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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生40巻5号

1976年05月発行

雑誌目次

特集 保健と福祉におけるニードとデマンド

体験的ニード,デマンド論

著者: 橋本正己

ページ範囲:P.302 - P.303

 今日,社会経済環境の激動と人口・疾病構造の質的変化の中で,日常生活圏的な地域を基盤とした保健(医療・公衆衛生)活動と,このための計画の推進が,政治体制,洋の東西を越えて,先進諸国の切実な政策的,実践的な課題となっている.本誌はすでに10余年来,総合的な保健活動の発展を一貫した主題としてとりあげ,また筆者は,これを歴史的,実践的な観点から地域保健活動として定式化し,計画的に進めることを提唱し続けてきた.
 ところで,この課題にとりくむ場合,ひとつの大きな障壁は,この課題が現代の健康と生活に関する科学・技術はもとより,行政・法律・各種活動の集大成ともいうべき内容であり,きわめて多彩な学問分野に結びついているため,関係する術語に共通の理解がなく,特に戦後日本に実体のない外来語が続々と移入された結果,その混乱がますます大きくなっていることである.この種の術語は枚挙に暇がないが,本号では,今日当面している地域保健計画の推進に際して,最も基本的で,かつ実質的に重要なneedとdemandに焦点を当てて特集することとなった.

保健計画におけるニードとデマンド

著者: 西三郎

ページ範囲:P.304 - P.309

はじめに
 保健計画とニードおよびデマンドとを結びつけて論じる前に,各々の概念を規定しなくてはならない.しかし,各々の概念は必ずしも明確なものではなく,両者を統一的視点で概念規定することは容易ではない.ここでは,計画を未来志向であり,進歩と変革のための道具であるとし,ニードを,ある状態と自己の状態との乖離の主観的または客観的な認識であり,デマンドはその乖離の充足であるとしよう.このように道具の1つである計画に対しては,ニード,デマンドというものは,計画以前の目的・目標に対して関係が深く,その目的・目標の具体化の段階で計画が登場するもので,多少両概念は次元の違うものといえよう.しかし,このような次元の違いのある両者を結びつけた編集委員の意図を推測するに,保健計画の必要が一般に広くいわれているなかで,その計画が実際に国民のニード,デマンドを反映しているのか,また反映させるには,どのような働きが必要かを期待したものと考え,ここに国のレベル,都道府県のレベルに,民間のレベルの保健計画をみてみよう.

保健活動におけるニードとデマンド

著者: 園田恭一

ページ範囲:P.310 - P.314

Ⅰ.ニードとデマンドの概念規定
 まず,ニードとデマンドという言葉に関してであるが,社会学の分野では,ニードという概念は,行動とのかかわりで広く用いられているが,デマンドというのは,学問用語としては,今日までのところでは市民権をえているとはいえないようである.
 ちなみに,手もとにある社会学関係のいくつかの文献や用語解説等をみてみたところでも,ニードに関しては以下のような説明があるが,デマンドという言葉の規定は見当たらない.

経済学からみた医療ニード

著者: 地主重美

ページ範囲:P.315 - P.319

Ⅰ.2つのニード概念
 経済学は,もともと有限の資源を人間の欲求充足のために合理的に配分することを課題としている.このような欲求充足は,ある場合には市場を経由して行われ,またある場合には公共部門を経由し,政府活動の一部として行われている.この場合の欲求(want)は,市場経済において需要(demand)として顕示され,この限りで分析の対象になるが,それ以上のものではない.したがって,市場経済の運動法則を研究の主題にしているかぎり,需要はあってもニードが問題になることはまずなかった,といってよい.
 しかし,これには2つの例外がある.第1は,公共部門を経由して欲求充足活動が行われる場合であり,資源配分の基準としてニードが用いられている.医療,義務教育,各種の行政活動等がそのよい例である1).第2は,マルクスが『ゴータ綱領批判』2)で,共産主義社会ではニードに応じて分配が行われると述べているが,この分配の基準としてのニードがそれである.ただ,共産主義社会は未来の王国ではあっても歴史的現実ではなく,ここでは深く立ち入らない.したがって,ここでは主として第1のニードを取り上げ,これが医療の領域においていかなる意味内容をもち,いかなる機能を果たしているかを明らかにしよう.

社会福祉におけるニードとデマンド

著者: 前田大作

ページ範囲:P.320 - P.324

はじめに
 筆者は,かつて社会福祉の分野で使われる「ニード」という用語について論文を書いたことがある1).今回,似たようなテーマで再び論文を書くことを求められたので,ニードとデマンドという2つの用語について,内外の解説,あるいはこれらの用語を度々用いていそうな書物を多数調べ,また英語での使い方については,アメリカ人で社会福祉の専門家であるローレンス・トムソン氏(Lawrence Thompson国際社会福祉協議会日本国委員会事務局勤務)にたずねてみたが,ニードという用語については筆者が以前に書いたときと使い方や考え方は,全くかわっていないことを確認した.そこで,この論文の内容は,筆者が前に書いた論文と内容においてよく似たものになることをあらかじめお断わりしておきたい.
 ところで,ニード,あるいはデマンドという用語が社会福祉の関係者の間でどの程度専門用語として使われているか,ということであるが,まずニードという用語についてみてみると,これは専門の学術用語として使われているとはいえない.しかしニードという語は社会福祉関係者の間では実によく用いられる.これは英語でもそうであるし,また日本語でもそうである.

地域医療計画における医療需要の測定方法

著者: 安西定

ページ範囲:P.325 - P.331

Ⅰ.地域医療計画の必要性
 すべての国民に,予防からリハビリテーションまで一貫した医療を確保する体制を確立するためには,地域の自然的,社会的条件に即した地域医療計画を策定し,積極的にその推進を図ることが必要であるとの指摘や,また,ヘルスマンパワーの養成,公的投資,公的助成などの充実強化のために,さらにこれらの諸資源が有機的な連携のもとに,真に有効にその能力と機能を発揮するよう,システム化を進める必要があることなどが,すでに昭和49年に医療審議会や社会保障長期計画懇談会などにおいて要望されている。
 増大する医療需要や医療技術の進歩,医療費の高騰,医療担当者の不足,救急医療,へき地医療,難病などの特殊疾病医療に対するニードの増大とその確保問題等々,現在のわが国の医療事情は極めて深刻である.これを打開する道としては,まさに先に述べた要望・意見にしたがって具体的な医療計画を立てて,長期的な展望のもとに各種の施策の推進をはかる必要があると考える.

ヘルス・ニード測定方法の検討

著者: 田中恒男

ページ範囲:P.332 - P.336

はじめに
 第二次大戦後,米占領軍の指導下に急速な勢いで流れこんで来た米国公衆衛生理論は,その地域における展開の仕組みの中で,ヘルス・ニードへの対応の必要を強調した.それから30年を経た今日,再びニード論が復活して来たことは多くの意味をもつであろうが,その直接のきっかけが,公害,薬害等によって触発された,住民要求をどう位置づけるかに端を発していると考えて,おそらく大きな誤りはないであろう.すなわち,住民の要求——デマンドもしくはウォントと住民の健康養護のための必要性——ニードとの区別から始まり,ニードを把握する責任の体制,その把握法など,きわめて多くの問題が今日再び論じられようとしている.
 考えてみれば,この種の論争は,いわゆる地区診断をめぐる論争として,昭和30年代に,いろいろな角度からとりあげられている,たとえば,宮坂らによる地区診断の理論の紹介,筆者による公衆衛生調査法の提唱,山本・岡田らの地区診断論など,学術的水準から実際の現地活動での具体的検討の水準まで,多くの論争がなされている.しかし,当時の論争において欠けていたと思われる点は,ヘルス・ニードを既定のものとして受けとめ,筆者の検討以外にはあまり論理的な分析を加えた例が少なかったことである.そして,そのまま測定技法のレベルでの検討にとどまってしまったがゆえに,昭和45年以降の新しい情勢に対して対応し得ない部分が生まれたのだ,と考えられる.

発言あり

ヘルス・ニード

著者: ,   ,   ,   ,  

ページ範囲:P.299 - P.301

健康のみなおしを
 健康な毎日を送り,しかも長生きしたいと願うのは,人々の共通した願望である.しかし,一般の人々は,実際にどんなものが健康であり,それを獲得するにはどんな努力が必要であるか,現実はどうであるかなど,具体的に能動的に考えたことがあるであろうか.
 まず第一に,健康の範囲は常に広がる一方で,際限がないということを自覚すべきであり,よりいっそうの健康を獲得するには,健康増進に日夜努力している人がどんなに苦労しているか,ただ口先ばかりで健康をよこせと叫んでも,そんなに容易に手に入るものでもないこと,天から健康が降ってくるものでもないこと,お金のかかることなど,具体的な面で十分考慮すべきことをまず考えるべきであろう.ましてや,健康は人から与えられるもので自らが努力しないでも手に入る,などと思うのは間違いである.福祉についても全く同じことがいえると思う.もちろん,国や公共団体,研究者,実際に国民の健康増進に活動している人人は,現在の技術,政策など可能なかぎりの提供をすべきであることは論を待たないし,健康を阻害するものを除去するために努力すべきであることは当然のことである.

研究

喫煙防止教育の試みと評価—その2

著者: 福田勝洋 ,   三宅浩次

ページ範囲:P.337 - P.340

はじめに
 前報(第40巻第4号)では札幌市内の高校3年男子生徒を対象に,喫煙抑制を旨とする視聴覚教育がそれらの生徒の喫煙に対する態度をどのように変化させるかをグループごとに比較した.前報の場合,アンケートの様式が教材の視聴による態度変化を個人ごとに把握できるようになっていなかったが,今回は個人の視聴後の態度変化が調べうるようアンケート方法の一部を改めた.対象者を今回は高校1,2年生としたが,教材の視聴による態度変化の類型と,家庭における同居成人の喫煙状況との関係を明らかにできたので報告する.

事業所排水の分析方法に関する試論

著者: 村上宏 ,   木下恵子

ページ範囲:P.342 - P.345

 公共用水域の汚濁を防止し,あるいは下水処理場の機能を保持するために,水質汚濁防止法や下水道法では,国・地方公共団体・事業所による水質の監視・測定について規定されている.しかし,個々の事業所では,水質測定に必要な設備や技術が不十分なために,水質の分析を専門機関に委託しなければならない場合が大部分を占めていることは,容易に推測できる.水質分析のうち,金属イオン濃度については,下水の水質の検定方法に関する省令(JIS K-0102)によって,原子吸光光度法(以上,JIS法と略記する)を用いることが定められているが,金属イオンなどの簡易測定法として「ヨシテスト」の商品名のもとに検知管が市販されているので,これを用いる方法(以下,簡易法と略記する)とJIS法との測定結果を比較して,事業所における定期的水質検査のひとつの問題点である,水質の測定法について,考察することとした.

調査報告

最近12年間の脳卒中および硬化性心臓病による死亡状況の推移—1保健所管内の調査結果から

著者: 西住昌裕

ページ範囲:P.346 - P.352

はじめに
 わが国のいわゆる成人病による死亡は,昭和32年に総死亡の50%を越えて以来,人口構成の老齢化とともに,その比率を増し,その対策は重要な公衆衛生の課題となって来た.そのうち,脳卒中・心臓病に対しては集団検診および検診後の管理の必要性が叫ばれ,各市町村関係者は保健所や各種医療機関の協力を求めて,その活動を進めて来ており,すでに20年近くを経過して軌道に乗っている地域もある.
 しかし,住民の検診から,その後の健康管理まで一貫した対策がとられている市町村は数が少なく,また,その内容も異なるのが実情であると思われる.さらにこの10数年間には社会経済上の大きい変化がみられて来たが,その中で小地域間で循環器疾患の死亡状況に差が出ているかどうか,また,通常の行政レベルで行われている循環器検診が,どうそれに影響しているか,が問題となる.

へき地診療所医師の就労意識

著者: 竹内宏一 ,   宮田昭吾 ,   高橋英勝

ページ範囲:P.354 - P.359

はじめに
 へき地に勤務する医師確保対策に対しては種々の研究や提言がなされている1)5)3).しかし現在へき地に住んでいる医師たちが毎日どのような意識で働いているかについての分析は,集団としてはあまりなされていないようである.既に我々は,へき地診療所医師の意識について検討を加え,若干の提言を加えて問題点を指摘した4).今回は就労意識ないしは就労意欲を中心として他の特性との関係を検討した.すなわち今後へき地に勤務する医師を確保するにはどのようなことを重視したらよいかを,医師の就労意識から探り出そうと意図したわけである.

フィリピンにおける日本住血吸虫症の駆除と土地の文化

著者: 田中寛

ページ範囲:P.360 - P.365

I.はじめに
 世界中で住血吸虫症の罹患者は,ほぼ2億に達すると推定されている.その患者の多さからも,病原性の強さからも,寄生虫症の中で最も重要なものの1つとされている.人の住血吸虫症の3種の中,アフリカにはビルハルツとマンソン住血吸虫が,中南米ではマンソン住血吸虫が,東洋では日本住血吸虫,Schistosoma japonicumが分布しており,最近まで日本でも地方病として重要であった.
 フィリピンでは全面積の10分の1が日本住血吸虫の浸淫地であり,浸淫地内の人口は約300万人にのぼり,約50万人が罹患していると推定されている.

日本列島

沖繩県における食肉検査

著者: 伊波茂雄

ページ範囲:P.309 - P.309

 沖繩県では昔から養豚や山羊の飼育が盛んであり,盆・暮れやお祝いの時には自家屠殺をして一族郎党を集め,肉料理を振舞うのが慣習となっていた.しかし日常は動物性蛋白質の摂取量が不足しており,国民栄養調査によると,総蛋白摂取量は全国平均の70パーセント程度にすぎない.そのためかどうか不明ではあるが,学童の体位も平均して劣っており,全国平均より各年齢とも10パーセント以上低かった.戦後は米軍に占領されてから米国人の食生活の影響を受けて,ハム,ベーコン,ソーセージ,ポークランチョンミートのような肉製品を多く食べるようになり,そのための輸入関税がほとんどかからないよう措置されていた.昭和47年5月15日,沖繩県となって日本復帰した際,特別措置により5年間は従来通りの低税率が認められ,県民が戦後20数年間の食習慣でなれ親んできたこれらの肉製品が廉価で購入でき,喜んでいる.沖繩県は四面海に囲まれ,水産業は盛んなように思われるが,実際は魚介類のほとんどが県外からの移・輸入に依存しており,その消費量に比較すると,むしろ毎年30万頭程度屠殺している豚肉の消費が多いようである.
 県では,昭和47年に237,390頭,48年には262,752頭,49年には324,965頭と,屠殺頭数が復帰後3年間で約40パーセントと伸びたのに伴い,屠畜検査業務の強化をはかってきた.

岐阜県郡上郡の地域医療

著者: 鈴木大輔

ページ範囲:P.352 - P.352

 郡上郡は,中部圏のほぼ中心,岐阜県北西部にあり,総面積1,032km2の91%は山林である.地理的には,東海道メガロポリスと北陸地方を結ぶ中心点に位置し,長良川の豊富な水資源と深山渓谷の自然美があり,多くの観光資源に恵まれている.このため,遊漁,キャンプ,スキー,ゴルフ,あるいは史的情緒あふれる郡上織,民芸品のほか,郡上盆おどりも含めると,年間数百万人もの観光客が郡上を訪れるものと思われる.
 郡上郡は7ヵ町村(八幡町・白鳥町・大和村・高鷲村・美並村・明方村・和良村)からなり,郡上保健所が衛生行政の第一線機関である.人口は昭和35年に61,594人であったのが,昭和49年には53,155人と,約15年間に8,439人減少しており,過疎化現象が表面化している.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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