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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生4巻1号

1948年05月発行

雑誌目次

總説

鼠の衞生學的檢査

著者: 佐々學

ページ範囲:P.3 - P.13

A.まへがき
 私共の研究室は衞生上有害な動物の研究を擔當しているが,この範圍には,病原原蟲,寄生蠕蟲,吸血昆蟲などの他に,もつと高等な動物の一つとして鼠の問題が大きな部面を占めている。鼠は人間の數々の病氣ペスト,ワイル氏病,鼠咬症,發疹熱,サルモネラ症,恙蟲病,旋毛蟲症等々の媒介をするのみならず,現在の我々の乏しい食糧を盗む害獸としての意義もまた案外に大きいものがある。今日まで,色々な方面の學者によつてこれらの問題が檢討されて來たが,それらの多くは動物學者としての鼠の研究,或はペストなり,リケッチアなり,スピロヘータなりの專門學者が鼠を病原學的な立場から行つた研究であるので,私は公衆衞生の見地から鼠を中心にこれらの問題を綜合的に取扱った解説を試みてみたいと思う。それぞれの土地で集めた鼠について色々な見地からこれを檢査して行くことはなかなか技術上むづかしい問題であるが,手順よく行うと同時に多方面の検査を行うことが出來るのであらゆる機會を利用して各地の衞生技術者の方々がこの種の檢査を實施して公衆衞生上重要な資料を加えられんことを希望してやまない。

原著

東京都内で捕獲された鼠の生物學的調査—附ワイル・フェリックス反應

著者: 北岡正見 ,   佐々學 ,   三浦悌二 ,   三浦照子

ページ範囲:P.14 - P.20

 鼠が發疹熱の病原體であるリケッチア・ムーゼリー(以下リ,ムと略)の保有者であり1-6),發疹熱がその寄生蚤によつて人間に傅播7-12)されることは周知の事實である。東京都内の鼠の間にもこのリ,ムが撒布されてゐることは今次大戰前に笠原1)によつて既に證明されてゐるが,終戰後の未曾有の發疹チフス大流行に直面するに及んで色々の意義に於て再び本問題が取り擧げられた。偶々G.H.QのWheeler大佐,406綜合醫學研究所のBerge少佐,東京都防疫課各位の援助の下に東京都内に於て鼠を捕獲し,その生物學的調査を行ふと共にリ,ムの保有率,またその體外寄生蟲とそのリ,ム保有率を檢索する機會を得た。今回は主として生物學的調査について報告する。

論説

學校醫と學校衞生

著者: 早川淸

ページ範囲:P.21 - P.22

 文部省新井保健課長が本卷4號に學校に於ける衞生教育と題して記述せられた論説は極めて適切で同感に思う。發育過程にある青少年子女の年齡的關係より言つても學校に於ける體育保健養護が個人の將來に及ぼす影響の極めて大なることは言うまでもない。然るに目下の状況に於てこれが實施は極めて不統一不完全で,責任の所在も明らかでない憾がある。例えば學校に於ける衞生教育,養護は實際校醫か,教師の何れが實施しありや,ひいてはその所管も文部省か,厚生省かも明瞭でない。從來學校醫なるものの業務觀念が救急治療位の極めて消極的な意義に止り,衞生専門業務に明るくない教師諸氏にまかせられていた一般的傾向がなかつたであろうか。現在,學校特に國民學校に於いて校醫が専任せられている所は一つもなく,殆んど開業醫師の片手間的業務範圍に止まり,形式的な定期身體檢査以外何物もない。然るに實際,養護の面に於てもまた學校精神衞生,學校給食,結核,寄生蟲豫防,保健指導,視器保護等幾多の專門重要事項が山積している。一校に少くも醫師特に公衆衞生に造けいある醫師の專任が必要と思う。又學校には衞生室を必ず設置して以上の事項を實施し,かつその教育に専用する場所が必要である。他方また學校醫を如何に待遇するやの問題であるが,現に都内各區學校校醫の待遇は驚くべき薄給である。

研究と資料

特殊環境に於ける疥癬淫侵度に就て—岩國少年刑務所に於ける觀察

著者: 山田明

ページ範囲:P.22 - P.26

 著者の醫學的對象たる岩國青年刑務所收容受刑者は,過去半年間(昭和21年5月−10月)に5月の53.29%を最高とし最低26.31%(9月)の疥癬患者をもち漸次減少の傾向にある。即ち,5月に比較し半年後の10月には20%の減少を正しい醫學の行使によりかち得て居る。
 併し乍ら,この減少の速度は決して誇るに足るべきものではない。それは著者が全力をあげて疥癬に對する闘爭をなしつゝある一方に於ては,當所が中國西半部全域及び四國の1部よりの全青少年受刑者を收容すべき任務を有し,而も彼等の間に於ける疥癬淫侵度は38.85±1.85%の極めて高い率を示し,之等新入所疥癬患者が著者のもつた本病患者の30%以上を占めて居り,そのために著者の拂つた正しい—著者はそう信じて居るのであるが—努力にも拘らず尚旦つ1箇月平均37.9±2.56%の疥癬患者をもつことを餘儀なくせられて居るからである。
 更に,本調査成績よりして過去の文献の夫とは比較にならぬ程高い淫侵度を有して居ることを知ると共に,新入所者に於ける本病蔓延状況よりして彼等の來た諸地域に於ける夫をも窺ひ得べく,敗戰後の社會經濟生活水準の低下より本病が如何に猛威をふるひつゝあるかをも知るに足るであらう。疥癬を規尺として窺つた國民全般の皮膚清潔度の低下を悲しむものである。

論述

消毒に關與する人々へ

著者: 小島三郎

ページ範囲:P.27 - P.32

(1)滅菌其他の定義
 滅菌と消毒と防腐と防臭と
 以上の四種の言葉の意味する内容は夫々違う事を銘記せられたい。

衞生行政の大改革と保健所の方向—サムス大佐のOrientationをきいて

著者: 齋藤潔

ページ範囲:P.32 - P.35

 われらは世界に類のない全國保健所網をもつている。われらは稀に見る學校衞生組織をもつている。われらの小學校では毎年1囘づつ身體檢査を行ひ,各校1名の學校醫がいる。かゝる衞生行政施設の存在することに於ては正に世界に冠絶しているが,かかる組織から得られる効果をきかれると返答に躊躇する。學校身體檢査で發見される身體的竝に精神的缺陥に對する處置は何か,またその處置の結果は何かということになると心細い。年額數十圓か數百圓の報酬を受ける校醫に多くを期待することも無理であり,かかる校醫が學校衞生のために努力して研究するような氣運もない。1部の校醫には極めて熱心に職に奉仕している人もあるにはあるが,多くの校醫は先づ1年1囘の身體檢査で,その責任を果たしたと考へている。一般に明治時代のわれらの制度文物には發らつたる清新の意氣が溢れ,學校にも社會にも家庭にも研究と創意と熱意とがみなぎつていたが,大正昭和時代に入つて,漸く形式に流れ,形にとらわれがちとなつた。われらの公衆衞生もまたこの例に洩れず,組織は立派になったが實行の工夫と創意を缺くうらみがあつた。保健所組織が10年の歴史を經たにもかかわらず,世に重きをなさずに今日に至つたことに,われらは反省すべきものがある。去る3月22日總司令部のサムス大佐は,杉並保健所に於て各府縣軍政部醫官を召集して,日本の保健所の振はない理由として次の3點を指摘した。

レントゲン傷害の豫防について

著者: 岡西順二郎

ページ範囲:P.35 - P.38

 肺結核の早期發見にあたつては,レントゲン檢査がその主軸をなすことは申すまでもない。これがために,醫員,レントゲン技術者が多數の人々のレントゲン檢査を擔當し,毎日レントゲン傷害の危險にさらされながら,しかもこの問題について充分の關心をもたないことは,非常になげかわしいとともに,恐ろしい氣がする。間接撮影法の進歩につれて,レントゲン檢査をする對象が從前の數十倍,數百倍にのぼり,それとともに,間接撮影の介補をする保健婦が,レントゲン傷害の犠牲者として新しく登場して來た。眼に見えないレントゲン線が,無防備の彼等の全身に放射して,彼等の肉體を刻々とおかして行くのも知らず,保健婦たちは被檢者のからだをおさえたり,螢光板の位置をなおしたり,番號の入れかえをしているのである。そして,300人400人の檢査を終ると,全身綿のように疲れはてながら,殘務整理をするのである。保健婦にくらべると,レントゲン技術者の受けるレントゲン線量は,その位置的關係から,保健婦よりははるかに少い。間接撮影像の判讀する醫師は,その危害を受けることはないが,異常所見のある者を透視するため,やはり相當ひどい危險を覺悟しなくてはならない。とくに透視をていねいにやるほど,その害がはなはだしい。
 職業的に毎日レントゲン照射を受けるものは,一體どのくらいの量までたえられるのであろうか。これについては多くの意見があるが,1日0.1rを限界とする。

兒童福祉法について

著者: 港野悟郎

ページ範囲:P.39 - P.40

 終戰後の世相は且てわれわれの經驗しなかつたほどの社會的混亂と道義の頽廢を紹來した。これら混沌とした時世にあつて自ら世の荒波を乗切ることができず勞働力の尠い兒童或は精神的肉體的缺陥を有する弱者は,極度に生命をすら脅かされる生活苦に直面し,或はその他の者のために利用されて徐々に惡の道に沈濳しつゝある現状である。これらの弱者に對しては社會的關心を喚起し或は社會的保護を加えない限り何時の世に於ても放置され或は無用者として冷眼視され厄介者として顰蹙をかうのが普通であつた。これら弱者のうち殊に兒童は,生命の芽生えの過渡期にあるものであるから,その精神を素直に成育させ,肉體を健全に成長させるためには特別な保護が必要である。吾國に於てもこれらのものを世塵から護り,適切な發育環境を與えるために兒童關係には二つの法律があつた。即ち少年教護法(昭和8年5月5日法第55號)は14歳未満の少年にして不良行爲を爲し又は不良行爲を爲す虞のある者を未然に教護し又は教護院に收容して監護養育し,普通教育を施し獨立自營に必要な知識技能を授け其の資質の改善向上を圖ることを主旨としていた。兒童虐待防止法(昭和8年4月1日法第40號)は14歳未滿の兒童を,保護すべき責任にある者が兒童を虐待し又は著しく其の監護を怠つた場合の處分を規定し,兒童の輕業,曲馬,諸藝の演出,物品の販賣等を制限又は禁止している。

産業衞生の要綱(第三囘)

著者: 重松逸造

ページ範囲:P.41 - P.43

管理法
 立派なハウスキーピングが業務上の災害を豫防する第一要件である。これは各自の仕事であつて,簡單にいえば職場の内外を手ぎわよく整頓しておくことを意味する。工場ではハウスキーピングを第一にとりあげよ。各作業別の職場毎に責任者をつくれ。この場合安全委員を選ぶのが適當かもしれない。次項については特別の注意を拂うこと。
1.諸道具は定所に

簡易水道に就て

著者: 河口協介

ページ範囲:P.43 - P.49

1.簡易水道の通念及び目的
 簡易水道とは讀んで字の如く『設備が簡單で操作が容易な水道』と解してよいと思はれるが,然らばどの程度の設備を簡單と云ひ,どの程度の操作を容易と云ふか,と云ふ點になると,漠然としてキマリをつけ難いのである。
 實は私共は漫然と常識的に簡易水道と呼び馴れては居るが,其の答案は一寸首を捻ねらざるを得ない。單に基本計畫から云ふて,給水人口,給水量が少なく,規模の小さいものを簡易水道と稱して居る様であつて,例へば水道條例による給水人口1萬を超えない,府縣知事委任程度の水道の如きを一般に簡易水道と解して居る向きもある様である。然し其の原水の性質なり,諸施設の位置によつては之れが淨化方法から,送配水の方式等に於て,決して簡易と云ひきれないものがある。他面給水人口なり給水量が大量で,規模が可なり大きくても,原水が其のまゝ飮用に適し,しかも給水區域に近い適當の高所から取水出來て全然自然流下式によつて,配水し得らるゝならば,其の施設操作の點から云へば,簡易水道と呼んで差支ないものがあり得る。伊豆の伊東市や鹿兒島市の水道の如きは,其の1例と謂つてよかろう。であるからあながち人口や量からのみ簡易水道と云ふことも,どうかと思はれるが,茲ではかかる詮議立てはやめにして,地方の小さい町村なり團體に給水の目的で布設せらるる。

社會保障制度要綱—社會保險制度調査會の答申

ページ範囲:P.50 - P.52

第一 基本理念
1.最低生活の保障
 憲法第25條の,國民の健康で文化的な最低生活を保障するためには,現在の社會保險制度や生活保護制度等では,不十分であり,このためには新しい社會保障制度の確立が必要である。なお,この制度の確立は經濟再建の基本的條件の一つである。

海外情報及最新の文獻

公衆衞生訓練と研究

著者:

ページ範囲:P.53 - P.58

 英國でわ以前から豫防醫學が醫學教程の中に採り入れられて來たが,それわ地方當局の衞生技官お兼務する一般開業醫お養成する爲めの形式的事項になつていた傾向がある。
 しかし現在でわそれわ根本的に變化しつゝある。この重要性わ,特殊な傳染病の豫防と云う事よりわむしろ疾病の社會的根據ということに關する事で,臨床家特に産科,性病科,小兒科醫わ次第にその眼を病床から上げて,さらに患者が何を希つているかと云う事のみならず,何に故疾病なつたのかを自ら問う様になつて來た。しかし乍ら醫學の積極的な應用の教授ということに關しては未だ種々の缺點がある。

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ニユース

ページ範囲:P.59 - P.59

厚生省の機構改正
 今般,厚生省官制の一部改正され,從來の衞生3局は,ここに藥務局を加え4局となり,なお公衆保健局は公衆衞生局と改稱した。藥務局は藥事行政及び醫藥品その他醫療資材を專管する。保健所の主管課は保健所課となり,公衆保健局から豫防局に移つた。

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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