icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生39巻3号

1975年03月発行

雑誌目次

特集 地域住民と環境保健

環境保健と地域住民

著者: 安倍三史

ページ範囲:P.124 - P.130

はじめに
 アメリカは国家環境政策法(1970.1)の中で,「環境問題の根本的な原因は複雑であり,深い面をもっている.第1に,成長の質を犠牲にして成長の量を強調する従来の傾向は,環境汚染の社会的コストを経済が十分に計算に入れなかった.第2に,立案や決定のさい,正しい必要な手順として環境の要因を十分に考慮に入れなかった.第3に,環境に対する影響を考えず,生活の便利さを優先させた.第4に,環境を全体としてとらえず,人間を含めた環境の各部分が根もとでお互いに依存し合っているということに対する理解と認識がなかった」と前書きし,この法律の目的は「環境と生物圏に刻する損傷を防除し,人間の健康と福祉を増進するために努力し,国民にとって大切な生態学的体系と天然資源についての理解を深め,環境問題会議を設置することにある」とうたっている.このことは日本の場合にもそっくりあてはまる.大統領にこういわせた背景として,大規模な地域住民の公害反対運動があり,多数の学生や私的団体のアピールによってアース・デー(地球の日)が提唱されたことがあった.
 日本でも,野党3党から64国会(1970)に環境保全基本法案が提案され,通過はしなかったが,衆議院の付帯決議として与野党が「健康で文化的な生活をいとなむことは国民の基本的な権利であり,そのためには,長期的な視野で現在と将来の国民のために,国をあげて良好な環境が確保されなければならない.

現代環境問題の特質—住民と自治体

著者: 東田敏夫

ページ範囲:P.131 - P.139

現代環境問題の所在
 現代環境問題は,たんなる「生活空間」の問題ではなく,地域住民の日常生活の中味にかかわる問題であり,人々の生活権・生存権にかかわる問題である.この基本的命題が理解されていなければ,現代環境問題の打開はその実をあげることはできないだろう.
 1960年代以降の「経済成長政策」が,国民にもたらしたものは,過密化,過疎化,公害と交通戦争,全国土に及ぶ自然破壊と生活妨害,さらには健康被害の拡大であった.

地区医師会と環境保健

著者: 若狭勝太郎

ページ範囲:P.140 - P.144

はじめに
 全国の0.6%に相当する2,142km2の地域に全国民の10%強に相当する1千万人以上の人間が生活する東京都の地域において環境を保全し,健康な生活を増進するには,全都民が正確な情報を把握し,充分の検討を経た合意がなければ,その達成は不可能である.
 現在世界の最も重要な課題は,3PすなわちPollution(汚染)Population(人口)Poverty(貧困)といわれている.なかでも汚染の問題は最大の課題であり,「かけがえのない地球」として,昭和47年には国連人間環境会議のスローガンとなっている.

精神衛生と地域住民

著者: 大塚明彦

ページ範囲:P.145 - P.149

精神衛生と言う言葉
 「知に働けば角が立つ,情に棹させば流される,意地を通せば窮屈だ」と夏目漱石は書いている.人と人との付合いの難しさを表現している文章として有名であるが,最近,「精神衛生」と言う言葉が濫用され気味の様に思う.どの時代でも人間関係の難しさは大して変りないと思うが,その妙薬か,または,人間管理かのように「精神衛生」が語られ,「精神公害」と言う新語も造られた.「職場の精神衛生」,「学校の精神衛生」果ては「騒音公害と精神衛生」等々提唱者の立場によって巧に使い分けられ,一種のブームの観がある.この現象は「福祉」と言う言葉が各々の立場で濫用されて,ついに風化現象を起して来ていることを思い出す.「健康な精神を育てるために」,「得がたくてしかも損われやすい心の健康の保持のために」等が「精神衛生」活動の全てであるかのように一部では言われている.
 また心配事悩み事相談,ノイローゼの人達のカウンセリング,または職場の労務管理を精神衛生活動の対象者と限定して,意識的に精神障害に悩む人達を医療分野として避けている関係者が多いようである.しかし,身体の医学で肉体的に完全な「健康」は理想像であるが現実的には幻想に過ぎないのと同様に,精神の健康保持を余りに強調したり,精神の健康とは何か,病気とは何かを熱心に論ずることは余り意味のあることではない.

新幹線公害と地域住民

著者: 中川武夫

ページ範囲:P.150 - P.154

はじめに
 1964年10月,東京オリンピックをめざして東海道新幹線は開通した.その後,東京—大阪間が3時間に短縮されるとともに列車本数も1日30往復からしだいに増加した.70年万博からは車輌が12輌から16輌へ増結されるとともに1日100往復を越え,騒音・振動などによる被害は増大した.住民は,国鉄や自治体とかけあっても,どうにもならない現実に直面する中で住民運動への志向を強め,私達のとりくみをも1つのきっかけとして,72年には名古屋新幹線公害対策同盟連合会を発足させた.
 そして,1974年3月には,新幹線による騒音振動公害の「差し止め」を求める訴訟を500余名を原告として,名古屋地方裁判所へ提出した.この訴訟は,耐え難い騒音・振動などの公害を10年にもわたって強要し,何らの反省も行なわない国鉄当局に対する沿線住民の怒りの叫びである.

水俣病患者の実態調査と一考察

著者: 光永輝雄

ページ範囲:P.155 - P.159

はじめに
 水俣病患者に対する当面の医療および福祉サービスが緊急な課題になっているため,水俣市ならびにその周辺地域の医療需給の実態を明らかにすることを目的として環境庁より委託された「水俣市並びにその周辺地域の医療需給に関する研究班」が組織され,その研究の1つとして水俣病患者の実態調査が行なわれたものである.
 この実態調査は昭和49年3月1日現在,665名の生存患者全員を対象にし,55名の調査員(市町役場職員および保健婦)を動員し,アンケートに基づき家庭訪問による聞き取り調査(県外者は郵送による)を行なったものである.調査期間は10日間で,調査内容は,一般概況,日常生活,動作,医療の現状と希望,リハビリテーション医療,家庭看護,ホームヘルプ等,23項目についてであった.その結果,644名(96.8%)の調査および集計ができた.これらの成果については,先に環境庁より報告されている.

大気汚染と地域住民

著者: 佐渡一郎

ページ範囲:P.160 - P.164

はじめに
 地域住民の側から環境保健を考えるときの問題点のひとつとして,大気汚染をとりあげて考察し,住民運動との関連に言及せよ,というテーマが私に与えられたものである.
 この,環境保健という用語は比較的新しいもので,概念的には必しも定着したものがないようである.地域住民という使い方も,ある地域内(地理的行政的区画内)に住む人々という一般的な意味の場合と,地域社会あるいはCommunityを構成する住民としての意味などがある.この両者の意義あるいは考え方そして相互の関係については,他の執筆者の方々が専門的立場で解説される予定であるし,私自身が不勉強であるという理由もあって割愛するが,テーマについて述べる際に必要な最小限度の概念規定をしておく必要があると思う.

光化学スモッグと地域住民

著者: 南雲清

ページ範囲:P.165 - P.171

複雑化する光化学スモッグ
 「日本群島は半ば海面下に没した山嶽であるから,地勢は一般に山谷多く,平地は海岸に沿ふた低地に及ぶ山嶽の走向に並走する大河流の縦谷にやや広く発達するに止る」1)といわれているが,この沿岸地帯のやや広く発達した平野に急速にコンビナートが建設された.
 日本の石油の消費量は1972年で2億0440万klといわれ,重油が約その半分を占め,世界においてもアメリカに次ぐ第2位の9.1%(1971)となっている.また自動車生産量(四輪車)も1973年で708万台でやはりアメリカに次ぐ第2位(18%)である.これらの消費量や生産量は過去よりみると,1972,73年で最高値となっている2)(表1,2).

発言あり

環境権

著者: ,   ,   ,   ,  

ページ範囲:P.121 - P.123

価値と権利の体系を確立しよう
 環境権は生存権の一部であり,国民の基本的権利の1つといえよう.
 生きること,つまり生活することは主体と環境の相互作用で成立するもので,環境権は健康で文化的な生活の必須条件である.いいかえると健康で文化的な生活を営むには,快適で安全で健全な環境がなくてはならないのである.

研究

名古屋市における大気汚染と愁訴率の関係

著者: 青山光子 ,   六鹿鶴雄

ページ範囲:P.173 - P.177

緒言
 大気汚染が小児あるいは住民の健康に及ぼす影響については数多くの研究1)〜14)がみられるが,名古屋市においては大気汚染が児童生徒に与える影響についてまだ詳細な調査研究が行なわれていない.そこでわれわれは名古屋市内に在住する小中学校児童生徒の大気汚染ならびに体の調子に関するアンケート調査を行ない,その実態を明らかにし,他方,汚染地区,非汚染地区の児童父兄を対象に,大気汚染ならびにかぜ愁訴率,かぜの治癒期間などの推移とSO2濃度の推移との関係を観察し,もって大気汚染と愁訴率の関係を明らかにしようとして本調査研究を行なった.

「記録中心型」健康手帳の利用について

著者: 大月邦夫 ,   梁田富子 ,   三木定 ,   桐淵ちよ ,   松本きね子 ,   布施ヤイ子 ,   内林とし ,   石川悦子 ,   黒沢和子

ページ範囲:P.179 - P.184

 農山村に多発する循環器疾患とりわけ高血圧性疾患は,加齢とも関連した超慢性疾患であるが故に,長期的な疾患管理が必要であり,地域ぐるみの脳卒中予防対策や住民健康管理などの地域保健活動を積極的に推進していくべきものとされている.
 健康手帳は,健康台帳とともに住民健康管理の主柱の一つとして,重要な意義を持っている1)ことから,農民健康手帳をはじめ各種の健康手帳や血圧手帳が作成され,使われてきている.

高温下防除用作業衣の人体に及ぼす影響

著者: 田中正敏 ,   窪田為延 ,   北博正 ,   大野静枝

ページ範囲:P.185 - P.189

はじめに
 農作業中,特に農薬散布時に着用される衣服は,農薬への接触をさけるため,防除衣として特殊な形態,特性が要求される.これらの防除衣は,炎天下での農耕作業,ビニールハウス内での作業など人体への暑熱反応から考えた場合,必ずしも適切であるとは云えない.暑熱下での作業は,生理的には,体温,発汗,循環,呼吸器系への反応からみて,人体に負担となり,さらには熱中症の起因となる1,2).また衣服の材質,形態上からは,機能性,着心地,防除効果など作業能率に影響する.防除衣の機能性は,その着用の目的から,全身を覆い,人体に危害,傷害をあたえないことにある.また農作業時の気候条件は,高温,多湿下での労作も多い.今回の実験は人工気候室において,高温,多湿,風速の少ない場合を設定し,防除衣,対照衣を着用し,安静時および,軽労作をおこなっての反応を検討した.

日本列島

団地の地区組織活動が実った不在地主の土地の草刈りと「山の寺どんと祭」開催—宮城県

著者: 土屋真

ページ範囲:P.130 - P.130

 泉市の向陽台団地にある新生活会議の活動を紹介します.泉市は人口6万人の新興都市で,各地から集まる人で毎年1万人が増えて,幾つもの団地が点在し住宅が入り乱れ,他市町との境界も不明瞭になりました.
 向陽台団地は高台にあって,6年程前から住宅が建ち始め約1万人が住み,なお造成が続いています,ガス,上水道,下水道が完備し全路面が舗装され,80坪前後の土地にマイホームが競いあう静かな団地です.車の30km制限も行なわれています.団地内には町内会,婦人会,子供会と育成会,老人クラブ,防犯協会,交通安全協会,商工会,自衛消防隊などの組織があり,野球,剣道,バレーなどの愛好会も活躍しています.

岐阜大学医学部公衆衛生学教室開講20周年記念講演会を振り返る—岐阜県

著者: 鈴木大輔

ページ範囲:P.139 - P.139

 岐阜大学医学部公衆衛生学教室(主任 館正知教授)開講20周年記念講演会が,昭和49年5月11日,岐阜市の養心会館で,多数の公衆衛生関係者を集めて盛大に開催された.
 今となっては若干古いニュースであるが,たまたま,その講演集が出来上がった折でもあるので,当日の印象を振り返ってみたい.

健やかな生命を生み育てるための婦人大会—札幌市

著者: 吉田憲明

ページ範囲:P.144 - P.144

 札幌雪祭も近い1月30日,午後1時から,時計台うらの経済センターホールで上記の婦人大会が開かれた.
 この会は昨年につづいての第2回大会で,札幌市不幸な子どもを生まない運動推進婦人会,札幌市健康を守る婦人の集い,札幌市民生委員婦人部,そして,札幌市との共催で行われたものである.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up

本サービスは医療関係者に向けた情報提供を目的としております。
一般の方に対する情報提供を目的としたものではない事をご了承ください。
また,本サービスのご利用にあたっては,利用規約およびプライバシーポリシーへの同意が必要です。

※本サービスを使わずにご契約中の電子商品をご利用したい場合はこちら