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特集 アメリカ公衆衛生200年
「国民健康保険法案」とその未成立の歴史—米国における40年にわたる医療保険論議
著者: 前田信雄1
所属機関: 1国立公衆衛生院
ページ範囲:P.777 - P.789
文献購入ページに移動1976年春,就任後間もないマシューズ保健教育福祉長官にたいするU. S. News & World Report記者の第1番目の質問は,はたせるかな,国民健康保険法案成立の見通しに関するものだった.時期や内容についての長官の答えは大変ボカしたものであった.「制定をあきらめたわけでなく,依然として成立を願っているが……」という言訳めいた話の後,政府としては,国民健康保険法の制定と保健ケアの改善とは別個の事柄だと,両者を区分して考える立場であるということをはっきり述べた.また,この法を十分検討のないまま施行すれば,現在の100億ドル台,日本円換算で約30兆円という年間保健費用が,大まかにいってさらに倍加しかねないという懸念が表明された*1.
同じような質問が,同じ雑誌の記者によって2年前の1974年の春,前保健教育福祉長官ワインバーガーにたいしてもなされた.このときの質問は,国民健康保険法案の内容について,具体的にこまかくふれたものであったし,答えの方も,当時のニクソン政権構想を宣伝する姿勢から出された.歯科や精神病,薬剤給付をも含んだ包括的な給付範囲となること.保険料は年間平均家族約600ドル(18万円).高額医療費公費負担も,低所得者にたいしては年に120ドル(日本円で3万6千円)以上とする.不必要入院を増しかねない老人医療にたいしては,制限給付か一部負担を残す.
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