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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生42巻11号

1978年11月発行

雑誌目次

特集 防災と公衆衛生

日本と災害

著者: 鈴木秀夫

ページ範囲:P.688 - P.689

■恵まれた日本
 あまりにも有名な"天災は忘れたころに来る"という言葉がある.この言葉の持つ意味が,最近,私には,昔と違って感ぜられるようになってきた.この場合,最近とか昔といっても,情勢の変化ということではなく,私個人の経験領域の違いということにすぎないのであるが,昔は,おそらく多くの人と同じように,災害に対して常に備えをしていなければならぬ,という教訓として聴き,そしてそれとともに,無意識のうちに,日本を災害の多い国として意識していたのであった.
 しかし,その後,世界の各地を見る機会がふえたことによって,日本とはなんと恵まれた所にあるのだろうと考えるようになり,"天災は忘れた頃に来る"という言葉も,天災は日本では,忘れた頃にしか起こらないということの表現でもあると思うようになった.

気象災害と公衆衛生

著者: 奥田穰

ページ範囲:P.690 - P.695

はじめに
 筆者は公衆衛生についてはズブの素人である.「広辞苑」や「百科辞典」によって"にわか勉強"をして書いたのであるが,的をはずれた論述が多いと思われるので,諸先生の御叱正をいただければ幸甚である.
 さて,本論に入る前に気象災害の定義を下しておく.「災害とは,人間とその労働の生産物あるいは生産の対象となる土地,動植物,施設,生産物が,何らかの自然的あるいは人為的要因(破壊力)によって,その機能を喪失しあるいは低下させる現象をいう」.そして気象災害という場合には,自然的要因(破壊力)の主たるものが気象である場合をいうべきであるが,そうすると非常に狭い範囲に限定されるので,気象によってもたらされた付随現象の破壊力によって被る災害をも普通,含めている.また,近年の大気汚染害等の公害や大火は,害性のある汚染物質や火炎・火の子を集中させ,拡大させる条件を与えるに過ぎないので,気象災害から除外するのが筋の通った定義となろう.

地震と公衆衛生

著者: 福岡正巳

ページ範囲:P.696 - P.700

まえがき
 地震によって公衆衛生に関係のある施設がどのような被害を受けるか,またその対応策はどうすればよいのか,というようなことを中心とし,地震によって死傷病者が発生する状況,その処理について考えたことを述べてみたい.平素から公衆衛生に深い関心はもっているが,専門家でない筆者がどの程度地震と公衆衛生のことについて論じられるか,誠に心もとないところである.筆者は約30年間にわたり,各地で発生した地震災害を調査して来たので,その経験をもとにしてこの問題を取り扱って行くことにしたい.

交通事故と救急医療

著者: 東川一

ページ範囲:P.701 - P.704

はじめに
 昭和52年中の交通事故の件数は約46万件,これによる死者(交通事故発生後24時間以内に死亡した者をいう)数は8,945人,負傷者数は約60万人にのぼっている.自動車の台数および運転免許保有者数は増加し続けているが,交通事故件数,それによる死傷者数はいずれも減少の傾向にあった.しかし本年に入って,やや増加の兆しをみせている.
 事故数および死傷者数の減少の要因としては,交通安全施設,道路の整備,交通安全思想の普及,効果的な交通取り締まりの実施などが挙げられるが,救急隊の設置数の増加,救急病院や診療所の増加等救急医療体制の整備,拡充も,交通事故による死者数の減少に大きく寄与していると思われる.

海難と公衆衛生

著者: 久我昌男

ページ範囲:P.705 - P.711

はじめに
 海難という言葉を簡単に説明してみると,海難審判法では,海難は船舶の損傷を中心に考えられていて,船舶の構造,設備または運用に関連して,人に死傷を生じた場合も海難としている.これに対して船員法では,船舶の正常な機能が阻害された状態を海難ということになっていて,人の死傷は海難には含めていない.
 海難について公衆衛生学的見解を次に説明することとなるが,やはり上述のうちでも,人に死傷を生じた場合に焦点をあてざるを得ないことになるので,本稿では海難,すなわち船員の労働災害を中心として述べていくことにする.

航空事故と公衆衛生

著者: 関川栄一郎

ページ範囲:P.712 - P.716

I.新幹線と飛行機
 国鉄新幹線の車輌の非常口がどうなっているか,ご存知だろうか?
 いままで数百人に同じ質問をしてみた結果は,"あると思う","あるはずだが……"という答えが大半で,正確な知識をもっていたのはたった2人にすぎなかった.これは乗客側の不勉強もさることながら,むしろ積極的に知らせる努力をしない国鉄側に非がある.

ビル火災の実態と防止策

著者: 高野公男

ページ範囲:P.717 - P.724

はじめに
 建物は,人間がその生存と生活の遂行のために自らがつくりあげた生活環境機構であり,空間のシステムである.この立体的に組織化,機構化された空間体系は,われわれの生活展開に多くの可能性を与え,またそれを実現化している.ビルはその中でも最も複雑で,機構学的な生活空間の形態であり,人工環境である.われわれはこの空間機構を利用するためのさまざまな生活形態や活動形態を持っている.このような環境に生活するようになって歴史は浅いが,そこにはすでに多くの人間の活動やさまざまな生活の集積がある.
 火災は燃焼という自然界に生ずる理学的現象の形態であるが,これがわれわれの生活に影響を及ぼす時にこのような規定が行なわれる.火災はさまざまな要因により生起し,空間に挙動する.人間はこの火災の時系列的展開に対応して消火や避難などの行動をとるが,しばしばこの火災との抗争やその破壊作用からの逃避に失敗し,物的損害の拡大や人的被害の発生を余儀なくされる.そこでより効果的な防止策の創出が求められる.

工場の火災・爆発と公衆衛生

著者: 炭谷不二男

ページ範囲:P.725 - P.728

はじめに
 工場の火災・爆発と公衆衛生の関係について述べる.
 前提として概念について,多少の私見を加えてまとめておきたい.

連載 図説 公衆衛生・23

公害病の疫学—イタイイタイ病を例として

著者: 安西定 ,   柳川洋 ,   高原亮治 ,   川口毅

ページ範囲:P.681 - P.684

 本来,伝染病対策を樹立するための一学問であった疫学が,「健康の疫学」をはじめ「公害病の疫学」にまで幅広く利用されるようになったのは,疫学が原因追究の科学であり,その手法が,とかく原因不明で,多数の人間集団を対象に発生するケースが多い公害病の原因追究と対策の樹立に,非常に有用であったからにほかならない.
 今回は,イタイイタイ病を例としてとりあげ,その疫学的アプローチの方法とその問題点を紹介する.

発言あり

セルフ・ケア

著者: ,   ,   ,   ,  

ページ範囲:P.685 - P.687

"セルフ・ケア" に寒けを覚える
 "セルフ・ケア" ということばを聞くと,わたしはびくっとするんです.
 いや,そのことばの本当の意味は,知っているつもりですよ.わたしだって,決して,みなさんに甘えてなんていないし,なんとか自力でケアをしていきたいし,また,できるだけ,自分の能力いっぱいをふりしぼって,もっとひどい人に奉仕していくつもりでいますよ.

研究

血圧水準の経年推移と脳卒中の発症

著者: 植田豊 ,   田中平三 ,   伊達ちぐさ ,   馬場昭美 ,   林正幸 ,   山下英年 ,   大和田国夫

ページ範囲:P.729 - P.735

はじめに
 地域あるいは職域における多くの疫学的研究は,高血圧が脳卒中発症要因の中で,最も重要な危険因子であることを明らかにしている1)2).そこで,血圧の脳卒中発症に及ぼす影響を詳細に検討してみることにした.
 従来の研究の多くは,研究開始時に測定された随時血圧,すなわち一時点において測定された血圧と,その後の一定観察期間内における脳卒中発生率との関係を検討したものである.筆者らの研究は,随時血圧がいかなる経年推移を示しながら脳卒中に至るかを研究するために,この観察期間内に測定された全血圧値と脳卒中との関係を追究しようとしたものである.すなわち,脳卒中の自然歴を,より詳細に観察するとともに,きめ細かい高血圧管理を実施するための基礎資料とすることを目的としている.

調査報告

鉛クリスタルガラス製食器の鉛溶出

著者: 植木肇 ,   植木芳子 ,   太田原幸人

ページ範囲:P.736 - P.739

はじめに
 鉛の有害性は古くから知られ,労働作業環境中の鉛量,大気・水・食品・血液・臓器中の鉛量や人体への摂取量など多数の報告がみられる1)2).最近では,食器や容器からの鉛溶出量も報告されている3)〜5).しかし,鉛クリスタルガラス製食器などの鉛溶出についての報告は少ない.一般に鉛クリスタルガラスは数十%の多量の酸化鉛を含み6)〜8),日常使用する鉛クリスタルガラス食器類でも2〜5%程度9)を含むと言われている.
 筆者らは,市販鉛クリスタルガラス製コップからの鉛溶出量をジチゾンベンゼン比色法で測定し,また溶出条件(溶出回数,溶出液温,溶出時間)による鉛溶出量の変化について検討したので,以下に報告する.

日本列島

岐阜県交通安全対策会議

著者: 井口恒男

ページ範囲:P.695 - P.695

 交通安全対策基本法に基づき,昭和45年から表記会議が運営されており,53年度の第1回会議が7月に催された.
 交通事故はオイル・ショック期以降減少しているとはいえ,自動車事故による死亡は全国で年間1万人以上を越えており,本県においても200人前後を数えている.死者数の統計は,警察統計の場合と人口動態統計では判定の時点が異なるため,一般に後者の場合やや数が多く,本県の場合も昭和51年の警察統計で170,人口動態統計で233と差違がみられる.

自治医大生等の夏期研修—岐阜県

著者: 井口恒男

ページ範囲:P.704 - P.704

 岐阜県では自治医大生をはじめ医歯学生の公衆衛生修学生やへき地医療修学生等を対象とする夏期研修を実施しているが,本年も8月上旬に実施され,最終日には県当局との懇談会も持たれた.
 本年の夏期研修には,自治医大生14名およびその他数大学の修学生6名が参加した.へき地医療の低学年グループ,高学年グループ,公衆衛生,へき地歯科医療の4グループに分かれ,へき地中核病院,国保診療所,保健所,歯科巡回診療車等において,3日間の実地研修が行われた.現地の受け入れ態勢は現地の活動の内容や方法により異なっており,研修内容も一貫したものではなく,毎年試行錯誤の繰り返しのようではあるが,短期間の研修であってみれば,現地の第一線で活動している人たちとの意見交換や,現地を肌で感じ取る程度以上のものを期待することは無理であろう.短期間であったとはいえ,研修生の感想ではほぼ好評であり,これは現地の関係者の積極的な協力ないし熱意によるものであろう.懇談会では研修期間の延長や,県全体の状況把握,住民との話し合い,特定施設以外の見聞などの希望があった.

第26回らいを正しく理解する集い—沖縄県

著者: 伊波茂雄

ページ範囲:P.711 - P.711

 昭和53年度らい予防週間の初日,6月25日に「第26回らいを正しく理解する集い」(らい予防全国大会)が,財団法入・藤楓協会主催,厚生省・沖縄県・那覇市の後援で那覇市民会館で開催された.同大会が沖縄県で開かれるのは初めてのことであり,協会総裁・高松宮ご夫妻をはじめ,地元から平良県知事ら約2,000人,ならびに厚生省から公衆衛生・医務両局長,結核成人病課長らが参加し,らいに対する偏見をなくすことを誓い合った.
 大会第一部では聖成協会理事長のあいさつのあと,宮古南静園自治会長が苦しい闘病体験を発表し,聴く人の涙を誘った.第二部では高松宮殿下のごあいさつがあり,引続き首里高校合唱部による貞明皇后の御歌合唱,らいの医療に尽くした人や啓蒙福祉活動に功績のあった個人8人と2つの団体に対する表彰と感謝状の贈呈があった.その後,祝辞に立った平良県知事は「らい発生の多い本県で,このような大会が開催されることは戦前・戦後を通じて初めてのことであり,誠に意義深いものがある.これを契機に関係者の協力により,また,らいに対する偏見を社会から無くすることによって,一日も早く患者および回復者が社会復帰ができ,幸せな生活が営めるように,さらに私達の社会から,らいが撲滅される日の早からんことを祈念するものである」と述べた.

がん検診をめぐる保健婦らの地方研修会—宮城県

著者: 土屋真

ページ範囲:P.716 - P.716

 昭和53年3月22日,「地域医療対策の確立のために」のテーマで,県北の大崎地方(古川・涌谷・岩出山)に設置されている3つの地域医療対策委員会(医師会・市町村・保健所で構成)と県対がん協会の主催の研修会が,最近落成した「古川地域医療センター」で開催された.
 昨年の対象は保健婦だけであったが,今年は市町村保健婦,助産婦,栄養士,保健所職員ら約70名が集まり,充実した内容の会であった.なおこのセンターは,将来,この地方のがん精検センターや救急情報センターもかねる構想になっている.スライドを用いた講演とシンポジウムが行なわれた.

北海道の道花にハマナス決まる

著者: 吉田憲明

ページ範囲:P.735 - P.735

 本道では,39年に「北海道の鳥」としてタンチョウヅルが,また41年に「北海道の木」にエゾマツが指定されているが,「花」については,全国で「県花」のないのは本道だけ.そこで開道110年を機に,"花選び"をすることになり,学識経験者らによる審査委員会(会長・辻井達一教授)が選定した6種類の花(ハマナス,スズラン,エゾヤマザクラ,ミズバショウ,オオバナノエンレイソウ,エゾエンゴサク)の中から道民に選んでもらい,最終的に同委員会が決定する手はずとなっていた.
 7月10日に締め切られた公募の結果は,応募総数37,995通のうち,ハマナスが21,074通でトップを占め,次いでスズランが15,468通であった.他はいずれも1,000通に満たなかった.

北海道のがん登録状況—〈昭和50年度〉

著者: 吉田憲明

ページ範囲:P.740 - P.741

 昭和51年11月に,道衛生部ならびに道がん登録委員会で発刊した冊子が,筆者の机上に載せられた.
 これは昭和50年度の北海道のがん登録状況を示したものであるが,この業務は昭和47年度から実施され,毎年道衛生部から発刊された.これで4回目である.その間,登録者8,994人,そのうち死亡の確認されたもの2,890人が把握され,逐時がん患者発生の状況とその後の推移の実態が浮き彫りにされつつある.

昭和52年度九州ブロック保健所長会議

著者: 園田真人

ページ範囲:P.741 - P.741

 例年行われている九州ブロック保健所長会議(会長:迫一男・鹿児島県川内保健所長)が,昭和52年度は福岡市で開催された.参加者も近年最高で52名の保健所長が参加し,熱心な討議が行われた.
 議題の第1は,沖縄県から出されたもので,「保健所法第4条で保健所は,地方における公衆衛生の向上および増進をはかるため,必要があるときは,結核,性病,歯科疾患,その他厚生大臣の指定する疾患の治療をおこなうことができる,という規定を弾力的に運用したい」という提案であるが,離島,へき地の多い沖縄としては,当然の提案であり,要望事項としてとりあげた.

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用語欄

著者: 西川滇八

ページ範囲:P.739 - P.739

▶スリー・エー(3A)
 Accident,Alcoholism,Absenteeismの頭文字をとって,"3つのA"という訳である.週休2日制をとっている欧米においてはもちろん,わが国の大企業においても,労働者がAccidentで傷害を受けたり,アル中で出欠常ならぬ状態になると,休業を補充する人員が必要である.経営の立場からばかりでなく,協力して働いている労働者の同僚にとってもまた迷惑するから,この3つのAだけは防止するように対策を立てる必要がある.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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