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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生4巻5号

1948年09月発行

雑誌目次

綜説

Common Coldの病因と豫防

著者: 福見秀雄

ページ範囲:P.251 - P.257

(1)
 アメリカのClevelandのDingle1)が"Common Virus Infectionsof the Respiratory Tract"といふ題目でものした綜説は,上氣道性の疾患,特に普通に風邪といはれるものと甚だ類似した群の症候群について,現時のアメリカ醫學がどのやうな態度を持してゐるかについて,明瞭な解説を與へてゐる。その中心をなすものは風邪,Common Coldである。けれども,上氣道の炎衝性の病氣の病原學的な鑑別分類はさほど簡單なものではない。
 上氣道の炎衝性の疾患について診斷を下す場合には,結核症,ヂフテリヤ,β-溶血性連鎖状球菌疾患,インフルエンザ,鸚鵡病等の病源の明瞭な疾患ではないといふことをまづ確かめてこれを除外した後,殘つた上氣道性炎衝症候群について"臨牀スペクトル(Clinical spectrum)"(第1圖)にしたがつて,それを適當のスペクトルの位置にあてはめねばならない。そしてそれらのスペクトルを構成してゐる疾患について明確な概念を得るために"Commission on Acute Respiratory Diseases急性呼吸器疾患委員會)"の活躍の樣子を傅へてゐる。

論説

豫防接種公布の意義

著者: 野邊地慶三

ページ範囲:P.258 - P.259

 書名も著者名も忘れたが,編者は少年時代或る書で「2000年後の人類』と云ふ次ぎのやうな作話を讀んだことがある。「曾つて文華の都であつた巴里の荒れ果てた廢虚に,ひとり尚そびえて居るエツフエル塔の礎石の傍に異樣な肉塊のやうな動物が動めいて居つた。それは2000年後の人類の姿であつた。人類は其發明した自動車や其他の所謂文明の利器の慣用によつて手足が不用になり,そのために手足は退化して痕跡と化し,身體さへも次第に退化して矮少となり遂にこの姿となり果てたのである。そして其の昔,人類がよく制遏して居つた微生物がこれに代つて世界を支配して居るのである」と。これはもとより荒唐無稽な一作話に過ぎないが,論者はこの中に冷嚴な疫學上の自然律を感得するのである。即ち生物は病原體との不斷の抗爭によつて之れに對する免疫を保持するのであるが,處女地或は豫防對策效を奏して無病地となつた地方の人間は免疫を失ふものである。そして彼等が一朝流行地赴く場合はその犧牲となる危險が大きいものであると言う鐵則である。この事實の例證は枚擧に遑がないが,今年本州を風靡した日本腦炎に例をとつても,本病の無病地帶である北海道産の馬匹に本病ヴィールスに對する中和抗體を缺くものである。その爲めに彼等が本州に移入された最初の夏の本病との遭遇戰に於てその犧牲となる事例が多くこれが患馬の大多數を占めて居るものである。

原著

流行性肝炎に就て

著者: 北岡正見

ページ範囲:P.260 - P.268

 まへがき 既に1世紀前から戰疫病として注目され(Bormann1)),研究されてゐたにも枸らず,未解決であつた流行性肝炎も今次世界大戰を機會として,漸くその病原體,感染經路等が闡明されるに至つた。即ち,今次大戰に於て,歐州(Stowman2))に流行が起り獨乙軍は東部戰線(Jacobi3),Nothaas4),Rüther5)),ルーマニア(Sonea6)),地中海沿岸殊にビリア(Hellmann7)),クレタ島(Markoff8-9)に於て,米軍10)は太平洋戰域(Ash11))竝びに地中海戰域(Barker12),Francis13)),Gauld14))に於て本病の流行に遭遇し,ここに歐米學者の懸命の努力と最近に於ける濾過性病毒學の進歩と相俟つて,本病の問題が急速に解決され始めたのである。
 本病に就いては各國に於て既にそれぞれ綜説が發表されてゐる。就中,Bormann1)の報告は詳細を極め,著者15,16,17,18,19)も本病の歴史,流行病學,症状,感染經路,病原體,動物實驗について綜説をものし,その研究20,21,22)の一部は既に發表した。近年川崎市(今野23)),東北地方(田村24)),中國東三省(山田25))及び山東省(尾河26)),(大竹27))に於ける流行が報告されてゐる。因みにEppinger28)の單行本竝びにHavens9)の報告の一讀をすすめる。

研究と資料

農村結核の疫學的研究—昭和22年10月 埼玉縣高坂村における調査

著者: 染谷四郞 ,   重松逸造 ,   川村達 ,   平山雄 ,   林久子 ,   宍戸昌夫 ,   芦戸義守 ,   高橋暉良 ,   松崎正宣

ページ範囲:P.269 - P.279

1.きえがま
 戰後わが國農村における結核蔓廷の一樣相を把握せんがために,昭和22年10月5日より同月17日に至る間,堤玉縣高坂村全村民を對象として結核の疫學的調査を行つたので,ここにその成績の概略を報告する。

殺鼠劑としての亞砒酸石灰の應用について

著者: 佐々學 ,   三浦昭子 ,   古市昭子

ページ範囲:P.280 - P.283

1.序
 筆者らはさきに色々な無機砒素化合物の中,亜砒石灰が蚊や蠅の幼蟲殺蟲劑として極めて安價で大量生産に適し,また強い作用をもつていることを報告し,殺鼠劑としても毒力の強いことを附言した1)。その後本劑の殺鼠作用として基礎實驗及び野外試驗を行い,一定の考慮の下には實用價値の大きいことを認めたので,これを報告する。本研究にあたつては,東亞農藥の尾上哲之助,小川正和氏らに資材竝びに技術的援助を受けた點を深謝する。

論述

豫防接種法について

著者: 芝山知輝

ページ範囲:P.284 - P.286

 豫防接種法の目的についてはこゝに事新らしく申し述べるまでもないと思う。この法律は本年7月1日から施行せられているものである。
 從來から種々の豫防接種が行はれているが,この中法律によつて強制的に行われているものは種痘だけであつた。今日我が國で種痘は實によく普及せられているが。これは一つに種痘法といふ法律の賜物である。

豫防接種施行心得に就て

著者: 山口大九郞

ページ範囲:P.286 - P.294

 戰後公衆衞生状態の惡化は傳染病の多發流行を來し,國民保健の向上増進上誠に憂慮されたのでありますが,最近は我國防疫史上劃期的に傳染病の激減を示してきたのであります。この成果は種々なる防疫措置が構ぜられた結果でありますが,その1つの大なる原因として豫防接種の徹底的勵行が擧げられるのであります。又慢性傳染病である結核の豫防接種も統計上明らかに有效なる事を示しており,このように豫防接種が傅染病豫防上卓效あるに鑑みまして今囘法律を以て有效であると確認されている豫防接種を強制的に國民に行ふ事になり,傳染病豫防法,結核豫防法に基く措置と相伴つて傳染病の徹底的豫防を期することになりました。
 然し此等有效なる豫防接種と雖も適切なる接種方法,接種量及び施術時の充分なる注意を怠る時は,所期の目的を達する事が出來ないばかりでなく極く稀れには不測の障碍を誘發することもあり得るので今囘施行上の心得が詳細に告示されることになりましたので豫防接種施行時にはこの心得に規定されました事を嚴守して遺憾なきを期せられ,傳染病豫防上,ひいては公衆衞生の向上増進に寄與あられん事を切望します。

東京都に於ける日本腦炎流行の疫學的概況(23.9.10)

著者: 山下章

ページ範囲:P.294 - P.296

 日本腦炎の流行はその流行周期から推測して1昨年あたりから危惧されていたところ‘本年は冬期に南洋方面に流行があり,7月上旬から主として關束地方に馬に腦炎流行の兆があらわれたので,今年こそは必ず人間にも流行が來る。而してそれは東京が最も危險であると主張した識者もあつたが,果然今次の大流行の襲來となつたのである。
 都の防疫課ではこの期を逸せず,之れが防疫學的調査を實施するために厚生省の指示を得て調査票を作製し,醫科大學生を動員し患家竝びに之の對照となるべき家庭を訪問し,必要事項を記入せしめ,目下その集計中であるので,近くその結果を發表する機會が得られることゝ思うが,以下取敢えず本流行の概要についてのべる。

Baltimore市の鼠族撲滅の實際

著者: 大石

ページ範囲:P.296 - P.300

 全アメリカ合衆國の居住地域において,鼠によつて惹き起される財産の損害と病氣の危險とを減らそうとする一般の要求とANTUの殺鼠力を實地に廣範圍の地區について試驗せんとする要求とにもとづいてMaryland洲のBaltimore市における異例の鼠族撲滅計畫が立てられたのである。この計畫は鼠を消極的に防禦する防鼠法ではなく積極的な撲滅策を強調している。
 Baltrmoreは人口86萬の繁華な港市であつて,最近數年間に新たに7萬人の戰時勞働者を増加している下町地域の住居構造は殆ど總て煉瓦造りの二階又は三階建ての並び屋である。垣で圍まれた小さな裏庭のあるのが普通で,後は舖裝された裏通りに續いている。この裏道は各市區劃の中央を貫いていて,臺所屑を集めるのに利用される。

最新の文獻

結核のStreptomycin療法/ヂフテリアの免疫

ページ範囲:P.300 - P.302

 Farber及びEagle兩氏は結核Streptomycin療法の藥理竝びに臨牀的用法に關し,極めて適切なる見解を述べ同時に本問題に關する最近の醫學文獻を擧げて居る。
 元來Streptomycinは1944年Schartz,Bugie及びWaksman氏等によつて發見され試驗管内で結核菌發育阻止作用が證明されたものである。更にFeldman,Hinshaw及びMannによつて海猽,Youmans及びMc Carter等によって南京鼠の結核感染に阻止的作用があるもとが發見せられた。人間の結核を最初にStreptomycinで治療したのはHinshawとFeldmanで1945年のことである.1946年11月彼等は100例の結核患者を治療してゐる。Streptomycinの吸收に關し著者等は非經口注射を最も可としてゐる。そして筋肉内注が最も射普通に選定せられる。静脈に600mgr一度注射すると15分後の血液1cc中のStreptomycin濃度は30-35mgとなる。そして5時間後には5mgrに減ずるのである。連日1gr宛經口的に投與しても血中濃度は大して増加しない。之れは吸收がわるいためである。脊髓腔にStreptomycinを注入する時本物質は長時に互つて脊随液中に潴溜する。

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優性保護法—昭和23年7月13日法律第156號

ページ範囲:P.303 - P.308

第一章 總則
(この法律の目的)
 第一條 この法律は,優生上の見地から不良な子孫の出生を防止するとともに,母性の生命健康を保護することを目的とする。

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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