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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生41巻2号

1977年02月発行

雑誌目次

特集 地域保健医療計画への住民参加

地域保健医療計画への住民参加—その本質・限界・方法について

著者: 田中恒男

ページ範囲:P.84 - P.89

はじめに
 あらゆる公共的事業の計画・実践・評価に関して,住民の位置づけをどのようにするかは,多くの議論のあるところである.WHOを初め,英・米においては,保健・医療にかかわる解決必要性は,その領域における専門家によってのみ認知されるという見解が強いが,一方ラジカル・エコノミクス派のように,住民の主体的連動によってのみ真の解決に導くことができる,とする見解もあり,必ずしも統一的な認識に至っていない.ミュールダールののべるごとく,over committedwelfare(約束されすぎた福祉)によってすべて依存的態度となり,要求のみ表在化せしめる民衆に関しては,Intellectual sanitation(知的浄化)を通じてのみ真の自主的態度は生まれ,常にその領域の専門家がリーダーシップをとる必要がある,という見解は,いわゆる衆愚主義に立つものであるが,わが国の一部専門家の間には,その見解に強い賛意を表する傾向も強い.しかし,矛盾の表在化による要求の発現は,現実として矛盾がそこに存在する限り,一般住民の感性が専門家より(自己体験的に)鋭敏であり,ミュールダールの指摘がすべての場合にあてはまるものでないことを教えてくれる.
 こうした住民参加の問題が社会的にとりあげられたのは,少なくともわが国においては,環境汚染による健康破壊が急速に表在化した結果だと見ることができる.

自治行政への住民参加

著者: 似田貝香門

ページ範囲:P.90 - P.95

はじめに
 特定の制度や機構について,今日,独自に「参加」の問題が強く意識されている事態は,端的にいって,それらの制度や機構の現実がなんらかの意味で,「参加」の不在による問題の顕在化を示していることに外ならない.いいかえれば,制度や機構の現実における実体について,今日,それらにかかわりあう人々との間での「参加」がない限り,その制度や機構の存在意義が,疑われている,というような根本的な問題意識なしには,「参加」問題を論ずるわけにはいかない,ということである.
 とりわけ,「参加」問題が論議される制度や機構は,それらのメカニズムによってアウト・プットされる政策体系から必然的に起こってくる政策内容の特殊な性格と「参加」問題に,不可分に結びついているものである.したがって,当の問題となっている制度や機構において,「参加」問題が爼上に上っている場合には,よほどそれらの制度や機構の「参加」形式が形骸化し,病理化していると考えても,差しつかえないといってよい.

地域医療施設計画と需要把握

著者: 柳沢忠

ページ範囲:P.96 - P.102

I.地域施設計画の課題
 地域における各種の医療施設は多様化し,複雑化している.地域居住者は医療施設の必要性の認識を強め,行政に施設を要求したり改善を要求したりする事例が多くなってきている.しかし医療資源に限りがあり,これを最大限有効に活用し,需要に答えていくために医療のシステム化を行う必要があり,真に生かされる施設の供給を行う必要がある.地域の医療施設の供給には多くの計画課題がある.
 計画課題はまず,①地域における施設計画の課題と,②地域計画における施設の課題,との2つに分けられる.前者は,ある特定の施設を計画する場合に,その施設が立地する地域をどのように考慮して計画すべきか,という課題であり,一方後者は,ある特定の地域を計画する場合に,その地域内に施設をどのように計画すべきかをきめる課題である.施設と地域との関係はこうした2面性をもち,相互に深く関係している.

地区住民組織の主体的参加による保健計画事業(地区組織活動)の推進

著者: 時任直人

ページ範囲:P.103 - P.111

はじめに
 標記事業は鶴見区保健計画事業と称し,昨年の保健文化賞の対象となったものであるが,「住民の主体的参加」,あるいは「保健計画」等の用語が本特集号の企画に相応しいものとして,執筆依頼があったものと考える.しかしながら,「保健計画」と一般にいわれるものと,その内容の間には相当の差異があること,また「住民参加」は「住民組織の参加」である点など,他の論文を読んで比較してみないと筆者にもわからないことであるが,本企画の中では幾分,異質のものになるかも知れないので,あらかじめこの点をお断わりしておく必要があると思う.とりあえず,鶴見区における事業の解説から始めることにしたい.

住民の主体的参加による地域保健活動—地区組織活動から地域保健委員会活動への展開

著者: 実成文彦

ページ範囲:P.112 - P.122

はじめに
 岡山県真庭郡地域保健委員会は昭和41年の発足以来10年を経過し,昨年度第28回保健文化賞の栄に浴した.このたび本誌の企画により,「地域保健医療計画への住民参加」のテーマのもとに執筆の機会が与えられたので,地域保健委員会を中心とした真庭郡の地域保健活動について紹介したい.なお,本稿は実践例の紹介であるので,できるだけ本テーマにそいながら,実際の地域保健活動とその背景について述べたい.

東村山市の地域保健計画と住民参加

著者: 大橋誠

ページ範囲:P.124 - P.130

地域医療論
 昨今,医療または医療行政者の間で,あるいは日常の新聞紙上にすら,「地域医療」の4文字がしばしば使われるようになった.
 筆者は一昨年4月,東村山市医師会公衆衛生部担当理事に就任して以来,一見無造作にすら使われるこの言葉の内容と意味を考え続けてきた.「地域医療」を論ずるに先立ち,「地域」とは何か,という問題があり,これを論ずるだけでも興味津々たるものがあるが,今回は単に「現在,我々の住む最も身近な行政区域である市,町,村を中心として,これに隣接する区域をも含む」といわせていただく.きわめて単純に文字通り考えると,「地域医療」とは1人の医師を単位として論ずる場合,「その医師が居住する地域のすべての医療行為」といっても決しておかしくないが,これだけでは,日常診療のみを表現していると取られがちである.

連載 図説 公衆衛生・2

ライフサイクルと保健医療需要

著者: 安西定 ,   高原亮冶 ,   川口毅

ページ範囲:P.77 - P.80

 出生から死亡までの一生涯を通じて,私たち人間は,全く同じ健康状態を維持し続けることは不可能である.私たちの健康状態には,年齢とともに進行する老化,年齢特性による疾病に対する感受性・免疫性の変動や,自然的,社会的環境に対する感受性と抵抗性の変化がある.そして最終的には死亡するわけである.
 したがって,各個人においても年齢,性,職業などによって健康状態は変化し続けるものであり,その生活史を通じて多彩な要因によって健康状態,疾病伏態を生み出していくものであるといえる.このような個人の健康状態,疾病状態,受療行動,保健衛生に対する意識などに最も適合したヘルスサービスが,一生涯を通じて随時行われることが必要である.

発言あり

住民参加

著者: ,   ,   ,   ,  

ページ範囲:P.81 - P.83

住民参加とはいうが
 私が現在の保健所に着任したばかりのころ,「奥能登の保健医療の特殊性と問題点」と題し,医師会代表,市町役場・保健所の各責任者が発言者となり,助言者として斯界の権威者の一人であるNGの参加を頂いて,シンポジウムと称する会合を持った.この企画を知ったある人から,発言者の中に住民代表がいないではないか,という指摘を頂いた.
 たしかに,その方のおっしゃる通りである.しかし,一言でいえば,適当な発言者が見つからない(いないといっているのではない)のである.この人ならば自分の意見を,声を大にして主張してくれるだろうという人がいても,その人の意見が本当に「住民の意見」といえるのかどうか.宮本憲一のいうところの「草の根保守主義」の根っこだけの意見では,新鮮味がないし,聞いている方も幾分かの割り引きをしなければならぬとも考えられる.一方,この人ならば極く普通の住民としての意見を聞けるのではないかと思われる人がいても,そのような人はあまり保健所なんぞには関心がない.無理に発言をお願いするとすれば,むしろこちらの方から挺子入れか,お膳立てをしなければならない.そんな事では,何のための住民代表かわからない.

地域保健活動の実際例

学校保健から始まった地域保健活動—香川県医師会の例

著者: 永井啓

ページ範囲:P.131 - P.135

はじめに
 地域における保健活動が,地道に息長く継続され,その成果を上げてゆく鍵は,関係する人々がそろって意義を認識し,相協力して行動することにかかっている.地域健康教育の必要性が提唱され,大きく陽の目を浴びてから,ここ10年あまりの推移をみても,一部特定の人々のみによって企画され,実行されてきたものは,表面的には一時たいへんに華やかで脚光を浴びるけれども,数年を経ずして当事者の交代などで,いつの間にか消滅してしまって,その影さえも見出せないことがある.真に,対象である住民や若い人々,または老人層の福祉と幸福を願う活動であれば,関係者がみんなで実情をよく調査し,分析し,討議を加えて検討し,その上で,分担協力して推進していくべきで,継続の基礎はここに固まってくるものである.しかしながら,理論的にこれらのことは分かっていても,組織の中で,みんなの意識をまとめ,共同して推進して行こうということはなかなかに難しく,いわゆる口火が切られる背景というか,機運というものの醸成が大切で,このような環境のできている所では比較的容易に行動が起こしやすい.
 その意味で,私どもの香川県は,全県的に学校保健という共通の基盤の上に,県下の関係者の認識が高く,戦前の学校衛生といわれていた頃からの長い伝統が大きい支えとなって効果を現わしてきている.

研究

地球疫学からみた日本人の血圧

著者: 佐々木直亮

ページ範囲:P.137 - P.145

はじめに
 高血圧についての疫学的研究には,ある地域の人々がどんな血圧をもっているかの観察に基づく研究があるが,また同時に,この地球上に住む人類がどんな血圧をもっているかを知る,地球疫学(global epidemiology)の立場からの研究も必要と思われる.
 疫学的研究には,まず人々の血圧を測定し,集団ごとの血圧状況を比較検討するための基準となる方法が必要である.すなわち,人々の血圧をどのように測定し,記録するかの方法が統一されていなければならない.

日本列島

学校保健研究大会開催さる—沖縄

著者: 伊波茂雄

ページ範囲:P.122 - P.122

 第13回沖縄県学校保健研究大会が昭和52年1月14日,那覇市内の小学校で開かれ,約500人の教師,養護教諭,校医らが参加した.開会式では大浜県学校保健会長,仲宗根県教育長のあいさつのあと,51年度において学校保健に功績のあった養護教諭10人,健康優良校2校.安全に関する図画作文コンクール入賞の小中校児童2人に対する表彰があった.
 引続き「学校保健向上」をテーマにしたシンポジウムがあり,養護教諭代表から「養護教諭はその専門性を発揮して全体の保健水準向上に努力しなければならないが,教師集団,特に担任が協力,参加しなければ充分な機能は果たせない.教師が少しでも健康に関心を持ち,子供の健康が自分の仕事にかかわりがあるという認識を持ち,協力しあえる人間関係を整える事が必要と考える」との発表があった.午後から「学校における健康診断を適正かつ効果的に実施するにはどうしたらよいか」,「性教育」などの10分科会に分かれ,研究発表,討議が行われた.

宮城県における調理師会の現状

著者: 土屋真

ページ範囲:P.123 - P.123

 昭和33年に調理師法が公布されて以来,すでに20年になろうとしています.その間,県調理師会も種種の活動を各地で行ってきましたが,さる昭和50年10月20日,やっと念願の社団法人が認可されました.いま県内の有資格者は約14,000人います.昨年,国費による調理師指導者講習会が福島県で行われ,当県からも45名の受講者が行きました.また,会の活動に対する県費助成も行われています.
 しかし,地方支部の活動はそれほど活発であるとは言えず,むしろ多くの問題をかかえて伸び悩んでいるのが実情であります.このたび私どもの支部活動の不活発さを県調理師会長から指摘されたのを機会に,今後の行政指導の参考にするため,各支部の現況をアンケート調査等によりまとめてみました.

長野県の健康問題懇談会

著者: 川久保育男

ページ範囲:P.130 - P.130

 本年度,県に健康問題懇談会なるものが発足し,健康問題についてこれからどう対処すべきかということを研究し,行政に反映させて行くことになった.このことについては既に数年前,本県保健所長会として健康基本法の制定を唱え,案まで作って全国保健所長会総会に提出したが,当時はまだ機熟せず採択に至らなかった.しかし,ようやく県もこの問題に取組む姿勢を示したのである.
 また2年前,健康増進センターが本県にもできて,健康問題に対する関心が高くなり,センターの運営上からも必要となったのである.そこでまず,信州大学,県医師会,県衛生部,健康増進センター,保健所からなる委員会を作り,健康についてフリートーキングの形で始まったのである.回を重ねること数回にして,ようやく本格的に本筋に入り,この11月の委員会では,人間の一生を通じての健康管理という側面から,胎生期から始まり如何にして異常児の出産を防ぐかということについて,専門家の意見を聞いて行われたが,妊婦となる以前に十分正しい衛生教育をしておくことが必要であり,遺伝性のものが多い現況からも,優生結婚の指導や,特に妊娠初期における指導とか,分娩時における注意などに論議が集中した.また未熟児を如何にして減少させるか,異常児の早期発見,早期指導等が必要である点に,意見が強かったのである.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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