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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生40巻6号

1976年06月発行

雑誌目次

特集 地域の健康管理

地域の健康管理

著者: 山本幹夫

ページ範囲:P.370 - P.376

はしがき
 筆者は最近,「医学教育におけるコミュニティ・ヘルスの位置づけ」と題して,本誌に論文を依頼されて寄稿した1).編集者が「地域の健康管理」と「コミュニティ・ヘルス」との間にどんな相違があると考えているのかを,十分にただしてみる機会が筆者にはなかった.筆者自身は,両者を全く同一の内容をもつ言葉であるとしていることは,別の論文2)にも記したところである.前の論文は,このCommunity Healthを医学教育にいかに位置づけて行うべきかに主点をおいて論じ,後者は地域社会において行われる健康管理(地域保健と同義と著者は考えている)についての特集の冒頭の論文として,すなわちその導入として求められていると考え,お引き受けしたしだいである.だが同一人によるものであるので,たとえその重点を異にしているとしても,各所に重複する部分が生ずることは,あらかじめお許しいただきたい.前の論文では,スイス国Selby教授(1974)の行った国際研究の結果などを引用して,わが国を含む先進諸国の直面する保健問題の将来予測とともに筆者等の解析も含めて,わが国の保健問題の現状をまず述べたが,わが国の地域保健を考える場合にもぜひとも,これらの一般的基盤をふまえて考察を進めなければならないことは,また当然であろう.

三鷹市における市民健康管理について

著者: 鈴木平三郎

ページ範囲:P.377 - P.383

はじめに
 人間にとって一番貴重なものは,生命であり,健康と長寿の保持である.これをまもるのが福祉である.人間の健康と長寿の保持には,3つの道がある.1つが社会保障,1つが生活環境整備,1つが住民の健康管理である.
 豊かな生活,恵まれた生活環境,行き届いた健康管理なしでは,住民の健康と長寿の保持はできない.日本国憲法第二十五条に,「すべて国民は健康で,文化的な,最低限度の生活を営む権利を有する.②国は,すべての生活部面について,社会福祉,社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない」と明記されているが,現況はどうであろうか.国および地方自治体は,社会保障には熱心である.これは,すべて個人給付で,票に結びつくからである.生活環境整備は,特に公共下水道,都市公園,公営住宅,ハイウェイ,用地取得などに膨大な資金を必要とし,工事に種々困難があり,地味な仕事なので等閑にされがちである.

地域の実情にあった独自の展開を—自治体行政の立場から

著者: 須川豊

ページ範囲:P.384 - P.387

はじめに
 地域住民の健康管理を考えると,地域保健論になってしまう.そして筆者がしばしば述べているように,具体的な展開は国と地方自治体,とくに保健所の関与のやり方に支配される.
 また「地域」を考えると,人的・物的の条件に支配されるので,県や市町村当局の動向と医師会や住民団体などの動きに左右される.そこで具体的に設定する場合,これらの条件がどうあるかによって推進のやり方が変わる.これは国の方針がどのようであっても,地域の関係者の展開のやり方によって,独特な施策が可能であること,また地域の大きさ,すなわち県全体,市町村全域,およびより小さな地域など,どのようにも設定できることに通ずるのである.

保健所の強化は専門医師の確保から—群馬県高崎保健所および藤岡保健所の活動

著者: 山口健男

ページ範囲:P.388 - P.390

健康管理の意味
 地域の健康管理を論ずるに当たり,まず健康管理の意味を考えてみたい.
 管理という言葉は,ある目的のもとに対象を管理する者の意図に従わせようとする,多少とも強制的なニュアンスを持っている.かつて衛生行政が警察行政の一環として,社会防衛という大義のもとに進められた時代には当然のことであり,現在でも伝染病予防や予防接種行政等にその考え方は残っているが,社会福祉の立場,住民意思の尊重,プライバシー尊重の観点からは,サービスとしての健康管理という考え方が必要であり,今後の地域の健康管理を考える場合にも,この視点を見失ってはならないと思う.

母子保健事業の展開と保健所の機能—小田原保健所の活動

著者: 鈴木忠義

ページ範囲:P.391 - P.394

はじめに
 地域の健康管理とひと口にいっても,その対象と内容はいちじるしく大きな広がりを持っている.母子保健を例にとれば,結婚前の女子,妊産婦,新生児,幼児などの年齢的なもの,貧血症,妊娠中毒症,未熟児,障害児などの質的なものがある.さらに生まれてくるわが子への人知れない不安や,発育ノイローゼなどの心理的なもの,あるいは未婚の母,それに関連することが多い,わが子を殺してしまう問題など,広くすべての地域住民が経験するであろう問題と,ごく限られた人が持つであろう,量的には小さいが,しかし質的に大変複雑な現象などがある.これら,人の生存を左右する因子を発見し,正しく理解し整理して,住民とともに考え,専門技術を用いて援助することは,これだけでも実は大事業である.ましてや,旧来の伝染病対策の概念から逸脱するような感染症,あるいは循環器疾患・悪性新生物などの成人病,環境の汚染によるいわゆる公害病などの諸問題を限られた組織と予算で消化していくことは,まさに広く,浅いという批判のとおりである.
 しかし,現在衛生行政の第一線機関を自負する保健所は,これらを自覚しながら,大なり小なり何らかの形で関与し,時にささやかな満足と,時に大いなる敗北感やあきらめを感じつつ,日々の業務に励んでいるといったところが,いつわらざる現状であろうか.

住民サイドに立った保健婦活動を目指して—友人との対話から

著者: 関口美代子

ページ範囲:P.395 - P.397

 社会教育を担当している夫と議論をかわすことがある.夫はいう.「保健行政はおかしいよ.県も市もまるでめちゃくちゃじゃないか.例えば県は施設をつくる,人を教育する,市は住民と接して第一線活動をする,そんな区別がまるでないじゃないか.」この言葉に私はまるで弱い.なぜって本当にそう思うからである.
 このことは,私が保健婦になった昭和32年も,19年目の今も全く同じなのに驚きあきれ,そして恥ずかしいと思う.

公害健康被害補償法による家庭療養指導の実際—東京都特別区に働く保健婦の立場から

著者: 渡辺寿美子

ページ範囲:P.398 - P.403

 健康管理とは,①自らの健康状態を知るということであり,②それには科学的に知る必要があること,③それによって健康状態に変化のあった時はどうしたらよいのか,ということなどを考えてみる.当然のことであるが,自分自身(住民)が立ち上がることであり,それを援助するのが自治体の大きな任務であると思われる.中でも保健所保健婦の役割は重要である.健康教育,家庭における看護指導と援助,保健指導などの実践による地域の健康管理の担い手であるし,その発展の有無の鍵をにぎっているのではないだろうか.
 昭和50年4月,保健所が特別区に移管されてから経験した事項を中心に,縦割行政の機械的な実施は,真のサービスとはならないこと,また,これをどのように交差させ,地域行政として発展させるべきかを考えたいと思う.

新たな発想と体制が求められる東京都の健康管理—都医師会の立場から

著者: 若狭勝太郎

ページ範囲:P.404 - P.406

はじめに
 国民医療は,一般に臨床活動と公衆衛生活動とにより展開されるといわれている.臨床活動は,個人を対象とする病院,診療所における活動がその入口であり,公衆衛生活動は,集団的取り扱いをその入口とする活動である.
 しかしながら,臨床活動は,社会保障制度,とくに保険制度の抜本改正が遅々として進まない現状に加えて,いわゆる公費負担制度が保険に便乗して無秩序に拡大し,制度の混乱と事務量の増大をもたらすことになり,医療遂行をはなはだしく阻害しているといわなければならない.

地域健康管理のコーディネーター—医師会の立場から

著者: 馬場賢一

ページ範囲:P.407 - P.413

 社会に貢献できる生きる力に溢れた健康と,常に生きがいのある福祉社会とは,人間の生存秩序を守るための基本的な要件であることは誰もがうなずけよう.
 地域の健康管理も畢竟,健康と福祉の保持と向上のためのものであり,その実践には,医学とそれを社会と人間に適応する医師が大きな役割を担っていることは当然である.日本医師会は,地域健康管理の重要性をとり上げ,約20年前から医師個人としてはむろん,学術団体である医師会として積極的に地域に働きかけ,地域のニーズを探り活動すべきであることを強調している.

地域健康管理における医師会の役割—大阪府医師会の活動

著者: 横田文吉

ページ範囲:P.414 - P.417

健康検診の現況
 大阪府は全国都道府県中最も狭小で,その中心に人口280万の大阪市をもっている.昼間にはさらに約90万人の人口流入超過があり,いわゆる僻地と呼ばれる地区は極めて少ない.このような大阪府でも北部と南部で医療に質的格差がある.
 すなわち,大阪府下のがん患者の住所地別受療状況では(表1),入院率,手術率ともに北部は南部より優位にたっている.興味あることはその診断方法で,胃の内視鏡検査率はやはり北部が高いが,子宮がんの細胞診,組織診実施率になるとほとんど格差なく,全国的にも大阪府は極めて高い実施率をあげている.

住民の健康は保健衛生教育の体制づくりから—福島地区衛生組織連合会の活動

著者: 飯沼伝

ページ範囲:P.418 - P.422

はじめに
 私は地区組織の活動を推進する指導上の立場から,地域における公衆衛生の向上と衛生教育の啓蒙を図り,住民の健康を守る,明るい豊かな住みよい地域づくりを展開して,住民の健康管理に努力しているが,近年の著しい高度の経済成長は人口の構造,社会構造に大変遷をもたらし,行政は広域化や中央集権化,重化学工業化,都市化に重点をおいて,国民総生産は類例のない急速な伸展をみた.しかしその反面では,都市における,さまざまな過密の弊害を来たし,中央,地方を問わず産業間の格差の増大,地域階層の分化,自然の破壊と生活環境破壊行為や交通事故の続出,公害発生などにより,今や社会の注目すべきあの悲惨な公害病などが起こり,地区住民の生活と健康をめぐる社会的な問題が,これからもさらに深刻化するであろう.
 今やこのような現況のなかで,住民の健康と福祉の増進・向上を目的として地域の組織を強化し,保健衛生に関する教育活動を推進して住民の健康管理に万全を期さねばならない.

ボランティアによる地域衛生活動—衛生婦人奉仕会の立場から

著者: 嶋田マスヱ

ページ範囲:P.423 - P.425

 私たち衛生婦人奉仕会は,保健衛生活動を進める上で,たいへん恵まれた立場にあると思う.そのことについて衛婦発足の当時からを,振りかえってみよう.

発言あり

医辞連

著者: ,   ,   ,   ,  

ページ範囲:P.367 - P.369

命の可能性は測れない
 ある学生が,臨地実習で脳性小児マヒの子供を2人持つ家庭に接した.その時,その学生は感想としてこんなことを言った.「どう考えても,この2人の子供が健康な体にもどることはない.家族の負担は大きくなるばかりだ.こういう未来の可能性が持てないケースでは何をやっても一時しのぎで,希望が持てない」.この言葉を聞いた時,私はその医療従事者の姿勢に寒々とした気持を味わった.
 どんな状態を健康と考え,何に幸せを感じ,生きることの価値をどこにもとめるかは,人それぞれに異なる.ピチピチと五体満足で生きていることは,幸せの1つには違いない.異常児で生まれたり,あるいは不治の病にかかった場合,そのこと自体は不幸であり,希望に満ちているとはいえないかもわからない.しかし,現代医療技術の可能性に限界があるからといって,医療を放棄し,看護の手を差しのべる事をやめる理由にはならない.

研究

離乳に関する母親の意識・行動について

著者: 江口加代子 ,   林路彰 ,   則松正二 ,   園田真人

ページ範囲:P.426 - P.430

はじめに
 最近,わが国では食糧事情が豊かになり,乳幼児・学童の身体発育も向上しつつある.松島1)は,離乳の開始・完了の適正な時期と離乳食の内容,とくに動物性タンパクを豊富に与えることの意義を強調している.とくに母乳栄養を重点にしてきたわが国でも,最近は混合・人工栄養が増加し,また市販の離乳食品の普及による離乳の変化も考えられるようになった.
 したがって,現時点において,離乳に対する母親の意識・行動を調査することは意義があると考え,東京都,北九州市および福岡県農村の3地区を選び本調査を行ったので,その成績を報告する.なお,これら3地区を選んだ理由はとくになく,調査が可能であったからである.

調査報告

四日市地区における慢性閉塞性肺疾患の換気機能検査と血液ガス分析の結果について

著者: 山崎節子 ,   辻和見 ,   渡辺千草

ページ範囲:P.431 - P.435

I.緒言
 四日市市では昭和35年頃から石油コンビナートの本格的操業が始まり,37年頃から,大気汚染が住民の健康に及ぼす影響について種々の調査が行われてきた.その後,全国的に注目された公害裁判が47年8月,住民側の勝訴に終わったことは記憶に新しい.49年10月「公害健康被害補償法」に基づく障害程度の基準決定のため,いわゆる公害患者について各種の医学的検査を施行した.今回は,そのうち,主として呼吸機能検査に関する成績について一部集約する機会を得たので報告する。

日本列島

4年目を迎えた岐阜県立健康管理院

著者: 鈴木大輔

ページ範囲:P.406 - P.406

 岐阜県立健康管理院(別名健康院)は,昭和48年4月にオープンして以来,この4月で3年間を経過し,36,739人(48年度12,038人,49年度11,693人,50年度13,008人)の健診を実施した.受診者の年齢構成は,40代が44.0%と最も多く,次いで30代の22.9%,50代の22.0%,60代の6.8%で,残りが20代,70代となっている.
 全受診者(48年度−50年度,36,739人)に占める「健康者」の割合は28.4%,「要観察者」は35.7%,「要精検者」は35.9%と,健康者は少ない,これは,検査項目が40数種目にわたっているため,「異常なし」の割合が少なくなっているからだと思われる.

岐阜県公衆衛生看護学会の開催

著者: 鈴木大輔

ページ範囲:P.436 - P.437

 第8回岐阜県公衆衛生看護学会(会長中島さと子・保健婦部会岐阜県支部長)が,昭和51年2月13日,14日,岐阜ヤクルトビルで開催された.今回の主要テーマは,「地域看護を考える(在宅看護を通して)」である.
 第1日目の午前中は,研究発表があり,加藤明子保健婦(岐阜市中央保健所)の司会のもとに,各ブロックの演者から,下記のような発表がなされた.所属名,演者名,テーマ,主な内容の順に列記する.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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