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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生39巻6号

1975年06月発行

雑誌目次

特集 食品汚染

公害による食品汚染—カドミウムを中心に

著者: 石崎有信

ページ範囲:P.340 - P.347

はじめに
 食品が汚染されて有害物質を含むようになり,大きな社会問題になった事件が近年いくつも現れている.どのような経路で汚染されたかを第一に考えねばならないのは当然で,たとえば食品添加物の有毒性の問題,森永砒素ミルク事件やカネミ油症事件のように加工過程における事故,残留農薬のように生産過程に問題のあるものとそれぞれに区別されねばならない.
 またひとくしく公害と呼ばれている環境汚染の結果おこったものであっても,その有害物質の性質によって対策の考え方が当然変ってくる.PCBのように人工生成物であって自然にはないものならば,それが皆無になることを目標に対策を考えればよいが,水銀やカドミウムのように広く自然界に分布しているものに対しては違った対応が必要となる.

公害による食品汚染—メチル水銀,PCBなどを中心に

著者: 野村茂

ページ範囲:P.348 - P.356

 わが国では公害という用語をもって,環境汚染に関する生活妨害や健康障害のみならず,極めて広範囲の問題がとりあげられている."公害対策基本法"では,「事業活動その他,人の活動に伴って生ずる」人為的(man made)な「相当範囲にわたる大気の汚染,水質の汚濁,騒音,振動,地盤の沈下および悪臭」といった常態の自然的,社会的環境を破壊する現象によって「人の健康または生活環境にかかわる被害」を招来するような事態であると,公害行政の対象を規定している.しかしまた,一般社会では,社会生活や健康を阻害するものと公衆が意識するような事態を公害として考えるべきだという見方もある.
 いずれにしても,現実に公害は人為的にもたらされた原因から生じた事態によって人間の生活や健康の阻害を来すという一連のプロセスをもっているのであって,公衆衛生学の対象として疫学的追及を要する人災的な健康障害は,公害に関する問題として,まず,とりあげられることが多い.

食品中の残留農薬

著者: 西村正雄

ページ範囲:P.357 - P.366

はじめに
 農薬(pesticide,agricultural chemicals)とは農林作物およびその収獲物を保護する目的に使用する物質であって,その種類も多く,一般に次のように分類されている.殺菌剤(fungicide),殺虫剤(insecticide),殺そ剤(rodenticide),除草剤(herbicide)を主として,その他昆虫の誘引剤(attractant)および忌避剤(repellent),植物成長調節剤(plant growth regulator)なども含まれている.また,一部の農薬のうちから比較的低毒性の薬剤が家庭用などの殺虫剤として使用されているものが多い.
 さて農薬による環境汚染とくに食品中の残留農薬の問題を社会的に警告したのは,1962年Rachel Carsonによってである.その名著 "Silent Spring" をすでに読まれた人も多いと思うが,人に対する農薬使用による自然破壊の警告書であって,この本の扉に次のようなAlbert Schweitzerの言葉が引用されている,"Man has lost the capacity to foresee and to forestall.He well end by destroying the earth." この言葉はとくに食品の汚染,環境汚染に悩む日本にとって,その卓見に感銘する.

食品添加物安全性確保のための手続—特に殺菌料を中心として

著者: 藤原喜久夫

ページ範囲:P.367 - P.373

はじめに
 従来食品に殺菌料として使用されていた,2-(2フリル)-3-(5-ニトロ-2-フリル)アクリル酸アミド(AF-2と略称)の発癌性の実験的証明を契機として,一般に食品添加物の安全性の確保に関する検討がますます厳しく進められるようになってきた.すなわち,1973年国立遺伝研の賀田1)は,大腸菌WP 2 try-株を被検菌として突然変異誘起実験を行い,AF-2に陽性の結果を見出し,発癌の可能性をも推測していたが,当時必ずしも一般には認められなかった.しかしながら,翌1974年国立衛試の池田らが,この物質によりマウスの前胃に腫瘍の発生を認めたと報告されるに至り,食品衛生調査会は,これを食品に使用することを禁止する意見を具申し,その後関係法規が改正されて同年9月から全面的にその製造,使用が停止された.
 本稿においては,このような前例を念頭におきながら,これからの食品添加物の安全性確保のために必要な手続きについて若干検討を試みてみよう.

食中毒の原因追求—最近の事例とその問題点

著者: 辺野喜正夫 ,   丸山務

ページ範囲:P.374 - P.381

 厚生省が発表した昭和48年食中毒発生統計1)によると,この年にわが国で発生した食中毒は事件数1,201,患者数36,832,死者数39である(表1).この数字は過去10年間で死者数の急激な減少を除いては,毎年多少の増減はあるにしても事件数,患者数ともにあまり変化のない平均的な数である.
 原因物質別の発生状況は表2のとおりであるが,これを昭和47年以前の統計と比較してみると,自然毒,化学物質,原因不明が漸次減少傾向を示しているのに対し,細菌性のものはむしろ増加の傾向さえみられる.すなわち,大ざっぱにみて,わが国の食中毒は少なくとも過去10年の間に減少したことは考えられず,細菌性中毒は事件数,患者数ともにむしろ増加の傾向さえみられるのである.

食品汚染に対する消費者保護行政—食品衛生監視政策の問題点など

著者: 宗像文彦

ページ範囲:P.383 - P.388

消費者保護施策の進展
 最近,消費者保護の立場から食品衛生対策の充実強化を望む声が大きくなっているが,元来,食品衛生とは,食品衛生法第1条にいうとおり,「飲食に起因する衛生上の危害の発生を防止し,公衆衛生の向上および増進に寄与すること」であり,食品を購入し喫食する一般国民,すなわち消費者を直接に危害から保護する対策なのであるから,消費者問題がクローズアップされる以前から行なわれてきた消費者保護施策の重要な一環であり,その強化充実は当然といえば当然なことであろう.
 一般国民が自ら「消費者」という意識をつよめ,その立場から問題提起を行なうようになったのは,最近10数年来の著るしい傾向であろう.戦後の4分の1世紀において,技術革新とともに大量生産,大量販売の体制が確立され,食品を含む種々の商品が,生産者により一方的にしかも次次と新製品として大量に提供され,消費者はその商品の品質,安全性,価格の適否等を考慮する余裕もなくそれを購入し,消費してきたのである.しかしその間にあって,ウソツキ商品や粗悪品や不当価格の問題等が次第に消費者の苦情・不満となってあらわれてきた.とくに,食品汚染による危害の発生は,この消費者の被害意識を顕在化させた.

《戯曲》輸入食品検査—Artemia Salinaのつぶやきにのぞみを託して

著者: 新谷一道

ページ範囲:P.389 - P.396

§プロローグ
 "Artemia Salina"
 このものは,甲殻綱鰓脚目に属するホウネンエビの一種である.アメリカのグレート・ソルト・レークやサンフランシスコの塩田・中国,カナダなどの塩水湖に生棲.本邦には中国から輸入された塩についてもたらされたとの説もあり,瀬戸内海でもみつけられたことがある.
 学名の原義は「塩田のディアーナ」で,命名者も,ギリシャ神話の女神を連想したらしい(カット参照).

発言あり

食品の着色

著者: ,   ,   ,   ,  

ページ範囲:P.337 - P.339

消費者の英知こそ衛生教育の真髄
 加工食品の消費が急激に増加し,天然色素だけでは需要に追いつけないところから,"見た目に美しい"人工着色剤が食卓を賑わわせている.それらは腐敗を防ぐためでもなければ,栄養的役割もまったくない.単に天然色調を模倣し,食べる人に買う気を起こさせるだけなのだ.
 人工着色剤の有害性が世界で重視されるようになったのは,衛生関係者の警告に負うところが大きい.その端緒をなした重要な研究は,昭和12年わが国の木下がバターイェローがラットに対して悪性腫瘍を生ずることを認めたことである.当時,タール色素として24種類のものが許可されていたが,現在使用が認められている合成着色料は酸性タール系色素12種類に減らされている.

連載 公衆衛生の道・3

防疫一筋に(続)

著者: 山下章

ページ範囲:P.398 - P.402

 一挙に明治初年に逆もどりしたような昭和21年であったが,アメリカ駐留軍の支援もあって,ガード下やスラム街の発疹チフスを除いては,外来伝染病は一応落付きをみせた.しかし常在伝染病は,現在からは想像もつかないほどはなばなしいものであった.麻疹,百日咳,ジフテリア,それに結核も梅毒も淋病も多かった.22年には流脳の異常な流行があり,23年には日本脳炎が大流行した.また,22年キャザリン,23年アイオン,24年キティと3年連続台風も襲来し,防疫陣は転手古舞だった.引き続いて原因不明の給食熱,七島熱の発生があり,防疫技師の仕事は本当に忙しかった.
 その上私は23年から26年防疫課長になるまで総務部兼務を命ぜられ,人口動態を主とする統計を担当,保健所の統計事務の指導もすることになった.

調査報告

定期健康診断の未受診者に関する考察

著者: 橋爪美律子 ,   加納克己 ,   浅井克晏

ページ範囲:P.403 - P.406

はじめに
 定期的に健康診断をうけることは予防医学の観点からも健康の保持増進という面からもきわめて重要なことであり,このため,地域や職場や学校で各種の法規に基づき,定期健診が実施されている.大学でも学生は言うにおよばず,全教職員を対象に年1回ないし2回定期健診が実施されている.前者については学校保健法によって,後者については人事院規則によって規定されている.しかし全国的にみて,程度の差こそあれ教職員の受診率はかすらずしも高くない.そこで我々は今後の受診率向上と定期健診計画の参考に資すべく,教職員の未受診者を対象に未受診の理由および定期健診に対する態度,行動などについて若干調査したので報告する.
 筑波大学は昭和48年10月に開学したが,現在地において講義が始まったのは昭和49年6月以降である.職員の大部分が現地で仕事に従事できたのも同月以後であった.そして,第1回の職員健康診断を同年10月7日から11月1日まで実施した.健診の対象者は教員174名,一般職員291名,受診者は教員82名,一般職員235名,したがって受診率はそれぞれ46.5%と80.7%であった.

フローボリューム曲線による呼吸機能の研究(第3報)—準工業地域と住居地域の住民検診成績の比較

著者: 小松五郎 ,   宍戸昌夫 ,   杉田暉道 ,   樋口文夫 ,   小城原新

ページ範囲:P.407 - P.410

緒言
 大気汚染は亜硫酸ガス,炭化水素,窒素酸化物,一酸化炭素,浮遊粉塵による複合汚染である.大気汚染の人間集団の健康を障害している状態を明らかにして,被害を最小限度にとどめて妊婦,乳幼児,老人にも適した環境を維持する必要がある.BMRCによる慢性気管支炎有症率の調査が各地で行なわれていて,東京横浜地区ではアトピー素因および喫煙者を含めると5.3%で,非喫煙者のみでは3.3%の有症率であるという1).この調査は被検者の主観が若干入るため,同時に集団検診としての肺機能検査や胸部レントゲン検査を行う必要がある.
 1秒率は閉塞性肺疾患の診断のみならず,その程度を表わす指標として広く用いられている.健康者では80%以上を示すのが普通であり2),近年末梢気道閉塞が注目されるようになり,臨床においてはクロージングボリューム測定が他の諸検査に比して喫煙との関係でも優れた検出法であるという3).しかし,大気汚染と人間集団との関係を用量—反応関係から調査しようとする場合にはフローボリューム曲線が適しているので,工場の排煙を主とした準工業地域と自動車排ガスの停滞している自動車道路傍の住居地域住民の集団検診に用いて若干の知見を得たので報告する.

資料

未来のエネルギー—太陽熱利用の動向と生活環境

著者: 鈴木昭男

ページ範囲:P.411 - P.415

はじめに
 昭和48年10月の石油パニック以来,資源の僅少な日本においては真剣にエネルギー対策を採用考慮しなければならなくなった.
 エネルギー資源は,石油,石炭,天然ガス,ウラン鉱石,水力発電用河川水,湖水量,オイルシェール,タールサンドなどがある.

日本列島

札幌市の現状と未来

著者: 吉田憲明

ページ範囲:P.356 - P.356

 札幌市は,市域が1,118.01km2で全国第3位の広大な面積を有し,その60%が山林で占められ,今後宅地可能面積も非課税地を除いて1万数ヘクタールが残存しているという極めて豊かな自然に恵まれた都市である.
 従って市街化区域内の人口密度もヘクタール当り45人で,他の10大都市の80人以上と比して略々半分程度である.

高齢児初種痘の実施—札幌市

著者: 吉田憲明

ページ範囲:P.382 - P.382

 昭和45年,種痘禍の問題がジャーナリズムの話題として全国的に大きく取あげられて以来,札幌市でもすこしづつ定時期に種痘をしない乳幼児が増加して来た.
 その対策として色々努力をしてみたが,効果もあがらないままに,結局高齢初種痘問題としてその解決を迫られることになった.

婚前学級に関するアンケート—札幌市

著者: 吉田憲明

ページ範囲:P.410 - P.410

 札幌市では以前から婚前学級を開き,各保健所が順番に当番となって運営して来たが,最近学級の聴衆が減少し,ややマンネリズムの傾向にあるので,アンケートを求めていたがその結果がまとまり,筆者の机の上に運ばれて来たので総括して報告する.
 元来婚前学級の対象者は本年中に結婚する予定者で,各式場に結婚式を申込んだカップルを対象として行っていたわけである.従って,対象年代は20歳台の男女である.

県内各検診団体における競合問題—宮城県

著者: 土屋真

ページ範囲:P.388 - P.388

 宮城県は早くから多くの検診団体に恵まれ,また県が育成に努力して保健所の肩代りを図ってきました.結核患者や寄生虫保卵率は減少し,一方成人病に対する住民のニードが高まってきたのは当県も同様であります.
 やがて疾病構造の変化と住民のニードに対応して,それぞれの検診団体が設立当時の検査項目を拡大し類似の検診を行なうようになって,競合問題が生じてまいりました.さらに結核予防法の改正による小中学児童の間引き検診による収入減と,問診・血圧・尿・診察併用時の補助金制度は結核予防会の循環器検診車購入に結びつきました.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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