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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生41巻5号

1977年05月発行

雑誌目次

特集 健康増進

健康増進の考え方・1

著者: 池上晴夫

ページ範囲:P.310 - P.314

はじめに
 科学,経済,社会機構等の進歩が人類の生活様式を変えた結果,それが健康の面にも影響して疾病構造までを変化させ,健康の確保にも従来と異なった施策の必要性が生じてきた.健康増進といわれる最近の話題は,そのひとつである.健康増進には,医学のほか,運動・栄養・ストレス・環境の四つの面から並行的に対策がなされなければならないが,ここでは誌面の都合上,運動を中心にして健康増進の考え方を紹介してみたい.

健康増進の考え方・2

著者: 小野三嗣

ページ範囲:P.315 - P.321

はじめに
 「健康とは病気でないというだけでは不充分で……」とよくいわれるが,表現に誤解が生じやすい.些細な疾病・異常を持っているか否かは,健康を論じる場合には必ずしも問題にする必要はない.身体活動がそれによって制約されるような疾病がある場合には健康体といえないであろうが,むしろ本質的に考えて,健康を疾病の有無と結びつけて論じることに抵抗を感じるのである.
 特に現実の社会人が目ざしている健康増進に,何らかの指針をあたえようとする意図の下にこれを論じる場合には,ますます不都合である.たとえば,健康増進の一手段として忘れることのできない運動を実施する場合,疾病・異常のあるものをその対象外とし,どこにも全くそれが認められないものだけがそれを行うものだとした場合,運動とは一握りの特殊な人間集団のためのものだ,という感じになってしまうことを否定できない.

健康増進に関する健康指標のとらえ方

著者: 塩川優一

ページ範囲:P.322 - P.328

健康の指標の必要性
 医療の急激な発展は,とくにわが国の疾病状況に大きな影響を及ぼした.すなわち,国民のすべてが容易に診療を受けられるようになり,その結果,国民の寿命の延長をもたらした.この段階で国民は疾患の予防に次第に関心を持つようになり,ひいては健康者であれば現在の健康を維持したいという希望がおこり,さらにより健康になりたいと願望するようになる.健康者がより健康になりたいといっても,そういうことが可能であるかどうかは,現在の医学では答えを出すことができない.健康とはどのような状態であるかということさえ,いまだ諸説紛々としている状態であるからである.
 わが国における健康増進の問題は,こういった医学の未解決な問題を踏み越えて,行政の面より発足し発展し,生長している.そして健康の指標の問題も同じである.

地域における健康増進のすすめ方

著者: 竹村宏之

ページ範囲:P.329 - P.334

はじめに
 すべての人はわが身が健康でありたいと願うものである.幸いにわが国では,戦後伝染病の後退により,国民の健康は急速に向上した.今では,平均寿命は世界有数の水準に達しており,全般的にみて健康のレベルは非常に高いといえる.しかし,現代に生きる人が皆自分の健康に満足しているといえるであろうか.老齢化の進むなかで,老化を嘆く人は増しており,運動不足を苦にする人も多い.中年を過ぎて,何かをしなければと悩む人が数多くいることは事実である.健康は自分自身でかちとるものであるが,彼らには自らの健康のための活動として何をどうするかという知識が不足しているし,またそのきっかけをつかむことも必要である.そのためには適当な方法と動機づけをする指導が必要であり,さらにそれらを国民運動として盛り上げるシステム化も必要である.ここに,健康増進対策を行政需要としてとらえる意義がある.
 健康増進対策は,栄養,運動,休養の3本の柱を原理として実施される.これに基づき地域においてその輪をひろげることは非常に困難な仕事である.しかし,国民衛生の現状からみて,その時期は早くから到来しているものと考えざるを得ない.そこで,これらについて現状と問題点を探ってみよう.

世界の健康・体力増進運動

著者: 青木高

ページ範囲:P.335 - P.341

 ここ10年の間に,欧米の先進工業国において国民の健康・体力を保持・増進しようとするムーブメントが共通に起きている.本稿では,まずこの共通のムーブメントが何故起きて,どんな経緯をたどったのかを記し,ついで,西ドイツの施設計画,アメリカの企業フィットネス,スウェーデンの食事と運動の三つの動きを紹介してみることにする.

地域における健康増進活動—(事例1)長野県総合健康センター

著者: 藤森聞一

ページ範囲:P.342 - P.346

はじめに
 長野県総合健康センターは,厚生省の健康増進センター構想に基づいて,長野県が国の助成を得て設立し,その運営を社団法人「長野県地域包括医療協議会」(理事長は県医師会長)に委託した施設である.
 県レベルのものとしては,宮崎県のそれに次いで昭和50年7月10日に開所されたが,それから今日にいたる1年半余りの期間は,それが国としても全く新しい施設であるだけに,私ども当事者にとっては,その運営の途を模索しながら,とくにその学問的基礎固めに苦闘した期間といえる.

地域における健康増進活動—(事例2)宮崎県健康増進センター

著者: 定永竹志

ページ範囲:P.347 - P.351

 宮崎県健康増進センターは,厚生省の"健康増進センター構想"と知事の"郷土の繁栄は県民の健康から"という生涯(受胎から墓場まで)健康の構想とが合致し,生涯健康の一翼を担うものとして,昭和48年8月に開所の運びとなった.以来,センターは,"元気で長生きできることは人生最大の幸福でず"をキャッチ・フレーズに,特に中高年層の健康増進(急速な変化を遂げつつある生活環境に対する個人の適応能力を高めること)に関する教育・相談・実践の場としての機能を果たすべく運営されている.

地域における健康増進活動—(事例3)のどかな田園地方における健康管理活動(兵庫県加西市健康増進センター)

著者: 岩本芳男

ページ範囲:P.352 - P.357

はじめに
 健康増進センターの運営方法は,中央センター(県地域A型)と小地域センター(市町地域B型)に分類されるのが当然であろう.すなわち,中央センターでは基礎的研究,指導者養成,データ管理などに重点がおかれるべきであろうし,小地域センターでは住民一人ひとりに対する指導の普及と徹底が要求されるであろう.
 緑と光と土地に恵まれている田園都市,加西市の市民には大都市の人々のような切実な健康阻害感がなく(実際には有病率,脳卒中死亡,運動不足状態など大都市と変わりないが),したがって健康増進に対する関心はあまり高くなかった.そこで私どもは昭和48年4月の開設以来,兵庫県衛生部,県立加西保健所の指導のもとに,市民に安い費用で新しいヘルスサービスを提供するとともに,地域の農協,公民館,市医師会,老人会,婦人会などと連携して健康増進に努力を傾けてきた.その甲斐あって3年後には,健康増進センターは加西市民(人口約5万)の88%に知られ,そのうち30%の市民に利用されるようになり,地域に定着してきた.以下,健康教育を重視した運営の概要を述べる.

連載 図説 公衆衛生・5

母子保健の現状と課題

著者: 安西定 ,   高原亮治 ,   川口毅

ページ範囲:P.303 - P.306

 わが国ではじめて行政的に母子保健がとりあげられたのは1916年(大正5年)のことで,当時,高率であった乳児死亡を減少させるために保健衛生調査会が設置され,母子衛生に関する実態調査が実施された.また,主要都市に小児保健所を設立することや,民間事業として母子保健活動を推進することの必要性が提言された.1937年(昭和12年)には保健所法が誕生し,結核とならんで母子保健事業は保健所の重要な業務となった.
 また,同年および翌年には母子保護法と社会事業法があいついで制定され,ようやくにして,母子に関する保健と福祉施策の基盤ができた.その後,恩賜財団・母子愛育会の設立(1931年),国民体力法の制定(1940年),妊産婦手帳発行制度の創設(1942年)などが進められたが,戦時下のもとで大きな成果をうるには至らなかった.

発言あり

老人マラソン

著者: ,   ,   ,   ,  

ページ範囲:P.307 - P.309

老残延長談義
 —「去年の末から降りつづいた雪は,いのちにかかわるようなすごささえ感じさせましたね.」
 —「ひどい雪でした.雪のマイナス面は多かったけれど,そのなかで私は雪からプレゼントをいただいたのですよ.まず,豪雪時の保健指導について考えさせられました.

綜説

食物消費構造の理論と応用

著者: 豊川裕之

ページ範囲:P.358 - P.365

はじめに
 食べることは個体保存(生存)の本能に結びついている.飢えから逃れるために,ふだんは食べないものさえむさぼり食らうし,そのためには凄惨な死闘さえも起きるほどである.同時に,あるいはだからこそ,食べることは文化の源でもあり,推進力でもある.ヒポクラテスは食べることを医学の源泉とし,食べものの選択が医学的研究の原形であるとさえ記述している1)
 しかし,ここでは平常の食糧事情下における食物消費の実態について説明するにとどめ,その知見の公衆衛生活動への応用を概説する.食物消費は概略,どのような種類の食物を,どれくらい,どのように食べるかが骨子になっている.どのように食べるかには,さらに入手方法,したごしらえの方法,調理・盛り付けの方法および食卓のマナーなどが含まれているが,ここでは触れない.したがって,食物の種類とその摂取量とを中心に食生活を分析することになる.それというのも,"量"として計測できる食生活現象としては,摂取量にまさるものがないからである.量的な食生活現象としては,摂取量のほかに食事回数,食品価格などがあるが,食生活と健康との関係を追究するためには摂取量には及ばない.

食品公害をめぐって

著者: 春田三佐夫

ページ範囲:P.366 - P.372

食品衛生と環境汚染
 食品衛生法によれば,食品衛生とは飲食に伴なう衛生上の危害の発生を防止して,公衆衛生の向上増進に寄与すること,と定義されているが,今日では,単に飲食に伴う衛生上の危害の発生防止に止まらず,食生活をより安全で快適なものとし,進んで人の健康の保持,増進を期するところに真の意義があるとされている.この思想は,WHOの環境衛生専門委員会報告に示されている食品衛生の理念に沿うものであることは,いうまでもないところである.
 ところが,われわれが食品として利用・摂取するものがすべて生物体に由来する事実を考えると,現段階では,それら動植物の生産の時点にまでさかのぼって対策を立てない限り,冒頭に述べたような意味での食品衛生を全うし,健康な食生活を確保することのできないような局面に立たされていると思われる.それというのも,実は,第2次大戦後における工業中心の産業構造の急速な変化と人間性を軽視した野放図な高度経済成長策の歪み現象ともいうべき環境汚染(environmental pollution)が,いまわしい爪跡を残してしまったからである.

論考

後水晶体線維増殖症(早産児の網膜症)の多発と学会の社会的責任

著者: 尾沢彰宣

ページ範囲:P.373 - P.375

高濃度酸素供給との関係―その解明の歴史―
 後水晶体線維増殖症(Retrolental fibroplasia,RLF)は,1942年Terryが最切に記載1)し,1944年命名2)した疾患で,その後1949年,Owens & Owens2)が,Terryの命名したRLFが綱膜の病変に始まる一連の疾患である網膜症(Retinopathy)の最終段階であることを報告した.当時,アメリカでは本症を新生児の失明の原因となる疾患として重要視していた.
 1951年,Campbellは,本症の発生が吸入用酸素の消費量と関係があることを調査推定し,1952年,Crosse,Ryanは,臨床的に高濃度の酸素の供給との関係を指摘した.1954年には,Ashtonは,高濃度の酸素が網膜に有害であることを病理学的に解明し,1955年,Rossier,Bingも酸素の原因論を発表している.1952年のPatz4)の臨床実験ならびに1956年のKinsey5)の計画人体実験などにより本症と酸素との因果関係が確実となったが,1957年,Patz6)は,RLF発生原因として環境酸素濃度説を確立し,すべて酸素は酸素分析器によること,酸素の記録は病歴として記載すべきこと,酸素は医師の指示で投与すべきであり,流量の代わりに濃度で指示すべきこと,臨床反応を満たす最低の濃度とすべきことを提言した.

日本列島

小児保健医療センター(仮称)の建設構想について—京都市

著者: 山本繁

ページ範囲:P.321 - P.321

 去る昭和52年1月19日,京都市医療施設審議会(会長,西尾雅七京大名誉教授)は船橋求己京都市長に対して,次のような内容をもった京都市立小児保健医療センター(仮称)の設置を答申した.京部市ではこの答申を受けて,昭和52年度予算に,センター設置調査費を計上することになっている.
 1)小児保健医療の現状と問題点
 ①小児保健の中枢となるべき保健所に常勤の小児専門医が極めて少なく,きめ細かな小児保健行政が行えない.

精神衛生談話会—長野県

著者: 川久保育男

ページ範囲:P.328 - P.328

 厚生省は精神衛生対策の一端として精神衛生センターの設置を推進して来たが,現在では,ほとんどの都道府県にこれができて,それぞれ地域の特徴を生かした活動をしている.ただ.発足当時から問題になっているセンターの運営活動には一貫したものがなく,まだセンターは何をすべきかというようなことが,論議され続けている状態である.運営上最も大切とされている病院や保健所との連繋にしても,まだまだの感のあることは認めているところである.これはどこでも,保健所の精神衛生業務を充実させずして先にセンターを発足させたところに問題があり,精神衛生対策の中でセンターが浮いてしまった形になったからである.この点はどこでも憂慮しており,その必要性を充分認めているが,現状としてはまだ不充分である.談話会は,このパイプの一助として役立っているのである.
 談話会は回を重ねること既に33回に及び,効果を挙げている.会の内容としては,専門家の講演や難しいケースを持ちよって参集者から意見を聴き,最もよい処理方法を考えるとか,末端の現場で働く者の研修会的な意味が多分にあるが,それよりも広く関係者との連繋の意義が強いのである.誰でも参加できるが,やはり,保健所の精神衛生担当者,保健婦,市町村の保健衛生担当者,福祉関係者,病院のケースワーカー,また保育時の保母等で,常に数十人の精神衛生関係者が集まって開かれている.

岐阜県の地域保健医療計画

著者: 鈴木大輔

ページ範囲:P.372 - P.372

 岐阜県の地域保健医療計画に関する報告書が,岐阜大学医学部公衆衛生学教室(館正知教授)によってまとめられた.同報告書は,県が保健医療計画の指針にと,同教室に研究・調査委託されていたものである.同教室は,昭和48年度から3カ年にわたって調査,研究し,報告書をまとめた.
 報告書の概要は,下記に列記するような6項目と,別冊資料「岐阜県郡上郡の地域保健医療計画」とからなる.

今月の本

日本科学者会議 編『公害と人間社会』—一般の"公害"書とは異質な,"総合科学"の観点から構成された好著

著者: 吉田克己

ページ範囲:P.376 - P.376

 この書物は,筆者もその一員である日木科学者会議の編集による講座「現代人の科学」全12巻の1冊をなしているものである.かねてから科学者会議は公害問題には大きな関心をよせ,また,全国各地で具体的な問題に参加してきている科学者団体であるだけに,注目をひく書物でもある,
 この書物は,その内容別に,「自動車・道路公害」について西村肇氏(東大),「環境基準と公害規制・環境アセスメント」に林智氏(阪大・医療短大),「戦後地域開発と環境保全」に宮本憲一氏(大阪市大),「日本における物質循環と環境問題」に半谷高久氏(東京都立大),「公害の経済学」に中村孝俊氏(法政大),「戦前の公害問題」に加藤邦興氏(大阪市大)の各氏が,それぞれ分担執筆したものである.

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用語欄

著者: 青山好作

ページ範囲:P.314 - P.314

▶健康スペクトル
 アメリカの予防医学者であるレベルとクラークは,「健康は物質要因と環境要因との相互の関連においてなりたっている」という動的な平衡論を提唱し,この物質要因と環境要因との平衡関係がくずれたときに生ずる過程を,分光スペクトルをモディファイして,健康・半健康・病気・死亡の4段階に分け,これらが相互に連続関係をもっていると説いている.
 スペクトルとは,分光器を通過した幅射線が一つの面上に波長の順に配列したもの,という意味である.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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