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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生39巻1号

1975年01月発行

雑誌目次

特集 環境保健教育

医学教育の中の環境保健教育

著者: 渡辺厳一

ページ範囲:P.15 - P.19

環境保健のいままで
 1950〜60年,英国の医科大学における"社会医学"講座は,その名のあたえる印象が,時代に迎えられ,この国のかなりの衛生学・公衆衛生学者たちの関心をひいた.そして,多くの医科大学では,所謂"環境衛生学"に費やす講義や実習時間が,適当に削減されたのであった.なかには,環境衛生学にあまり重点をおく人を,時代錯誤的な眼でみる向きさえあった.これが,1960〜65年にわが国でみられた「医学教育改革」の中の1つのパターンであったように思われる.
 学生は,"社会医学"研究会なる言葉を好み,どこの医科大学でも,サークル活動を盛んに行うようになった.そして,衛生学・公衆衛生学の教官が,指導,あるいは顧問の役を引き受けるのが屡々であった.実はこれが,医科大学生をして,地域保健の窓口から,環境破壊へ挑戦する素地を醸成した,といえるであろう.

医学教育の中の環境保健教育—筑後地区における農村医学研究と環境保健教育

著者: 高松誠

ページ範囲:P.20 - P.24

 われわれの教室は環境衛生学という講座名をかかげている.日本の医学教育機関のなかで,環境衛生学,欧文でDepartment of Environmental Healthの名をもつのは,久留米大学医学部だけではなかろうか.5年前にこの講座の主任として招かれたときには,この名前に大変こだわってDepartment of Hygiene衛生学教室という名に変えようと真剣に考えたことがあるが,講座名にふさわしい医学教育のカリキュラムを組む努力をして,また新しい研究分野の開拓をなしていくにつれて,現在では,そういう名をもつことにむしろ誇りを感じるようになった.環境衛生あるいは環境保健という言葉が医学教育の中で定着しているというなら,それは,やはり時代の変遷がなした技ではないかと考える.わが国の衛生学はドイツのPettenkoferの実験衛生学が導入されて主流をなし,実質的には環境衛生学が中心であったと思われるが,戦後,公衆衛生学public healthが導入されて健康と疾病の問題をとりあげるようになり,環境衛生学は環境保健学へと移り変っていく.私の乏しい知見からしても,環境衛生学は生態学human ecologyとの結びつきを強めながら,社会医学としての環境保健学へと高揚していくようになるだろうと思われる.

医学教育の中の環境保健教育

著者: 野瀬善勝

ページ範囲:P.25 - P.31

はじめに
1.人為的環境と疾病
 元来,都市は,労働と生産の場であると同時に,いこいと生活の場である.ところが,わが国では明治維新以来,経済優先の思想が強く,近代的な産業を振興させることに重点がおかれて,都市計画の面でも市民生活の場を整えることは,とかくなおざりにされてきた.
 また,戦後産業と経済の急速な高度成長に伴って,人口の都市集中化がはなはだしく,土地,住宅の不足,上下水道の不備,道路,交通のマヒ,加えて大気汚染,水質汚濁,土壌汚染,地盤沈下,騒音,振動,悪臭など各種の公害が全国各地で多発し,空気も,水も,米も,牛乳も,魚介類も,その加工品も,野菜類も,殆んどすべての食品が汚染され,人為的な環境によって,人間の健康が集団的に蝕ばまれている.

公衆衛生教育の中の環境保健教育

著者: 吉田克己

ページ範囲:P.32 - P.35

1
 ここでは,環境保健の問題を大気汚染を中心にして考えることとして,この大気汚染の問題が生れたて来た時に公衆衛生従事者にどんな形で問題が提起されて来たかを,四日市での問題を例にして考えてみたい.
 日本で,昭和30年代の経済成長に際して最初に公害問題が大きく提示されたのは四日市の石油化学コンビナートの事例であろう.四日市で,公害問題として最初に問題になったのはいわゆる『異臭魚』問題,即ち伊勢湾北部で漁獲される魚の中に油くさい魚が数多く混合漁獲されるということであった.

公衆衛生教育の中の環境保健教育

著者: 鈴木継美

ページ範囲:P.36 - P.39

「環境保健」とは定着した概念だろうか
 公衆衛生行政の現場で仕事をしている人々と話をする時,「対人」と「対物」という表現がよく使われる.主として人に即してなされる活動と人以外の与件についてなされる活動とが区別して扱われてきたことから,このような表現が定着するようになったのだろう.
 ところで,宮城県では宮城県公衆衛生学会が組織されており,県内の公衆衛生従事者が集まっている.年に何回か,トピックをとりあげて,パネル討論会やシンポジウム,特別講演会,そして年に1回の研究発表集会が開かれるが,こういった集まり(とりわけシンポジウム,講演会など)をみていると,とりあげたテーマによって集まる人ががらりと違うのである.

学校教育の中の環境保健教育

著者: 小倉学

ページ範囲:P.40 - P.46

 本稿では,環境保健教育を保健教育の中の「環境と人間の健康」に関する領域の教育と解して,そのことを中心に考察することにしたい.
 しかし,学校教育の教科の中には保健以外にも環境汚染のことを取上げている教科がある.社会科・理科・家庭科はその意味で保健の中の環境保健教育の内容と関連をもつ教科である.むしろ,環境汚染ないし公害の問題は各教科でバラバラに取上げるよりも,人間と環境という観点から教科の枠をはずして総合的に学習させるべきだという意見もあり,一部では実際に行なわれている例もある.

一般学校教育の中の環境保健教育

著者: 西岡昭夫

ページ範囲:P.47 - P.51

 人間の地誌的環境と生物的環境が,こんにちほど複雑にかつ密接な関連をもつ時代はない.考えられる環境域は,物理的に身体に接する部分からはじまり,宇宙にまで広がる様相を示している.
 環境保健教育の課題は,よりよい健康と環境を指向するが,加えてこの課題実現の活力,意欲の生産にあると思われる.人間やその社会的機構が造り出す環境を,歴史的,科学的にみつめる習慣をつけることにもあり,具体的には回想能力,対比能力を養うことなども考えられる一手法であろう.これらは環境の変化を意識または予見する重要な能力であり,いずれも総合的教育のなかにあって涵養される能力でもある.

社会教育の中の環境保健教育

著者: 白戸三郎

ページ範囲:P.52 - P.55

 社会教育を単に地域における成人教育と考えるか,範囲を広げて,学校教育以外のすべての対象者に対する教育と考えるかによって,多少取り扱い方は変るであろうが,私は後者の意味で話を進めたい.また,他の筆者が記すことになっている公衆衛生教育の中の環境保健教育と,社会教育の中の環境保健教育との関連などについても,考えなければならない問題も多いように考えられるので,このような点についても触れてみることにしようと思う.
 私は保健所在職当時も現在と同じように,保健教育には全力を傾けて努力してきたつもりであるが,当時から最も心を用いた事は,社会教育関係のリーダーたちに保健・医療についての正しい理解をもってもらい,それぞれの分野で,その知識を実行に移してもらうよう働きかけることであった.学校のPTA関係はもち論,地域婦人会や老人クラブ,その他の各種関係団体等へ保健所の方から積極的に働きかけると同時に,これらの団体から講演依頼のあった時は,時間の許す限り私自身,その他の医師及び保健婦,監視員,栄養士,衛生教育担当者等がこれに応ずるように心がけてきたつもりである.

社会教育の中の環境保健教育

著者: 相磯富士雄

ページ範囲:P.56 - P.59

 環境汚染物質による日本人の体内汚染は,世界に類をみない高度のものである.たとえば,農薬であるβ-BHCの体内蓄積量は,欧米人の30倍近い高濃度であると推定されている1).また,1972年7月から8月にかけて厚生省でおこなった母乳中のPCB濃度の検査の結果では暫定的人体許容濃度5μg/kg/日をこすものが約3割あった.1971年のFAO/WHOの報告で「12週間以内の乳児は,解毒機構,組織透過性その他の防衛機構が発達していないため,成人では問題がない物質にも対処できないことがある.したがってその食品には食品添加物を一切加えない方がよい」としている現状においてである.まがりなりにも動物実験で,限定づきではあるが安全性を確認している食品添加物にさえこのような警告がだされているのに,β-BHC,PCBのみならず他の多くの重金属や有毒化学的合成物質も人体内に蓄積され母乳に含有され,新生児に哺乳されている可能性は恐るべき状態である.このような状況下で,都市「公害」,産業「公害」,農村「公害」,食品「公害」,自動車「公害」,等々公害の規模は量質ともに拡大深化され国民の多くは言いようのない不安におそわれている.
 東京での世論調査では,健康,疾病上の関心事は環境保健上の問題が医療上の問題を圧倒しているのが現状である.

座談会

環境保健教育

著者: 橋本道夫 ,   長田泰公 ,   小泉明 ,   西川滇八

ページ範囲:P.4 - P.14

 本誌で初めて「環境保健」をとりあげた35巻1〜6号の連載「環境保健の提唱」の中で,環境保健を「国際的なレベルで,国のレベルで,あるいは地域のレベルで,総合的な保健計画と保健活動のなかに組み立てるべき環境対策」,「このあるべき姿を名づけたのが環境保健ということばであろう」としています.
 当時より4年経過後の日本の「環境保健」現状分析と将来へむけて,「環境保健教育」の問題点を,今回の座談会で話合っていただきました.

発言あり

健康被害の補償

著者: 田中茂 ,   滝沢行雄 ,   正岡和 ,   横山和彦 ,   金城妙子 ,   ,   ,   ,   ,  

ページ範囲:P.1 - P.3

PPPの原則を正しく守るには
 水俣病,イタイイタイ病,四日市喘息などの公害病が世界的に注目される所以は,多数の犠牲者を出していることにもよるが,それ以上にこれらの疾病の特異な発生機序にもとづくものである.慢性もしくは亜急性の健康破綻として,原因物質が自然の媒体を通して被害を発生せしめるという食物連鎖が介在し,科学的解明が困難であるだけに,公害対策を進めるにあたって,最大の争点は因果の立証をめぐる問題となる.
 ところで,原因者である企業の法的責任は,疫学研究の成果を重視してようやく明確にされてきた.しかし,その道程には非常な年月と厳しい労力を要した.ちなみに,被害者が救済されるのに,水俣病で17年,四日市公害で12年かかっている.このような状況からみて,公害健康被害者救済の諸費用の負担を国際視野にたつPPP(汚染者負担の原則)に基づいて,汚染量の寄与率に応じて企業に負担させるという補償法の制定は,公害対策のひとつの前進といえよう.

研究

愛知県の都市地域における自動車排出ガスの健康影響調査

著者: 長田伊三夫 ,   浅見英男 ,   大谷誉 ,   磯村久男 ,   大野純暉 ,   城戸省二 ,   長島章夫 ,   井上裕正 ,   高島一良 ,   太田秀夫 ,   恩田裕行 ,   児玉博和 ,   山田直樹 ,   種村孝 ,   丹羽謙次

ページ範囲:P.60 - P.63

 わが国の高度経済成長が,国民の生活環境に与えた影響は大きく,環境汚染物質による人体影響の問題が健康阻害の観点から重大視されている.なかでも,大気汚染主因のひとつに数えられる自動車排出ガスは逐年,自動車交通量の増加により,主要道路を中心に過密都市の汚染化に拍車をかけ,時には大気によって自然稀釈の余地すら次第に消失してきているとまでいわれるに至り,この健康影響の重要性は一段と高まっている1)
 本県では公害保健調査事業の一環として,昭和47年度から継続3カ年計画で自動車排出に含まれる有害物質による微量慢性暴露が都市地域(豊橋・一宮地区)住民の健康に及ぼす影響を疫学的視点から追跡調査しているが,第2年次実施の中間成績に検討を加えたところ若干の知見がえられたので報告する.

日本列島

底質検査で発見した汚染米—宮城県/精神衛生と地域保健活動—札幌市

著者: 土屋真

ページ範囲:P.31 - P.31

 県市の誘致工場である古川市の電子部品メーカー,「東北アルプス古川工場」のカドミウムメッキ廃液で,排水口下流の出来川や新堀流域産米が汚染された事件がおこった.これは昭和48年6月より県が公共用水域の水銀等の調査をし,水質汚濁防止法に義務づけのない底質の検査をたまたま行って,カドミウム汚染を発見したものである.
 この工場は昭和39年,従業員2千人のメッキ部門のない工場として操業を始めた.その後,40年から44年までメッキ排水処理施設を設置してカドミウムメッキを行ったが,廃液処理が不完全で化合物が公共用水域に沈でんし汚染したと推測される.工場側は同工場の排水が汚染原因であることを素直に認めた.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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