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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生41巻10号

1977年10月発行

雑誌目次

特集 生涯教育

公衆衛生従事者に対する生涯教育の課題

著者: 野家美夫

ページ範囲:P.674 - P.675

はじめに■
 教育関係者の間で,「生涯教育」という問題が論議のたねになっていると聞いている.
 1965年,ユネスコが生涯教育の理念を提唱して以来,わが国でも教育界はもちろん,行政官庁,企業体などでも,それぞれの理解のしかたでこの問題を論議し,一部実践活動にも移しているようである.

公衆衛生従事者に対する生涯教育の媒体

著者: 山本幹夫 ,   寺尾浩明

ページ範囲:P.676 - P.678

一生の問題としての健康教育■
 公衆衛生従事者の第一の使命は,地域の住民の総合保健に対する専門的指導者としての任を果たすことである.健康管理は,一生の問題としてとらえる必要がある.健康管理が一生の問題なら,健康教育も一生の問題として考えていかなければなるまい.
 人の一生の健康は,自分の責任のもとで自らが守るべきもので,だれかれの責任に帰すべきものでないから,健康を守ることに対して,①自分の意思を明確にし,②正しい知識を受け入れ,③自分がそれを実現する態度や習慣,技能といったものを身につけさせなければならない.これらに対する人々の努力には,公衆衛生従事者は不断の力を貸す必要がある.

公衆衛生従事者からの提言

保健所医師の立場から

著者: 簑輪真澄

ページ範囲:P.679 - P.679

 筆者に課せられたテーマは,保健所医師としてどのような生涯教育を必要としているかを考えることであろうと思われるが,一般論はさておき,ここでは自分自身の置かれた状況を分析し,それに対してどのように対応すべきかを考えてみよう.
 筆者がこれまでに受けた卒後研修は,国立公衆衛生院専攻課程医学科と結核予防会結核研究所の長期コース医学科であり,インターン制度廃止後の登録医制度に基づく臨床研修は受けておらず,大学院で学んだこともない.筆者の受けた2つの研修は,あくまで保健所医師として,公衆衛生の,あるいは結核対策の極く基本的な訓練を行うものであり,時には通り一遍の講義もあり,大いに不満を感じたものである.しかしその責は,研修を行った機関にあるのではなく,むしろ,一方では超医学的で学際的な学問であり,発展途上学とでも言える未熟な公衆衛生学の基本を,極く短期間に教育することの困難さにあるのである.

公衆衛生医の立場から

著者: 野崎貞彦

ページ範囲:P.680 - P.680

 戦後の混乱期に復員船等によってもたらされた集団発生以来,約30年ぶりに発生した今回の有田市におけるコレラ患者は,100名に近い患者,保菌者を出して終息した.社会構造,人口構造等の大きな変遷により,公衆衛生活動に求められる量と質も大きく変わってきたが,新しく生じてきた公害,産業廃棄物等の問題とともに,急性伝染病の防遏のような基本的な問題についても,常に万全の注意がはらわれていなければならないことがわかる.公衆衛生従事者としては,多くの専門職種のものがチームとして仕事を進めているわけであるが,ここでは医師について述べてみる.
 医師の公衆衛生活動としては,医師法第1条に規定されているように,すべての医師がこれに従事することは当然のことであるが,ここでは狭義に衛生行政に従事する医師について考えてみたい.衛生行政に従事する医師数は,絶対的にも,また増加する一方の行政需要に対して,相対的にも年々減少している現状にある.衛生行政従事医師の確保対策としては,昭和37年のいわゆる野辺地報告以後も研究討議が続けられ,いろいろな方策が国および自治体等でとられてきたが,期待される成果は得られていない.

保健婦の生涯教育とは何か

著者: 三宅智恵子

ページ範囲:P.681 - P.681

はじめに■
 保健婦活動の出発点である看護の本質はいつの時代にも変わらないが,看護の機能は複雑に変化する社会情勢,疾病構造,保健医療問題等をふまえて,現実社会の要請に応じたものでなければならないと考える.
 住民の要求に応じて,保健婦が専門職にふさわしい活動をするために,その専門領域について学習するのは当然なことである.社会に敏感に反応し,将来を見通す力をつけるためにも,保健婦の生涯教育は必要である.私自身の地区保健婦と学生教育の経験を通して,以下に,感じたことを述べる.

保健婦の立場から

著者: 屋良キヨ子

ページ範囲:P.682 - P.682

 生涯教育は,あらゆる人々にとって重要ですが,特に「保健指導を業とする」保健婦には不可欠のものと日頃痛感していますので,現場で働く保健婦として,卒後教育を中心に意見をまとめてみました.
 住民の健康の保持増進をはかるため,地域における幅広い保健婦活動が公衆衛生分野に確固たる位置を占めて久しくなりますが,ともすると各専門分野間のパイプ役に終わってしまいがちです.しかし住民は,それでは納得しません.例えば,障害児をもつ親から「保健所は何もしてくれない.保健婦の指導は一般的で役に立たない」と指摘されることがあげられます.住民の要求に応じ,満足な指導をするには,保健婦自身,深く学ばなければなりません.保健婦の場合,業務が広範囲にまたがっているにもかかわらず,新卒者・就業者に対する卒後の系統だった教育が十分に行われていないせいもあって,指導が一般的になりがちです.

衛生教育従事者の立場から

著者: 上條好一

ページ範囲:P.683 - P.683

公衆衛生体制と教育体制■
 生活概念の側面としての健康教育のあり方が,今日さまざまな角度から問われているなかで,いくつかの注目すべき取り組みのひとつに,「生涯教育としての健康教育とは如何なる意味を指向するのか」という論及がある.
 従来の公衆衛生の体制はみずからの教育形態を支え,教育の方もまた公衆衛生の体制を補強する,といった相互関係にある.そのなかで,知識や技術のいわゆる通時的強化(diachronic reinforcement)が図られてきた.それは,教育の過程をその公衆衛生の意図にかかわる自覚と自律性の確立に向かって進めてきたといったことよりも,ややもすれば,すでに設定されてきた枠組みのなかで,直面した課題解決の道筋の段階における,その時々の要求への手段として解消してきた,という反省に結びつく.

衛生監視員の立場から

著者: 武田卯

ページ範囲:P.684 - P.685

はじめに■
 企業間では,経済の減速時代と余暇利用時代に対応し,週休2日制の定着や有給教育休暇等が論議されている.そして社員に対する教育訓練の考え方も,"自己啓発とこれを支援する計画的な生涯教育(継続)"の組み合わせで研修体系の見直しが始められていることに注目したい.われわれ公衆衛生従事者への生涯教育は,古くて新しい課題として論外でない.

衛生監視員の立場から

著者: 相磯正幸

ページ範囲:P.686 - P.687

はじめに■
 筆者は,地区の婦人会や消費者グループの会合の席へ講話を依頼されることが多いが,そのテーマは主に「食品衛生の諸問題」,「食品の公害」,「食中毒について」である.食中毒については,細菌性食中毒を中心に,持てる細菌学の知識で実際に取り扱った事例などを,話して終えるのであるが,さて「食品の公害について」となると,どこから手を着けてよいか事前の資料作りがこれまた大変である.すなわち,食品衛生法を根拠にして,法律的に話せば,なじられることが多いのである.そうかといって,無理に消費者向けのストーリーにすることもできない.
 戦争の硝煙が去って5年後の昭和25年,学卒と同時に静岡県へ奉職し,直ちに第一線の保健所へ配置されたが,当時の保健所は結核予防と伝染病の予防が主要業務で,保健婦さんたちの大変な時代であった,と記憶している.

medical social workerの立場から

著者: 皆川修一

ページ範囲:P.688 - P.688

 教育や研修の見直しをすると,「専門技術そのものが,実際の場面でどのように生かされているか」といった問題のほかに,「何が欠如していたか」という課題も含まれているように思う.
 公衆衛生分野においても,まだまだ狭い意味での医学(生物学)的発想を中心としたものの見方から十分に脱しきれずに留まっているし,各々の専門領域間の有機的な協同作業も十分であるとはいいきれない.また,その後の疾病構造の変遷による影響もあって,地域ケアーや在宅看護等,対人保健サービスに関する課題が増加してきている昨今,自然科学的発想だけでは対応しきれなくなってきており,社会科学的アプローチも必要に迫られてきていると思うので,今後ますます各職種間においても(もともと専門分化の効果は,一方で統合化があってのものだと思う点から)オーバーラップ部分における協同作業での一工夫や,各々の専門性や技術の相互理解も必要になってきていると思われる.

生涯教育プランの事例

神奈川県における公衆衛生従事者の研修体系

著者: 小山光久

ページ範囲:P.689 - P.691

はじめに■
 何の本で読んだか失念したが,米国のある学者の研究によると,1900年には能力半減期が学校卒業後35年位であったものが,1960年には10年と縮まってきたという.おそらく1970年代には,これが8年近くになっているのではないかと思われる.このことは,とりも直さず,生涯教育の必要性・重要性を示しているものと思われる.
 神奈川県ではつとにこの事に留意するとともに,「地域社会の急激な変貌に伴う県内の人口構造,生活様式さらに疾病や死亡の構造が大きく変化しつつある現状の中で県民の健康生活を保持増進させていくため,常時,関係者に対する関連ある知識や技術の教育研修が重要である」とし,これが当センター設立目的の大きな柱の1本となっている.

大阪府における保健所保健婦の現任研修の現状と課題

著者: 南好子 ,   大西百々代 ,   日間賀妙子 ,   林義緒

ページ範囲:P.692 - P.694

はじめに■
 大阪府下の保健所は23と5支所である(大阪市・堺市を除く).そこで働く保健婦は312名いる.表1に示すような年齢構威と経験年数である.
 20歳代が42%で,本府での経験5年以下の保健婦が50%である.これを10年前と比較すると,当時は最多年代は40歳代の33%で,保健婦の全体数も現在の60%いたにすぎない.大阪府の衛星都市における人口増加と出生率の上昇で,保健所の新設と保健婦の増員が要望され,各方面の努力で3カ所の保健所,3カ所の保健所支所の増設,ならびに保健婦増員で現在の陣容となった.

関係機関の現状と展望

国立公衆衛生院

著者: 長田泰公

ページ範囲:P.695 - P.697

現 状■
 国立公衆衛生院は来年,創立40周年を迎える.当初から公衆衛生の卒後教育と調査研究の機関として発足した本院は,第2次世界大戦中に一時中断があったものの,多職種の技術者の教育訓練を続けてきた.表1は大戦後の数字であるが,昭和19年の一時中断までに,半年ないし1年の教育期間をもつ5学科(医学,薬学,獣医,栄養本科および高等科,看護のち改め保健指導)があり,875人の卒業者を出していたから,これを加えると現在までに1万9千人を越える修業者を出していることになる.
 本院の教育課程は現在,表1の通りであるが,その構成と内容とは時代の要請と科学技術の進歩に伴って,幾多の変遷をくりかえしてきた.

生涯教育と大学

著者: 高桑栄松

ページ範囲:P.698 - P.699

大学と衛生行政今昔■
 生涯教育を語るにあたって,昔の大学と衛生行政とのつながり,生涯教育における大学の果たした役割を思い出すことは,必ずしも懐古趣味とばかりはいいきれないと思う.今日に至る歴史的な変様をもまた,移り行く社会の流れの必然としてとらえ,将来への展望を開く一里塚として重要であると思われる.
 筆者の恩師・故井上善十郎先生は細菌学者であった.パリのパスツール研究所に留学し,帰国して衛生学の教授に就任した先生は,細菌学とは異質の環境衛生学に取り組んで,新天地の開拓を志したのである.当時の基礎教室はどこも,いわば臨床家にとっては学位論文を得るための研究の場であった.ところが衛生学教室入局者の多くの人たちは,いつの間にか臨床に帰るのを忘れて衛生学に根を下ろし,衛生行政の道に踏みこんで行った.手近な場所は道庁であり,主に内務省所管で主管は警察であった.例えば伝染病が発生すると,消毒の指揮は警察がとり,医師は技師として現場を担当したのである.学校衛生も産業衛生も立場は同様であったが,先輩たちは意欲的に新しい仕事に取り組んでいった.当時,衛生は行政の中では付録であったが,医師にはパイオニアとしての自負があった.いや,その希望を掲げて衛生行政に邁進していたというべきであろう.技師の先生たちは何か新しい事件にぶつかると,すぐ大学にかけつける.

衛生研究所における研修の現状と展望

著者: 辺野喜正夫

ページ範囲:P.700 - P.702

はじめに■
 各都道府県および多くの政令市は,衛生行政の科学的裏付けのために衛生研究所を設置している.名称は必ずしも衛生研究所とせず,公衆衛生研究所,衛生公害研究所,環境科学研究所,環境保健センター,衛生試験所等の名称を用いているところもある.
 保健所は保健所法によって設置されているが,衛生研究所(以下,地研という)は各地方自治体の必要に応じて設置されている.現実には,各都道府県および指定都市はもちろん,各政令市においても次々に設置されつつあり,現在,地研全国協議会に加入している所は65カ所である.

研究

僻地における医療需要の定量的研究

著者: 横山英明 ,   後藤敦 ,   柳沢利喜雄

ページ範囲:P.704 - P.711

はじめに
 僻地医療に横たわるさまざまな問題について,その現状と改善策について多くの調査報告と提言が出され,またさまざまな角度から多くの実践の努力がなされている.
 僻地においては生活上の多くの不便さが横たわっており,医療の不備もそれと密接不可分である.特に,昭和30年代以降の高成長とともに僻地の人口過疎化に拍車がかかり,医療面でも一層効率の悪さを招く悪循環となり,無医村・無医地区の問題として,全国に34カ所も数えるに至っている.このような地では常勤医の確保が急務となり,その1つとして,筆者らの勤務する自治医大のように,辺地勤務医師の養成を目的とする大学が作られるに至っている.

効果発現時点の個体差

著者: 増山元三郎

ページ範囲:P.712 - P.715

I.はじめに
 公害・薬害対策に関する研究に引き出され,情報処理を分担させられたのを機会に,生化学的個体差に関してどんな通則が成立っているかを調べてみた1)3)4)5)7).はっきり見当がついていた訳ではなかったので,化学現象と関係のあると思われる特性値について,片端から個体ごとに測られた値の分布関数と標準偏差とを計算した.
 血液(あるいは血漿あるいは血清)の常成分,あるいはその中の異物の濃度Cの対数をとると,
 X=lnC‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥(I・1)
の分布は正規型で近似できるものが多かった.すなわち,C自身の分布としては対数正規(LN)型が多かったが,少数の物質のCは正規型の方がよい近似を示し,残りのごく少数は多型性を示していた.多型母集団の場合でも,正常集団と,変異集団と,その中間にある異型接合子を持つ集団に分けられる場合には,正常集団での分布にはLN型が適合しているように見えた.

資料

個人を対象とした栄養指導・教育の実際—"個人別食事指導基準値"算出の一試案

著者: 伊達ちぐさ ,   田中平三 ,   馬場昭美 ,   植田豊 ,   林正幸 ,   大和田国夫

ページ範囲:P.716 - P.722

はじめに
 栄養指導・教育の目的・理念は,①栄養知識の理解,②栄養に関する態度の変容,③栄養に関する行動の変容,の3つに分けられる1).栄養指導・教育は,個人を対象とするよりも集団を対象とする方が,経費,労力,時間の点から考えてはるかに能率的であるとされている2)が,これは,目的・理念の①および②を重視した立場からの観点で,もっとも重要な③の行動の変容(実行あるいは実践)を達成するには,個人を対象とした栄養指導・教育もまた重視しなければならない.個人の栄養状態(食事調査,身体計測,生化学的検査,臨床症状から判定する),嗜好さらに経済状態,家庭内における役割などを考慮して,その人にできるだけふさわしい食生活を指導しなければならない3)
 また,病院の外来を訪れたり,入院している患者,保健所のクリニックにくる妊産婦,乳幼児,高血圧や糖尿病などの成人病の管理対象者などに対しては,一般的な教育を行ってもだめで,それぞれの人の相談相手となり,個人の持っている問題点を解決し,それが実行されるような教育をしなければならない3).たとえば,ある高血圧および動脈硬化症の患者が,脂肪を1日あたり30gしか摂取していないにもかかわらず,一般論がそのまま取り入れられて,「脂肪の制限」を勧告されているのもよく耳にする話である.このように,個人を対象とした栄養指導・教育のニードは,近時,急速に高まってきている.

公衆衛生指標としての過剰死亡数—北海道の例から

著者: 三宅浩次 ,   福田勝洋 ,   加須屋実

ページ範囲:P.723 - P.728

はじめに
 公衆衛生指標には多数のものがあるが,通常その中には含まれていないと思われるものに,過剰死亡数(excess death)がある.これは,一定期間の一定地域の人口集団の死亡現象について,何らかの根拠によって予測される推測死亡数が,実際に観察された観測死亡数よりも小さい場合に,観測死亡数から推測死亡数(統計的には期待値に相当)を差し引いた数をいう.過剰死亡数は,ひとまとまりとみなした集団の大きさ,推測死亡数の算出に用いた根拠などによって値が変わるので,その比較には注意が必要であるが,公衆衛生上の問題発掘のためには,通常の死亡率よりもすぐれた面があると思われる.ここでは北海道での例を通して検討したが,その結果,北海道の公衆衛生の特徴の一端が明らかになった.

調査報告

南西諸島における離島の緊急医療の現状

著者: 華表宏有

ページ範囲:P.729 - P.733

はじめに
 南西諸島は,九州と台湾との間のおよそ1,200kmの広大な領域に弓状に点在している,200以上に及ぶ大小の島嶼を総称した呼び名である.1975年,国勢調査の時点で,南西諸島における有人島嶼(以下,南・北両大東島をこの中に含めることにする)は62を数える.
 本稿の目的は,この62の有人島の中で大島(通称,奄美大島),沖縄島(通称,沖縄本島)などの主島を除いた,いわゆる小中の周辺離島において,緊急患者が発生した場合の緊急医療(救急医療)の現状を鹿児島・沖縄両県の関連諸資料によって概観し,若干の問題点を提示することである.

風疹の臨床—診療所における361例について

著者: 内藤寛

ページ範囲:P.734 - P.735

 1975年から1976年にかけ,東京都において風疹の流行があった.
 世田谷区においてもほぼ全区的に流行し,公立小学校で平均45.5%に発生している.血清学的に調査した一小学校においては,発生率56.0%,HI価陽生率73.0%と高率にその発生をみとめている.

連載 図説 公衆衛生・10

悪性新生物の現状と課題(Ⅰ)

著者: 安西定 ,   高原亮治 ,   川口毅

ページ範囲:P.667 - P.670

 わが国の悪性新生物による死亡数は,この10年間に年間平均約3,000人ずつの増加を示し,昭和50年には全国で約136,000人に達している.悪性新生物による死亡率は年齢が高くなるにつれて増加し,特に40〜60歳代の働きざかりの年齢層においては,死亡原因の第1位を占めている.
 しかし,最近の医学,公衆衛生の急速な発展により,平均寿命は年々伸長しており,この人口の老齢化を考慮に入れた年齢訂正死亡率でみると,悪性新生物による死亡率は男では昭和40年頃から,女では昭和30年頃から減少している.これは,主として胃がんと子宮がんによる死亡率の減少によるものであるが,一方,この数年は肺がんによる死亡率の増加が問題となっている.

発言あり

生涯教育の媒体

著者: ,   ,   ,   ,  

ページ範囲:P.671 - P.673

社会科学的素養による判断力の涵養を
 かつては公衆衛生の標的が,結核を中心とする慢性伝染病予防,急性伝染病対策,母子保健等にしぼられていたが,今や,わが国では人口の老齢化に伴う疾病の質的変化,医療技術の革新に伴って,公衆衛生に対する国民の要求もますます増大しつつあるといえる.したがって,住民のニーズによって公衆衛生の志向が定まってくるといわれているが,過去の教育を受けた公衆衛生従事者では,とてもこれに対応できるはずもない.すなわち,増大しつつある住民のニーズとこれに対応すべき公衆衛生側の供給に限度があること,さらに国民の社会生活についての権利意識の増大とともに,この問題はますます複雑化するものと考えられるのである.
 今までの公衆衛生は事実上,医師,保健婦が中心であったが,公衆衛生の内容の変化とともに,臨床検査技師,放射線技師,栄養士,歯科衛生士,理学療法士,作業療法士,言語療法士などの必要性が痛感されるようになってきた.今日の医療,公衆衛生の中にこれらの職種が望まれていることは,いわゆる予防からリハビリテーションまでを含む包括医療が進捗しつつあることを示すものであろう.

日本列島

道立小児総合保健センターの開設—北海道小樽市銭函町

著者: 吉田憲明

ページ範囲:P.678 - P.678

 北海道における小児疾患の専門総合病院として,道立小児総合保健センターが6月1日にオープンされ,20日から診療開始となったことは,道民にとって大変うれしいニュースである.
 本施設は,小樽市銭函に昭和48年10月から建設に着手,敷地面積55,518m2,建物延面積9,012m2,病床数140床(当面70床で運用),総工費約40億円,3年有余の年月をかけて完成した.この病院の特色は,医療機関,保健所などからの紹介予約制度を採り,入院期間3ヵ月後に治療方針を決定して医療機関に戻す方式にあり,将来は研究,診断,治療,リハビリの一環した体制を目指している.

北九州市の青空学校(第3回目)

著者: 園田真人

ページ範囲:P.687 - P.687

 公害健康被害補償法(昭和49年9月)が制定されると同時に,北九州市では,対象地区からもれたものについても,認定できるものは認めうる市単独の法律を制定した.
 北九州工業地帯の大気汚染のためにおこったとされる認定患者数は1,233人であり,そのうち15歳以上のものは683人,15歳以下の子供たちは550人である.

行政の支えになっている東北大学三教室の研究会の開催

著者: 土屋真

ページ範囲:P.722 - P.722

 森の都仙台の市街を一望に見おろす東北大学医学部の基礎研究棟11階の集会室で,私ども行政に関係のある者にとっても有意義な研究会が時々開催されています.

地域ぐるみの肥満児対策(肥満児サマーキャンプの開催)—京都府周山保健所

著者: 山本繁

ページ範囲:P.728 - P.728

 京都府周山保健所は管内人口約14,000人,面積557km2のS型保健所である.管内に,全国的にみても,貴重な芦生原生林が存在することに象徴される山村地域である.
 ところが,自然に恵まれた地域でありながら,近視,虫歯と並んで,子どもの現代病といわれている肥満が注目され,小児保健,学校保健を推進する立場から,地域ぐるみの「肥満児をゼロにする」とりくみが進められている.すなわち,周山保健所では,管内の小中学校の養護教諭,学校栄養士等の協力をえて,昭和50年12月から昭和51年4月にかけて,全小中学生1,835人について調査したところ,約3%(小学生41人,中学生20人)のものが,標準体重に比して20%以上の肥満傾向をもつことが判明した。

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用語欄

著者: 橋本正己

ページ範囲:P.697 - P.697

▶T. T. C.
 teachers training centerの略.医学,保健科学などの教師に対して,教育学(pedagogy,educational science)の理論による教育の方法(教授法,教育計画,教育プログラムの実施など)について訓練する特別な施設をいう.近年WHOは,この課題に大きな努力を払っており,すでに世界の6つの地域(region)に地域T. T. C. が設けられ,現在各国のT. T. C. の設置を検討中.日本の属する西太平洋地域でも,オーストラリア・シドニーのNew South Wales大学医学部にR. T. T. C. が設置,運営されている.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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