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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生39巻7号

1975年07月発行

雑誌目次

特集 医療と福祉

医療ソーシャルワーカーについて

著者: 中島さつき

ページ範囲:P.420 - P.422

はじめに
 どのような職業でも長い過程をへて専門化し認められてゆくものである.医療ソーシャルワーカーという語もようやく定着されようとしている.この名称は最近になって用いられたもので,正式には,1958年国際社会事業会議が東京で開催され,国際的にレベルアップするために,日本ソーシャルワーカー協会を結成した時からといえよう.
 医療ソーシャルワーカーは医療,保健分野で働らくソーシャルワーカーであるmedical social workerを直訳して,医療社会事業家という名称で登場した.以後医療社会事業従事者,医療社会事業係員(担当者),医療ケースワーカー,福祉のワーカー等といわれてきた.

ねたきり老人事例調査—地域保健活動の観点から

著者: 中原俊隆 ,   小尾和子 ,   宇枝靖子 ,   三宅智恵子 ,   奥原博久 ,   簑輪真澄 ,   松本俔子 ,   岩永牟得 ,   内野幸子 ,   水田幸子 ,   田中加恵子 ,   神品実子 ,   森田一男 ,   葛原喜美子 ,   宋栄子

ページ範囲:P.436 - P.442

はじめに
 われわれは,国立公衆衛生院の昭和49年度専攻課程合同臨地訓練として,地域保健活動の現状の評価と今後の展望を得ることを意図し,東京都練馬保健所管内のねたきり老人の訪問調査を行なった.すなわち,行政側はどのような方法でねたきり老人の保健上のニードを測定しているのか.また,そのニードに対して現状の老人福祉サービスは,老人のために有効に機能し,老人の必要を真に満たしているのか,老人はそのサービスに対していかなる反応をみせたか.このような観点から地域保健活動の評価をこころみ,行政体のニードのとらえ方と提供するサービスの形態を改善してゆくことを目的とした.

日常生活動作の自立のための援助のあり方—技術的な面から

著者: 奈良勲

ページ範囲:P.443 - P.451

はじめに
 人間の身体的機能低下はその人間の行動範囲を狭め,自立性を脅かす.これは単にその人間の身体的自立性のみにとどまることなく,人間としての総体的自立性にまで及ぶのが普通である.一人の人間が自立性を失なうということは,その一人の人間のみならず,その人間と何らかの形で関与している他の人間にとっても一つの大きな問題となってくる.この問題が個人単位であれ,家族単位であれ,これらの問題が集積してくると,当然社会問題にまで拡大されてくることになる.
 老人,身体障害者,難病の在宅患者にまつわる諸問題を考えるとき,医療と福祉の結びつきがいかに重要であるかということを強く感じないわけにはいかない.この小論では理学療法士の立場から,何らかの要因により日常生活動作(以下ADLと略す)において自立性の低下を来たした人間をどの様に援助していくかということについて基本的なことがらを述べてみたい.

日常生活動作の自立のための援助のあり方—福祉資源・制度的な面から

著者: 大塚隆二

ページ範囲:P.452 - P.457

はじめに
 数日前,17歳の寝返りも出来ない重度脳性マヒ児で,50歳を過ぎた母1人,子1人の"Y夫"の母親から次のような電話があった.「若い頃罹かった右足の骨髄炎が再発し病院に通院中で,病院からは入院して手術をするように推められている.しかし後に残される"Y夫"のことが心配で入院も出来ない."Y夫"の介助や家事の手伝いのため祖母を田舎から呼び,なんとか一日一日を過ごしている.このままでは母子共倒れになってしまうので"Y夫"の施設入所を考え話合っているのだが,"Y夫"はどうしても施設に入るのは嫌だという.福祉事務所の人とも相談しているのだが,すぐには"Y夫"のような重度の身障者を入れてくれる施設は見つからない.見つかったとしても,"Y夫"自身が今のように施設入所を嫌がり暴れるようだと施設側は受入れを拒否するだろうと言われ,途方にくれている…」とのことであった.
 "Y夫"は,4〜5歳の頃迄はA病院やB肢体不自由児施設に母親の附添で通いつづけたとのことである.しかし,母親の期待に反してその訓練効果はほとんどみられず,父親の病気,療養生活という悪い条件も重なり,次第に訓練にも通わなくなっていった.その後,通園していたところの職員や福祉事務所の職員からも通園の継続,就学年齢時には養護学校通学も強く推められたそうだが,通園・通学の附添が困難であることを理由に断り,以後17歳の今日迄,母親と2人きりの家の中だけの生活を送っていた.

老人の生き方と生活歴との関連—老年期の生活問題と過去

著者: 根本博司

ページ範囲:P.458 - P.464

はじめに
 筆者に与えられたテーマは「老人の生き方とLife Historyとの関連」であるが,稿をすすめる前に,「医療と福祉」という特集の中でこのテーマがとりあげられた意味について,筆者がどうとらえられているか述べておきたい.ことさらに,そこからはじめようとするのは,老年期の人の生活とその過去との関りをたとえ詳細に述べてみても,それだけではこの問題は「医療と福祉」の中の福祉として位置づけられないと思うからである.
 「医療と福祉」というように,「医療」と「福祉」が1フレイズで語られるようになった背景には,個々の人間をトータルにとらえて,個人のもつ問題に総合的に対応するのでなければ,結局人間の幸福は保障されないという認識があってのことと考えるが,ここには次の2つの側面があるだろう.

座談会

在宅難病患者と保健・医療・福祉活動—日常業務のなかでの協力

著者: 竹腰里代 ,   坂本和恵 ,   福田洋子 ,   安藤等 ,   油利花枝 ,   阪上裕子

ページ範囲:P.423 - P.435

 在宅の難病患者を地域ではどのようにサポートしていけばいいのか.今,どのようなことが出来,どのようなことが行われているか.そしてどのような隘路があるのか.
 専門職種の異る6人の方々にお集り願って,それぞれの日常活動の中から感じ取られた問題を出し合い,お互がどのように協力してゆくことが患者にとって幸なのか,将来,地域のチームを作るとすれば,どのような職種がどのように提携してゆけばよいのかを探ってみようと試みた.

発言あり

医療社会事業は何故のびないか

著者: 姉崎正平 ,   鎌田昭二郎 ,   坂本弘 ,   皆川修一 ,   山本裕子 ,   ,   ,   ,   ,  

ページ範囲:P.417 - P.419

国民の支持を得ること
 わが国で「医療社会事業は何故のびないか」を論ずる前提として,医療社会事業とは何か,どのくらいの必要度(needs)があり,その充足度がどのくらいかが明らかにされねばならない.この作業は現在進行中で,あたかも一昔前看護婦諸姉が占領軍の後押しで引き上げられた自分たちの地位の専門性を論じ,業務分析をし,看護業務規準を作った姿を彷彿させる.
 教科書の定義や業務分析の結果によれば,医療社会事業は(イ)患者=クライエントの傷病や療養に関する情報を医療関係者に提供する診療補助活動,(ロ)クライエントのための社会保障・福祉利用の援助活動,(ハ)カウンセリングなど治療的活動などとなっている.理論的には単に個人を対象にするだけでなく,集団,地域社会,行政をも活動の単位とし,そのための社会調査や改革のための社会運動も含むとされている.

連載 公衆衛生の道・4

防疫から保健所へ

著者: 山下章

ページ範囲:P.465 - P.469

防疫課長事始め
 防疫と衛生統計の目のまわるような忙しい,しかし張りのある毎日を送っていたある日,突如防疫課長を命ぜられた.当時の防疫課の職員は26名であったが,その大部分は警視庁出身者で占められており,年齢も37歳の私は13番目であった.しかも当時防疫は衛生行政の中心であった.重い責任をずっしりと感じた.
 真先に取りあげたのは,防疫活動に思い切って疫学的技法を導入することであった.まず防疫課に新卒の医師2名を採用し,この2名を中心に疫学調査班を新設した,このうちの1人石丸君は,その後公衆衛生院の医学科正規課程を終え,広島のABCCで疫学を担当し,立派な疫学者になった.彼がピックバーグ大学で1年間フェローとして疫学を専攻して帰国したとき,「先生に教わったこととちっとも違いませんでした」と,ぽつんと言ったことばに,私は大変に感動した.足と体でぶつかる現地疫学を,ただきつく,きびしく手ほどきしたに過ぎなかった私には,たとえようもないほどすばらしい贈物であった.系統的に教えこまない前から,集団発生があると担当させた.報告書に原因不明とは絶体に書かせなかった.「原因のない集団発生はない」,調査に当る心がけとしていつもそう言い続けてきた.防疫課の医師はその後5名にもなったが,誰もがすばらしい能力の持主であり,事実原因不明という集団発生はまずなかった.

解説

米国の地域精神衛生活動について(2)—カリフォルニア州北部を例として

著者: 桑原治雄

ページ範囲:P.470 - P.474

 保健所の訪問指導件数は年々増加して昨年度は10万人を超えたそうです.このことだけからみれば地域精神衛生活動は一見隆盛になってきたかのように見えますが,はたしてそうでしょうか.私個人の体験から言えばまったく前進していない,むしろ後退していると申せます.私は保健所在勤中も,また精神病院に勤務するようになってからも保健所の精神衛生担当医を行ってきました.それからすればはっきり言って現行のような拘禁的治療を主体とする精神病院--私立,公立を問わず--と少数の保健婦の年に1〜2回平均の訪問ではまず有効な地域精神衛生活動が行えるとは思えません.
 けれども地域精神衛生活動は決して不可能とは思えません.また個人的体験を申して恐縮ですが,ここ5年間私が参加してきた和歌山県清水町の活動では——これは今年の公衆衛生学会に発表の予定ですが——努力してある程度の体制を取ればかなりのところまで精神医療の地域化が可能になりました.

調査報告

生活保護に関する保健社会学的考察

著者: 崎原盛造 ,   仲間隆子

ページ範囲:P.475 - P.479

 1.沖縄県内で最も被保護率の高い粟国村の被保護世帯61世帯の突態と医療保障の一環としての医療扶助の機能についてケース記録から分析を試みた.
 2.被保護世帯の特徴は単身世帯が多く,しかも高齢者世帯が54.1%もあること,働いている者のいる世帯は52.4%もあるが,現金収入のある世帯はその内23.0%にすぎず,所得水準が著しく低く,県内一般勤労者世帯の42.4%しかない.
 3.被保護世帯の収入源は保護費のみは3%で,他は何らかの収入があるがその主なるものは老齢年金,恩給と仕送りである.
 4.保護開始理由で最も多いのは傷病に起因する収入減であるが,その割合は県平均や全国平均に比較して低い.
 5.85.2%の世帯に傷病障害者がおり,傷病障害が被保護世帯への転落となり,そのまま長期にわたって被保護層に固定してしまっている.
 6.老年人口の増大に伴ない老人性疾患や農夫症が多く,現在の医療扶助では対応しえないことが明らかになった.
 7.ケース記録だけでは疾病・障害が日常生活におよぼしている影響や相互関係について分析することは困難であり,他の方法を用いて詳細な分析を行なうことが必要であり,今後の課題としたい.

千葉市における麻疹ワクチンの接種状況予防効果に関する調査

著者: 本宮建 ,   安達元明

ページ範囲:P.480 - P.482

 千葉市においては県の勧奨によって昭和41年よりKL法,昭和46年よりL単独接種法による麻疹ワクチン接種が行われて来ている.千葉市予防接種対策委員会は,千葉市保健衛生部健康管理課の委託を受け,今後の対策の資料とするために麻疹ワクチンの接種状況,予防効果について調査を行ったので,その結果について報告する.

昭和48年度厚生省による魚介類摂食指導の人体毛髪中水銀蓄積量に与えた影響(第1報)

著者: 水野忠興 ,   磨田裕 ,   荻野満春 ,   小山照夫 ,   高木信嘉 ,   中森昭敏

ページ範囲:P.483 - P.486

はじめに
 昭和48年3月熊本大学水俣病第二次研究班が提起した有明海のいわゆる「第三水俣病」問題は,同年春から夏にかけての水銀汚染魚騒動のきっかけとなったが,環境庁水銀汚染調査検討委員会は翌49年6月,この「第三水俣病」に対し臨床面から現時点では水俣病患者とは診断されないとの最終結論を出している.「第三水俣病」認定の是否はさておき,それが惹起した例の水銀汚染魚騒動の人体生理に及ぼした影響を疫学調査することが我々の目的である.即ち,厚生省はメチル水銀の暫定的摂取量限度と魚介類の水銀の暫定的規制値を制定したが,週間許容摂取量の変更等,国民の疑惑を招くような不手際も手伝って騒動を一層あおる結果となり,国民は各自のやり方で自衛手段を講ぜざるを得なかった.ある者は極度に魚介類の摂取を控え,またある者は一担控えた摂取量をやがては元の量にもどし,また最初から規制等を一向に気にせず摂取量に変化のない者もいた.これらの摂取態度の違いは人体に大きな影響を及ぼしたのだろうか.魚介類摂取量を控えた者は,量を減らさなかった者に比べて体内水銀蓄積量が減ったと言えるのだろうか.また魚介類摂取量の普段から多い者は少ない者に比べて体内水銀蓄積量は多いのだろうか.こうした疑問に対する調査の一手段として毛髪に蓄積した総水銀量を測定した.

日本列島

第5回三悪追放県大会開かる—宮城県

著者: 土屋真

ページ範囲:P.464 - P.464

 性病,麻薬,売春の三悪をなくそうと,当県でもすでに県三悪追放協会が結成され,同協会と宮城県が主催する三悪追放県大会が,毎年県内各市で開催されています.
 50年7月に気仙沼市で開かれた大会では,「私から見た三悪追放をめぐって」というテーマでシンポジウムがもたれました.医師の立場から長瀬県中央優生保護相談所長がスライドを用いて,梅毒や淋病の恐ろしさを強調されました.また婦人少年補導員の立場からは補導した非行少女の体験例等を話され,さらに教育者の立場からも意見がのべられました.「この社会の中で」という宮城婦人少年室長の特別講演と,「愛と性と青春」と題する映画も上映されました.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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