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発言あり
医事訴訟の増加
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ページ範囲:P.817 - P.819
文献購入ページに移動医師法第19条は,「診療に従事する医師は,診察治療の求めがあった場合には,正当なる事由がなければこれを拒んではならない」としている.このことは,患者をより好みすることができないことで,契約自由の原則が通用しないことを示している.すなわち,医師は一方的に契約締結を強いられるという身分法上の制約を受けている.それに対して,患者には医師を選択する自由があり,契約自由の原則が通用しているように思われる.ところが,医療内容に関しては,患者は専門家ではないので,専門職としての医師の一方的判断にゆだねなければならない事態となる.患者—医師関係を医療契約としてみた場合,医師にとっては患者からの一方的契約申し込みを断わることができないという立場にある反面,患者にとっては医師から一方的に医療内容を決定されるという関係にある.訴訟にいたる医事紛争の大部分においては,この契約関係上の意思確認が十分なされていなかったことによるものと思われる.
以上の見解に従って,診療を求められた場合に承諾書をいろいろ交換して診察・治療が進められるということになると,医師は「やりにくい」と感じ,患者は「形式的な」と受けとるという場合がある.通常の診療の場合は厳密な契約関係上の意思確認など必要ないかもわからないが,いったん訴訟が起こったとなると,このことが実に重要な事項となることを認識しておいた方がよい.
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