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特集 公衆衛生への提言 政策・行政
公衆衛生の転換と今後の方向
著者: 園田恭一1
所属機関: 1東京大学医学部保健社会学専攻
ページ範囲:P.535 - P.537
文献購入ページに移動昭和30年代の公衆衛生の転換を促した要因にはいくつかのものが考えられるが,やはりなんといっても,その直接的な条件としては,疾病構造の変化と,都市化・工業化の進展ということがあげられよう.長く死亡順位のトップを占めてきた「全結核」が,昭和30年の「人口動態統計」では一挙に第5位に後退し,それに代わって,脳血管疾患,悪性新生物,心疾患などが上位を占めるようになったという.伝染性疾患から慢性疾患への移行,そして「不慮の事故」によるものが30年代の後半から40年代にかけて5位からさらに4位に上昇してきたということに象徴される,交通災害,労働災害,公害,薬害などの激発ということは,いずれもこれらの具体的な現われに外ならない.さらにこれらの変化は,人口面では,その構成の老齢化と都市集中という形で現われてきているのである.
同じくこの昭和30年代は,「もはや戦後ではない」という言葉に象徴されたように,国民一人当たりの平均所得水準や消費水準が第2次大戦前の状態に復帰し,それを上回って上昇を示し始めた時期でもあった.とはいえ,このような生活の向上は,経済や物質面にとどまり,精神的・文化的側面においては,逆に頽廃や貧しさをも生んできたのである.
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