icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生41巻9号

1977年09月発行

雑誌目次

特集 脳卒中予防

わが国における脳卒中の現状とその対策

著者: 田中喜代史

ページ範囲:P.606 - P.612

I.脳卒中死亡の現状
 今日,わが国において国民死因の順位は,1位脳卒中,2位悪性新生物.3位心臓病となっており,表1のように脳卒中は昭和26年に,それまで長らく死因のトップであった結核に代わって第1位となり,現在に至っている.また,28年に悪性新生物が2位に,33年に心臓病が3位になった.昭和50年には,これら3疾患による死亡が全死亡の中で占める割合は58.3%となっている.特に脳卒中による死亡者数は,昭和50年には17万4,367人をかぞえ,全死亡の約4分の1に当たる24.8%を占め,表2でみるように,全死亡中に占める割合は,昭和10年の9.9%,25年の11.7%,30年の17.5%と比べると,著しく増加している.
 しかし,人口10万対の死亡率でみると,昭和40年代の175.8をピークに漸減の傾向を示しており,昭和50年には死亡率は156.7となった.また昭和10年の人口を基準とした訂正死亡率でも,昭和26年人口10万対121.7,昭和40年同133.5,昭和45年同118.9,49年同99.8と減少傾向を示している.年齢別では,昭和50年には30歳から69歳までの死因のトップが悪性新生物となっており,40歳から69歳までの2位が脳卒中となっている.そして,70歳以上のトップは脳卒中である.

わが国における脳卒中の現状と疫学

著者: 松崎俊久

ページ範囲:P.613 - P.618

はじめに
 わが国は世界で最も脳卒中の多い国とされ,その真偽をめぐって多くの論争が国内外に展開されてきた.さらに脳卒中の内容,すなわち脳出血と脳梗塞についての診断の精確性をめぐっても議論が絶えない.
 血清脂質とくに血清コレステロールと脳卒中の関連,食塩と高血圧および脳卒中の関係も多くの研究者の論議の的であった.以上の問題は脳卒中の危険因子の認識と予防対策に直接影響をもたらすものであり,脳卒中の疫学にとって最大の課題である.

脳卒中の予防教育

著者: 佐々木直亮

ページ範囲:P.619 - P.625

 "Improved standards of health can only be based upon the informed action of individuals."
 "If present health knowledge were universally available, hundreds of thousands of lives could be saved every year and untold suffering could be avoided."

臨床的立場からみた脳卒中予防の問題点

著者: 伊藤敬一 ,   冨永詩郎 ,   川上倖司 ,   沓沢尚之

ページ範囲:P.626 - P.629

はじめに
 脳卒中のrisk factorとして,これまで種々のものがあげられているが,高血圧が脳卒中に対する極めて重要なrisk factorであることは,誰しも異論のないところであろう.臨床的立場からいっても,脳卒中の予防のためには,まず何をおいても高血圧の治療が優先することは論をまたない.しかし,このような脳卒中に対する予防対策にしても,臨床のむずかしさは,その対策があくまでもman to manとしての立場で取り扱われねばならぬ,ということにある.
 このことは,例えば脳卒中は高血圧者から多発するといっても,必ずしもそうとは限らず,集団検診などでの血圧測定に際して高血圧を指摘されていないものからも発病することがあり,あるいはまた,高血圧の治療をうけ血圧がcontrolされていると考えられるものからも,時には発病することがある.臨床的にはこれらの問題についても,当然目を向けねばならない.なぜなら,このようなグループからの発病の頻度は確かに低いが,発病者自身にとっては,その発生率は100パーセントだからである.

信愛病院における脳卒中予防の地域活動について—地域ボランティア育成の重要性とその役割

著者: 桑名忠夫

ページ範囲:P.630 - P.635

はじめに
 「幼いものには輝かしい未来を,若いものには希望に充ちた明日を,そして年老いたものには今日の幸せを.」
 成人病医療にとりくんでの10年間は,まさに悪戦苦闘の毎日であったし,これからも,やがて訪れる老齢化社会にむけて,手探りのみちが続くであろうことを想う時,今日ほど健康の生涯教育の必要性を感ずる時はない.

地域医療における脳卒中のリハビリテーション活動

著者: 渡辺淳

ページ範囲:P.636 - P.640

はじめに
 脳卒中の身体機能の予後に対するリハビリテーションの効果について,吉永ら1)は,脳卒中患者にリハビリテーションを行った群(以下,リハ群)とリハビリテーションを行わなかった群(以下,非リハ群)との下肢機能の変化を比較すると,入院時と退院時に,リハ群では,杖なし歩行ができる者が29.8%から79.8%へと顕著に増加し,非リハ群では,31.3%から39.6%へわずかに増加するにとどまったと報告している.
 横山ら2)は,リハビリテーション導入前と導入後の在宅患者の日常生活動作の成績を検討し,リハビリテーション導入前は,独歩61%,全介助18%,リハビリテーション導入後は,独歩84%,全介助8%と,両者の間に身体機能的に有意の差があることを認めている.

研究

脳卒中と栄養に関する横断研究

著者: 田中平三 ,   伊達ちぐさ ,   植田豊 ,   馬場昭美 ,   林正幸 ,   大和田国夫

ページ範囲:P.641 - P.647

はじめに
 病因の明確でない脳卒中の予防対策には,基礎疾患である高血圧・血管病変(動脈硬化,血管壊死など)の早期発見・早期治療のみならず,環境条件のコントロールが重要である.環境に関する要因のなかで,栄養は最も重要なもののひとつである.ヒトの栄養状態を評価するには,食事調査,身体計測,生化学的検査,臨床医学所見などの方法が考えられるが,今回は食事調査を実施することにした.すなわち,ヒトの栄達状態がいかに脳卒中の発生に影響をおよぼしているかを追究する研究の第1段階として,脳卒中の多発地区と対照地区における栄養素摂取状態を調査した.
 食事調査は,通常,「国民栄養調査」においても採用されている秤量法で実施される.秤量法は,最も信頼性の高いものであるが,多数の調査人員,時間,費用,専門的知識・技術を必要とするので,母集団から少数例を抽出して調査せざるを得ない.今回の調査は,著者らが考案した簡易栄養調査法1)を用いて,対象者のほぼ全員に対して実施したものなので,地区特性をよく反映しているものと考えられる.

調査報告

地域における老人の受療の実態

著者: 大国美智子 ,   久池井暢

ページ範囲:P.648 - P.653

まえがき
 老人の保健医療対策については,早急な対策がのぞまれているにもかかわらず,その歩みは遅々としている.老人医療費公費負担制度によって,経済的理由による問題はかなり取り除かれたけれども,慢性的な疾患を有する老人にとっては,今なお,多くの問題が未解決のままである.殊に,地域保健とか在宅ケアーなどについては,各地で種々の試みがなされているが,実在するニードに比し,積極的に実施されているサービスは極めて部分的であり,容易には進展しない現状である.その理由には種々あるが,医療機関との関係は,避けることのできない一つの課題であるといえよう.そこで,筆者らは,老人の受療の実態について知るべく,次の調査を行った.

静岡県大井川流域の宮崎肺吸虫の分布とその中間宿主の調査について

著者: 佐野基人 ,   石井明 ,   望月久 ,   秋山雅晴

ページ範囲:P.654 - P.656

はじめに
 従来,日本に分布する肺吸虫には人間を終宿主とし,モクヅガニを摂取してかかるウェステルマン肺吸虫(ウ肺虫)と,サワガニやベンケイガニを介して動物を終宿主にしている大平肺吸虫,宮崎肺吸虫および小型大平肺吸虫等が知られている.サワガニは日本各地で広く食用に供されていることから,サワガニに由来する宮崎肺吸虫の人体感染が憂慮されていた.
 ところが,最近,宮崎肺吸虫の人体寄生例が,林らによってはじめて報告された(1974).これで日本における人体寄生肺吸虫は2種になったわけであるが,この宮崎肺吸虫症の感染源は静岡県産サワガニであり,その生食によって発症したことも,林らによって指摘された(1974).その後,本症患者は山梨県や京浜地方でも多く見出された(横川ら,1974)が,いずれも,静岡県産サワガニを購入生食して感染したということである.

世田谷区の一小学校における風疹の流行について—疫学的・血清学的調査報告

著者: 内藤寛 ,   原勝 ,   井上留美子

ページ範囲:P.657 - P.661

はじめに
 1975年春,東京,神奈川および関東北部に発生した風疹の流行は,1976年にはいり関東以北,さらには関西地方にも拡大し,ほぼ全国的な規模での大流行となっていった1)2)3)
 この流行は平山ら4)5)により,罹患年齢が高くにまで及んでいること,重症例が多いことなどが指摘されているが,近畿以西では1977年に流行のピークがくるとの予測もおこなっている4)

連載 図説 公衆衛生・9

循環器疾患の現状と課題(Ⅱ)—虚血性心疾患

著者: 安西定 ,   高原亮治 ,   川口毅

ページ範囲:P.599 - P.602

 前号では,脳血管疾患をその現状と課題について紹介したが,今回は,虚血性心疾患について,死亡・受療・有病状況ならびに発症に関連する要因を紹介する.とくに,本号で紹介する秋田県およびその周辺,大阪府およびその周辺,ならびに四国地方について,市町村別の死亡率分布図の作成は,わが国において初めての試みである.

発言あり

老人福祉奉仕員

著者: ,   ,   ,   ,  

ページ範囲:P.603 - P.605

医療面からみた老人福祉
 近時,わが国の人口老齢化とともに,老人福祉施策が大きくとりあげられている.とりわけ,老人医療無料化に伴い,老人受診率の急増が,医療全般に大きな影響を及ぼしていることは,周知の事実である.
 国の制度として,70歳以上の老人の医療費が無料化され,さらに一部都道府県において,65歳以上も無料化が実施されている.この制度の実現によって診療所が老人サロン化され,また病院が老人ホーム化されているとの風評を耳にする.

トピックス

コレラ禍に直面して

著者: 岩田弘敏

ページ範囲:P.662 - P.663

 和歌山県衛生部から,湯浅保健所長が病を理由に,5月末をもって退職したい意向があり,その後任問題に関して協力方の申し入れがあった.筆者自身,和歌山に来て2年半経過したにすぎず,まだ教室作りもできていない段階であった.まして,保健所に医師を派遣する態勢になどまったくなっていない現状から,大学は筆者を週2回程度,1年を限度に併任させることにした.筆者も教育保健所らしきものができればと夢をいだいて,6月1日付けの辞令を受けた.しかし学内・外の雑用もあって,保健所職員,有田市,有田郡の主だったところへの挨拶回りは,6月6日に延期した.次の出勤日は6月10日で,前所長からの引き継ぎ,アヘン生産者から厚生省への引き渡しの立会いなどで,夜遅くまで有田郡にいたが,コレラに関する"うわさ"は何一つなかった.
 筆者は元来,感染症が不得手で,どこかで伝染病が起こったら,どうしようかという不安を,所長併任の話が出たころから,周りの人たちに言っていたのである.はからずも,保健所勤務3回目,このとき,職員の名前,まして性格・能力などまったくわからない時から,このコレラ禍のウズの中に立っていたのである.

日本列島

北九州市の母子保健対策

著者: 園田真人

ページ範囲:P.640 - P.640

 北九州市の母子保健対策は,妊婦検診からはじまって,乳児期,3歳児までを一貫としたものにするため,昭和43年にプロジェクトチームがくまれた.
 とかく行政の仕事は,どこかで企画立案され,それを実行していくのだが,北九州市の母子保健対策プロジェクトチームは,医師,保健婦,栄養士,事務職員が一体となって,意見を出しあうところが特異的である.

グルタミン酸ナトリウムの多量摂取による食中毒事例について—沖縄県

著者: 伊波茂雄

ページ範囲:P.647 - P.647

 昭和51年7月6日那覇市内において,昼食会の中華料理により成人女子23名全員が,顔面のひきつり,後頭部のしめつけ感,手足のしびれ,嘔気などを主症状とする食中毒症状を起こした.この食中毒の発症は食事中に始まり,2〜3時間以内に回復していることから,グルタミン酸ナトリウムに起因する,いわゆるChinese Restaurant Syndromeが疑われた.なお,23名のうち重症2人は,回復までに2〜3日を要した.
 摂取食品についてグルタミン酸ナトリウムの含有量をしらべたところ,スープから7.1%,推定含有量(摂取量)は7〜11gであった.空腹時に1〜12gを経口投与すると,顔面および身体の赤熱,顔面圧迫感,胸痛,頭痛が起こるといわれており,3〜5gでも発症することが確認されているが,今回の摂取量はこれらの2倍以上の量に相当し,十分な発症量と考えられる.他の原因となるものについての調査では,特別な異常値は見つからず,結局このケースは本県における,おそらく初めてのグルタミン酸ナトリウムの多量摂取による食中毒の事例と思われる.

第24回福岡県公衆衛生学会の開催

著者: 園田真人

ページ範囲:P.653 - P.653

 福岡県における公衆衛生の普及と公衆術生関係者の相互の知識・技術の研鑚を目的として,福岡県公衆衛生学会は毎年開催されているが,昭和52年で第24回という歴史をもっている.主催は福岡県,福岡県公衆衛生協会,医師会,歯科医師会,薬剤師会,獣医師会であり,年々演題も増加し,今年は39題あるため,5月24日,25日の2日間に開催された.
 内容は,最近の公衆衛生分野の傾向を反映して,保健所から7題であり,あとの32題は衛生試験所,環境衛生研究所,衛生公害センターから出されたものである.

今月の本

厚生省医務局 編『医制百年史』—1世紀にわたる社会の激動下における衛生法制史

著者: 橋本正己

ページ範囲:P.664 - P.664

 日本の近代的な衛生行政,医学教育,医療の諸制度の出発点となった医制76条が公布されて,昭和49(1974)年は満100年に当たる.医制はこれらの諸制度を対象とした包括的な法典であり,明治7(1874)年8月18日にまず東京府,ついで翌9月に京都府,大阪府に公布され,その後比較的短期間に全国に拡げられた.明治初頭の激動期に,学制(明治5年)と前後して公布された医制は,当時の西欧諸国の医事法規を参考としたものであるが,その構想は雄大,志向は適確で,その後の日本の医育,医療,衛生行政の基本的な路線を明らかにしたものとして,まさに画期的であったというべきである.
 本書は,医制公布100年を機会に刊行された,厚生省医務局の編集に成る大著である.この100年は,世界の歴史にとってまさに波乱万丈であったが,特に日本としては激動に次ぐ激動の時代であり,それらが医療,公衆衛生の諸制度と諸活動の推移に,鋭く反映していることはいうまでもない.

中野 進 著『医師の世界—その社会学的分析』—医師自身による医師像の実証的解明の貴重な労作

著者: 橋本正己

ページ範囲:P.665 - P.665

 医療の危機が叫ばれるようになって,すでに久しい.これは1960年代以降,欧米諸国にも共通するものであるが,この間の社会経済の変化が他に類のない激しいものであったため,日本の場合には,その様相はとりわけ深刻であり,かつその要因は複雑で根が深い.だが,医療については医師をめぐる問題が,その基軸のひとつであることは明らかであろう.ところが,この主題については,医師の社会がその長年の伝統と日進月歩の専門技術的内容などからきわめて特殊な条件をもつため,最近は特に,医療告発の対象としてマスコミで盛んにとりあげられてはいるが,その実像を実証的に解明する労作はほとんどなかった,といっても過言ではあるまい.
 本書の著者は,京部大学卒業後30年,病院開業歴20年を有する第一線の外科医であり,しかも府の医師会,病院協会など医師としての社会的活動に長年積極的にとりくんでこられた方である.本来,この主題の解明は,その特殊性からみて,医師自身により,しかも社会医学などの立場からの理論的な論述や評論的提言のみでなく,実践的な立場からなされることが最も望ましいと考えられるのであるが,本書はこの意味でまさに得難い著者に恵まれたものといえる.つぎに本書の大きな特色は,著者が「資料なくして発言なし」,「調査なくして発言なし」と強調されているとおり,調査による実証的なとりくみに徹していることである.

--------------------

用語欄

著者: 橋本正己

ページ範囲:P.618 - P.618

▶老人のデイ・ケア(Day Care)
 欧米の老人国では,老人ケアについてのきびしい経験と反省から,従来の施設収容主義に代えて,在宅ケアを基本とする改革がなされているが,デイ・ケアは,収容施設と居宅との中間に位置づけられる媒体的機能として重要なものである.これは主として,病弱または後遺症を持つ老人に対し,施設を場として一定時間の機能回復訓練や生活指導,休息,レクリエーション,治療・服薬管理など,家庭だけでは適切な効果が期待できないプログラムを計画的に行うサービスであり,何らかのプログラムを予め病院や施設で作成して昼間に実施するケアである.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up

本サービスは医療関係者に向けた情報提供を目的としております。
一般の方に対する情報提供を目的としたものではない事をご了承ください。
また,本サービスのご利用にあたっては,利用規約およびプライバシーポリシーへの同意が必要です。

※本サービスを使わずにご契約中の電子商品をご利用したい場合はこちら