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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生39巻11号

1975年11月発行

雑誌目次

特集 地域精神衛生活動

地域精神衛生の世界的動勢と日本の現状

著者: 加藤正明

ページ範囲:P.748 - P.752

はじめに
 コミュニティ精神衛生がピネルの無拘束法とフロイトの精神分析に次ぐ第3の革命であるといわれてから,すでに十数年を経過した.それは監置的ケアから治療的ケアへというグリーンブラットの主張や,病院中心の医療からコミュニティ中心の医療へというかけ声に支えられてきた.欧米でのコミュニティ精神医療ないし精神衛生の過去10年の発展をみても,おのおのの国の医療制度や政治体制に応じ,またその国の内外の政治経済状態に影響されながら,それぞれ独自の発展をしてきたように思われる.ある国では多くの精神病院を廃止し,コミュニティ内のケア・ホームや寮に患者を移したが,その成行きが批判されているところもある.

精神衛生相談員と地域精神衛生活動

著者: 林幸男

ページ範囲:P.753 - P.757

はじめに
 精神衛生法(以下単に法という)の大幅な改定によって,入院中心の精神衛生対策から地域精神衛生対策へと重点を移し変えてはや10年目になる.この地域精神衛生対策の重要な担い手として新たに登場したのが,精神衛生相談員(以下単に相談員という)である.
 当初1保健所に2名の相談員を配置する計画であるといわれていたが,その伸びは停滞しており,おおむねその目標に近い相談員を配置しているところは,2府県にすぎない.厚生省によると,国庫補助の対象となっている相談員は,全国で232名であるという.また,新潟県精神衛生相談員一同によるアンケート調査(昭和49年)によると,相談員未配置の県があるほか,配置県でも一部の保健所にのみ配置しているところが多い.しかも,保健所あるいは医療社会事業員との兼務の場合が多いという実情である.東京都では,当初68保健所中12ヵ所に1名ずつの相談員がおかれた.しかし後述の混乱の影響で3名が退職し,補充さえされないまま今日にいたっている.

精神衛生相談員と地域精神衛生活動

著者: 真野元四郎

ページ範囲:P.758 - P.765

はじめに
 昭和40年6月30日,法律第139号により精神衛生法の一部が改正された.それに伴ない,精神衛生に関する事項が保健所法に明記されるにいたった.
 さらに昭和41年2月11日,衛発第76号により各都道府県知事宛に出された厚生省公衆衛生局長通知は,公衆衛生行政の第一線機関である保健所に精神衛生業務を担当させた理由について次のように触れている.すなわち,地域における精神衛生行政の実効ある推進のためであるとし,在宅精神障害者の把握とその指導体制の強化に関しては,保健所による精神障害者の訪問指導を中心として,その推進を図ることとしている.

保健婦と地域精神衛生活動

著者: 植村登志子 ,   樋口治子

ページ範囲:P.766 - P.770

はじめに
 私は,約10年間,保健所保健婦として現場活動をし,昭和47年から当道立精神衛生センターの指導部の一員となった.現在の主な仕事は,全道保健所と連携を取りながら,地域精神衛生活動を進めるために,精神衛生従事者の研修を企画したり,当センターの事例研究や保健所での事例検討を進めることである.
 この与えられた機会に,今までの現場活動と当センター着任後の経験から,「保健婦は,精神障害者やその家族にどう接してきたか」「地域精神衛生活動における保健婦の役割は何なのか」「地域精神衛生活動をさらに進めていくためには何が必要か」を論じてみたい.

大和保健所における保健婦活動—精神障害者生活指導教室を中心に

著者: 三品照子

ページ範囲:P.771 - P.777

はじめに
 精神衛生法に規定されている保健婦の位置づけや活動のあり方が議論されている1)2).広義の精神衛生活動は,保健婦活動の根底にあり,従来から相談,家庭訪問,衛生教育などを実施し,精神障害者の早期発見,受療勧奨,医療の継続等についての支援活動を行なってきた.しかし在宅障害者やその家族に対する看護活動の積極的な取り組みはいまだ日が浅く,試行錯誤をしている現状である.
 神奈川県においては,昭和46年県独自で決めた「精神衛生業務運営要項」に則って,県下の保健所がそれぞれ特色のある活動を展開している.

ソーシャル・ワーカーと地域精神衛生活動

著者: 杉村宏

ページ範囲:P.778 - P.783

生活保護層の特徴
 生活保護層全体がここ10数年の間にずいぶん減ってきた.もっともごく最近は,オイルショックに始まる高物価の中,不況の影響が現われると少し増え始めているが,保護率(国民全体の中での被保護人員の割合,千分比)は12‰という低率を維持している.
 こうした生活保護層の特徴点はいくつかあるが,この10年間特にはっきりした傾向を示しているのは,傷病化・老齢化・単身化ということだと言える(表1,2).

民生委員と地域精神衛生

著者: 小倉謙介

ページ範囲:P.784 - P.789

はじめに
 地域精神衛生活動(広狭いずれの意味においても)を進めるに当たって,地域の中でこの活動の先端を担う人たちの存在が重要とされている.この人たちに期待される第一義的な役割りは,住民と専門的資源とを結びつけることであり,さらには自らの及ぶ範囲内で悩む人々に援助を与えることであろう.
 民生委員はこうした役割りを期待される立場にある者として重要な存在である.大正5年の岡山県に設置された済生顧問以来60年近くの歴史を持ち,制度的な裏打ちのもとに社会福祉活動の第一線を担い,その存在は住民の中に定着している.

研究

地域精神衛生活動と精神鑑定例考

著者: 荒木督

ページ範囲:P.790 - P.795

はじめに
 地域精神衛生活動の対象は,種々雑多な対応を迫られ,その1例1例が応用問題の連続であり,精神医学の枠内に留まらず,患者本人および精神科医,それを取りまくパラメディカルによる治療を中心に,家族・職場および環境等までも問題にしなければならないのである.行政的に見ても,東京都の場合でいえば,ひとり衛生局の問題ばかりではなく,民生局・警察署および家族会等が相互に連絡して対応されている.そしてこの活動が破綻に陥った場合,まれに精神障害者が法の適用を受ける.
 ここでは,この法の適用を受けた精神鑑定について述べ,考えてみたい.

発言あり

精神障害者の人権

著者: ,   ,   ,   ,  

ページ範囲:P.745 - P.747

"歴史の悪",刑法改定
 精神障害者の扱われ方は社会と歴史によって異なっている.概して,原始から古代にかけては,洋の東西を問わず,精神障害者が予言者や呪術師として畏敬の対象であったのではないかと思われる.次に文明時代に入ると,例えばヒポクラテスやわが国の養老・大宝律令には精神障害を病気とみなす医学観があったようである.しかし,中世に入り,ヨーロッパでは,抑圧的,禁欲的なキリスト教の支配,身分制度に対する反応として,集団ヒステリー,神秘主義的秘密結社などが現われた.これらには多分に精神障害者を含んでいたと思われるが,支配者は,体制維持と,人民の欲求不満をそらすためもあり,魔女裁判のごとき組織的で残酷な集団虐殺を行なった.
 わが国では,精神障害者の大量拘禁・虐殺ということはあまりなかったようで,むしろ,家族の面目を利用して患者を座敷牢に幽閉する方向に進んだ.

研究

大学病院の医療圏

著者: 中村賢

ページ範囲:P.797 - P.808

I.緒論
 地域療医に関する研究の多くは地域医療のシステムに向けられており,それを展開する場についての研究は少ない.現在地域医療の場の単位として考えられているのは,地域医療の概念を提唱した日本医師会による地域医師会単位と,その後これを模倣した厚生省による県・市町村・保健所および広域市町村圏1)の行政単位である.地域・生活圏等を考慮しながらこれを実際に分析しているのは,倉田2)による通勤通学圏と積雪状況からみた,地域医療の場に関する検討・報告のみである.
 医療圏の構成については,その基本となる医療の展開の仕組みを明確にする必要がある.医療については,日本医師会医療総合対策3)において,その概念が定義づけられている.すなわち「包括医療の概念は健康の破綻に限らず,ポジティブ・ヘルスというところに重点をおいて,生まれる前から死亡するまでのあらゆる人間と社会との接触面を包括し,一貫して健康度の増進をはかるのである.

連載 公衆衛生の道・8

3つめの保健所

著者: 山下章

ページ範囲:P.810 - P.814

 渋谷には6年もいたのだが,仕事が大変忙しかったうえに保健所の改築もあって,あっという間に過ぎてしまったような気がする.3つめの保健所は,有楽町の駅前,そして都庁の入口にある麹町保健所であった.ここの保健所長は例外なく局の部長へ昇進したので,小さな保健所のくせに意外に高く評価されるくせがついていた.

日本列島

岐阜県公衆衛生研修会開催

著者: 鈴木大輔

ページ範囲:P.777 - P.777

 第20回岐阜県公衆衛生研修会は,昭和50年9月27日午前10時より岐阜市の南市民会館で,県内の公衆衛生関係者多数参加のもとに盛大に開かれた.午前の部は保健予防関係の研究発表,午後の部は特別講演と環境衛生関係の研究発表へと続き,午後3時に終了した.
 保健予防関係の研究発表では10題の一般演題が出された.内容は,母子保健,成人病予防,衛生教育等の活動に関するものが主で,他に,精神障害者の社会復帰(デイ・ケア)活動,トキソプラズマ症に関するものが1題ずつ出された.

母子保健推進員研修会開催—沖縄県

著者: 伊波茂雄

ページ範囲:P.809 - P.809

 昭和50年度市町村母子保健担当者及び母子保健推進員研修会が,県環境保健部と社団法人母子保健推進会議の主催で,9月9日,10日の2日間,那覇市内ゆうな荘で開催された.初日は関係者270人が参加,午前中は「婦人の健康管理」について栃木県小山市立病院長の石浜淳美先生の講演,午後は「地域における母子保健活動を高めるには」のテーマで母子保健推進員の体験発表が行われた.体験発表には3人の推進員が「妊婦の健康管理,乳幼児及び三歳児健診の重要性など母子保健のあり方を説いて回ったところ,それに対する地域の認識も高まり,40%前後しかなかった三歳児健診の受診率が100%近くまで上がった」(糸満市),「推進員の知識の向上が必要であり,そのための学習会,検討会を多く持ってほしい.市町村役場は推進員制度の普及にもっと努力してもらいたい」(宜野湾市)等の意見が出された.

第3回札幌市精神衛生大会

著者: 吉田憲明

ページ範囲:P.814 - P.814

 昭和50年9月16日午後表記の大会が開催されたが,テーマは「中学生の受験と精神衛生」で,シンポジウム形式で行われた.
 テーマが中学生を子供に持つお母さん方にアピールして,聴衆は主催者が驚く程に約400名も来場,熱気溢れる大会となった.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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