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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生40巻7号

1976年07月発行

雑誌目次

特集 産業衛生と地域保健

緒論・わが国の産業構造の特徴と地域保健

著者: 西川滇八

ページ範囲:P.442 - P.443

社会経済的発展段階と地域保健
 地域保健活動community health serviceは,それが対象とする地域社会が複雑多岐であり,しかも流動的な諸要因を含んでいるので,決して一律に進めることはできない.W.ロストウが,社会経済的発達段階を,伝統的社会・過渡期・離陸期・技術的成熟期・高度大衆消費時代の5段階に分類して,それぞれの社会に対応した公衆衛生活動が必要であることを強調してから久しい.
 わが国のレベルは,W.ロストウがいう高度大衆消費時代に相当している.政府は福祉国家をうたい,社会政策は社会保障から国際分業の一翼をになう社会計画をつくろうとしている.労働力人口5,200万人のうち,第一次産業人口がしめる割合は,ようやく19%弱である.都市人口が全人口1億1千万人にしめる割合は,ロストウの基準の60%を越えている.1965年頃から東京・中京・近畿の三大都市圏の人口増加は社会増加から自然増加に変わってきて,いわゆるUターン現象が現われたとはいえ,依然として都市に生活の本拠をおくものが全人口の3分の1に近い.

地域と職場における環境条件のチェックシステム

著者: 堀口俊一

ページ範囲:P.444 - P.450

はじめに
 企業体が汚染源となり,地域保健を著しく阻害しているという実態を背景として,特集テーマに対し各論的に掲題のテーマに考察を加えることが,本稿に求められた主旨である.ところで環境条件のチェックシステムという場合,1つは行政的機構,いま1つは観測系統について論ずべきであろう.しかし筆者はこれらについての専門家ではなく,職業性中毒を専攻する一労働衛生学徒である.最近における労働衛生(産業衛生)の趨勢の特徴は地域保健との関連が密接になってきたことであり,筆者自身も,いわゆる公害行政に関与させられる時代になってきた.このような立場から,職業性中毒をひきおこし得る職場の空気環境と,公害健康被害をひきおこし得る地域の大気環境とを対比し,両環境条件のチェックの現状と将来への期待について述べたいと思う.

環境基準と職場の許容濃度の考え方

著者: 野見山一生

ページ範囲:P.451 - P.456

一般生活環境と労働環境における健康観—健康影響に対する考え方の相違—
 大阪から東京まで550km.しかし,新幹線ならわずか3時間10分で行ける.会議が東京であっても,何も東京に泊ることもない.夕方までに会議が終わりさえすれば,大阪の我が家に帰ってゆっくり休むこともできる.新幹線という近代科学の産物から受けた恩恵は測り知れないものがある.だが一方,新幹線沿線の住民が,新幹線の走るたびに騒音や振動で悩んでいることも忘れてはならない.幹線道路沿いの住民や飛行場近隣の住民の悩みも同じようである.そこで,これら住民の騒音による健康被害について考えてみたい.
 一般生活環境では,不快感,会話妨害,作業能率の低下,睡眠妨害などの日常生活の妨害が問題とされる.不快感についてみると,騒音レベルが55〜59ホンになると,「気分がいらいらする」,「腹がたつ」,「不愉快になる」,「安静が保たれない」などの情緒的影響を訴える住民が50%にも達する(昭和42年大阪市調査).会話妨害についてみると(厚生省生活環境審議会公害部会),45ホンで聴取明瞭度が80%,会話可能距離が4mであるが,60ホンになると聴取明瞭度は60%に低下し,会話可能距離は1mに短縮する(図1).また表1に示す通り,作業能率についても,加算速度が55ホンで低下し,90ホン以上ともなれば,仕事上の誤りが増えることが知られている(坂本1967).睡眠妨害は40〜45ホンで起こる.

地域と職域の健康被害—方法論序説

著者: 大平昌彦

ページ範囲:P.457 - P.462

はしがき
 1960年代以来のわが国は,世界に例を見ないスピードで経済の高度成長を達成した.それに伴ってわれわれの社会生活は著しい変貌を遂げたが,同時にそれはいまだ経験したことのなかった多くの健康上の問題点をもたらした.生産と消費の巨大化に伴って,環境汚染物質が工場から地域へ拡散して各地の公害問題を惹起し,あるいは生産された製品そのものの毒性が消費者の生活に障害を与えるに至った.
 さらに,生産機構そのものの構造的な性格によっても,地域の住民たちが職業病の危険にさらされる労働に従事する場面が広がって,国民の健康に関しては,地域と職場とを分離して考えること自体が正鵠を得た問題の把握ではないことを示している.

公害健康被害補償と労災補償

著者: 大島一良

ページ範囲:P.463 - P.468

はじめに
 「緒論」でも述べられているとおり,わが国の経済の急速な拡大と都市化・工業化の進展が国民の所得の上昇および消費生活の向上をもたらしたことは否めない事実であるが,その反面,オイルショックを迎え,低成長期に移行したといわれる現在においても,著しい環境汚染という犠牲を,それが国民になお強い続けている事実も,認めざるを得ない実態であろう,ことに環境中の水質の汚染,大気の汚染は,国民の日常生活に重大な影響を及ぼしたことはもちろん,その健康をも蝕む結果となってしまった.それまでは,工場の内部だけでおさまっている程度であったものが,外部の一般生活環境にも滲み出し,よしんば外部に廃棄され,排出させられても,外部の自然浄化能力を超えない程度であったのが,その能力をはるかに超えて,排出廃棄される結果,急速な環境破壊や健康障害が起こってきた.終末処理については全く考えていなかったのである.その結果,当然のことではあるが,社会問題となり,企業と地域社会との争いとなったのである.その代表的なものが,例の四大公害裁判である.すなわち,水俣病訴訟,四日市公害訴訟,新潟水俣病訴訟およびイタイタイ病訴訟である.

産業精神衛生と地域精神衛生

著者: 石原幸夫

ページ範囲:P.470 - P.476

I.地域保健と地域精神衛生
 地域精神衛生community mental healthとは,今日では,立場を異にしたさまざまな捉え方があるが,一口でいえば,精神衛生の公衆衛生的実践であるということができる.すなわち,公衆精神衛生public mental healthである.
 公衆衛生的実践,つまり公衆衛生活動public health practiceとは,その最も大きな特色を,C-E. A. Winslowの言葉を借りれば,組織化された社会的努力organized community effortによる実践活動においている.この意味では,地域精神衛生も組織化された社会的努力による実践活動でなければならないが,残念なことに現実は,この公衆衛生的接近が最もむずかしいと考えられてきた.

産業廃棄物処理と地域保健

著者: 平岡正勝

ページ範囲:P.477 - P.482

I.はじめに
 昨年,6価クロムを含む産業廃棄物問題が突如として新聞紙上で取り上げられ,さまざまな報道がなされた.そして政府は環境庁を中心に,関係6社9工場の実態調査を実施し,これら工場からこれまで排出されたクロム鉱さいの総量は約115万トンであり,このうち,廃棄物処理法施行前に処分されたものは約89万トンで,無害化しないで埋め立てられているものは約77万トンである,廃棄物処理法施行後に排出された約26万トンは処分基準に従って処分されているものとみられる,と発表している.
 三木首相は,昨年8月22日の閣議の席上で,産業廃棄物に関する処理体制の見直しを指示し,これに呼応して,環境庁が中心となって,8関係省庁からなる産業廃棄物問題関係省庁協議会が設置され,今後の対策の方向について昨年11月25日に報告がなされている.田中厚生大臣は,昨年9月5日に現行廃棄物処理法の改正の方針を明らかにし,9月22日には生活環境審議会に法改正を含む産業廃棄物処理制度のあり方について諮問した.審議会では,その後,同審議会廃棄物処理部会の中に産業廃棄物処理制度専門委員会を設置して,具体的な検討に入り,12月11日に審議会の答申が厚生大臣あてになされた.

発言あり

5つ子

著者: 中野英一 ,   中島さつき ,   堀田元 ,   山口誠哉 ,   渡辺寿美子 ,   ,   ,   ,   ,  

ページ範囲:P.439 - P.441

5つ子プロジェクトチームの成果を普遍化せよ
 わが国の乳児保健の現況は目ざましい改善をみせ,全国的にみると,昭和22年当時と比較して,新生児死亡率は約5分の1に低下し,乳児死亡率では約10分の1に低下した.しかしこれを地域別にみると,今なお地域格差が目立ち,とくに青森,宮城,秋田等東北地方の諸県や,熊本,大分,鹿児島等九州地方の離島や陸の孤島的な地域を多く含む諸県には高いようである.
 生下時体重が990グラムという極小未熟児を含む5つ子が,1月31日に鹿児島県で誕生した.鹿児島市立病院で立派に保育され,すくすくと育っている.今回誕生した5人の赤ちゃんは,心身ともに健全な両親から,低体重児という身体的特徴以外は何ら機質的・機能的な先天異常もなく出生できた幸運児たちであった.十分な医療施設を備え,練達の医療技術者を擁する病院であればこそ,一時にこのような極小未熟児が入院しても,立派に保育し得ることを証明したのである.

研究

窒素酸化物の生体への影響について—特に肺の脂質代謝への影響を中心として

著者: 嵯峨井勝

ページ範囲:P.483 - P.489

はじめに
 昭和50年12月26日,環境庁は昭和49年度『日本の大気汚染状況』に関する報告書1)を発表した.これによると,わが国における近年の大気汚染の様子は図1に示すように,二酸化硫黄(SO2)による汚染は昭和42年より確実に減少しつつあり,その年平均値は環境基準値(1時間値の1日平均値が0.04ppm以下)の約半分になっており,大気汚染防止法に基づく効果が現われていることがわかる.一方,二酸化窒素(NO2)の汚染は年々徐々に増加してきている.図1からもその年平均値が環境基準値2)(1時間値の1日平均が0.02ppm)の1.7倍程度に達しており,53年完全実施までに達成することは非常に難しい状態にあることがわかる.
 NO2はその生体への影響がSO2に比べてはるかに強いことと同時に,その発生防止技術が困難で未解決の問題が多いことを考え合わせると,大気汚染物質の中で現在最も注目すべき物質,といっても過言ではない.

綜説

公衆衛生からみた肥満の諸問題

著者: 園田真人

ページ範囲:P.490 - P.495

I.肥満をどう考えるか
 肥満が食物の過剰摂取と運動不足によって起こりやすいことは栄養学的に考えられるが,単純に,必要以上のカロリー摂取によって起こるという考えは,改めなければならない.なぜならば,肥満が脂肪組織の一次的な異常によるものか,脂肪組織の代謝異常によるものか,全身の代謝異常の二次的な現象なのか,いまだ解決できていないし,それに社会的な因子も加わるからである.
 肥満は単に体重の増加現象であって,とくに小児の肥満は,肥満という現象をのぞけばまったく正常であるという意見もあるが,小児の肥満の80%は成人の肥満に移行すると考えられている1)

医師の救急応需と責任に関する考察

著者: 小野恵

ページ範囲:P.496 - P.500

はじめに
 突然の傷病による受診が急がれるとき,早速にかなえられてこそ医師の役割は価値あるものとなる.
 国民皆保険の制度は,受療に要する経済的負担を軽減し,受診を容易にした.この意義はまことに大きく,戦前まであった医師の不応需禁止規定の罰則が,患者の治療費未払いを立法の主な理由としていたのに,医療保険が確立されるにつれ,いずれこのような理由による医師の不応需は消滅すべき運命にあると予知していたかのように,戦後の現行医師法には罰則規定がおかれていない.

調査報告

島根県における「脳卒中予防特別対策事業」の評価

著者: 関龍太郎 ,   亀家朗介 ,   多田学 ,   藤永励子 ,   山根洋右 ,   滝田親友朗 ,   能勢隆之 ,   菅村昭夫 ,   平井和光 ,   山家靖弘 ,   矢崎誠一 ,   小谷勉

ページ範囲:P.501 - P.506

はじめに
 我が国の脳卒中による死亡は,昭和26年以来首位をつづけている.その対策の重要性は数多くの研究者によって明らかにされている1)〜8)
 国においては,昭和44年度から3年間,脳卒中の半減を目標として,「脳卒中予防対策」をとりあげた.この事業の対象として,脳卒中粗死亡率が全国平均の2倍以上ある市町村の中から,44年度は秋田,福島,新潟,長野,島根,岡山の各県において,74地区を選び,45年度は,岩手,千葉,山梨,鳥取,高知,鹿児島の各県において,57地区を選び,それぞれ実施された.

資料

老人医療と特別養護老人ホーム

著者: 黒沢和夫

ページ範囲:P.507 - P.510

はじめに
 わが国における老人人口の増加に伴い,国民死因にしめる老人病の比率が高まり,疾病に悩まされる老人が増加した.さらに,心身の機能障害のある老人が増し,厚生省調査によると,現在全国に35万人以上の寝たきり老人がいると推測されている.昭和48年の厚生省国民健康調査では,わが国の65歳以上の老人の有病率は約35%に達し,これに対し受療率の方は約15%にすぎない.同じ昭和48年の老人健康診査の結果では,65歳以上の老人の41.8%が要療養となっており,極めて高率である.
 特別養護老人ホーム(以下,特養ホームと略記)は,精神身体的に欠陥があって,常時介護を要し,かつ居宅においてこれを受けることがむつかしい老人を収容する目的をもって,昭和36年から開設され,現在に至っている.

長野県北信地方におけるねたきり老人事例調査

著者: 高橋貞雄 ,   国本一夫

ページ範囲:P.511 - P.513

はじめに
 いわゆるねたきり老人は全国で40万人をこえるといわれ,そのなかでも脳卒中後遺症によるものがもっとも多いことはよく知られている.
 長野県においては,ねたきりの原因となる疾病として,脳卒中後遺症が56パーセント,老衰19パーセント,リウマチ10パーセントと,脳卒中後遺症の割合が著しく高いことが特徴である1)

日本列島

続発する未熟児網膜症訴訟と行政の責任—岐阜県

著者: 鈴木大輔

ページ範囲:P.469 - P.469

 わが国の医療裁判史上において,最初の未熟児網膜症訴訟判決が,昭和49年3月,岐阜地裁で言い渡されたことは,まだ記憶に新しい(本判決傍聴記は本誌38巻5号314頁に紹介).それ以来,未熟児網膜症訴訟は,医学会,法学会のみならず,社会的にも大きな反響と衝撃を与えた.
 「未熟児網膜症から子供を守る会」では,「未熟児網膜症の発生は,病院の不注意によるものである」という,岐阜地裁の判決に勇気づけられ,新たに提訴したり,訴訟準備を始めたりするものが多いということである.

環境影響評価のための県指導要綱の施行—宮城県

著者: 土屋真

ページ範囲:P.476 - P.476

 公害のない地域開発をめざし,環境保全優先の原則から,環境影響評価(環境アセスメント)を実施するための県の指導要綱が,昭和51年5月4日から全国に先がけて施行になりました.
 これは,県の公共事業や県が許認可を与える民間事業などで一定の規模以上に適用になります.宅地や工業団地の造成など,大規模な開発行為が公害をもたらす恐れがないかを事前に審査する制度です.開発行為者は事業計画とともに詳細な環境影響評価書を県生活環境部長あてに提出しますが,審査の結果しだいでは計画変更や中止をさせられる強力な行政指導体制になりました.

第9回母子保健・家族計画大会開かる—沖縄県

著者: 伊波茂雄

ページ範囲:P.495 - P.495

 第9回沖縄県母子保健・家族計画大会は,県・予防医学協会の共催により,3月2日那覇市で関係者約300人が参加して開催された.県知事のあいさつのあと,母子保健・家族計画事業に永年従事し貢献した医師・助産婦および保健婦9名に対し,知事または大会長から表彰状が贈呈された後,特別講演,研究発表およびパネル討議が行われた.
 研究発表は沖縄本島中部にある石川保健所の調査をまとめて,「十代母親の実情」というタイトルでなされたが,その内容は,昭和49年6月31日から50年5月31日までに出生した第一子を持つ十代の母親104人を対象に面接調査したデータである.その主なものを示す.

官能試験法による畜舎臭気測定の実施—宮城県

著者: 土屋真

ページ範囲:P.510 - P.510

 伊達政宗ゆかりの地である県北の内陸部農村・岩出山地方は,畜産業のさかんなところで,多くは広大な土地に,何十万羽の鶏が飼われている鶏舎や,近代的な大規模な豚飼育場などがあり,また牛馬を放牧して酪農業等が行われています.一方,街中で今なお3頭ほどの豚を飼い,糞尿や畜舎の臭気が問題になったり,大規模鶏舎でさえ廃鶏の処理等に住民の苦情が絶えません.
 当県では,いろいろな臭気に対する測定法として「食塩水平衡法」がとられ,ポンプで食塩水中に吸引した悪臭を人の鼻でかぎ,臭気濃度200(県基準),とかと言っていました.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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