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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生41巻6号

1977年06月発行

雑誌目次

特集 食品衛生行政

食品衛生行政の一側面—消費者保護の立場から

著者: 宗像文彦

ページ範囲:P.386 - P.390

I.はしがき
 最近,食品をめぐる保健衛生上の諸問題が,関係専門家の間で熱心に議論されているだけでなく,テレビ,ラジオ,新聞,雑誌などを通じて一般大衆にも情報として大量に提供され,その日常生活にも良かれ悪しかれ少なからぬ影響を及ぼしている.
 従来,食品に関する保健衛生上の中心課題は,急性胃腸症状をひき起こす細菌性食中毒についてであったが,今日では,食品添加物,残留農薬,環境汚染物質などの化学的物質による障害,とくに長期間にわたる摂取によって起にると思われる発がん性や遺伝に対する影響などが注目されている.このにとは,食品に化学的物質が介在あるいは混入したために起こった水俣病,森永ヒ素ミルク事件,カネミ油症事件などによって,次第に重要視されてきたものであり,食品以外でも,胎児に影響を及ぼしたサリドマイドなど医薬品の副作用問題,化学的物質が介在する公害問題などが社会的関心をたかめ,保健の観点から化学的物質全般についてきびしく見直すという傾向をつよめている.

食中毒の動向とその対策

著者: 藤原喜久夫

ページ範囲:P.391 - P.396

はじめに
 近来,わが国においては,赤痢をはじめとして消化器系急性伝染病は急激にそのかげをひそめ,現在は,往時の猛威をしのぶよすがもないほどに減少した.すなわち,昭和27年における赤痢患者数111,709名が昭和50年には僅かに1,498名になり,また,昭和20年の腸チフス患者数57,933名が昭和50年には524名を報告しているにすぎない.しかしながら,食中毒についてみると,その届出制度がはじめられた昭和27年に23,860名であった患者数が昭和50年には45,277名となっており,その間に若干の増減はみられるが,上記の伝染病に示されたような顕著な減少の傾向は認められず,むしろ年によってはかなりの増加さえ報告されている.本稿においては,この現象の発生要因について若干の考察を行い,さらに,これらの食中毒に対する対策に関して,二,三の提案を試みたい.

食品の化学物質による汚染—食品中残留農薬を中心として

著者: 上田雅彦

ページ範囲:P.397 - P.403

はじめに—食中毒と食品公害と—
 昭和44年は,わが国の食品衛生行政にとって,ある意味で銘記すべき年であったと筆者は思っている.この年の3月から9月まで朝日新聞は「食品公害を考える」シリーズ1)を連載した.このシリーズは,食品の化学物質による汚染問題について十分なキャンペーンの役目を果たし,ようやく豊かさの満ちた市井の食品の安全性問題に一般の目を開かせる端緒になって,"食品公害"という言葉を生んだ.
 その直後から,表1にみるように食品の汚染問題は次々と表面化し,食品衛生行政の重要なテーマの一つとなる.食品の化学物質による汚染事故は食品衛生行政の上では食中毒と称されるが,食中毒の大半が細菌性であるという統計が示すように,一般には食中毒と言えば一過性のいわゆる"食あたり"という受け取り方が強く,生命に危害を及ぼすという感じは薄い.これに反しヒ素ミルク中毒,水俣病,油症などの化学物質による食中毒事故は,食べる側がいかに注意しても,その食品に毒物が含まれているかどうかの判別は極めて困難なばかりでなく,一度毒性が発現すればほとんど治療法はなく,患者に精神的にも肉体的にも厳しい環境を強いる場合が多い.こういう事例が単なる"食あたり"ではすまされなくて,"食品公害"という,私たちの健康に抜き難い影響を与える厳しい表現を生んだと思われる.

食品汚染物と安全性確保

著者: 松島松翠

ページ範囲:P.404 - P.409

はじめに
 食品汚染物については,人為的に加えられる食品添加物のほかに,カドミウム,水銀,PCBなどの環境汚染物質,残留農薬,中性洗剤,家畜の飼料からの汚染物,包装,容器,缶などに含まれる有害物質などがあげられる,これらは,非常に多種多様にわたっており,個々の汚染物質の毒性のみならず,その相乗作用が問題になってきている.その安全性確保は,緊急の課題であるが,ここでは食品添加物を中心に,農薬以外の二,三の汚染物質についてふれてみたい.

食品衛生の化学的側面における問題点について

著者: 細貝祐太郎

ページ範囲:P.410 - P.414

はじめに
 近年発生した種々の食品汚染は,わが国のみならず諸外国でも,程度の差こそあれ共通なものが多い.
 わが国においては,プラスチック製食品容器から塩ビモノマー,BHT,ホルムアルデヒド,フタル酸エステルなどの溶出,ニトロソアミン,ベンッピレン,マイコトキシンなどの発ガン性物質,タール色素,AF2などの添加物,水銀,カドミウム,ヒ素,鉛などの有害元素,残留農薬,さらにはPCB,中性洗剤などによって種々の食品衛生上の問題が発生した.これらの問題はいずれも,食品衛生領域の中でも化学的な面が多いが,勿論,それ以外の真菌などの微生物面あるいは医学的,生化学的な種々の分野も包含する広範囲のものである.

最近の国民栄養と栄養指導

著者: 藤沢良知

ページ範囲:P.415 - P.423

はじめに
 国民の栄養摂取状態,健康状態の現状把握を目的に,毎年「国民栄養調査」が行われている.
 そこで,昨年末公表された昭和50年成績をもとに,国民栄養の動向を紹介するとともに問題点をさぐり,また,現行の栄養指導のおかれている課題と行政面を中心とした栄養指導の現状などについてふれてみたい.

食品衛生監視の評価・1

著者: 小林嗣郎

ページ範囲:P.424 - P.433

I.監視の推移
 食品に関する行政は明治11年の「アニリン其他鉱属製,絵具染料ヲ以テ飲食物ニ着色スルモノ取締方」(内務卿)をもって始まり,明治33年,「飲食物其ノ他物品取締ニ関スル法律」(内務省)なる一般的な法律を制定して全国的な食品衛生行政が行われ,知事・警視総監が警察官に委託して取締まり(監視)が進められた.このように食品行政≒食品衛生行政≒監視行政であった.
 このように全くの当初から監視が行われ,戦後の警察行政からの移管が科学的対応の必要という大きな名分で制度変革を経,それほど歴史性のあろものなら今日,食品行政の最重要に位置しているがというと,全くしからずであることは承知のとおりである.

食品衛生監視の評価・2

著者: 光崎研一

ページ範囲:P.434 - P.440

はじめに
 食品衛生監視効果の評価問題は,それ自体が食品衛生監視評価の弁証法的原点であるとの認識に立たねばならない.したがって,現在食品衛生監視の方法論の一核とされながらも,その価値・意義・評価などに関して,いまだ定説の得られていない食品衛生監視票について,衛生行政学的立場から考えてみたい.
 食品衛生法による食品衛生監視(採点)票は,つぎの項「行政効果の把握」で概説するような構造から成り,本来,営業体に対する衛生教育的手段としてとりいれられたものである.監視項目は20カテゴリーあって,その合計得点は100点をもって満点とされている.

国際食品規格計画と輸入食品検査の現状

著者: 長野健一 ,   中嶋茂

ページ範囲:P.441 - P.449

I.国際食品規格計画の現状
 食糧および農業に関する国際的な諸問題の解決当たっているFAO(国連食糧農業機関)は,近年,食糧需給における国際協力を推進し,食糧の国際貿易を円滑化しなければならない折から,世界各国において,消費者保護および公正取引を目的とする食品規制の相違が障害となっている事実に着目し,国際的に採用し得る食品の規格を作成するため,1962年にWHO(世界保健機関)との合同会議を開催して,FAO/WHO合同国際食品規格計画(Joint FAO/WHO Food Standards Programme)の作業に着手した.

連載 図説 公衆衛生・6

学校保健の現状と課題

著者: 安西定 ,   高原亮治 ,   川口毅

ページ範囲:P.379 - P.382

 わが国の学校保健の歩みは,明治5年の学制発布とともにはじまった.以来百有余年,児童・生徒を中心とした国民の健康水準の向上に果たした役割は,はかりしれない.戦後,昭和22年「教育基本法」が公布,施行され,健康な国民の育成は教育そのものの基本的目的とされた.また同時に,公布,制定された「学校教育法」により,現行の学校教育制度が基礎づけられ,このなかで学校における保健措置も定められた.昭和33年には,「学校保健法」が「学校教育法」から派生した特別法として公布,施行され,学校保健計画,学校環境衛生,健康管理,学校保健に関する行財政制度など包括的,体系的な内容をもち,学校における保健管理の中心的な役割を果たしている.その後,新しい傷病構造に対応するため,昭和48年には,保健体育審議会の答申にしたがい,腎疾患,心疾患対策等が開始された.
 学校保健の重要性は,その対象者が次の時代のわが国のにない手である,という点にある.児童,生徒等が,学校の場で得た健康に関する認識,知識,習慣は,多くの場合,その一生涯を規定すると考えられる.また,心身ともに発育,発達の過程にあり,成人に比較して不安定であり,この時期の健康管理の適否が,一生涯の健康を左右すると考えられる.さらに学校においては,少なくとも9年間の集団生活がおこなわれるわけであり,集団管理として,感染症対策はもちろん,包括的な健康管理対策が必要といえよう.

発言あり

インスタント食品

著者: ,   ,   ,   ,  

ページ範囲:P.383 - P.385

食品と疾病パターン
 地理病理学では各地の疾病パターンの異同を論議するが,いうまでもなく,食生活のあり方は病因論上の重要なポイントである.なぜ本邦や南米のチリーなどに胃ガンが多いのか,さらに,難病のひとつであるベーチェット病が戦後多発の傾向になぜあるのか,これらについて環境要因の探索が行われている.一方,逆に消滅に近い疫痢や重症の妊娠中毒症の減少(?)なども,食生活と無縁ではなさそうである.また近年,脚気が再燃しつつあるという報道がある.わがくにの脚気が病像からみて,単にビタミンB1欠乏のみでないらしい,という研究者があり(アメリカのビタミンB1欠乏症の主症状はウェルニッケ症候群であるという),他の付加条件が疑われている.
 このような,疾病パターンの時代と場所の変動の要因は,何であろうか.その第一は,食生活の変化であろう.国民栄養調査によると,カロリー,栄養素の摂取状況が著しく改善されてきたことはいうまでもない.しかし,具体的な摂取形態(料理の仕方)の変容は,表面化していない.実感としては,昔の家庭のにぎりめしのようなものが,すっかり即席ラーメンのたぐいで置きかえられたようである.とにかく,予防医学からみれば,インスタント食品の普及が食品衛生上の多くの問題を含むことは事実である.とくに,添加物などによる微量慢性中毒のおそれがないとはいえない.

日本列島

岐阜県公衆衛生看護学会の開催

著者: 鈴木大輔

ページ範囲:P.440 - P.440

 第9回岐阜県公衆衛生看護学会(会長・豊吉たづ・日本看護協会保健婦部会岐阜県支部長)が,昭和52年3月4日,5日,岐阜市中央公民館で開催された.今回のテーマは,「地域看護を考える(三年目を迎えて)」である.
 第1日目の午前中は,県内各地区代表の保健婦の研究発表があった.各発表者のテーマを列記すると,①健康全レベルにおける保健婦の役割,②精神障害者の訪問について,③心身障害児の一事例から,④成人保健指導のあり方の再検討,⑤寝たきり患者の看護活動を考える(老人を中心に),⑥地域看護に密着した家庭訪問をするにはどうしたらよいか,である.

中学・高校生徒の脳貧血について—北海道共和町

著者: 吉田憲明

ページ範囲:P.452 - P.453

 管内共和中学校よりPTA研修会に講師として依頼があった.
 希望のテーマは,「中学生の日常の健康管理,特に貧血と受験期について」というものであった.養護教員を呼んで生徒の様子を聴いてみると,どうも朝会時や始業式時に倒れる生徒が多いので心配だというのである.教師の間でも話題になり,したがって父兄の間でも問題になっているという.

保健婦活動の公開座談会と研修会の開催—宮城県

著者: 土屋真

ページ範囲:P.453 - P.453

A.公開座談会の開催
 昭和52年2月20日,日本看護協会保健婦部会県支部主催による公開座談会が仙台で開かれ,「明日からの保健婦活動を考える」というテーマで約200名が集まりました.よりよい看護の実践を目ざしながらも住民の要求に答えにくい現状にあって,「住民サイドに立脚した」とか「住民に密着した活動」とは何かをもう一度考え,保健婦活動の方向を見出そうという目的で開かれたものです.
 座談会には当県の医師,住民,保健所長,保健婦と,駐在制で名高い高知県の上村聖恵さんも加わり,それぞれの立場からの発言と参加者の質疑応答がなされました.医師の立場からは地域における保健活動をとおして保健婦に何を望むか,住民の立場から保健婦に何を望むか,保健所長として保健婦活動に期待するものは何か,保健婦の立場からこれからの保健婦活動はどうあったらよいかが,大石県支部長の司会で現状の問題をふまえて話し合われました.

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用語欄

著者: 西川滇八

ページ範囲:P.423 - P.423

▶中性洗剤,synthetic detergents,light duty洗剤
 合成洗剤には陽イオン系,陰イオン系,両イオン系,非イオン系の4種類がある.陰イオン系のものでアルキルベンゼンスルホン酸塩,高級アルコール硫酸エステル塩類を主原料としているのが中性洗剤と呼ばれている.これはアルカリ性の洗浄促進剤を含まない.界面活性剤を主体として,中性ボウ硝など性能向上剤が配合されているという.食品,とくに野菜,果物類に付着している細菌,寄生虫卵,農薬などを除去する目的で使用されている.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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