icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生38巻6号

1974年06月発行

雑誌目次

特集 歯と健康

歯科衛生行政の動向

著者: 三井男也

ページ範囲:P.324 - P.328

 国民の間にまん延している歯科疾患は,ムシ歯と歯周疾患によって代表され,ムシ歯のり患者率は90%に達している.これらの疾患はほとんど自然治ゆをしないという特徴を有し,歯の喪失をきたし,咀嚼機能を著しく低下させ,全身的にも大きな影響を与えていることが指摘されている.
 この膨大な量の歯科疾患が,国民に与えている肉体的,精神的,経済的な損失を考えるならば,如何に歯科衛生行政が今日重要となっているかを知らなければならない.

幼児の歯を大切に

著者: 山下浩

ページ範囲:P.329 - P.334

 小児に関する最近の衛生統計をみると,かつて重大課題であった寄生虫病やトラホームの罹患率が非常に低下していて,ここ20年あまりの関係者達の努力の跡がうかがえるが,ただ一つ戦前戦後を通じて相変らずの高率を示しているのが,小児のむし歯罹患率である.特に最近注目すべき問題として,低年齢の幼児の罹患率が高くなっていく傾向があることで,今日3歳児ではそれが80%に近くなりつつある.このように乳歯のむし歯が早期から多発する理由については,現在の社会情勢や小児のおかれている生活環境から考えて,いろいろな問題がからんでいることは避けられない事実ではあるが,根本的にはむし歯の原因が複雑多岐にわたっているため,適切な予防法が確立していないことである.そのために現在考えられる唯一の対策としては,乳幼児期から学童期にかけての口腔衛生的管理を徹底的に行なうと同時に,それでも発生するむし歯に対しては,早期発見と早期治療で対処していく以外に方法がないといっても過言ではない.
 他方小児のむし歯,特に乳歯のむし歯に対する家庭的意識や社会的関心は,毎日の臨床の実態から推察すると,はなはだ低いといわざるをえないのが今日の実情であり,その対策の模索に苦しんでいるのが臨床医の毎日の姿なのである.

母親の歯と健康

著者: 小西浩二

ページ範囲:P.335 - P.339

 近年,わが国における母子保健対策は,一貫した体系のもとに総合的におし進められてきていることは周知のとおりである.
 なかでも,歯科領域における母子保健の基本的対策として,昭和36年6月に"3歳児歯科保健指導要領"昭和39年に"母子歯科保健要領"が作製され,妊産婦および乳幼児の保護者に対する歯科保健の重要性が認識されるようになってきた.

むし歯の予防とふっ化物歯面塗布

著者: 大森郁朗

ページ範囲:P.340 - P.345

歴史的背景
 ふっ化物を使ってむし歯の発生を抑制しようとする試みは,1942年に米国国立衛生研究所(NIH)の研究員Dean1)によって,飲用水からのふっ素の摂取量と,むし歯の発生率との関係が明らかにされて以来,急速な発展を遂げながら今日に至っている(図1).
 ふっ素に関する研究の発端を歴史的に辿ってみると,19世紀の初頭にすでに歯の中にふっ素が含有されていることが報告されていたり,19世紀末には小児や妊婦にふっ化物の摂取をすすめている論文があったり,あるいは現在,斑状歯といわれているものと同一の障害であると考えられるChiaie氏歯の報告などがあるけれども,これらの研究はその後発展することなく途絶えてしまったのである.

水道とムシ歯予防

著者: 美濃口玄

ページ範囲:P.346 - P.349

 口腔内の疾患としては一つの専門領域を作る程に数多くのものが知られているが,人類歯牙喪失の主な原因となる疾患は歯牙自体の崩壊を来たすムシ歯と,歯肉,歯槽骨等の歯牙支持機能を失なわしめる歯周症(所謂歯槽漏)の2つにつきると極言できる.
 しかもムシ歯の多くは歯牙萠出の直後に初まり,再生,修復,瘢痕形成,治癒といった他組織のとる反応もなくたえず進行して,歯冠部の崩壊消失にいたり,その間に疼痛を供なう歯髄,歯周組織の炎症を続発して,救急の医療要求となり,更に喪失後の機能回復のための義歯作製の歯科医療要求となる.近時この疾患の増加は歯科業務を益々多忙に,かつ社会,個人の経済的負担を重からしめている.

保健所の歯科衛生

著者: 宮入秀夫

ページ範囲:P.350 - P.354

 歯科衛生の歴史において保健所歯科の発足は,国の制度として公衆衛生行政のなかに歯科衛生を位置づけたことの意味は大きい.戦前の公衆歯科活動は,主として学校歯科という組織のなかで行なわれてきたが,昭和23年に新しい保健所法が制定されるにおよんで広く地域住民を対象とする歯科衛生に関する事業が行なわれることとなり,とくに母子歯科保健指導として妊産婦,乳幼児の歯科検診が組織的に実施されるようになったことは戦後の公衆歯科衛生の特色である.昭和27年児童福祉法の改正により歯科医師による母子歯科検診,さらに36年3歳児歯科健診の施行により乳幼児歯科保健の重要性が認識され,さらに予防への関心も高まってきている.これは歯科衛生行政の実施機関として保健所が行なってきた活動によるところがきわめて大きいといえる.しかし新制保健所が活動をはじめて既に25年余,このような制度と事業の推進にもかかわらず,保健所歯科の整備状況はなお不十分な状態であり,今後は保健所の地域保健における役割のなかで保健所歯科の位置づけを明確にして地域包括医療の推進をはかることが必要である.

町ぐるみの歯科保健活動

著者: 塚本栄江 ,   酒井厚子

ページ範囲:P.355 - P.360

発足までの経緯
 昭和43年度国民健康保険医療費のうち,歯科疾患の占める割合は表1に示す通り一般医科に比べて,件数で13.3%,点数で9.7%と高率であった.また,無歯科医地帯であることと交通が不便であることも伴なって,町民の大半が歯の病気に苦しんでいる状態であった.このため,行政的な措置で積極的に歯科保健のサービスをしていくことを尾関川島町長を中心に計画し,大竹岐阜県歯科医師会長の全面的指導,協力を得て昭和43年に岐阜県歯科医師会から歯科保健モデル地区の指定を受けて,昭和44年5月から歯科保健事業を実施している.

無歯科医地区の歯科活動

著者: 鈴木敏則

ページ範囲:P.361 - P.366

 北海道では,歯科医療関係者特に歯科医師が,絶対的ならびに相対的にも不足しているが,これらの解決が,遅々として進まないため,未だに300有余地区におよぶ無歯科医地区を抱え,全国的に最多地区としてランクされている.これの解消策としては,歯科医療機関の増設,即ち歯科医師の養成増と,その適正配置であるが,どちらも早急には実現しない.そのために次善の策として,昭和38年度に歯科診療車を整備し,無歯科医地区の巡回診療を実施する方針を定めた.それ以後現在まで,本事業を継続しており,昭和44年11月には,歯科診療車を更新し整備した.

学校の歯科活動—学校歯科活動と地域保健のアプローチ

著者: 丹羽輝男

ページ範囲:P.367 - P.370

 学校における歯科活動は,心身ともに健康な国民の育成を期するための歯科の活動分野である.歯科疾患,ことにう歯は,児童生徒間にまん延している疾患で,しかも昭和47年12月に保健体育審議会が答申したもののうちにもあるように,ここ十数年来のわが国児重生徒のう歯は,急激な生活環境の変化等のもとに,図1のように増加している.
 う歯は,ほとんど自然治癒しないという特殊性を有し,歯の喪失,咀嚼機能の低下,さらには全身疾患との関連性などを考えるとき,心身の発育・成長期にある児童生徒に及ぼす影響ははかり知れないものがある.

海外の歯科事情

著者: 大西正男

ページ範囲:P.371 - P.376

 私にあたえられたテーマは「海外の歯科事情」ということであるが,諸外国の行政関係者と特別にコンタクトしたこともなく,またこの様な目的をもって特別な国々を訪問したこともないために,私はむしろ学会出張等忙しい日程の間で見聞したことを整理してここに述べることにする.従って公衆衛生上最も必要と思われる歯科衛生行政に関しては殆んど書けないのではないかと思う.

発言あり

歯をみがく

著者: ,   ,   ,   ,  

ページ範囲:P.321 - P.323

効果判定は必要か
 この小文を書くために,2・3の成書や雑誌を調べたのですが,むし歯予防に対する歯みがきの効果は意外にあいまいで,研究も少ないようです.日本中で沢山の人が,むし歯にならないと信じて朝に晩にやっていることが本当に役に立つかわからないと聞くと,びっくりする人が多いと思います.びっくりするよりも怒りだすかもしれません.気の早い人は毎日の歯みがきによって失なわれた時間や労力,浪費した歯みがき剤や歯ぶらしの購入費用を計算して訴訟をおこす準備をするかもしれません.
 われわれの保健医療活動のなかには,既に相当に普及していることでも,効果のはっきりしていないことが沢山あります.偏近視に対する調節筋麻痺剤の点眼効果などは,そのよい例でしょう.また,軽症もしくは中等症の高血圧者に対して降圧剤を服用させることが有効な治療法かどうか,まだよくわかっていないと聞いたならば,びっくりする医師や保健婦も少なくないでしょう.治療の面だけではありません.診断の領域でも同様です.最近,各地でつくられている自動人間ドックなども,沢山の高価な自動機器かコンピューターとセットにされておりますが,そのシステムが本当に被検者に役に立つ検査ばかりで成り立っているかについて十分検討されているとは言えないようです.

最近の話題から

環境権を考える

著者: 須川豊

ページ範囲:P.382 - P.383

 新聞をみると,必ずといってよいほど,この問題に関連した記事がある.
 まさに「最近の話題」である.

調査報告

愛知県のフッ素暴露地域における地区住民の健康調査

著者: 長田伊三夫 ,   鈴木伸治 ,   大谷誉 ,   牧原勤 ,   城戸省二 ,   大野純暉 ,   小島芳郎

ページ範囲:P.377 - P.379

 こんにち,フッ素が人体にとって必須なものであるかどうかは不明確な点が多いが,少なくともフッ素の歯面局所塗布が萠出直後の歯に大きなう蝕抑制効果をもたらすことは良く知られている1)3).一方,フッ素が自然界に広く分布し,時にわれわれの生活環境をおびやかすことは余り知られていない.
 この面でのフッ素による影響は,第1に大気汚染,第2に水質汚濁があり,どちらかといえば人体への緩徐な侵襲と慢性フッ素中毒の発症が問題視されている.大気汚染の問題は,大気中のフッ化物による直接的影響と,大気中のフッ化物が農作物,飲料水,土壌などを介して摂取される間接的影響の両面から評価されるべきであり,水質汚濁の問題は,①常用飲料水の地域的共通性②フッ素の過量検出③フッ素自然混入による斑状歯Mottled teethの集団的出現④耐う蝕性の存在など疫学的見地から検討されるべきである4)

保健所・45

新潟県新津保健所

著者: 渡辺宏

ページ範囲:P.381 - P.381

保健所のあらまし
 私どもの新津保健所は昭和13年5月の開所で,県下では最古の歴史をもつR2型保健所である.管轄面積は570km2で,3市4町村に分れてる.区域の北方は新潟市に隣接し,地形的には,わが国でも有数な米作地帯である信濃川と阿賀野川のデルタ地帯と南部の無人山岳地帯に大別される.
 管内人口は,昭和45年国調で,192,645人で,昭和25年の国調と比較すると,僅かに0.5%減とほとんど増減なく,20年間の自然増にあたる約3万人の流出超過となっている.流出人口の大部分は中学卒と高校卒で,若い青少年の年齢層である.また65歳以上の人口は,前述の20年間で49%の増加を来し,当地方の人口の老化は出生の減少と若年層の流出により,急速に始まっている.

日本列島

保健所の機構改革とその後の経過—宮城県/医師なし検診と健康診査体制の整備—宮城県

著者: 土屋真

ページ範囲:P.328 - P.328

 昨年夏に当県保健所の機構改革案が示された時,保健所および国保保健婦らを中心とする反対運動がおき,国内の多くの方々にまで誤解されたようです.すなわち「保健所には保健婦活動をする保健婦がいなくなり,事務職員にされるので住民サービスが低下する」というように解釈されました.当県の保健婦らがそのように誤解するような県衛生部の発言や説明不足があったことは事実です.
 その後,環境保健と対人保健部会に分れて,保健所問題の検討委員会がもたれ答申がなされました.かくて昭和49年4月,答申案を尊重しての機構改革が行なわれましたが,それ程の改革が行なわれた訳ではないのでまず問題ないと思われます.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up

本サービスは医療関係者に向けた情報提供を目的としております。
一般の方に対する情報提供を目的としたものではない事をご了承ください。
また,本サービスのご利用にあたっては,利用規約およびプライバシーポリシーへの同意が必要です。

※本サービスを使わずにご契約中の電子商品をご利用したい場合はこちら