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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生4巻3号

1948年07月発行

雑誌目次

綜説

水の衞生細菌學

著者: 八田貞義

ページ範囲:P.129 - P.142

1.前書き
 水の人間生活に於ける重要性に關しては,今さらギリシヤの哲學者Thalesの「世界の根源は水なり」といつた言葉を引用して強調するまでもあるまいが,世の人々はその恩惠が餘りにも身近にあるためか左程に關心を示していないというのが實相である。良質な水質に惠まれた時代はそれでもよかろうが,人口の都市集中とか,工業都市の出現そして下水道の不備とかによつて,水源は汚染され,水質は甚しく低落して來るものである。
 水質への衞生學的關心の低下は,すでにわが國に於て川崎,大牟田,長崎等の諸都市に榮譽にもならない水道流行の勃發を招き,水道衞生學上に汚點を點じたが,それでもなお簡易水道や工業用水,個人井戸等による水系傳染病流行の跡をたゝない。「國破れて山河あり」ではなく「國破れて人民あり」で,この人民を保健衞生上恙がなく保命させるためには,結核問題に關心を示すのもよかろうが,結核對策に腐心する餘り,水や食品の衞生管理の如き一見平凡な公衆衞生對策を忘却するようなことがあつてはなるまい。

原著

弗素と齲蝕豫防

著者: 美濃口玄

ページ範囲:P.143 - P.148

 現在吾國公衆衞生學の對象となつて居る大きな疾患としては,結核,寄生蟲,齲蝕の三つが擧げれらて居ると云はれて居る。
 結核,寄生蟲は現在の吾國として當面して居る問題であるが,一應其の豫防法も完成していて,他の文化國家では解決されて居るので,文化の進展とともに解決は豫期される事であるが,第三の齲蝕は,未開の民族に低率で文化の發達とともに罹患率の増して來る疾患で,一種の文明病の如く考えられ,既に英米では是に對しての對策が眞劍に考えられて居る。是を吾國に例を取つて見るならば,一般醫師の三分の一近くの三萬餘の齒科醫が行つて居る醫療の大半は,此の齲蝕,又は齲蝕に關連して起る疾患,又は是により失はれた齒牙の補綴に屬するものなる事を考える時は,單に齲蝕とは云い切れない程の負擔を國民にかけて居ると云える。

論説

水の衞生

ページ範囲:P.149 - P.150

 水は生理的機能を營むに必須な要素であつて,人生最要の生活必需品である。從つて飮料水の安全を確保することは文化國家の公衆衞生事業の第一要務と云ふべきである。然るに從來我國に於ては遺憾ながらこの第一義的公衆衞生事業の重要性が認識されず,そのためにこれを擔當すべき衞生行政組織は甚だ不備であつた。それ故に敗戰以來占領軍當局から其の整備を促がされて居つたのであった。幸に先般來厚生省に之を專管する施設課が設けられ次いで其名も水道課と改められ,地方廳には擔當専門技術者が置かれ,更らに保健所にも衞生監視員が配置されて第一線の指導監督に當ることゝなつた。これは我國の保健衞生の發達史と正に劃時代的の出來事であるが,願くは新任職員各位の精進によつて新機構の成果が十二分に發揚されることが要望される次第である。
 水による危害には第一に酸性水道水による鉛中毒の集團發生,迷入した毒物に井戸水による中毒などのやうな異常化學成分によるものもある。又飮料水中のヨードの不足による甲状腺腫弗素の不足による齲蝕の集團發生(本號美濃口氏論文參照)などのやうな一定化學成分の不足による危害例もあつて,米國ではこのやうな場合水道水に適量のヨード或は弗化ソーダを加へたり,或は又ヨード加食鹽,弗化ソーダ加清涼飮料水を販布するなど既にその對策が講ぜられて居る。

研究と資料

最近の赤痢の増減と屆出について

著者: 山下章

ページ範囲:P.151 - P.153

 赤痢(疫痢を含む。以下同じ)の罹患率が地方によりその變動に大きな差があり,從來一般に都會に多いとされていた本病が茲2, 3年來農村に多いという傾向を示して來た。然し乍ら一般に傳染病の患者の數というものは醫師から屆出られた數であつて,眞の患者數とは必ずしも一致しないのである。殊に赤痢の樣に菌檢出が低率であり,臨牀的にも類似の疾病の多い病類にあつては,屆出の數と眞の患者の數との差は相當甚しいということは既に識者の説へるところであるが,最近の赤痢の罹患率の變動が餘りにも大きいので,私は次の樣な調査をなし,この現象の究明を試みたのである。
 最近に於ける赤痢の罹患率による地方別の變動を見ると都市型,農村型及びその中間型の三型に大別することが出來る。而して都市型と農村型とは丁度對照的な型をしている。そこで私は都市型の代表者である東京と,農村型の代表者である東北とを選び,この二者について過去20年の罹患率の比較と綜合死亡率(赤痢死亡者と2歳以上の下痢及び腸炎の死亡者を合したものゝ死亡率)のそれとを對象して見た。之が第1圖及び第2圖である。

某集團に爆發せるA型パラチフス症に就て

著者: 森島侃一郞 ,   深田益男 ,   高森俊弘

ページ範囲:P.153 - P.155

緒論
 昭和8年9月20日S地駐在集團人員124名にチフス樣患者20數名發生し,次いで患者累計49名に及ぶ爆發流行を起した。本流行に當り著者等は直ちに集團全員に對し細菌檢索を反復實施し,防疫上有意義なる知見を得たので之を報告する。

論述

水系傳染病流行の疫學(第一講)

著者: 野邊地慶三

ページ範囲:P.156 - P.160

 水は人類が生理作用を營み,又日常生活を行ふために必要缺くことのできない物質である。從つてこの水が汚染されたために傳染病の流行をおこすことが非常に多いものである。のみならず,水による流行はその規模が極めて大きく,且つ屡々甚だ廣汎圍に互るものである。それ故に傳染豫防の實際上水系傳染病流行Wterborne Epidemicsの疫學(1, 2, 3)研究は重要なものである。

最近に於ける百日咳の豫防(第一囘)

著者: 小山武夫

ページ範囲:P.160 - P.168

 百日咳は外界から,Bordet-Gengou菌の侵入を第一要約とし,更に個體が百日咳免疫を有せざる場合に發病が成立する所の純然たる體外性疾患である。從つて本病豫防の要項は本菌の侵入を防ぐを以て第一義となし,個體への免疫賦與を以て第二義とすべきは論を俟たざる所である。本菌の侵入を防ぐためには患者との直接の接觸を避ければよい。茲に於て患者の隔離が問題となつて來る。而して百日咳は發病初期程感染し易い疾患であることは臨牀上周知であるが,又本院石山,杉田氏等の詳細な實驗に基づく病期による菌檢出成績に照らしても明瞭であるから隔離は速かに行ふことが肝要で,從つて早期診斷の必要に迫られる次第である。早期診斷に就ては近刊の拙著「百日咳の豫防」に讓つて茲には省略する。

産業衞生の要綱(第4囘)

著者: 重松逸造

ページ範囲:P.168 - P.171

厚生部
 使用人のために厚生部をもつているのは大工場だけである。一般には訓練せられた厚生係をもつている必要はない。戰時生産促進委員會は,工場における各人の關心と知識と經驗を求めれば,それ自體厚生部の役割りをなし得るものである。醫療部,人事部,使用人,及び管理者側の協力を求めよ。次の諸問題に對しては直接注意を拂うべきである。

Medical Examiner(監察醫)の制度について

著者: 五十嵐義明

ページ範囲:P.171 - P.174


 醫學の進歩の上に死體解剖の果す役割が絶對不可缺なものであることは,およそ醫學にたずさわる者の何者も疑わぬところであろう。少々古い文獻ではあるが,Richard C. Cabot氏の「死體檢査による臨牀診斷の的確調査」(1912年)によつて見ても,臨牀診斷の上に如何に多くの誤りが犯されているかを痛感せしめられるのであつて,わが國においても死亡者總數の約4%が死因分類上「不明の診斷及び不詳の原因」の項目によつて占められていることは驚くべき事實である。
 アメリカ合衆國においてはすでに10數年前より,インターン病院の認定條件としてその病院における死亡者の少くとも10%以上は死體を解剖に附することが要求せられており,逐次その%が高められてその結果醫師も非常な努力を拂ひ死體解剖が廣く一般に理解せられるようになつたと傳へられている。

市販「アイスクリーム」の細菌學的所見特に「アイスクリーム」より大腸菌群の檢出竝に分離菌の型別に就いて

著者: 春田三佐夫

ページ範囲:P.175 - P.177

Ⅰ.緒言
 終戰以來逐年盛夏を迎へると共に益々種々雜多な飮食料品が巷間に氾濫し,而も之等飮食料品の衞生状態に就いては現在の如き原料資材の入手困難,構造設備の不備,竝に公衆衞生思想の低調等が原因して誠に憂慮に耐えないものがある。就中最近「アイスキヤンデー」と共に多種多樣の「アイスクリーム」が製造販賣され,而も極めて非衞生な状況下にあることは公衆衞生上看過することの出來ない事實である。依て余は昨年(22年)7月都内市販飮食料品の一齊檢査實施に際して「アイスクリーム」の細菌學的檢査,特に大腸菌群の檢出竝に分離した大腸菌群の型別を試みたる所,其成績を得たので之を報告し,各位の批判を仰ぐ次第である。

保健所のページ

月島地區小兒に於ける百日咳罹患に關する觀察

著者: 室橋豐穗 ,   武田操

ページ範囲:P.178 - P.179

 昭和22年6月末現在月島地區に居住する昭和16年1月以降出生の乳幼兒全員に對し,百日咳罹患に關する調査を行つた。本調査は前囘報告した麻疹罹患調査と時を同じうして行はれたが,可及的精確を期する爲に,全世帶に對する家庭訪問に依つて爲されたものである。
 家人不在の爲詳細不明の者を除く,該當小兒2461名中,既に百白咳を經過せるものゝ數は833名で,經過率33.85%であつた。之を昭和18年故三原博士が同地區の略々同年齡層の1545名に就て行つた成績(經過率は28.30%)と比較するに,今次調査の方が稍々高率に現はれてゐる。年齡別經過率は圖に示す如く,各年齡共今次調査の方が稍々高率であり,滿1年−2年兒に於ては其の差異が比較的著明に認められるが,全體的の傾向には大差がなく,特に顯著な流行が存しなかつたことを示すものゝ如くである。年度別及び季節別に見るに,經過年齡明かなる819名に就ては表の如く,秋季に少き以外は,春,夏,冬,各季共其の數に大差を認めない。但し,昭和22年は7月−12月の分を含まぬから,之を算入すれば夏及び冬季は其の數を稍々増加して春季と略々接近した數を示すことゝ思はれる。

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ニユース

ページ範囲:P.180 - P.182

衞生事務に關する都道府縣知事の權限の委任について
 今般,主題の件か保健所長に委任されることになつた。その要領は次の如し。
委任の事期
 昭和23年6月30日迄にこれを行ふものとする。

海外情報及び最新の文獻

日米最近死因趨勢の比較,他

著者: 早川淸

ページ範囲:P.183 - P.187

 米國國務省衞生統計局發表に係る主要死因の死亡率を調査(第1表),日本のそれ(第2表)との比較を試み興味ある差異のあることに氣付いた。
 即ち日本に於ける死因の主要なものは結核,腦出血,肺炎,下痢腸炎等であるに反し米國では心臟病,癌,糖尿病等が多い。特に之等の疾患を年度別に見るに米國では年々著しく増加の傾向にある。之れに反し結核,肺炎,下痢,腸炎等日本に於て首位を占むるものは過去米國では著名な減少を來した。日本に多い腦溢血は米國に於てはそれ程でもない。そして日本では心臟病,癌糖尿病等は遙に僅少で殆んど問題となつてゐない。

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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