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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生38巻7号

1974年08月発行

雑誌目次

特集 地域保健を担う人々

地域保健の担い手—世界の動きと日本

著者: 橋本正己

ページ範囲:P.388 - P.393

 1960年代の日本の社会経済の変化は,かつて経験のない,また世界的にみても他に類のない急激なものであり,地域住民の生活と健康に誠に深く複雑な影響を及ぼした.とくにこの時期の社会的な変化が,これまでの医療,公衆衛生,医学教育,医学研究,社会福祉など,住民の健康と生活のなかでさまざまの不合理と問題点をあらわにし,そのなかからいわゆる包括医療ないしは総合保健をふまえた地域医療ないしは地域保健活動が,今日の切実な実践的課題として登場してきたことは,よく知られているとおりである.
 ところでこの課題を実践的に進めていく場合,施設,システム,資金等々多種多様の問題があるが,何といっても最も基本的なものは,その実践を担う保健医療の従事者の問題である.またその場合,単に従事者の数ばかりでなく,それがひとつの有機的なティームとして日常の活動を進めることがその必須要件である.本誌では,昭和40年以来,総合保健活動を一貫として掲げ,さまざまの側面から従事者の問題を含めてこの主題にとりくんできた.本号では地域保健を担う人の問題を特集テーマとしてとりあげているが,本年1月号で地域の実地医家と保健所,2月号で保健婦,4月号で産業医,5月号で学校医,6月号で歯科医師をとりあげ,また近く薬剤師についても企画されているので,本号では前記以外の各種の従事者がとりあげられている.このような観点から,小稿では"community health team"に視点をおいて,巨視的にその背景,国際的動向,日本の現状と課題などを考えてみることとしたい.

ホームヘルパーと地域保健

著者: 田中荘司

ページ範囲:P.394 - P.399

 わが国に公的な制度としてホームヘルプサービスが社会福祉分野に取り入れられたのは,昭和31年長野県上田市をはじめとする県下数市町村の「家庭養護婦の派遣事業」が最初であった.次いで昭和33年大阪市が民生委員制度40周年記念事業として「臨時家政婦派遣制度」を創設した.
 この両市の先駆的地域福祉活動は地域住民,とりわけ病弱老人のケアー・ニーズを満す最良の一方策であると全国の注目のまととなり,その後34年布施市,35年名古屋市,神戸市,秩父市等が家庭奉仕員制度を実施しはじめた.国はこうした地方自治体による居宅老人に対する福祉施策の重要性を高く評価するとともに,広く全国の各自治体が実施できやすいよう,昭和37年国庫補助事業の対象として,その育成,普及に乗り出したわけである.そして同時に今後の家庭奉仕事業はいかにあるべきかを調査研究するため,同年の厚生科学研究費の補助研究の課題を「老人家庭奉仕事業の研究」と決定し研究を行なった.

ソーシャルワーカーと地域保健

著者: 中島さつき

ページ範囲:P.400 - P.403

医療ソーシャルワーカーについて
 社会の急速な変動に伴なって,社会にはストレスと剥奪(必要としているものを必要なときに与えられていない現象がおこり,それ故に広い範囲にわたる問題に関係して,援助を必要としている個人やグループがふえてきている.ソーシャルワークという仕事は,それらの必要性(Needs)があまりに複雑で広範囲にわたるゆえに,それに働きかけるため生れてきた職業である.
 地域保健の担い手として多くの専門職種があるが,これを私はソーシャルワーカーの立場から考えていきたい.ソーシャルワーク(social work)という言葉は戦後導入されたもので,直訳的にいえば社会事業であり,この仕事をする人は社会事業家となる.この名称は戦前から用いられ慈善事業をする人とも言われた.近代的視点に立っていえば前述したように,社会的,経済的,精神的な種々な問題にぶつかる.そのために悩み,苦しみ,困窮状態におちいっている人々に面接し,自分の問題を自分で解決するような方向に,心理社会的な援助をする人といえよう.ソーシャルワークの基盤は同じであるが,公的扶助,児童,家裁,身障,老人,医療等,分野によって働き方が異なってくる.

PT,OTと地域保健活動

著者: 今田拓

ページ範囲:P.404 - P.409

PT,OTがなぜ地域活動を指向するか
 近年わが国の理学療法士(PT),作業療法士(OT)の両学会がとりあげる主題の中に地域活動への参加といった内容がかなり重要視される傾向がある.リハビリテーション病院や身体障害者更生施設等,わが国のこれらの施設でPT,OTの不足が深刻な問題として叫ばれているにもかかわらず,何故PT,OTの人達が地域活動に対するアプローチに熱心になりだしたのだろうか,それは決して現在わが国のPT,OTに余力ができたということを意味しない.昭和47年の日本リハビリテーション医学会1)において,現在わが国のPT,OTの必要数は,PT 8,650,OT 10,021としておりその不足数はPT 7402,OT 9666というお話にならないような数字が提出されていることをみても明らかであろう.
 PT,OTはいうまでもなくリハビリテーション医学推進の中心となるべき専門スタッフである.リハビリテーションのアプローチがチームアプローチであり,包括的であればあるほど専門職として地域との関連について意見をもったり,積極的活動を志すのは当然のことである.米国PT協会は1972年に理事会で決定した理学療法従事者の基準2),13)を発表している.この内容は理学療法士の人間的資質,倫理的行為患者管理,管理技術,職種間の関係等9項目を規定しているが,その最後の項目に「地域社会に対する責任」というタイトルをおこし,次のように規定している."理学療法士は,理学療法や保健活動に関することについて,その地域社会にresponsibility責任をもっている".その解説として "理学療法士は地域社会に対して,医療専門職の価値や有益性,そして理学療法サービスの適当な利用を知らせ,理学療法の専門職に新しく入ってくるような計画活動のプログラムに参加しその可能な時はいつも,保健活動や社会奉仕の計画に関した活動にも参加してゆく" と述べられてる.

監視員と地域保健

著者: 大沢泰邦

ページ範囲:P.410 - P.413

食品衛生監視員と地域保健
 最近科学技術が飛躍的に発展し,種々の化学物質が開発され,加工食品に家庭用品にさかんに使用されており,消費者に多大の利便を供しているが,その反面,これらの化学物質に起因する各種の健康被害も発生している.
 昨年は,石油蛋白をめぐる論議をはじめ,千葉ニッコー事件,有機水銀やPCBによる魚介類の汚染対策,ごまかし食品など,人々の注目を集め,食品の安全性への世論が,これほど高まったことはなく,食品衛生行政は,消費者保護行政の中でも最も重要なものの一つとなっている.

柔道整復師と地域保健

著者: 池添誠祐

ページ範囲:P.414 - P.416

 古くから日本に伝わる柔道は投げ技,抑え技,関節技,締め技,当て身技等がありこれらは凡べて殺法に属している.殺法に対し活法がありこれは仮死の状態に対して蘇生させる方法で狭義の活法という.また骨折,脱臼等に対して整復を施しこれを固定し治癒に赴かせる治療法は広義の活法である.
 柔道はこのように活法と殺法を修めるのが本筋であったのでこの道を修業した者は皆一方で柔術を教え他方接骨医として「ほねつぎ」治療を永い間行なってきたのであるが世の中の移り変りと共に柔道整復師という名に変り今日に至っている.現在の柔道整復師は一口にいって整形外科の一部である無血治療と理学療法その他マッサージの一部を合併して成る技術である.例えば創の無い外傷即ち打撲,捻挫,脱臼および骨折等に対し転位ある骨折端や関節端を正常位に整えこれに適当な副子包帯を施して一定の日数の間固定し自然治癒を待って固定の必要のなくなった時にこれを外し,患部に運動療法を施し患部の血行を促し新陳代謝機能を旺盛にし筋の萎縮や関節の拘縮等を防ぎ後遺症のない完全治癒を計る療法が現在の柔道整復でありこれによって地域保健に貢献せんとするものである.

理療(東洋医学物理療法)と地域保健

著者: 森和

ページ範囲:P.417 - P.427

疾病構造・社会構造の変化と理療(東洋医学物理療法)
 昭和48年度の「衛生統計」をみると,死亡率の低下
・平均寿命の伸長が目立つ反面では・有病率・り患率・受診率の上昇というマイナス面が,相対的に浮き彫りされている.
 日本の死因構造の変化を4つの死因群にわけて検討してみると,昭和10年当時は,細菌感染群が総死亡の43.4%,成人病が24.7%であったが,その後,両者の割合は逆転し,最近では成人病群が64.9%を占め,細菌感染群は8.2%となっている.また,妊産婦・乳児期の疾患群は減少の方向をたどり,外因死群(不慮の事故・自殺・他殺など)は次第に増加してきている.

衛生教育職と地域保健

著者: 金永安弘

ページ範囲:P.428 - P.430

 衛生教育が意図する輪郭ともいうべきものをはっきりとつかんでおくために,教育にかかわる理念から論及することにしよう.
 まず,われわれは,地域保健の教育的側面(衛生教育)が主張してきた住民の生命と健康の維持・増進といった価値理念が,人間集団の強い経験法則の支配によって容易に形骸化しうるという現実をけっしてみのがしてはならない.換言するならば,地域保健の実践活動を通じて,より健康な生活を営むにふさわしい人格の形成(育成)に指向する科学であり技術に伏在するこの価値理念が,その多くの場合,いかに字面の上だけでの保証にはしってきたかをわれわれはあらためて直視する必要がある.

発言あり

准看廃止

ページ範囲:P.385 - P.387

まず,看護業務の問いなおしを
 准看制度廃止の是非を論じる前に,まず着眼しておかねばならないのは,何故にこの制度が問題となりうるのかということである.
 その①は,昭和26年の保助看法一部改正によって発足したこの制度が,主に看護婦の数の確保を目的にしたものであるとすれば,准看比率が増大しつつある現状においてすら,ここ数年来の高校進学率の増加や全国的な看護婦不足(需要増加)に直面して,その所期の目的を達成しえなくなったことである.その②は,この制度から派生し,内在した諸問題--例えば,低廉な医療介助者としての存在,准看--正看の身分差別,研修という名目での国外からの看護婦導入……などを温存し,看護界に矛盾と混乱を招いていることがあげられよう.これと関連して,その③は,一般に看護職に対して"苛酷な労働条件の下での重い責任"というイメージが形成されている上に,すでに修学中の看護学生や就学している看護婦の中に,看護職の自立性や労働条件に対する多くの疑念,不満がみられることである.その④は,准看制度が最近の医療技術の進歩,疾病構造の変化に応じた技術上の準備行為,看護サービスの要請によって生じる業務領域の拡大や看護の質的変化に,果たしてたえうるものかという疑問である.さらに⑤は,このような看護サービスにかかわる基本的な問いかけに答える施策がないままに,看護婦養成の貧しさを准看制度で補い,それすらも行き詰りを招いた責任は一体どこにあるのかといわざるをえない.

寄稿

海底居住の可能性とその限界

著者: 北博正

ページ範囲:P.432 - P.435

 最近,海洋開発が注目され,先進国はいずれも国策として,この方面に力を注いでおり,海国日本も立ちおくれが甚しいながらも,ようやく本腰をいれるようになってきた.
 昔から海は水産物その他の資源の供給源として,また輸送ルートとして,いろいろ利用されてきているが,最近は海底石油や深海底に大量に存在するマンガン鉱等の資源を採取しようとする企ても遂次,実現し,これまでとは格段に大きな経済価値が認められつつある.これは地球の表面には限度があり,一方,人口は爆発的に増加しているのにかかわらず,食糧その他の物資の供給がまにあわなくなることは眼にみえており,結局,地球の表面の約2/3を占める海洋の開発が重視されるようになったもので,なにも一国の利益というだけでなく,人類全体の大きな問題となっているわけである.

研究

僻地の生活の変貌と保健問題

著者: 金子勇

ページ範囲:P.436 - P.447

 現在,農村は激しい変貌を続け,農村民は様々な健康障害に見舞われている.それは貿易・為替の自由化,高度経済成長政策やそれにともなう農業「近代化」政策に起因しているといわれる.今や農村は,資本主義発達の踏台となる中で生じて来た諸問題に,'60年代の急速な資本主義高度化にともなう農業農民切棄てから生じた諸問題が加重され,健康面でも新旧二重の障害に蝕ばまれていると考えられる.こうした動向は,僻地においてより深刻となっている1,2)
 地域保健対策上,かかる社会的状況を歴史的動的に把握することは,健康の背景として不可欠であるにとどまらず,生活と健康を破壊する社会的要因を明らかにし,具体的対策を樹立するためにも重要である3)

日本列島

さっぽろの緑を創る今日と明日のために,他

著者: 吉田憲明

ページ範囲:P.393 - P.393

 昭和49年6月1日(土),共済ホールにて,上記のテーマを掲げて第2回環境週間行事.市民の集いが催された.
 ときあたかも,札幌市はライラック祭が終り,新緑の梢が風に爽かに,郭公が声高く初夏の到来を告げ,地上には百花妍麗,一年を通じて最も美しい季節である.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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