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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生41巻7号

1977年07月発行

雑誌目次

特集 公衆衛生戦後30年

国際的にみた日本の公衆衛生戦後30年

著者: 橋本正己

ページ範囲:P.462 - P.467

はじめに
 世界的にみて,日本は社会の変化のテンポが最も速い国であるといわれる.かつて筆者は,WHOフェローとしてイギリスに留学中,London Schoolの公衆衛生史の講義で,"イギリスの社会はかつて一度も駆け足をしたことはない"という意味の講師の言葉―それはきわめて誇り高い表現のように感じられた―を聞いたことが,今でもなぜか印象に残っている.
 明治維新以来100余年,日本社会の歩んだ道はまさに激動につぐ激動,いわば駆け足の連続であった,といってもいい過ぎではないだう.このことはまた,特に戦後30年の日本について切実である.しかしながら,個々人の日常生活そのものから切り離して考えることのできない健康の問題を,しかも社会的な規模の努力で保持増進することをめざす公衆衛生活動が,社会経済の激しい変化を直接,間接に鋭く反映してきたことは,当然といえる."地球は狭くなった"といわれる.まさにそのとおりである.小論では,とりわけ変化の激しかった日本の公衆衛生の戦後30年の歩みを,単に日本だけの問題としてではなく,世界のなかに位置づけてその特質を探り,今日の課題を考えてみたいと思う.

戦後30余年における疾病の様相の変遷と予防の進歩

著者: 岡田博

ページ範囲:P.468 - P.474

はじめに
 人類の元祖,オーストラロピテクスが地球上に出現して以来250万年,現在の人類(Homo Sapiens)が現われてから10万年たつが,この,ヒトという生物の永い歴史で,いつが最も発展のめざましい時代であったかといえば,誰しも"現在"と答えるのに異論はないであろう.特に第二次世界大戦後からの30年間には,あらゆる方面の科学の進歩が,経済の発展とともにとりわけ爆発的な進展を遂げつつある.40年前には夢想もしなかった月へも行けるようになったし,広い地球上のどこへでも2, 3日で到達できるようになった.
 地球上の人口も,西暦のはじめ2.5億と推定されていたに過ぎなかったものが,19世紀の中頃やっと10億になったばかりであるのに,その後急激に増加し,現在約40億,今世紀の終わりには80億に達する,と推算されている.そして,ヒトの生命はまた急速に延長し,文明国では平均寿命が70歳に達するところが多く,わが国では男が72歳,女が77歳に到達するに至った.

戦後30年の母子保健の回顧とその問題点

著者: 船川幡夫

ページ範囲:P.475 - P.479

はじめに
 第二次世界大戦は,わが国における公衆衛生活動の歴史に大きな変化をもたらしたことは,すでに各方面で指摘されている通りである.すなわち,民主的な観点から新しく制定された憲法の第25条によって保障された国民の生存権と,国民生活の社会的進歩,その向上のための国の責任が明確化されるにおよんで,母子保健の領域でも,新しい方向へと動きはじめた.
 母子保健の目標が,母子の健康の保持と増進をはかるという基本的な理念においては不変であっても,それぞれの時代,環境の相異などによって,重点としてとりあげられるべき課題は変化してくる.終戦直後における混乱の時期から今日までの30年間,社会における大きな変動の中で,母子保健対策もいろいろと変遷してきた.それは,母子そのものの健康上の問題の変化だけでなく,それをとりまく生活環境の変化,さらに医療や,保健に関しての体制上の変化とともに,健康そのものの考え方の変化のあったことも否定できない.また,その過程では,ある時期には,よかれと考えて行われたことが,後に問題をもたらすということさえあった.

戦後30年における環境保健の変遷

著者: 吉田克己

ページ範囲:P.480 - P.484

はじめに
 戦後の公衆衛生を特徴づけた最も大きなものは,公害を中心とした環境問題の大規模な登場であったといえよう.勿論,戦前においても,大阪のばい煙問題,渡良瀬川の鉱害問題など数多くの問題がみられたが,戦後においては,水俣病,イタイイタイ病,四日市ぜんそく,新潟水俣病の四大公害事件をはじめとする多くの環境問題が,社会の耳目を集めた.このことは,一つには,高度経済成長を背景とする工業生産力の急激な拡大と,それに相伴わない公害対策の遅れとがあるが,同時に,人の健康に対する国民的な関心の上昇がその背景の一半をなしていることも,見逃してはならない点であろう.

戦後30年における産業保健の変遷

著者: 皿井進

ページ範囲:P.485 - P.489

はじめに
 昭和22年,労働省が誕生し,「労働基準法」を母体に関連諸規則が従来の「工場法」,「鉱業法」に代わって制定され,わが国の産業保健が新しい幕開けを迎えてから,今年で30年になる.
 これについて何か書けとのことでお受けしたものの,さて筆をとってみると問題は大きく,限られた紙数ではどれも舌足らずに終わりそうだが,思いついたことの二,三を述べさせて頂き,責を果たしたい.

戦後30年における食生活の変遷

著者: 桑原丙午生

ページ範囲:P.490 - P.496

はじめに
 わが国民の食生活は,周知の如く,戦後から今日まで幾多の混乱を経て,しだいに食糧事情の好転と所得水準の向上により,著しい変化をとげてきた.米飯を中心とし,魚介類,野菜類,いも類を副食とした時代を経て,畜産物,果物類が加わり,ついでぱん類,加工食品類,インスタント食品が普及し,多様化し,栄養内容も充実してきたのである.
 このような食生活の変化は,国民体位の向上や平均寿命の伸長など,国民健康の保持増進に大きく寄与したことは事実であるが,反面においては,国民の一部に食事内容の不均衡もみられ,肥満,貧血,動脈硬化,高血圧,糖尿病等の増加をもたらしたことも事実である.

DEVELOPMENT OF PUBLIC HEALTH IN JAPAN—With special reference to the people's participation and integration of health programs

著者:

ページ範囲:P.497 - P.503

Introduction
 In 1974, Japan commemorated the one hundredth anniversary of the enactment of its unique Medical Code (ISEI), which heralded the starting point of modern medical and public health administration.
 In this paper, however, the period of the subject will be limited to the three decades after World War II, where remakable developments in public health have been achieved within a new social environment.

―座談会―戦後公衆衛生30年の経験

著者: 館正知 ,   福島一郎 ,   橋本道夫 ,   山下章

ページ範囲:P.504 - P.512

 昭和22年に「保健所法」が改正,施行されてから,今年でまる31年目を迎える.その間に,終戦後の荒廃,朝鮮特需を機とする27年の日本経済の再興と保健事情の向上,20年代末から出始め,新たな環境問題として出現し,40年代まで猛威を振るった"公害"と住民運動の高揚,30年代に入ってからの保健所黄昏論の出現,35年を境に始まった高度経済成長の波,そして石油ショックを契機とした低成長への転換とそれに伴う"福祉見直し論"の出現など,さまざまな事態が去来した.今回,その30年の長きにわたって,一途に公衆衛生分野に生き,その中心的な役割を果たされてきた四氏に,その間の経験を回顧して,今後に残された公衆衛生の問題点を御指摘いただいた.

連載 図説 公衆衛生・7

労働衛生の現状と課題

著者: 安西定 ,   高原亮治 ,   川口毅

ページ範囲:P.455 - P.458

 労働衛生の目的は,ILO/WHOの合同委員会によって採択されたものが代表的である.すなわち,「労働者の肉体的,精神的,社会的に良好な状態を最高度に増進し,かつそれを保持するにと」とし,さらに労働条件に起因する疾病の予防,健康に不利をもたらす悪条件からの保護,労働者の適性配置などを内容としている.
 わが国では昭和22年,「労働基準法」が制定され,近代的な労働衛生制度確立への第一歩がふみ出された.その後,昭和30年には,「けい肺法」が定められ,これは昭和35年「じん肺法」へと発展した.昭和47年には,「労働基準法」のうち,安全,衛生に関する部分が「労働安全衛生法」として単独の法律となり,昭和50年に制定された「作業環境測定法」とともに,労働衛生領域の法的整備が一段とすすめられた.

発言あり

乳児死亡率9.3

著者: ,   ,   ,   ,   岡愛子 ,   辻義人 ,   橋本博 ,   山田信也 ,   山手茂

ページ範囲:P.459 - P.461

ターゲットは何か
 ガスリー法による先天代謝異常のスクリーニングが,本年度予算化された.
 顧みると,T教授より先天代謝異常,特にP.K.U.についての講義を聴く機会を得たのは,昭和38年のことである.新鮮な感銘と刺激を受け,また,一人の精薄児の生涯に費す財源をもって,すべての新生児のスクリーニングが可能であるとするアメリカの発想に,強い共感を抱いたものである.

留学記

ミシガン大学に学ぶ

著者: 西岡和男

ページ範囲:P.513 - P.517

 私は1975年9月から,1976年8月まで,アメリカ合衆国のミシガン大学公衆衛生学校(Schoolof Public Health, University of Michigan)で,Master of Public Health(MPH)コースの学生としてPopulation Planningを専攻してきた.カリキュラムを中心にして,いくつかの学ぶべき点をここに記したい.

調査報告

保健所における老人保健活動について—奈良市老人の全戸訪問

著者: 石田一郎 ,   木田アヤ子

ページ範囲:P.518 - P.523

はじめに
 老人保健医療対策として,老人健康診査,老人医療費の支給制度,在宅老人機能回復訓練事業などが行われているが,これは在宅福祉対策としての"ねたきり"老人対策や,生きがい増進対策などとともに,老人福祉法にもとづいた福祉機関を中心としたもので,保健所は補助的な役割をしめているにすぎない.
 保健所法第2条に「老人の衛生」が昭和38年に追加されたが,保健所が積極的に行った老人保健活動は少ない.

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用語欄

著者: 橋本正己

ページ範囲:P.503 - P.503

▶OMS
 WHOのフランス語,ORGANISATION MONDIALE DE LA SANTEの略語である.WHOの正面玄関には5カ国語(世界的にみて流通規模の大きいもの)でその名称が刻まれているか,それは,世界衛生組織(中国),ORGANISATION MONDIALE DE LA SANTE(仏),BCEMMPHAR OPLAHN3ALINR 3APABOOX-PAHEHKA(ソ連),WORLD HEALTH ORGANIZATION(英),ORGANIZATION MUNDIAL DE LASALUD(スペイン),の5カ国語である.WHO本部事務局のあるジュネーブでは,WHOでは通りが悪く,タクシー,バスなどでも,O. M. S. といえば直ぐ通ずる.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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