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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生41巻1号

1977年01月発行

雑誌目次

特集 地域保健医療計画の実際

地域保健医療計画の課題

著者: 橋本正己

ページ範囲:P.10 - P.12

■ニード,デマンドの増大とhealth planningの意義
 国際的にみて最近10数年の間に,health planningについて,計画技法の進歩とともに,世界の諸国は真剣な試行錯誤の中から,多くの貴重な経験を集積してきた.保健医療の領域にplanningが導入されるようになったのは,1960年代以来のことである.その契機は,感染症の制圧と人口老齢化を主要な動因とする傷病像と保健問題の質的変化,医療技術と情報科学の進歩,国民の健康観の深化の中で,保健医療に対するニードとデマンドの際限のない増大傾向に対し,その供給が人的,物的に限界を持つため,これらをニードとデマンドに照らして最大限に活用しなければならぬという,のっぴきならない要請であった.
 ところがここ数年来,周知のように,オイルショックを引金とした世界的な不況とインフレの進行の中で,保健医療におけるニード,デマンドとサプライの間の,前述のような相対的な関係は,さらに急速に悪化し,真に危機的な状況を迎えている.また,このようなきびしい状況は,社会体制の相違を越えて,世界の先進的諸国に共通するものであるが,pluralism(多様主義)の伝統が強く,医療供給体制の計画化が遅れているアメリカ合衆国ではとりわけ深刻であり,一方,人口老齢化のテンポがきわめて大きく,公害問題を契機として住民の健康観の深まりのいちじるしいわが国の場合には,まことに切実なものがある.

府県内の保健医療圏域の設定

著者: 小西宏

ページ範囲:P.13 - P.18

はじめに
 地域保健医療計画とは,一定の地域社会,すなわちコミュニティにおいて,保健サービス,医療サービス,福祉サービスが融合されたかたちにおいて一貫して提供され,自己完結的に地域住民の健康を守る体制づくり,と解される.
 保健サービスと医療サービスを包含した総合医療,あるいは包括医療という考え方が,わが国で大きくとり上げられるようになったのは昭和30年代の半ばからであるが,このような考え方はもとより突然出現したものではなく,敗戦後のわが国が福祉国家として生まれ変わる道程のなかで,社会保障制度を確立するための方策を摸索している過程において既に芽生えており,いち早く医療保障制度を達成した北欧諸国や終戦後早々に発足した英国の国営医療制度,保健福祉を目玉商品として売り出した共産圏諸国の業績が,大きな刺激剤として作用したとみることができよう.

圏域設定のための調査の実際

著者: 松本啓俊

ページ範囲:P.20 - P.28

まえがき
 一般に,圏域という言葉はきわめてあいまいに使われている.ここでは,地域保健医療計画策定のための圏域という意味づけをして,その手法をのべよう.そのような意味でいえば,筆者がかねてから慣用している医療サービス計画のための単位地域の設定が,これに該当するといえよう.
 保健医療サービスが他の地域的サービスと異なる点は,一つにはその階層性にあるといえる.そうした意味でサービスの本来性からいえば,そこに連続性が求められているという点にあろう.

府県単位にみたヘルスマンパワー計画

著者: 方波見重兵衛

ページ範囲:P.29 - P.37

はじめに
 保健計画の中で,地域住民の保健を直接推進するヘルスマンパワーが最も重要であることは,疾病構造の変化,社会経済環境の変化,医療技術の革新,医療機器の発展等があっても不変である.
 家族構成の変化,経済の急速な発展による環境破壊等には個々の人のみでは対応できず,問題によっては地区・地域・広域地域の住民集団として対応しなければ,解決できない場合もある.問題に対する住民組織の結成など,その対応のあらわれである.また地域の特殊性・問題によって,多様な集団対集団の対応の仕方が必要である.そこに,保健問題に対するヘルスマンパワーなど有限な資源のみならず,その機能をも考慮してシステム化を推進しようとする理由もある.

府県単位にみた病院計画

著者: 倉田正一

ページ範囲:P.38 - P.44

I.「府県単位にみた病院計画」という意味について
 「府県単位にみた病院計画」というテーマを与えられたのであるが,筆者は,病院計画が府県単位のみで進めうるとは毛頭考えていないのであって,地域単位は府県ではなく,住民の生活圏にもとついた「医療圏」である,という結論をえている.
 かつて,昭和47年,医療基本法案が第68国会に提出されたことがある.医療の理念をふまえて,国および地方公共団体が国民医療の確保のために講ずべき施策の基本を定める,というのが提案理由であった.国としてこのような姿勢が示されたことは一大進歩と考えられるのであるが,問題は,その施策の大綱の決め方にある.厚生大臣は附属審議会の意見をきいて,国が講じようとする医療計画の案を作成し,閣議決定を求める.これはナショナルレベルとしては当然であろう.しかし,都道府県レベルではどうなるであろうか.法案によれば,都道府県知事は都道府県医療計画審議会の意見をきいて計画を定めるのであるが,その施策というのは「国の施策に準ずる施策を講ずるほか,当該地域に必要なその他の施策」となっており,しかも医療展開の場の単位と考えられる医療圏に関しては,「必要に応じ,自然的・社会的条件を勘案して区分する地域ごとに計画を定めることができるが……」ということで,結局,施策は国から県へ,県から地域へ,すなわち中央から末端へ流してゆくというのが,法案を貫く思想であるとみることができる.

府県単位にみた健康管理計画—AMHTSの観点から

著者: 高橋英勝

ページ範囲:P.45 - P.53

はじめに
 健康管理とは,住民各自が生来の精神的および肉体的能力(才能)を十分に発揮し,健全な社会生活の実践のために,自己の健康を擁護しようとする自主的な行動であり,このような住民の自主的・積極的な保護行動を育成し,成就させるための総合的な保健環境とサービスを準備する社会的行動が,健康管理計画であるといえよう.
 実際には,健康管理サービスのプログラムは,人間の生涯にわたる連続的な内容を持つことが必要であり,母子の健康管理,成長・発育期の健康管理,成人(老人を含む)期の健康管理という様相を有しながら,これが相互に連続したものとして体系化されることが必要である.

地域保健医療における特別養護老人ホームの役割

著者: 森幹郎

ページ範囲:P.54 - P.59

はじめに
 初めに本稿の内容を要約すると,次の通りである.
 (1)欧米先進諸国においては,慢性疾患患者のために,慢性疾患病院を制度化している.そして,慢性疾患病院のコストは,一般病院のコストよりも相当に低額である.

地域保健医療計画と救急医療

著者: 岡村正明

ページ範囲:P.60 - P.66

はじめに
 地域住民の健康と生命を守るためには,その全体的な医療システムの中に,どうしても事故や災害あるいは突発的な疾病等で緊急に医療を必要とする場合についての,いわゆる救急医療サービスシステム(Emergency Medical Service System,以下E.M.S.S.と略称することにする)が確立していなければならない.しかしながら,このE.M.S.S.は,患者の病状に応じて緊急かつ適切に対応しなければならない.このような事態の発生は,昼夜間,休祭日を問わず,その発生が人間の行動するあらゆる場所におこるということ,また性・年齢等に関係なく,何人であってもそのような状態になる可能性があり,しかもその病態は,すべての種類の外傷から急性の中毒,その他不慮の事故などのように外因性の疾病から,内因的な急性疾患が新生児から小児・青壮年あるいは老齢者にまで多種多様に及び,さらに分娩周辺期の問題などきわめて広い範囲にわたっている.一言でいえば,地域住民の"だれでも"が"いつでも","どこでも"適時・連切に,その病状に適応して緊急の医療を享受できるような体制を維持・確保することは,単に供給側の医療従事者からだけでなく,いろいろの面から相当の困難性をともなってくる.しかも,このような困難性のあるシステムを単に全体的な医療システムの中での平常体制の枠内で取り扱うとすると,いっそうの混乱を生じてしまう懸念が大変強くなる.

地域保健医療計画におけるラボラトリーサービス計画

著者: 高橋武夫

ページ範囲:P.67 - P.73

はじめに
 地域保健医療計画については,その動向,課題,組織,運営等に関して,橋本1)2),福渡2),松本2),杉田2),その他多くの人々によって種々論じられているが,ここでは,その計画の中におけるラボラトリーサービス計画について述べることとする.
 保健医療における試験検査業務は,通常衛生検査といわれ,臨床検査と公衆衛生検査に分けられる.それぞれの検査は,検体検査と生体検査(生理学的検査,検診)に分けられ,また公衆衛生検査は,対人関係検査と環境衛生検査に分けて考えられる.ラボラトリーサービスを字義どおり解釈すると,多くは検体検査に属すると考えられるが,一部は生体検査も入り得るであろう.本論文では,主として検体検査を考えることとし,論述の都合で,若干生体検査に関しても触れることとしたい.

連載 図説 公衆衛生・1

ライフサイクルと健康管理対策の現状

著者: 安西定 ,   高原亮治 ,   川口毅

ページ範囲:P.1 - P.6

 国民の一人ひとりが,その生涯を通じ,いつでもどこでも,その性,年齢,社会的条件に適合した適切なヘルスサービス,すなわち健康増進,疾病予防,保健生活指導,保健教育,健康診断,適正な医療,リハビリテーション等を常に享受しうることは,福祉社会の成立にとって欠くべからざる条件である.わが国における公衆衛生の発展史のなかでも既にこのような考え方は導入され,それなりに国民的,行政的努力を積み重ねてきたところである.今後,福祉国家建設と健康な国民生活の実現を目指すなかで,高率な有病率および受療率,医療費の増大,体力の低下と適正な医療確保問題,保健医療機能などの地域格差,生活環境問題,疾病構造と年齢構成の変化など国民の健康と福祉をめぐる問題は山積している.このようななかで,公衆衛生施策の推進は強く叫ばれているところである.
 この機会に国民の一人ひとりの生涯を通じた生活史,すなわちライフサイクルとこれに対応したヘルスサービスの現状を概括的に展望し,今後における公衆衛生施策の展開と生涯設計について,お互いに研究・検討する資料を提供するつもりでまとめたものである.

発言あり

福祉見直し論

著者: ,   ,   ,   ,   ,   辻達彦 ,   根木博司 ,   花田ミキ ,   松崎奈々子 ,   簑輪真澄

ページ範囲:P.7 - P.9

福祉の原点をさぐる
 「福祉」とは辞書によると幸福,仕合わせよきことである.幸福と別な意味ではないが,行政用語として定着している.もともと,幸(さち)とは漁または狩りで獲物のあることであり,結局,めぐりあい,運・不運ということに通じている(happyもまた原義はsuitable,fortunateであるから似ている).わが国の福祉行政は発育途上の未熟なものや,社会的弱者,健康不在者に対する特殊な配慮を背景にしている.これが果たして,常に人々の幸福につながるかどうかの反省は,ここでいう福祉見直し論の論拠ともなる.昔から福禄寿がひとの願いであるが,幸福を量産することは至難である.
 ある老人クラブを調査したとき,毎日が楽しいと答えるひとは多いが,毎日が楽しくないとするものが約5%にみられた.その理由の多くは,健康面よりも精神的なもので,妻子がない,友人がいないなど,孤独によるものが推定される.えてして,公衆衛生関係者はあまりに保健ということを強調しすぎるきらいがあり,すでに健康を失っているものに,抵抗・反感をいだかせやすい.これは,衛生教育のあり方で反省させられている点である.優先すべきは毎日の楽しさで,健康はそのすべてではない,ということに尽きるようである.

日本列島

岩宇地方における公衆衛生学的諸問題—北海道

著者: 吉田憲明

ページ範囲:P.19 - P.19

 1.岩宇地方とは後志支庁管内の西積丹沿岸地帯を呼称し,岩内郡と古宇郡の郡よりなり,総面積は605.51km2で,総人口は39,300人(昭和49年10月1日現在),人口密度1km2当たり64.9である.積丹半島の東側表積丹とは脊梁の峰々を境界として積丹町,古平町,仁木町と接し,南西側はニセコ連峰をへだて,倶知安町,ニセコ町,蘭越町が控えている.
 北西日本海沿岸には,ニセコ,積丹,小樽海岸国定公園があり,奇岩奇勝風光明媚の観光地として有名である.

日本公衆衛生学会総会を岐阜に迎えて

著者: 鈴木大輔

ページ範囲:P.59 - P.59

 第35回日本公衆衛生学会総会は,10月27日から3日間,岐阜市民会館等の8会場で約3,500名の参加者を集めて開催された.
 第1日目は,シンポジウムで「公衆衛生活動への他領域科学の導入をめぐって」(司会は田中恒男東大医学部教授),「実践の学としての公衆術生看護—看護理念と現場活動との結合—」(司会は坂本弘三重大学医学部助教授),特別講演として「保健所の課題—保健所の再建のために—」(小栗史朗名古屋市千種保健所長),および一般口演があった.

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用語欄

著者: 橋本正己

ページ範囲:P.12 - P.12

▶プロジェクション projection
 計画の基本的な技法.これに類似した用語にpredictionがあるが,後者にはforecastと同様,ある現象の予報として,経験的・主観的要素が含まれている.プロジェクションは,これに対し,一定の数量化された条件に基づく論理的な帰結で,将来予測と訳されていることが多い.例えば医師の将来供給では,入学定員,脱落率,学校数などの条件を設けておけば,その供給数は論理的に決定される.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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