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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生40巻3号

1976年03月発行

雑誌目次

特集 地域歯科衛生

予防歯科学の現状と問題点

著者: 大西正男

ページ範囲:P.152 - P.161

はじめに
 予防歯科学は日本では口腔衛生学に比べて理解しにくい概念となっている.これをPreventive Dentistryと英語で書くと,欧米ではOral Hygieneよりも遥かに広い範囲に受け入れられている名前になる.予防歯科学の特徴について,日頃考えていることから述べねばならない.
 日本では予防歯科学とは,個人を対象とした歯牙疾患の予防技術に関する学問だと紹介されている.しかし,予防医学の定義にそのようなものは見られないということを想い出さねばならない.

地域歯科保健における公衆衛生活動

著者: 矢吹水男 ,   天野恵 ,   宮入秀夫

ページ範囲:P.162 - P.171

I.歯科衛生の沿革
 第2次大戦後,わが国の公衆衛生制度は大きく改革され,従来の伝染病中心の予防衛生から,さらに広く国民の健康を保持増進するための諸対策をとり入れた公衆衛生施策が行なわれるようになった.これを推進させるため,昭和23年に従来の保健所法が全面的に改正され,その基本的業務として11項目が定められ,この中に「歯科衛生に関する事項」が掲げられた.これは国民の歯科保健について国の責任を示したものであり,衛生行政のうえで画期的なものである.
 歴史的にみると,歯科医療における公衆衛生活動は,一般医療とは異なった発展の経過をたどってきた.元来,むし歯などの歯科疾患は非伝染性の慢性疾患であって,疫学的に予防対策をもたなかったことから,国の予防衛生施策からとり残されてきた.しかし,近代社会の発展にともない,齲蝕など歯科疾患の増加は著明な事実となり,とくに児童におけるむし歯の障害が明らかとなるにつれて,予防対策の必要性が早くから心ある歯科医師により提唱され,民間のむし歯予防運動として学校および一般大衆のなかで行なわれてきた.国が公衆衛生施策として,制度化したのは,昭和6年の学校歯科医制度からである.以来は,戦後の保健所法の改正であった.

地域歯科保健医療システム化への歩み

著者: 末高武彦

ページ範囲:P.172 - P.176

はじめに
 昭和30年代後半にはじまる社会経済の急速な発展は,わが国の産業構造を変え,地域社会の構造に大きな変化をもたらした.
 国民の保健医療においても,人口の老齢化.公費負担医療制度の拡充,医学・医術の発展,疾病構造の変化等により,医療需要は量的にも質的にも変化をきたし,これらに対応する新たな対策が必要となってきた.

保健所と地域歯科衛生

著者: 藤沢好成 ,   安陪和子

ページ範囲:P.177 - P.183

 歯科医師の保険診療の拒否(?)と差額に対する金銭上のトラブルが社会の注目を浴び,新聞やテレビを賑わすことになった.この根本的な原因を考えてみると,これは歯科医療の需要・供給のバランスの崩れによって起こったものであり.その原因の第1に,国や地方自治体の責任で行われるべき歯科疾患予防対策の不徹底が指摘1)されている.わが国の乳幼児や学童に対する口腔衛生対策は,欧米諸国と比べ著しく遅れており,これに食生活の改変が加わって,乳幼児・小児のう蝕罹患率の未曽有の激増を来たした大きな原因となっている.
 乳歯う蝕の実態は,6年ごとに全国的に行われている厚生省歯科疾患実態調査の成績2)が明らかにこれを証明している(表1,2).この調査成績から,乳歯のう蝕は,われわれの食生活がよくなるにつれて,う蝕罹患率の上昇とう蝕罹患年齢の低下傾向が明らかに認められている.また,3歳までの乳幼児のう歯は,母親を困らせるだけでなく,歯科医も治療に手こずる場合が多く,治療せずに放置されがちである.表2の処置歯数をみても,幼児では処置歯率が1割にも達していないことが,この関係を明らかに物語っており,幼児の健康を阻害する要因になっている.

地域歯科医療における公的病院(歯科)の役割

著者: 三井男也

ページ範囲:P.185 - P.190

はじめに
 わが国における歯科疾患の状況は,過去3回の厚生省が行った歯科疾患実態調査によって,既に明らかにされている.この状態をみると,国民の間に他の疾患に類をみないほどまん延していることがわかる.その処置の状況は,調査のたびごとに改善しているが,いまだ不十分といわざるをえない.
 このことは,国民の生活環境や社会環境の著しい向上に伴い,直接的には食生活の変化につれ,歯科疾患の多発生の要因がつくられながら,これを予防抑制する積極的な施策がないところに根本的な問題があることを示している.

歯科大学と地域歯科医療—都市部の問題について

著者: 河村洋二郎

ページ範囲:P.191 - P.194

はじめに
 表記の課題を最初は気軽に考えて筆をとった.そして,地域歯科衛生という特集にふさわしい課題の1つであることにも異論はなかった,しかし,この問題をどのように解説していこうかと考え始めて,"はた"と当惑してしまった.その理由は,一見単純にみえるこの課題が,思いもかけない複雑な要素を含んでいることに気がついたからである.
 問題を我が国だけに限らず,世界一般に通じる概念として論じるのと,我が国の実状に即して問題を論じるのとでは,問題のとりあげ方が大変違ってくる.筆者は一応我が国の現状に即して,この課題をとりあげることにした.それでも問題はなお極めて複雑である.

歯科大学と地域歯科医療—農村部の問題について

著者: 中尾俊一

ページ範囲:P.195 - P.198

はじめに
 歯科医療に対する国民の苦情と告発や批判が最近とみに活発となり,各種報道機関により詳しく述べられ,厚生省でも実態を調査し公表された1).国民の今までの歯科保健に対する知識と認識は乏しく,う蝕(むし歯)や歯周疾患(歯肉炎,歯槽膿漏)は病気という認識は薄く(生命に関係ないというだけのことかどうかわからないが),痛くなったり,腫れたり病人感が出てきて初めて受診する姿が多く見られている.
 歯科疾患のなかで代表されるう蝕や歯周疾患は,多くの人たちが罹患し2),医療需要の増大から供給体制が整わず,社会一般として患者の救済が一義的に考えられ,歯科保健が今までのように治療偏重で進むのであれば,問題は解決しない.国民の歯科保健に対する関心は高まり,要求は多面化し,現行の医療制度や健康保健制度に改善を望むなど自発性をもつ行動がおこなわれ,歯の健康問題に目が向けられつつある.今こそ地域歯科保健が総合的保健サービスであることを再認識し,徹底した歯科衛生教育を健康教育と平行して押し進め,地域住民の要求に応える必要がある.

西ドイツにおける地域歯科医療システム—特に学校歯科保健を中心として

著者: 坪根哲郎

ページ範囲:P.199 - P.205

西ドイツにおける地域歯科医療の対象となるものは,小・中学生のムシ歯対策がその主眼点であり,幅広い年齢層にわたっては行われていないように思われる.1)2)
 このことは,保健所(Gesundheitamt)の一課である歯科を,とくにJugendzahnpflegeあるいはSchulzahnpflege,またはSchulzahnklinikと呼び,青少年だけを歯科管理および教育の対象としていることからも窺い知ることができる.これはわが国保健所歯科の業務内容と比較すると,かなり趣きを異にしているところである.

地域医療における予防歯科体制へのApproach

著者: 三枝博文 ,   黒岩茂 ,   池内忍

ページ範囲:P.206 - P.208

はじめに
 社会歯科研究会は,"将来,如何なる歯科医療従事者になったら良いか,又なれるか"を基本課題として,1970年発足当時から活動を続けてきた.まず,医療を取りまくfactorの検討を中心にdesk-workを重ね,医療を担う我々自身が,医療の実態をより客観的に把握すること,およびその過程で社会科学的な思考法を養うことを当面の課題とした.さらに,desk-workから得たものを現実論とするために,field活動の必要性が問われ,3年前から長野県小県郡武石村における地域歯科衛生調査を行なってきた.この調査活動の経過の中で,我々が得た地域歯科医療の在り方をこの場を借りて総括してみたいと思う.

発言あり

母と子のよい歯のコンクール

著者: ,   ,   ,   ,  

ページ範囲:P.149 - P.151

"馬の歯" 民族の育成を
 O先生は,学校の下にある掘抜き井戸の周りへ2年2組の生徒を連れてゆき,歯の磨き方を教えた.「歯茎についた食べ滓をほじり出すのだから,ブラシを横に引くのではなく,歯の向きに合わせて上下に動かせ.歯の裏側も磨け」といった.戦争が終わって2年目の春で,子ども達は食べ物や衣服は乏しかったが,空襲の恐怖からはすっかり解放され,タンポポやレンゲの花に囲まれた,のどかな授業風景だった.
 それ以来,40歳まぢかの今日まで,私はこの歯磨きの教えを守っている.普通は朝食後と就寝前だが,酔って帰ってもフラフラしながら磨くので,それには妻も感心する.

研究

肥満児の実態と疫学的解析

著者: 箕輪真一 ,   平木陽一

ページ範囲:P.209 - P.216

はじめに
 成人肥満は心疾患,高血圧,動脈硬化,肝硬変,糖尿病などの成人病発生に深い関係があり,しかもその死亡率が比較的高いことは諸家の報告1)〜5)するところである.
 Mullins6)は,成人肥満の1/3はすでに小児期に発症しており,肥満度も高いと報告しており,Haase7),Abraham8),Nordsieck9)は小児肥満の多くが成人肥満に移行すると述べている.

調査報告

広島大学学生および職員の死因調査と保健管理の問題

著者: 松浦千文 ,   重信卓三 ,   川越和子 ,   松下弘 ,   西本幸男

ページ範囲:P.217 - P.221

はじめに
 保健管理の主要業務の1つとして,健康診断があり,筆者らも,健康で修学あるいは就労している学生や職員に対する定期的な健康診断を行なうことによって疾病の早期発見に努めているが,広島大学では保健管理センターの発足(昭和45年4月1日)以来,昭和50年3月31日までの5年間に学生34名,職員33名の死亡をみたことは,はなはだ遺憾である.
 しかしながら,直接に生命の危険をひきおこすような疾患ほど重大なものはないので,これら67名の死因分析を行ない,生前の健康情報との関係を追求することは,健康管理上意義深いものである.また,厚生省統計や保健管理センター発足前の死因統計と比較検討してみることも,本学における保健管理のあり方に1つの指針を与えるものとして有意義である.このような見地から5年間の死亡者の死因分析を行なったので,その結果を報告する.

日本列島

子宮ガン受診者,満13年で延べ50万人—宮城県

著者: 土屋真

ページ範囲:P.183 - P.183

 昭和37年1月17日,全国で始めての子宮ガンの集団検診が宮城県登米郡南方町で880名の婦人に実施されてから,はや13年がたちました.昭和50年9月までに,当県で検診車による検診と施設検診(日母方式)を受けた,原則として30歳以上の婦人の数は延べ50万人であります.
 今までに子宮ガン(浸潤ガン942人と上皮内ガン922人)1,864人,異型上皮(要観察)2,326人が発見されています.またこのほか,腟部びらん,子宮筋腫など18,855人の婦人科患者も見つかりました.ことに集団検診を受けた者では手遅れの人もいますが,2〜3年の受診継続者では子宮ガンによる死亡率がほとんどゼロに近づき,全県で年にわずか1,2人と報告され,高く評価されました.

1975年インフルエンザ抗体価調査—北海道

著者: 吉田憲明

ページ範囲:P.221 - P.221

 この程札幌市衛生研究所よりインフルエンザの75年流行予測が発表されたが,B型なら危険という信号である.
 これは9月から10月にかけて,市内小中学校4校生徒325人を対象とする抗体価調査の結果をまとめたもので,抗体価保有率(HI抗体価32以上の保有者%)A-ホンコン型で96.7%(昨年97.5%),B型43.4%(昨年74.1%)を示した.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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