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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生4巻6号

1948年10月発行

雑誌目次

原著

流行性肝炎について—承前

著者: 北岡正見

ページ範囲:P.313 - P.322

 病原體 本病の病因として過去に於ては,毒素説,アレルギー説或は種々の,寄生蟲,原蟲,細菌殊にブルセラ菌屬,變形菌,チフス,サルモネラ菌屬,赤痢菌,レプトスピラ等に依る傅染説等が擧げられたこともあつた。殊にサルモネラE群(牧)98),赤痢,腸チフス,サルモネラC,鼠チフス(山下99),廣木100))等と關係を附けようとする報告があつたが,しかし著者が屡々指摘してゐるように,本病類似症状は,細菌或は原蟲によつて惹起されたとて,それ等の菌或は原蟲を以て直ちに本病の病原體と看做されないのである。
 本病が一種の濾過性病毒により惹起されるであろうことは,患者からの細菌分類が陰性であること,血液像が他の濾過性疾患のそれと一致すること,患者の血液,糞便のBerkefeld濾液を以つて人體實驗が陽性となること,その濾液を普通培養基で培養しても何等の細菌も發育しないことから明かである。我國では,本病を以て感冒の一異型であると稱える學者が多い。外國でも,Williams,Gloverの如く,本病と流感を結びつけて考るものもある。本病の急性期が如何にも感冒と酷似してゐるため,この様な錯覺を起すのであろう。著者の成績に依れば,本病原體は一種の濾過性病毒に屬し,早期血液(急性期,黄疸期の初め)竝に恢復期の口腔液或は恢復期の尿の中に排泄される。

論説

性病豫防法の公布に際して

著者: 野邊地慶三

ページ範囲:P.323 - P.324

 本誌第4巻第2號の表紙所掲のポスターに見られた如く,米國の梅毒罹患率は壮者10名に1名の割合であり,又淋病の蔓延度は大體其倍と見識されて居る。我國結集團の梅毒反應檢査成績の平均も都市の壮者間の本病罹患率は大體米國と同率であり,又淋病の梅毒に對する比率も同情勢にあるものと考えられて居った。然るに敗戰以來の人心の弛緩,風紀の頽廢は上述の如き性病蔓延を更らに増惡すること必至である。第一次世界戰爭後獨逸,英國其の他歐州諸國は性病流行に惱み,殊にルーマニアの如きはワツセルマン反應100%に垂んとする事態に陷り,其の對策に腐心したものであつたが,我國も亦これと軌を一にする情勢に立至るのではないかと識者を憂慮せしめて居る。
 New Yorkの衞生局長として命名のあつたThomas Parran氏は,其共同作業者と共に行つた徹底した性病の疫學的研究に基いて性病は其の感染追跡によつて傅染源を發見し,之に豫防的治療を加えて非傳染源化することによつて共の根絶が期されるものとなし,社會衞生と云ふ擬態の下に行はれた從前の微温的性病豫防事業に挑戰し,本病は急性傳染病封策と同一方法に從つて民衆に本病の實態を教え白日の下に之と戰ふべきものであることを主張したのであつた。後に全米國の衞生事業に聲令を行ひ得る連邦衞生局長に就いた時氏は全米國を性病の浄土とする理想を高く掲げ,連邦衞生事業の焦點を性病豫防に置いたのであつた。

研究と資料

新型厚生省式改良便所の普及

著者: 川畑愛義

ページ範囲:P.325 - P.331

1.新型改良便所
 厚生省式改良便所はもともと内務省改良便ともいわれた。そのわけはこの便所が大正14年4月以降,内務省衞生局において國費を以て,埼玉縣大宮市において實驗的研究を初め,その後4カ年の日子を要して,ほぼこれが成案をえたものであるからである。すなわちその一部は昭和2年4月に發表されたけれども,實驗の終末はほとんど昭和6年3月までつづき,じつに満6カ年の日子を要している。そしてこれが實驗にあたつたのは委員長格の高野六郞博士をはじめとし,南崎,勝俣,板内,濱野,山岸,内藤等の諸氏であつたと記憶する。
 その後,この原型は幾度の改良改善が加えられ,今日にいたつている。その間世人のこれに對する批難,又は缺陷としてあげられた諸點はこれが1)つまることがあること,2)臭氣があること,3)ウヂがあがること,4)ハイが發生することなどであつたようである。これらの難點を除去し,又は緩和しつゝ現今の厚生省式改良便所となつたわけである。

梅毒血清反應の感度と特異度に就て

著者: 北野政次

ページ範囲:P.331 - P.340

1.まへがき
 本年9月1日より施行された性病豫防法の普及につれ,梅毒血清診斷が公衆衞生上,更に重視されるに至る事は明かである。從來主として臨牀病理試驗として行はれた梅毒血清反應が集團檢査として活用せられ,保健所や産業方面の工場或は會社等で,勵行される機運にある。現に香川縣や神奈川縣,東京都等では,既に實行に移されてゐる。從て梅毒血清診斷實施の要領竝に其判定に關しては公衆衞生に携はる醫師は勿論,一般衞生技術者も幾分の知識を有する必要がある。梅毒血清診斷は,補體結合反應を應用したものと,沈降反應を應用したものに大別する事が出來るが,最近に於ける沈降反應の進歩と,他方には前者に動物を要し我國の現状に於ては其的確な實施が困難な事情もあつて,厚生省に於ては先般梅毒血清反應は村田法,北研法,井出法の中,二者を實施して判定するやう通牒されたのであるが,當研究所に於て,カーン梅毒診斷液製造認可申請中のところ之が許可されるに及んで。我國では更にカーン梅毒診斷法が採用せられ,近く厚生省より之等の沈降反應中,二以上を實施して判定するやう指示される由聞き及んでゐる。
 カーン梅毒診斷法に就て當所の實驗成績に就ては(早川,増井)は,綜合醫學に寄稿したので,爰には梅毒血清反應檢査の際必らず問題となる感度,帥ち鋭敏度と特異度(特異性)に就て述べやうと思う。

農村衞生思想調査成績

著者: 增村雄二郞 ,   西田正道 ,   畑中信勝 ,   田中喜信 ,   織田敏郞 ,   水上達夫 ,   村田仁

ページ範囲:P.341 - P.345

 近來學校生徒に對する健康教育や,社會人に對する衞生教育について耳にすることが多くなつて來た。農村地方でこの社會人に封する衞生教育を行う場合に,まづ問題になるのは,農民が現在どのような衞生思想をもつているだろうかということである。我々前橋田專農村醫學研究會會員は今度農民の衞生思想調査を行ったので,その成績を報告する。
 調査方法は第1表の調査表を農村の小學校の高學年の學童を介して家庭に配り,家中相談して囘答を記入し捺印して返して貰つて行った。豫備調査を行つて問題の内容や表現を一部改めたが,まだ不適當な點が多い,調査は群馬縣の農村8ケ村2280家庭と,對照として前橋市293家庭と,東京都273家庭について行つた。各々の問題を百點満點とし一定の規準にしたがつて採點した。

ブルセラ菌を以てする米子地方人血清の凝集反應檢査成績

著者: 高木篤 ,   加納福由 ,   伊藤義廣

ページ範囲:P.345 - P.349

まえがき
 わが國にブルセラ症の存在することは,約10年位前から特に注意され始め,今日迄に約30例の症例報告が見られる。わが國に於ける症例は牛型のバング流産菌によるものが最も多いが,山羊型及び豚型の菌によるものも報告されて居る。マルタ熱は外國のものであるとして等閑視することは許されない。
 わが國に於いて,多數人の血清につい,てブルセラ菌による凝集反應を檢査した從來の文獻を見ると,谷口1)は,京都府下の牧場20ケ所の牧夫,牛乳處理者等116名の血清について,100倍陽性者2名25倍陽性者6名を見出し,100倍陽性者は府下に患者が出てゐるところから,バング菌感染の疑が濃厚であるとし,千葉2)は京都府下5小學校の7〜15歳の兒童2029名の健康血清につき,バングの菌に對する凝集反應を檢査し,3200倍陽性者1名を得た。この兒童は村に於て,牛,山羊の乳汁を口にした事無く,村内には牧場其の他はないが,ただ8歳の時仔牛を飼つたことがあつたと言い,勝沼,岡田兩氏3)は,羊型波状熱3例を中部地方に發見したが,201名の外來患者の血清を調査して凝集反應陽性のその5名を得たと報告してゐる。

開拓村の衞生状況

著者: 大塚正八郞

ページ範囲:P.349 - P.351

 昭和23年8月農林省開拓局,朝日厚生事業團等の主催で山梨,長野,群馬,三縣下6開拓村の診療,保健調査及び慰問を行つた。之に關連し若干知り得た事をこの6村を中心に報告する。
 開拓村は衆知の如く終戰の年の11月から研究的に開始されたもので,國庫の補助によつて罹災者,引揚者を中心に入植せしめて出來上つた組合式の未完成の人工的作爲農村で,從來の既設農村とは創成の點からしてもかやうに異つてゐる。また營農も殆んど確立する年月も經ぬまゝに凡ての開拓村は生活的にも豐かでなく,諸種文化を吸收する上にも甚だ不便を覺えている状態にある。交通が便利であるか或は大きな既設町村に近接するものにあつてはこの點も大いに緩和されるわけであるが,所謂酒屋へ3里の邊境な地區にあつて,然も開拓も漸くその緒についた許りの所にあつては天水以外に飲水もなく,電氣もなく,手製の萱の家に住つて開墾に從事している状態である。この樣な状況から保健衞生の面も.結論的に云つて當局の指導にも拘らず凡てに亙つてふゆきとどきである。衞生指導,疾病豫防の面に於ても,開拓村の保健問題は既設農村に於ける所謂農村保健とはその生成竝びに現状からみても大きな距りがあるわけで,この點に深く留意して各個別の開拓村の持つ特異性をよく把握して保健衞生を考究しなくてはならぬ樣に思はれる。

2,3内科的疾患の遺傳負荷率に就て

著者: 田中國夫

ページ範囲:P.352 - P.355

 人類に於ける遺傳病の研究は,近時我が國ても漸く注目を惹いているが,未だ一般臨牀醫家の興味を唆る域には達していない。精神科領域に於ては,此の種研究の注目に價する報告も尠くないが,内科的諸疾患の遺傳性に就ては,從來その報告は誠に寥々,斷片的であつて,系統的研究としては僅かに大里内科教室の業績を擧げ得るに過ぎない。
 吾々が,疾病の遺傳性に就て研究するに際して,種々參考すべき事柄の中,一般住民又は健康者家族に於ける當該遺傳病の分布乃至頻度は就中重要であるが,此の種文獻の信頼するに足るもの誠にすくない。

論述

性病豫防法について

著者: 中原龍之助

ページ範囲:P.356 - P.358

 性病の豫防については,昭和2年4月5日に公布せられた花柳病豫防法によつて行はれて來たが,この法律は主として業態者即ち私娼に對するものであつて,一般國民の性病に對しては何等特別の對策もおかれてなく,誠に不完全なものであり,識者の間には眞劍に改正の必要が叫ばれて來たのである。しかし舊來の風習,國民的感情から改正では非常に困難であつて,性病については臭い物には蓋といふ考え,又は恥しいかくすべき病氣として取扱はれて來た。國民の間に蔓延してゐる性病を如何にして豫防し撲滅するかについての點についてはあまりにも忘れられてきたのである。
 戰爭と性病の蔓延はつきものであつて,昔から幾多の事實が之を明に示してゐるところであり,且つ又殊に敗戰といふ極めて最惡の條件の下にあつて道義の低下と人心の混亂,經濟的窮乏は性病の蔓延に最適の培地であり,この際適切な處置をとらなければ悔を千載にのこすことは明瞭である。最早單に賣笑婦のみの對策に於ては效果があげられないのである。このため終戰後連合軍最高司令部の覺書にもとづき昭和20年11月22日花柳病豫防法特例が制定せられた。こゝに於て性病は傳染病としての取扱ひの下に届出制が定められ,性病患者に對しては強制治療命令も出し得るよう一般國民の性病の豫防について一應取上げられたが,しかし依然として業態者の對策が主たる部分を占めていて不完全なものであつた。

産業衛生の要綱(第5囘)

著者: 重松逸造

ページ範囲:P.358 - P.360

夜間作業と輪番交代の問題
 24時間制で操業している工場においては,勞働者の健康と,最高の生産とを維持するためには,夜間作業と輪番交代の影響を最小限にするよう,特に愼重な方策がとられねばならない。合衆國公衆衞生局は次の勸告を行つている。
 1.2〜3週間毎に晝夜を交代して働く勞働者は,食事と睡眠の習慣を調整するのに困難を感じている。24時間制で操業する工場においては,交代は2〜3月毎以上には頻繁に行わるべきではない。

結核のまと—あなたの家庭—(衞生教育資料) C.I.E特別提供

著者: 浮田 ,  

ページ範囲:P.361 - P.364

 結核は何故家庭にとつて特に恐いものでせうか。結核に關する我々の知識を調べてみませう。結核がバイ菌によつて惹起されると云ふ事はわかつてゐます。50年以上も前に或醫師がそのバイ菌について述べておりますが,それ以來常にこのバイ菌はこの疾病の場合に發見されております。
 このバイ菌は結核症の進行した患者の喀痰の中に存在すると云ふ事がわかつてゐます。このバイ菌は病人から健康人へ直接にも,或は間接に汚染された物品によつてもうつされます。多くの人々が或は少年時代或は青年時代のある時期に少量の結核菌を拾ひ,その中の或人々が後になつてこの疾病を發展させるのだと云ふ事がわかつてゐます。

最新の海外論文集

慢性疾患の對策

著者: 早川淸

ページ範囲:P.364 - P.369

 近頃急性傳染病の豫防が徹底して來た結果所謂慢性病が死因の大部を占むるに至つた。本問題は今や各方面注目の的となり,既に8州,4都市に於ては之れが對策を樹て實施にうつしてゐる状況である。現下の必要性に鑑み,米國病院連盟,米國醫師會,米國公衆衞生協會,米國厚生協會等は以下之れが對策に就いて意見を陳開する次第である。

公衆衛生關係法規

旅館業法—昭和23年7月12日 法律第138號

ページ範囲:P.369 - P.371

 第1條 この法律は,旅館業に對して,公衆衞生の見地から必要な取締を行い,もつてその經營を公共の福祉に適合させることを目的とする。
 第2條 この法律で「旅館業」とは,都道府縣知事の許可を受けて,業としてホテル,旅館又は下宿を經營することをいう。

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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