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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生41巻11号

1977年11月発行

雑誌目次

特集 保健行動

保健行動研究の最近の動向

著者: 山本幹夫 ,   寺尾浩明

ページ範囲:P.746 - P.754

I.行動科学の方向
 人間行動に関する一般理論を研究しようとして19世紀も終わりに近くアメリカに誕生した科学に,行動科学(behavioral sciences)がある.この科学は,特に軍事問題など実践的問題の解決のために,米国哲学の中核をなすともいわれるプラグマティズムや機能主義を支柱として発展したともいわれるもので,人間行動を通して,人間の考え方までをもうかがおうとするものである.これが,社会科学に自然科学的研究方法を導入するためのよりどころをつくった,とさえいわれている.また,この科学を活用して,一方で記述科学としては,人間行動に関連して社会学,心理学,人類学,政治学,経済学,生物科学,医学などの諸科学を総合した学際的な科学を発展させようとしており,また他方,これは,その応用によって人間の行動の予測をもしようとするものである.
 この科学は,軍事関係以外においても,行政,産業,マスコミなどの問題に関連した諸科学の協同研究を実施している過程で,発展したといわれている.人間行動という複雑な事象の解明とその実践的活用という共通の目標を達成するためには,上記のような専門的な諸科学に従事するものが,共通な立場にたって協同し,複合的な基礎科学をつくるだけでなく,共通の目標達成のための応用的な政策的科学としても完成させる必要があり,上記の諸分野の協力によって,順次それらが実現されていった1)

保健行動と地域保健

著者: 辻達彦

ページ範囲:P.755 - P.759

はじめに
 保健行動の成立と衛生教育についての総説的考察を今年4月の日本衛生学会で発表1)したので,とくに地域保健の見地からその内容の一部を補足することにした.
 地域保健の向上には,衛生教育が有力な手段であることはいうまでもない.地域住民自らの自覚と反省をよびおこし,いわゆる保健行動化されて初めて,成果が期待できる.

行動計量学的接近の諸問題

著者: 林知己夫

ページ範囲:P.760 - P.764

I.個人と集団の問題
 われわれが人間の現象を取り扱うに際しては,個人と集団の問題をまず考えておかなくてはならない.保健行動のようなものを考えるに際しても,全く同様である.個人のを行動集団に積みあげ,全体を背景にして個人の位置づけを行うとともに,個人の集合を通して,保健行動に関する人々の心の構造やはたらきの姿を明らかにすることが大事である.1人ひとりの行動を見ていたのではわからなかった「人の心の動き」が,集団を通して適切な分析が行われるならば,そのかくれた姿をあらわしてくることがあるわけである.このように,個の集合としての集団の分析結果は大事な筋目をあらわしているものであるが,しかし,それがすべての個人にあてはまるものではないのである.集団を通して得られた情報は,大局の姿であり,われわれの知見の大きな支柱となるものであり,これを踏まえて,個人差ある個人に対して対慮するにはどうしたらよいかを考えることが大事である.医学のようなものにあっては当然のことであろう.個人の問題は,集団情報をもとにしての最適過程制約ということになろう(この表現は決して冷たいものではない.これについては文献を参照1)).

都市における保健行動

著者: 佐久間淳

ページ範囲:P.765 - P.770

I.都市における保健行動の背景
 このテーマを考えるばあい,都市における保健行動が何によって形成され,どのような特徴をもっているかを明らかにする必要がある.しかしながら,それらについて何を用いて立証するかといえば,現在までのところでは,必ずしも確定された手がかりはない.しかも紙数の関係などもあるので,手近な統計数値を用いて若干ふれることにしたい.
 まず,都市における保健行動は,広くいえば,人間の行動全般のなかにある保健に関する行動のうち,とくに都市において生活していることによって影響された部分をさしている.つまり,都市における生活構造のなかから表出する,保健の欲求に根ざした行動である.したがって,多分に都市の生活構造に規定づけられたものである.なお,一般的に,意識や行動は集団のもつ文化との関わりで形成されており,性・年齢・階層・職業・地域などによって異なっている.

農山村における保健行動

著者: 佐藤千春

ページ範囲:P.771 - P.775

I.疾病に対する農山村の民間の伝承
 いまここに,群馬の農山村で行われた民間療法の一部を挙げてみよう.
 〈大病の時〉くず屋根に登って,破風の方から名を呼ぶと生き返る.豆腐の四隅を切り,その隅豆腐を屋敷稲荷に上げると,悪い所が治る.〈安産〉産泰(さんたい)様に祈る.水天宮(すいてんぐう)のお札を切って呑ませる.〈暑気あたり〉胡瓜(きゆうり)の葉を塩で揉(も)んで足の平につける.大根おろしを頭にあてる.菅笠(すげがさ)を被せ,水をかける(笠から下に水が漏れると治る).蓼(たで)を塩で揉んで,足うらやこめかみにすり込む.〈風邪〉いり豆を紙に包んで三本辻に置く.ねぎ味噌を食う.〈イボ〉お盆に供えた茄子(なす)(または胡瓜)の馬で人に見られないようにイボを撫でる.イボの数だけ米粒に墨を塗り,紙に包んで柿の木の下に埋める.渡良瀬川の向こう岸にあるオボシ岩に溜った水に昼星が映っている,その水をつける.〈マメ〉足のマメのまわりを半分ずつ(豆のまわりを一回りしては駄目)アブラウンケンソワカと唱えながら,指で撫でる.石川五衛門と唱えながら撫で,アビランケンソワカと言って押す.〈たむし〉墨で鴫(しぎ)という字を幾度も書く.〈漆かぶれ〉ゴマをすってつける.〈火傷〉熊の油をつける.〈こう手〉男なら女の末子,女なら男の末子に紐で縛らせる.〈吹出物〉蝮(まむし)の皮で患部を撫でる.〈虫歯〉松の芯を噛ませ,かんだ所を釘で柱に打ちつける.

保健行動と健康教育論

著者: 金永安弘

ページ範囲:P.776 - P.779

はじめに
 はじめに,健康教育(health education of the public)において健康(health)という通念がどのようにうけとめられてきたかについて,論及することにしよう.
 健康観そのものも,いままでにさまざまな変遷の道をたどってきた.そして今日,健康教育者の一致しだ見解は,WHO憲章の健康に関する定義から出発して,健康現象全体を生活概念としてとらえた地域保健や,地域医療あるいは管理医学の発想のなかにそれをみることができる.それは,健康を生活のひろがりのなかのニーズとしてうけとめた姿勢そのものとして,理解することができる.

研究

糖尿病児童,生徒の養護上の問題点

著者: 野尻雅美 ,   新井宏朋 ,   岩崎清

ページ範囲:P.780 - P.786

はじめに
 昭和49年度に学校保健法の一部が改正され,学校検尿が義務づけられた.これを機会に児童,生徒にみられる糖尿病の調査1)〜5)が各地で行われるようになり,その報告数も次第に多くなってきている.
 今回筆者らは,山形県における児童,生徒の糖尿病の実態につきアンケート調査を実施したので,その調査方法と成績につき報告3)し,あわせて調査の中にみられた糖尿病の児童,生徒の養護上の問題点について,若干検討したので報告6)する.

喫煙防止教育の試みと評価—(その3)

著者: 福田勝洋 ,   三宅浩次

ページ範囲:P.787 - P.791

はじめに
 筆者らはさきに,若年者に対する健康教育が,若年者の喫煙抑制にどの程度に有効であるかを調べるための実験疫学的研究を企画した1).すなわち,喫煙抑制を旨とする視聴覚教材(以下,教材とする)を視聴せしめることにより,未成年者の非喫煙者が喫煙者になるのをどの程度に防止しうるかを,3種の観察群(対照群,視聴群および強化群)の追跡調査によって調べようとするものである.前報1)2)では,この研究の開始時期における3群の比校可能性3)の検討と,教材の視聴による喫煙防止教育の即時効果について報告した.今回は,その後約2年10月を経て,当時の対象者の大半が成人に達した時期における喫煙習慣を追跡調査し,喫煙防止教育の効果を検討したので,報告する.

論考

公衆衛生活動の新しい発展の方向

著者: 吉田憲明

ページ範囲:P.792 - P.795

I.序説
 1970年代は激動の年代ともいわれ,また福祉の年代ともいわれて,すでに7年の歳月が経過した.この間,経済的,社会的機構の複雑多様化はますます進み,変幻極まりない価値観の変様は真に目をみはるものがある.これらの中で,社会的および個人的健康こそ,真に価値あるものとして再認識されるはずである.自然環境と人間生活,物質科学文明に対する懐疑,人間の真の幸福とは何か,というような問題が,これから多く課題となるであろう.
 幸福とか福祉とかのバック・グラウンドをなす公衆衛生活動の確立,包括的医療の理論の上での住民の健康管理等が,実践に移されるべきときがいよいよやってきたわけである.

大阪国際空港における航空機騒音影響調査について—伊丹市の場合を中心として

著者: 益尾宏之

ページ範囲:P.796 - P.800

はじめに
 大阪国際空港は,大阪府の豊中市,池田市および兵庫県の伊丹市にまたがる,面積317万m2(96万坪)の空港である.阪神間の住宅過密地域にあり,国際空港としてはせますぎ,騒音をはじめとする航空公害は,広範囲の空港周辺の住民に影響を及ぼしている.
 ジェット機の就航開始は昭和39年6月で,その後しだいに増加し,万国博を前にB滑走路(3千m)を拡張した昭和45年2月以降,その就航は本格化している.航空機の発着状況は昭和46年をピーク(1日約430回)に,その後しだいに減少している.ジェット化率も昭和50年60%を最高に頭打ちになっているが,逆にジェット機の大型化は進んでいる.

トピックス

有田市におけるコレラの流行を振り返って

著者: 岩田弘敏

ページ範囲:P.801 - P.805

コレラばやりだった今年の夏■
 6月には,青天の霹靂のごとく,有田市にコレラ(エルトール小川型)が流行した.それを機会に,全国的にコレラが意識されたせいか,その後,東京などで保菌者がみつかったりした.それらも,7月上旬には一まず終熄し,ほっとしたのも束の間,8月には由良町にコレラが単発発生した.その事後措置の最中,今度は,神戸港に入港した洋上大学の学生たちに,コレラが発生した.今夏は,コレラばやりであったといえる.由良町での単発発生例と洋上大学学生に発生した例では,幸い,さほどのパニック現象もなく,防疫活動が比較的スムーズに進行したように思う.
 筆者は,有田市におけるコレラ流行の禍中にいた一人として,その流行を振り返りながら,こうしたコレラ事件が連続したことに関連して,少し私見を述べてみたいと思う.

連載 図説 公衆衛生・11

悪性新生物の現状と課題(Ⅱ)

著者: 安西定 ,   高原亮治 ,   川口毅

ページ範囲:P.739 - P.742

 前号では,悪性新生物死亡の分布,年次推移,市郡別にみた胃がん死亡率の分布(沖縄県を除く全国)などを紹介したが,今回は,肺がん,乳がん,子宮がんについて,死亡率の年次推移,分布,発生にかかわるさまざまな要因,ならびに各種の対策と,胃がんを例としたシステム・モデルを紹介する.とくに,今回紹介する胃がんのシステム・モデルは,柳川洋(現,自治医大・教授),福宮和夫(現,国立公衆衛生院)両氏の考案によるもので,特に両氏の了解を得て掲載したものである.

発言あり

知識と行動

著者: ,   ,   ,   ,  

ページ範囲:P.743 - P.745

公衆衛生活動を進める基盤
 公衆衛生活動を展開するには,主として保健衛生に関する適確な情報とその情報にもとづく知識を,如何に実際活動に結びつけるかにかかっている.
 公衆衛生は,一般住民の衛生教育を中心に展開することが本道であり,その活動が地域住民に根ざしたものでなければならない.

日本列島

辺境に人あり,村長おおいに頑張る—岡山県

著者: 板野猛虎

ページ範囲:P.786 - P.786

 この8月25日,岡山県公衆衛生看護学校の教室に,若々しい笑い声が渦巻いた.「へき地医療に関するセミナー」の講師である村長の話が,熱を帯び,ツボにはまると,学生諸君は素直に反応した.本県の東北端にある西粟倉(あわくら)村は,人口2千の山村であり,白冨貞美氏(58歳)は昭和38年以来の村長である.
 50年暮に,国保診療所にいた常勤医師が突然辞職し,思いがけなく無医村となった.幸い,村長などの奔走もあって,済生会岡山病院スタッフの出張診療が開始され,今日に至っている(原則として週1回,1泊2日の診療).

第14回沖縄県老人福祉大会開催さる

著者: 伊波茂雄

ページ範囲:P.791 - P.791

 沖縄県老人クラブ連合会創立15周年記念と,きたる11月10日に那覇市で開かれる予定の全国大会の準備を兼ねた「第14回沖縄県老人福祉大会」(県,県老連,沖縄県社会福祉協議会主催)が9月17日午前10時から那覇市民会館で開かれ,県内各地の老人クラブ会員約800人のほか,全国老連代表も参加し,盛り上がりをみせた.
 白石県老連会長が「本県は,全国でも有数の長寿県となっているが,それに伴い老齢人口の増加,さらには家族制度の変革などによって,老人のおかれている立場は,家庭的にも社会的にも複雑になり,老人福祉はここ数年来もっとも重要な課題としてクローズアップされている」とあいさつ,知事代理の野島副知事が続いて「みなさんは,第二次大戦で文字通りの死線をさまよい,今日の沖縄の礎を築いた世代であり,その老後は十二分に報われなければならない」と述べるとともに,「健康で幸福な老後を確保することは老人のためだけでなく,若い世代にとっては,きたるべき自らの老後への準備である」とも強調した.このあと,老人クラブ活動に功績のあった特別功労団体22団体,特別功労者5人,永年勤続功労者31人の表彰と,第2回老人福祉作文コンクールに入賞した児童・生徒・学生の部6人,一般の部5人に対する表彰があり,野島副知事,白石県老連会長から賞品,賞状が贈られた.

第8回大崎地区食品衛生指導員大会での報告—宮城県

著者: 土屋真

ページ範囲:P.805 - P.805

 大崎地区食品衛生協会連合会の主催,古川・岩出山・涌谷3保健所後援による食品衛生指導員大会が,昭和52年9月12,13日の両日,山形県の赤倉温泉で行われました.業界の自主的な活動への期待は当県でも同じですが,移動大会の関係もあって参加者は120名にとどまったものの,有意義な会でした.
 ことに全体討議では「今後の指導員活動はどうあるべきか」をテーマとし,高橋正夫・加美玉造会長の名座長のもと,活発な意見交換がなされました.助言および講評は,県衛生部と保健所が担当しました.

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用語欄

著者: 西川滇八

ページ範囲:P.770 - P.770

▶保健行動(health behavior)
 健康を保持増進することを目的とした,人間の行動のことである.広義にとれば,健康な人の日常における保健的な生活行動や慣習ばかりでなく,傷病の治療・リハビリテーションなど医療的な行動までを包含することになる.公衆衛生学を人間の生態学として把握するために,行動科学が導入されて生まれた概念で,集団としてとらえる立場と個人として観察する立場とがある.性・年齢・職業・地域等の属性で異なっている.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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