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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生42巻1号

1978年01月発行

雑誌目次

特集 世界と日本の公衆衛生

国際保健協力の新しい段階と日本

著者: 橋本正己

ページ範囲:P.8 - P.10

I.主題の背景
 今年(1978年)の4月,WHOは発足(1948年4月)30年を迎える.この30年は日本にとってはもとより,世界にとって真に激動につぐ激動の時代であった.第2次世界大戦後における東の諸国の発展は,長年世界の主導勢力であった西の諸国との間にきびしい東西問題を提起したが,新中国の登場によって東の諸国の間にもかつてない波乱が高まり,文字どおり東西の谷間にある日本はまことに困難な国際政治の立場に曝(さら)されることとなった.しかし,世界にとってさらに重要な事実は,大戦を契機として長年の植民統治から解放を勝ちとって続々と誕生した,アジア・アフリカのおびただしい数の南の諸国の抬頭であろう.また,いわゆる石油問題の勃発以来,南の諸国についても産油国と非産油国,アラブ・イスラエルの紛争等によって,国際政治経済の様相がますます複雑困難の一途をたどっていることは周知のとおりである.だが,国際政治経済の問題に立ち入ることは小稿の主旨ではない.
 ここで重要なことは,一国あるいは世界の保健問題がその問題の特質から,それぞれの政治経済の動きに深く絡みあっており,直接間接に鋭くこれを反映している,という事実である.

インドネシアの公衆衛生と日本

著者: 松田朗

ページ範囲:P.22 - P.29

はじめに
 インドネシアの首都ジャカルタは,東京から5,777kmのところにあり,ジェット機で約10時間余を要する.この空間的距離感をもって,多くの日本人はインドネシアという国を,遠くに感じているのではないだろうか.しかし,インドネシアこそは,東南アジア諸国の中で,日本から最も遠くに位置していながら,実は,日本と最も密接な関係を有している国なのである.特に,最近,日—イ間の経済関係はますます深まってきており,イ国輸出総量の約50%は日本へ,イ国輸入総量の約35%は日本から……というくらいに,日—イ間の相互依存の関係が確立している.
 以下,インドネシアに関して公衆衛生的な観点から説明を加え,この国のかかえている諸問題についても,言及していくことにする.

OECD主催の保健政策に関するWorkshopに出席して

著者: 本條喜紀

ページ範囲:P.30 - P.36

はじめに
 昨年1月11日から14日までの4日間,オーストリアの首都ウィーンにおいて,OECD(経済協力開発機構,Organization for Economic Cooperation and Development)の主催,オーストリア政府の全面的な協力のもとに,主催者であるOECDの代表をはじめ,西ドイツ,フィンランド,フランス,オランダ,日本の4カ国の代表,ならびに各分野の専門家約50名の参加を得て,「総合的社会政策の枠内における保健政策(Gesundheitspolitikim Rahmen einer integrierten Gesellschaftspolitik)」に関する国際Workshopが開催された.
 筆者はこのWorkshopに出席する機会を得たので,その概要について紹介する.

座談会

国際医療協力をめぐって

著者: 青木正和 ,   永野貞 ,   辻義人 ,   加納六郎 ,   橋本正己

ページ範囲:P.11 - P.21

■はじめに
 橋本(司会) ご承知のとおり,交通,情報の手段の発展によって世界は小さくなり,また,最近の資源,エネルギー,環境汚染などの問題を通じて,世界は1つ,という意識が非常に強まっています.
 この中で,世界の日本を見る眼といいますか,世界の日本に対する期待が,最近,急速に変わってきているんじゃないか.公衆衛生や医療の面においても,私はいろんな国際的な会議やプロジェクト等に関係して,このことを切実に感じています.

論考

保健所における歯科対策と今後の取り組み方

著者: 齋藤雍郎

ページ範囲:P.37 - P.41

はじめに
 わが国において,う歯罹患率が高いことは,あらゆる機会に各方面で述べられ憂慮されているが,これを改善するための抜本的な方策が講ぜられているとはいえない.
 そこで,わが国の現状をふまえ,これにどのように対処すべきかを考察し,その中で保健所のはたすべき役割,特に当所において開始した幼児の歯科医療が,歯科衛生にいかなる影響を及ぼしたかを研究したので,以下に報告する.

調査報告

東南アジア地域在留邦人の健康管理—現地調査の結果から

著者: 須永寛 ,   澤田清子

ページ範囲:P.42 - P.47

はじめに
 最近のわが国の海外進出企業数は約3,500社といわれている1)が,このうち,いわゆる発展途上国にあるものはその約62%にも達しており,地域別にみると,東南アジア地域には約25%が進出している.すなわち,東南アジアは,地理的にみても国際経済上からみても,わが国とは密接な関係にある.
 一般に,束南アジアは気候的には熱帯多雨気候に属し,気温は高く,雨量が多い,しかも,これらの地域には非衛生的な土地が多い.

入院を希望する老人患者と訪問看護の必要性(その2)—入院待機患者調査

著者: 鎌田ケイ子 ,   賀集竹子 ,   奥山則子 ,   小林万里

ページ範囲:P.48 - P.54

はじめに
 老人専門病院である東京都養育院付属病院は増大する老人患者の医療需要に応えて,施設内病院から地域に開かれた病院として昭和47年6月に開設されたが,入院需要に対応しきれず,多くの待機患者を抱えている現状にある.昭和50年6月現在で入院待機患者は384人を数え,開設以来累積する傾向にある.これらの入院待機患者の状況を把握し,問題解決の方向を検討した.
 本院に入院するには,緊急時以外は外来を受診し,各科の入院予約簿に登録される必要がある.診療した医師が入院をすすめる場合や,医師の紹介により入院を希望する場合,また本人や家族が強く入院を希望する場合などがある.いずれの場合も,診察に当たった医師が入院の必要性を認めた場合に入院を予約する.

茨城県牛久・竜ヶ崎地域における地盤凝固剤による健康障害—(後編)地盤凝固剤使用の経過と人体被害との関係

著者: 南雲清

ページ範囲:P.55 - P.57

I.地盤凝固剤使用の経過概要
 茨城県当局は,使用した凝固剤は人体無害であるとして内外に宣伝し,住民の訴えに対しても責任ある返答はなされていない.そこで,これらの経過を通じて,問題の主要な点を指摘し,「無言説」に対してその背景を述べ,反論を試みた.経過概要については表1を参照されたい.

資料

事業所における成人病の現状と対策—肥満と高血圧,糖尿病,高脂血症および虚血性心疾患との関連

著者: 湯舟貞子 ,   木村照子 ,   藤原和子 ,   河上ユミ子 ,   城戸正博 ,   粕谷正人 ,   松山昌 ,   永田正毅 ,   原納優

ページ範囲:P.58 - P.61

はじめに
 成人病対策として,定期健康診断とその予防の重要性が指摘されているが,事業所における成人病の現状,およびその具体的対策は十分明らかにされていない.
 筆者らは,成人病早期診断のため40歳以上全員に,一般検査のほか,糖負荷試験,エルゴメーターによる負荷心電図を行い,高血圧,糖尿病,虚血性心疾患,高脂血症と肥満の相互関係を検討した.その結果,標準体重10%以上肥満が,成人病と密接な関係を有する成績を得たので報告する.

連載 図説 公衆衛生・13

老人保健の現状と課題

著者: 安西定 ,   高原亮治 ,   川口毅

ページ範囲:P.1 - P.4

 わが国の老人福祉対策が行政上本格的に取り組まれたのは,昭和38年の老人福祉法の制定によるものである.それ以前にも,厚生年金保険や国民年金の老齢年金給付や生活保護法による養老施設への収容等があったが,老人福祉対策が体系的に実施されるようになったのは昭和38年以降のことである.
 昭和38年の老人福祉法の基本的理念は,「老人は多年にわたり社会の進展に寄与してきた者として敬愛され,かつ健全で安らかな生活を保障されるもの」であり,老人がいわゆる健康で快適な生活を送る権利を有することを認め,その責任を本人と国および地方自治体にあることを明確に示したものである.さらに,具体的な福祉事業を,①健康診査,②老人医療費の支給,③老人ホームへの収容,④老人家庭奉仕員による世話,⑤老人クラブ等の設置促進,などを打ち出したもので,以後,日本経済の高度成長に伴って老人福祉制度も急速に拡充強化され,昭和47年には70歳以上の老人医療費の無料化制度が全国的にスタートし,一部の地方自治体では所得制限の徹廃や対象年齢の引き下げなどが実施され,老人福祉対策が大きく前進した.しかし,その後オイルショックに端を発した世界的な経済不況は,わが国にも深刻なインフレ状態をもたらし,老人福祉対策の見直し論が一部にささやかれている今日である.

発言あり

国際保健とは何か

著者: 川村佐和子 ,   草野文嗣 ,   篠崎英雄 ,   野村茂 ,   山本俊一 ,   ,   ,   ,   ,  

ページ範囲:P.5 - P.7

欲しいソフト・ウェァでの協力
 わが国の戦後の工業的発展は著しく,その成果や技術を他国の発展のために提供できることは結構なことである.
 同時に,戦後30年間の日本の保健領域における進展をふり返ってみると,そこには工業化や経済性の追求にともなって,あらたな課題が生起している.昭和28年水俣病患者発生,昭和30年イタイイタイ病問題化,森永ヒ素ミルク中毒問題化,昭和31年水俣病患者多発,昭和36年四日市ゼンソク患者多発,昭和37年サリドマイド児問題化,昭和38年三井三池炭鉱大事故(CO中毒),昭和39年新潟水俣病発生,スモン問題化,昭和40年アンプル風邪薬死者発生,昭和41年農薬問題化,昭和43年カネミライスオイル中毒,などである.

日本列島

「インターハイ」の安全を支えるもの—岡山

著者: 板野猛虎

ページ範囲:P.41 - P.41

 昭和52年度全国高等学校総合体育大会が8月1〜20日,岡山県を中心に開催された.県下の10市において,14種目の競技があり,選手,役員等21,250名が宿泊滞在したが,夏季でもあり,事故防止に関係者は奔走した.
 衛生部では,特に食中毒を重点にした長期対策を計画し,それぞれ関係機関の協力を得て,宿泊施設,弁当調製所等の監視指導,保菌検査等を実施するとともに,各種講習会を通じ,衛生知識の徹底,向上に配慮した.幸いにして,期間中を無事故に終始したことを喜ぶとともに,いささか旧聞に属するが,大会の安全を支えた多くの裏方の中から,,食品衛生協会を選び,活動の側面をご紹介しておきたい.

診断書かきを止めようではありませんか—北九州

著者: 園田真人

ページ範囲:P.54 - P.54

 今年の指定都市保健所長会の議題(うけたまわり事項)の中に,K市から出されたもので「診断書に精神病の有無の項目のある場合どのようにされているか」というのがあった.その提案の理由に,銃砲・刀剣の所持者,理容師,調理師などの免許の申請につける診断書の求めがあったときに,精神病や麻薬の常習者などの診断が困難であるが,他の保健所ではどのように処理されているか,という主旨である.
 いろいろの意見が出され,現時点では異常をみとめないという一項目を加えるとか,あるいは,診断書をかかないとか,いろいろの保健所がみられた.

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用語欄

著者: 橋本正己

ページ範囲:P.10 - P.10

▶デルファイ法(Delphi technique)
 ある領域の専門家のグループ等を対象に,一定の判断についてグループの合意を得る技法として,1969年Rand研究所が開発したもの.特にある事象のprobabilityやutilityの定量的判断などに際して利用価値が大きい.例えば,ある新技術の開発と実用化の時期について,多数の専門家の回答を求め,回答の分布を回答者に知らせつつアンケートを反覆することにより,回答の分布がしだいに収斂するのをねらったものである.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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