影響について(第2報)

著者: 宮治誠 ,   西村和子 ,   藤原喜久夫 ,   黒田文子

ページ範囲:P.241 - P.244

 蛍光染料(蛍光増白剤,蛍光漂白剤または蛍光白色染料とも呼称されているが本論文中では蛍光染料の名称を用いる)は衣類および紙類等の増白剤として着実に需要を増し,また洗濯物の増白効果を狙ってほとんどの粉末洗剤にも混用されている.この様にその使用量および使用範囲が増大しているのにもかかわらず直接人体に対する影響についての検討には余り報告されていない.過去ヨーロッパにおいて洗剤中に混用されていたピラゾリン系蛍光染料によって皮膚炎が起こったという報告1)2)およびマウスの皮下に長期にわたって一部の特異な化学構造を持った蛍光染料を注射し,同時にごく短波長の紫外線を照射すると皮膚癌が発症したとの報告3)も現われてきた.前報4)でわれわれはジアミノスチルベンジスルホン酸の誘導体である3種類の蛍光染料の皮膚に対する影響をモルモットおよび人間の皮膚をもちいて実験し,モルモットには異常を認めなかったが人の場合0.1〜5.2%の割に貼布試験で陽性者を認めたことを報告した.今回は前の3種類に新たに同系統の5種類を加え,計8種類の蛍光染料を用いこれ等の皮膚に対する影響を紫外線の影響をも含めて検討した.

調査報告

愛知県の工業地域におけるばいじん汚染の人体影響調査

著者: 長田伊三夫 ,   鈴木伸治 ,   大谷誉 ,   牧原勤 ,   城戸省二 ,   大野純暉 ,   田島文雄

ページ範囲:P.245 - P.248

 ばいじん中の重金属に起因する鉛汚染などの問題は,人類の工業活動の活発化ならびに自動車排出ガスにより全地球レベルで進行している1),2)
 地域的にはとりわけ,鉛関連工場周辺の住民および主要都市交差点附近の住民が汚染の影響をうけやすいとの諸報告1)〜3)もあるが,愛知県の場合,健康被害が予想きれる環境因子,粉じん・鉛・クロムなどむ人体影響を集団評価の視点で行政的に把握されたものは少ない.

私の意見

行政は老人をわかっていない

著者: 長倉功

ページ範囲:P.249 - P.254

 ここに掲載した原稿は,日頃老人問題に関心と興味を持ってさまざまな見聞を重ねた新聞記者から寄せられたものです.老人衛生行政を,いつもと違った角度からこんなふうにも考えられるのかと,何かの参考になればと思います.

海外印象記

Amsterdam 市立保健医療サービス(1)

著者: 山中孟

ページ範囲:P.255 - P.257

 昭和48年秋の欧米公衆衛生視察団の一員として外遊の機会を得た私は,8月24日夜羽田を飛び立ち,8月25日,ヨーロッパでの第一歩をコペンハーゲンにしるすことが出来た.
 一行26名の大部分は各府県からの衛生行政関係医師であった.開業医で参加したのは私1人であった.もっとも私も一開業医として参加したのではなく,正しくは大津市の嘱託として,開業のかたわら8年間にわたって,市の保健行政の企画と施行に参画してきた立場から参加したのである.私は渡欧を前に,視察に当ってのいくつかの重点目標を考えていた.その中でも地域保健を進めるについて.欧米の開業医や病院医がどのような考えや形で地域の保健活動に参加しているのであろうか,ということに最大の興味と関心をもっていた.日本で私達は過去長い間,医師会活動の一面として市町村保健活動や学校医活動に協力し,ある時は主導的な役割さえ果たしてきた.現在これらについて,医師の中から色々の反発がありまた異論も出ている.それ故に,現在の欧米諸国の実情を知り地域保健推進の将来の姿を考えてみたかったのである.

保健所・43

宮崎県延岡保健所—最も古く,新しい問題に邁進する行政

著者: 椎葉輝夫

ページ範囲:P.258 - P.258

・36年間のあゆみ
 昭和13年8月,宮崎県唯一の保健所として発足.職員もわずか8名.延岡市を始め,東臼杵郡の1市4町11カ村,人口約23万の広範囲に亘る衛生行政を実施することとなる.
 当時,保健所が如何なる業務を行なうか住民は知らず,職員は専ら普及宣伝に没頭した時代であった.

保健所・44

広島県因島保健所—哀歓は市民とともに

著者: 大貫通子

ページ範囲:P.259 - P.259

沿革
 昭和28年因島は町村合併で人口4万強となり瀬戸内海唯一の稀な単島市制を布いた,周囲40km面積40km2ながら人口密度は1,062/km2に及ぶ.当時管轄は本土の尾道保健所で海路1時間を要し不便に耐えず36年先ず職員3名の因島駐在所を,次いで38年に多額の地元負担金を荷い広島県立因島保健所(2課制12名)の独立誘致に成功した.現在の3課17名制が確立されたのは40年で,市民が"我らが保健所"と自負し依存するのは頷けよう.38年竣工の現庁舎は鉄筋コンクリート2階建612m2で同様式9戸の職員公舎を併設し,所長は初代が6年,二代が3年在勤の後現任は私が三代目で2年目に相当する.

日本列島

続発する公害問題—岐阜県/自転車事故死亡児の損害賠償請求事件—宮城県

著者: 鈴木大輔

ページ範囲:P.240 - P.240

 昭和30年代を起点としたわが国の重化学工業化,地域開発主義の高度経済成長政策により,日本列島が深刻な環境汚染にさらされていることは周知のとおりであるが,岐阜県でもここ数年来,種々の環境汚染が相次で発生して大きな問題になっている.
 環境汚染が発表されると必ずと言ってよいほど,マスコミに大きくとりあげられ,社会問題,政治問題化し,議会,行政,住民が「公害・公害」と騒ぎ,あたかも時の話題のように事態が進展していく傾向にある.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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