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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生42巻10号

1978年10月発行

雑誌目次

特集 市町村保健計画の実際

市町村保健計画の経緯と課題

著者: 橋本正己

ページ範囲:P.622 - P.623

■情勢の変化と保健計画の発展
 住民に最も身近な自治体である市町村の保健計画の重要性,その条件,プロセスと技法を含む進め方について論議され,また努力がなされるようになってすでに久しい.すなわち,前史的段階は別として,この課題が明確な問題意識に立って公的に提起され,社会経済環境の激動の中で,国,地方公共団体により,いわゆる共同保健計画として進められるようになったのは,昭和35年来のことであり,すでに20年に近い歳月が流れた.
 この20年は,世界的にはもとより,わが国にとって誠にきびしい激動の時期であったことは,改めて述べる必要はないであろう.前記市町村の共同保健計画とこれに対する保健所の役割,また計画を進めるための理論的基礎と枠組み,組織とプロセス,実用的な技法等については,当時テキストとして刊行された『保健所管理』(厚生省保健所課監修,日本公衆衛生協会刊,1961)に集約されており,その内容は今日においてもほとんど修正を要しないものである.これによって提示された課題へのアプローチの方式——地区把握・地区診断・共同保健計画——は,その後関連学会等において多くの発表と論議を呼んだが,巨視的にみてその進展はあまり芳しいものとはいえなかった.

市町村保健計画と保健・医療の諸統計・情報

著者: 高原亮治

ページ範囲:P.624 - P.635

はじめに
 近年,市町村において住民の健康増進,疾病予防,リハビリテーション,環境管理等,包括的な目標が設定され,計画的・組織的な公衆衛生活動が推進されようとしていることは,わが国の公衆衛生の向上にとってきわめて意義があるであろう.市町村保健計画としては,さまざまな創意に満ちた試みもなされているが,一応それなりに定型化されている過去の公衆衛生活動についても批判的に検討し,摂取すべきものは摂取することがより望ましいのではなかろうか.特に公衆衛生活動にとって,統計,情報の取り扱いは最も重要な基礎をなすものである.筆者自身,特別区における衛生行政と国における衛生統計の実務の双方をわずかながら担当した経験もあり,小論がこれから市町村において保健計画にたずさわろうとしている方々の参考の一端にでもなれば幸いである.

市町村保健計画と技法

著者: 西三郎

ページ範囲:P.636 - P.641

はじめに
 市町村で保健計画を策定するに当たって,使える技法を紹介することが,筆者に求められた.筆者は,国立公衆衛生院で計画の技法に関する講義を担当しているから,編集者の意図はわからなくはないが,現実の計画策定に当たって,一般に期待される,いわゆる技法は,役に立たないことを承知しているつもりである.このこともあって,一般の人の技法への過度の期待に対して,注意を喚起することをねらいとするよう,編集者の了解のもとに本項の主旨を変更し,これに即して報告しよう.
 なお,市町村保健計画の市町村計画および国・都道府県の保健計画における位置づけが,「市町村保健計画の経緯と課題」(橋本)と一部重複する恐れもあるが,技法について報告する前提としてこれを略述しよう.

市町村保健計画と組織論

著者: 佐久間淳

ページ範囲:P.642 - P.646

まえがき
 この10年近く,首都圏の県や中都市をはじめ,沖縄県,福島県の農村,君津市の山間部などの地域保健計画や"住民の健康づくり活動"に関係してきた.この中から千葉県習志野市(現在人口12万人余,将来推定人口約20万人)の事例を中心にふれてみたい.なお,本稿が「市町村保健計画と組織論」というテーマであるが,この分野における現状では,組織論が他の進んだ分野,たとえば大企業における組織化の水準などと同等には論じられない.したがって,いかに組織化していくかについて,不十分ではあるがコミュニティ・オーガナイザー的立場における実践を踏まえながら述べることにしたい.

市町村保健計画と保健所

著者: 丸山創

ページ範囲:P.647 - P.652

はじめに
 「市町村保健計画と保健所」というテーマからすぐ思い起こされるのは,昭和35年8月16日付の厚生事務次官通知「保健所の運営改善について」である.この通牒は「保健所の総合的・効率的運営」と「保健所と関係機関・団体との連携の緊密化」をうたっている.この中で,特に次の2点を強調している.第1は,保健所のいわゆる「型別再編成」による業務運営と整備の基準設定である.第2は,市町村の区域を単位とする,いわゆる「共同保健計画」の策定と推進である.
 しかし,その後20年近くを経た今日,この「共同保健計画」は掛け声だけに終わり,一部の保健所を除いてはほとんど実効をあげることはできなかった.

市町村保健計画における目標設定とその効果

著者: 宮田昭吾

ページ範囲:P.653 - P.656

はじめに
 与えられた課題は「市町村保健計画における目標設定とその効果」であるが,勝手に解釈をし,意見を述べることとする.目標設定とその効果も,主題である「市町村保健計画」をどのように理解するかで異なってくる.そこでまず,筆者なりに考える市町村保健計画の重要点を挙げてみる.
 今日,自治体での保健計画の策定で,地域住民の健康に利益をもたらす活動には,市町村レベルでの活動計画が最も重要である,ということに外ならない.

市町村保健計画における目標設定とその評価

著者: 青山英康

ページ範囲:P.657 - P.661

はじめに
 「国民健康づくり」のスローガンの下に,市町村保健センター構想が打ち出され,すでに国保保健婦の市町村保健婦への身分の一本化が強力に推し進められている1)
 これら,今日の急速な衛生行政の展開は,地域保健活動における保健所の役割に期待を持ち続けている者にとって,非常に危険な動向として不安をいだかざるを得ない.

市町村保健計画の進め方とその経験例

著者: 大坂多恵子

ページ範囲:P.662 - P.665

はじめに
 近年わが国の健康水準は,男性については「世界一の長寿国」となるなど,平均寿命の伸長にみられるように著しく改善されてきたのであるが,一方,人口構造の老齢化や疾病構造,社会環境の変化に伴う保健・医療需要の増大と多様化に即応した新たな施策の展開が要請されている.
 昭和53年度から,国民のすべてが健康な生活を送れることを目標に,国民の総合的な健康づくり対策が推進されることとなり,この対策では市町村の果たす役割が極めて重要となったので,従来の国民健康保険に所属する保健婦は市町村に配置換えとなり,住民を対象として保健指導を行うこととなった.国ではそのため従前の二局長四課長通知を廃止し,今年度新たに公衆衛生局長,地域保健課長通知を出したのであるが,市町村の「保健計画の策定に関し,次のことが明記されている.

資料

地区保健計画

ページ範囲:P.666 - P.673

『保健所管理』第4章・橋本道夫(当時,厚生省公衆衛生局保健所課・技官,現在,筑波大学社会医学系・教授)著「地区保健計画」(p.281〜302)より全文転載.厚生省公衆衛生局保健所課編集,財団法人・日本公衆衛生協会発行,1961年

連載 図説 公衆衛生・22

難病の疫学—スモンを例として

著者: 安西定 ,   柳川洋 ,   高原亮治 ,   川口毅

ページ範囲:P.613 - P.618

 スモンは腰痛,下痢などの腹部症状ではじまり,急性または亜急性に発現する,神経症状を特徴とする新しい神経疾患である.神経症状は両側性で,下半身からはじまる知覚障害を前景とし,特に異常知覚(ものがついている,しめつけられる,ジンジンする)をもって初発することが多い.
 スモンは昭和30年頃からわが国でみられ,昭和30年〜40年に集団発生が頻発し,日本全国に蔓延した.本病の発現は亜急性または急性であること,神経病変は末梢神経,脊髄後索および球後視神経を含む非炎症性の変性であることなどから,昭和39年にSubacute Myelo-Optico-Neuropathyと名づけられ,その頭文字をとってSMON(スモン)と呼ばれるようになった.

発言あり

寿命世界一

著者: ,   ,   ,  

ページ範囲:P.619 - P.621

だれのための長寿か
 日本男性の平均寿命が72.7歳で世界第1位,女性が77.9歳で第2位となった.これには日本人の栄養,生活水準,医療などさまざまな要因が考えられる.いずれにしろ,極めて喜ばしいことである.
 しかし,われわれ日本人,とりわけ老人が,このことをみんな心から喜んでいるわけではない.老人の集会などで彼らと話すと,必ず何人かの人が「早く死にたい」,「死にたいけど,死ねないから生きている」という.この人たちには,いうまでもなく,日常生活に恵まれていない人が多い.

調査報告

長期通院分裂病者の実態調査

著者: 高野正明 ,   岡田尚久 ,   福澤陽一郎 ,   鷦鷯保子 ,   長岡竹子 ,   原島百合子 ,   小中綾子 ,   小豆澤輝子

ページ範囲:P.674 - P.676

はじめに
 精神分裂病患者の社会適応を論ずる場合,community careの貧困な日本では病院依存のcareと家族に負うところが多い.今回,筆者らは,長期の経過をたどっている精神分裂病患者が,家庭でどのような生活をしているか,その家族関係はどうか,それが患者の病状,治療にどのような影響を与えるかを明らかにし,患者の社会復帰のあり方,家族指導のあり方などを検討するため,保健婦,病院,ケース・ワーカーによる家庭訪問によって実態調査を実施した.

日本列島

第17回築館町保健福祉大会の開催—宮城県

著者: 土屋真

ページ範囲:P.641 - P.641

 築館町は人口17,300の,小さいながらも活気のある県北栗原郡の中心的な町である.このたび開催された保健福祉大会が第17回を迎えたが,ことに各種関係団体が一緒に17年もこの行事を続けてきたことには,感心させられた.
 主催は町だが,新町民生活運動推進協議会・社会福祉協議会・公衆衛生組合連合会・町内保健福祉団体が協賛,保健所と福祉事務所が後援になっている町ぐるみの大会で,今年も約900人もの老若男女が築館中学校の体育館に集まってきた.これらの人々は,各戸に配布されたチラシを見て会場に来た不特定多数の町民である.

子宮がん検診の長期展望について—京都府医師会

著者: 山本繁

ページ範囲:P.656 - P.656

 京都府医師会は,会長の諮問機関である「子宮がん検診委員会」の答申を受けて,昭和53年の初め,京都府下における子宮がん検診の長期展望を発表した.
 これによると,京部府医師会は,京都府および京都市をはじめとする市町村との共同事業として,昭和44年以来現在まで,府下全域において,延べ約40万人の婦人を検診し,その結果700人余の子宮がん患者を,さらにその他の治療を要する婦人科疾患患者延べ約6万人を発見し,指導してきたが,事業開始10周年を迎えようとしている現在,地域に密着した公衆衛生活動として,一層の発展をはかるうえから,長期展望を策定したといわれている.

休日・夜間救急医療状況—沖縄県

著者: 伊波茂雄

ページ範囲:P.661 - P.661

 沖縄県の医療施設数は昭和51年末現在で563である.そのうち病院が37,診療所が346,歯科診療所が144,介輔診療所が27,歯科介輔診療所が9,助産所が198となっている.このうち一般病院は21で,人口10万対でみると全国平均の約30パーセントしかなく,一般診療所も介輔診療所を含めても373で,同じく全国平均の約48パーセントである.救急告示病院も県立の4病院のみで全国最少となっており,次いで少ない島根県の17の1/4以下である.このように全国最少の医療施設で全国なみに各種社会保険制度下の診療を担当するので,当然,各施設は負担過重になり,受療率は低く,保険財政は大幅な黒字となってくる.さらに,休日・夜間のいわゆる時間外救急診療に対応できる施設が少なくなり,大きな社会問題となったのは,当然の結果といえよう.
 このような状況に対処するため,昭和48年6月,本県で初の休日・夜間救急診療所が県立那覇病院の一角に県・市立で設置され,那覇地区医師会の運営という形で業務を開始,毎日平均200人前後の患者を診療してきた.この施設は昭和49年6月1日から那覇市立営となり,今日に至っている.

猛暑の中の全国衛生教育大会—岡山県

著者: 板野猛虎

ページ範囲:P.676 - P.676

 第23回全国衛生教育大会が,岡山市で開催された(7月20,21日,市民文化ホール).記録的な猛暑にもかかわらず,全国から800人が参加して,盛会であった.
 今大会のメインテーマは,「健康づくりと衛生教育」というもので,基調講演(今日の健康と健康観/田多井吉之介先生)をはじめ,シンポジウム(健康づくりと衛生教育—生涯健康づくりのすすめ方とその隘路をめぐって—),ビジョン討論会(これが,私が主張するこれからの衛生教育)およびパネルディスカッション(これからの地区組織活動のあり方/助言者・橋本正己先生)等が,両日にわたって開陳された.

メモランダム

ただいま会議中

著者: 園田真人

ページ範囲:P.652 - P.652

 ある日,市役所のある局に電話した.
 「お早ようございます.私はW保健所の園田ですが,A課長さんはいらっしゃいますか」という問いかけに応対した男の職員は,「A課長は,ただいま席をはずしています」と答えただけである.

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用語欄

著者: 橋本正己

ページ範囲:P.635 - P.635

▶受診率と受療率
 これらはともすれば混同されがちであるが,ともに医療需要を示す指数として,市町村保健計画に関係の深いものである.まず受診率は,社会保険の諸統計で用いられているもので,その計算式は,
  受診率=ある期間にある健康保険で受診した者の延べ数÷その期間中のその健康保険の加入者数
 これに対し受療率は,厚生省によって毎年7月中頃の1日を選んで行われる患者調査で用いられているもので,その計算式は,
  受療率=調査日に医療施設で受診した患者数÷人口×10万
である.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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