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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生42巻2号

1978年02月発行

雑誌目次

特集 脳卒中予防教育

脳卒中予防対策における保健指導

著者: 小沢秀樹 ,   飯田稔 ,   嶋本喬 ,   上島弘嗣 ,   谷垣正人 ,   小町喜男

ページ範囲:P.76 - P.83

はじめに
 秋田地方では,脳卒中を発症することを「あたる」という.この言葉には,脳卒中を運命的なものとして受け入れている響きがあり,脳卒中にかかることが,その人の宿命として避けることができないものと思っているかのようである.
 しかも,この言葉は,脳卒中で倒れることがどんなに不幸なことであるかをよく知らない人々の間で使われているのではなく,同じ村の中で,まだ若くして突然の発作で倒れて死亡した人,生命はとりとめたものの,半身不髄のまま,数年,十数年も生命を長らえている人を,身近に見聞している人々の間で使われているものである.

脳卒中の疫学的研究の成果とそれに基づく教育の必要性

著者: 中山裕煕

ページ範囲:P.84 - P.89

はじめに
 ごく最近といっても過言ではあるまい.それまでは欧米における研究の成果をそのまま日本人にあてはめて,脳卒中をはじめとして,いわゆる動脈硬化性疾患の治療に,あるいは予防的指導にこれが少なからず用いられていたともいえる.
 しかしながら,わが国における疫学的研究も,今日,脳卒中の発症要因として高血圧因子の普遍性を確認するとともに,脳卒中と日本人の食習慣との関係を次第に解明してきた.これは,日本人の脳卒中の特殊性を追究した疫学的研究の具体的な成果だといえるし,また,これにより日本人の脳卒中に対しても,より具体的な予防対策が立てられる可能性が見出されたわけである.

地域における健康管理—脳卒中予防教育(血圧管理)を中心として

著者: 大月邦夫

ページ範囲:P.90 - P.96

はじめに
 わが国に多発する脳卒中の多くは,高血圧と密接な関連を有すること,さらに高血圧の管理が脳卒中発症予防に極めて有効であることは,数多くの疫学的研究や動物実験成績,臨床的観察などによって明らかにされてきた.したがって,成人循環器疾患の中心たる脳卒中予防においては,高血圧対策が最も重要であり,住民の血圧のコントロールをいかに実施していくかが,地域健康管理の最大の課題であるともいえよう.併せて,高血圧を中心とする循環器疾患は,加齢とも関連する超慢性疾患であるが故に,自然的,地理的条件や経済的,社会的な生活環境などの地域的因子が,高血圧の進展,脳卒中の発症と密接な関連を有することが明らかにされつつある.
 脳卒中の発症防止,高血圧の予防,健康な老後のためには,このような地域的因子を十分に加味しつつ,①健康レベルを定期的にチェックするための定期的健康診断,②血圧のコントロール(合併症予防)のための適切な医療と正しい養生(摂生)の継続,③積極的な健康増進のための,バランスのとれた食生活や運動,休養,ストレス対策,等々,総合的な健康管理活動が必要である.そして,これら成人健康管理の意義をあらゆる活動を通して,患者や住民に十分認識させることはもちろん,「至適な健康習慣」の自主的育成をめざして,「より科学的,より具体的,より適切な」支援活動を実践することが,地域における脳卒中予防対策の基本的な考え方であると思われる.

今日の保健指導(生活指導)の指針—生活把握の重要性と指導

著者: 福田安平 ,   佐久間光史 ,   前田裕 ,   谷山寛造

ページ範囲:P.122 - P.128

 脳卒中は生活の仕方のいかんによって発生してくる,といっても過言ではない.したがって,日常生活をどう行うべきかに関する指導が,予防上の重要な一つの柱であることはいうまでもない.

脳卒中予防の食生活改善

著者: 五島雄一郎

ページ範囲:P.129 - P.134

まえがき
 日本人の食生活が塩漬けの生活であることは,多くの識者から指摘されてきているところである.このような塩漬けの食生活が,高血圧の一大誘因となり,脳卒中の多発につながる大きな原因であることも,従来から指摘されてきている.
 このような塩漬けの食生活は,一体どうしておこったのであろうか.昔の人たちは,生活の知恵として,食品を保存するために塩漬けにした.野菜も,魚も,肉も,そして,たべるときに十分に塩出しをしないでたべた.この食習慣がそのまま受けつがれ,塩辛い食品を何とも思わずにたべ,塩辛いものを好む日本人の味覚ができあがってしまったわけである.

脳卒中予防の保健婦活動

(1)秋田県本荘市の例

著者: 岡本カネミ ,   渡部恵子

ページ範囲:P.97 - P.101

はじめに
 ここでは,脳卒中予防事業を地域で取り上げ実施する際,実施主体が都道府県か,市町村か,また,市町村立の医療機関の有無により,保健婦のこの事業に対するかかわりに相違があるのが現状だが,市の国保保健婦として,市立の医療機関を持たないところで脳卒中予防に携わっている立場から,現在までの脳卒中予防活動の中で,管理,とくに保健指導について活動のあらまし,評価,反省,そして将来への展望を含めて,それぞれ述べてみたい.

(2)島根県鹿島町の例

著者: 田辺光子 ,   関龍太郎

ページ範囲:P.102 - P.108

はじめに
 脳卒中による死亡は死因の首位であり,その対策の重要性が叫ばれている.松江保健所においても,循環器検診を昭和33年来実施するとともに,脳卒中死亡,心臓病死亡の地域差の検討1)2),その背景である生活環境1)2),栄養状況1)3),気温4)などについての検討をもあわせて行ってきた.とくに,管内の一農山村においては昭和44〜46年,脳卒中特別対策事業が実施され,その結果を分析し,検討している5)6).昭和49年から5年間,県内保健所において,脳卒中の原因・誘因を検討する目的で「脳卒中予防対策」が実施されている.
 今回,昭和49年から脳卒中予防対策が実施され,八雲村平原地区の対照地区として取り上げられた「鹿島町」における脳卒中予防対策について,保健所保健婦からみた問題点を検討したい.

地域ぐるみの予防活動

(1)健康で明るく,住みよい村づくりをめざして

著者: 大田勧 ,   阿武玲子

ページ範囲:P.109 - P.116

I.川上村の概況
 川上村は山口県の北部に位置し,明治維新の町・萩市および山口市に隣接している山村である.村の中央を流れている阿武川は山口県で2番目に大きな川であるが,大きな川の流れている割には平地が少なく,95%は山林である.ここにはその昔,平家の落人(おちうど)が住みついたといわれ,山間にその名残りをのこす部落がいまなお点在している.
 全国の山村に見られるように本村も例外ではなく,典型的な過疎地域である(表1,図1).

(2)住民参加の脳卒中予防活動

著者: 吉沢国雄

ページ範囲:P.117 - P.121

はじめに
 脳卒中予防対策の重点としては,第1に動脈硬化症発症予防のための衣食住の改善があり,第二に高血圧管理があろう.いずれも単なる啓蒙教育や保健指導のみに終わることなく,徹底した正しい実践が必要であることは論をまたない.ところで,長野県の脳卒中死亡率は戦後次第に増加して,昭和34年度に不名誉な日本一となって以来10年余にわたり日本最高位を占め,昭和49年第2位,50年第3位とやや下降しつつあるが,なお高位にあることは周知の事実である.したがって,県下の保健衛生関係者にとって,この予防対策の樹立は焦眉の急務であったし,現在もこれに腐心しつつある.
 筆者は昭和34年に当時の浅間町,現在の佐久市に新設された国保病院に赴任したが,当時,当地の脳卒中死亡率は県内でも最高位(人口10万対336.3)を示しており,国保の保健施設として国保法第82条により,住民の保険給付(診療)と健康保持増進を目的として設置された病院の使命としては,その業務の一半の目標をまず脳卒中死亡率の減少とその予防対策の樹立ならびに実践に置くことが強く要請された.その実践の過程で多くの試行錯誤が繰り返されたが,同時に多くの貴重な体験も得られた.

連載 図説 公衆衛生・14

生活環境改善の現状と課題

著者: 安西定 ,   高原亮治 ,   川口毅

ページ範囲:P.69 - P.72

 公衆衛生がその産声をあげたころ,「公衆衛生」と「環境衛生」とは同義語として考えられていた.当時,健康上の主要な問題であった伝染病は,まったくのところ,不潔な環境の産物にほかならず,われわれの諸先輩は環境を改善することにより,伝染病の予防に成功し,"衛生革命"と呼ばれる輝かしい成果をうちたてた.
 その後,医学や隣接諸科学の発展により,公衆衛生の意味する内容は,広範でかつ包括的なものへと発展した.そして環境衛生は,公衆衛生の重要ではあるにせよ一部分に過ぎない,と無意識的にではあれ考えられがちになった.しかし,公衆衛生の本質は,健康現象を中心として環境系のなかでそれを包括的に把握することにあるのであって,環境衛生の本質的な重要性がいささかも変化したわけではない.そればかりか,端的には公害による健康被害が示すように,複雑かつ高度な工業化の絶えざる進展に伴って,傷病構造は大きく変化しており,新しい時代に即応した環境衛生学の発展と,それに基礎づけられた環境衛生改善活動の充実とが期待されている.

発言あり

老人のデイ・ケア

著者: ,   ,   ,   ,  

ページ範囲:P.73 - P.75

東洋的老人対策の確立を
 拙宅には,7カ月の男児と4歳になる女児がいるが,女房は育児にかかりっきりで,この数年家から出ることがほとんどない.夫婦そろって外出し,映画や買物に行くことは,ここ数年おあずけで,あと3年位は続くであろうと思われる.育児とはこんなに手のかかることかと,改めて驚いているが,女房も,周囲も,むしろ当然のことと許容している.
 英国に留学している時,同年代の英国人,フランス人,そして西欧文化に同化しているアフリカ人の医師達夫婦は皆,毎晩のように夜8時以降は,夫婦そろって,食事や音楽会に出かけていた,当然,幼児を抱えていたが,部屋に寝かしつけ,外からロックして出かけてくる,夜中に目を覚まし,泣き叫んでいることも時々あるが,これが幼児に対する躾けだと彼らは言う.親の生活と子供の生活をはっきり区分する.この態度が,西欧的老人対策につながるのではなかろうか.

日本列島

創立10周年を迎えた宮城県公衆衛生協会

著者: 土屋真

ページ範囲:P.96 - P.96

 昨年8月4日,仙台の勾当台会館で(財)宮城県公衆衛生協会の創立10周年記念式典と祝賀パーティーが,関係者を集めて行われました.この協会が生まれたのは昭和39年5月9日ですが,最初は会員制による任意団体でした.
 そして3年後の昭和42年3月28日,安西理事長の言葉を借りれば「貧者の一燈を集めて」多くの方々の寄附を財源とした基金造りの苦労の末,財団法人の認可をえて協会は大きく前進し,今では当県にとって重要な存在になっております.初代会長は故人となられた東北大学名誉教授・近藤正二先生(衛生学)で,当時は会員数が400名でした.

最長寿県は沖縄

著者: 伊波茂雄

ページ範囲:P.116 - P.116

 昨9月9日,厚生省は恒例の「全国高齢者名簿」を発表したが,それによると,昨年9月30日までに百歳以上になる老人は,10年前の2.8倍の697人で,一昨年より31人増えた.男女別にみると,百歳以上は男122人,女575人.昨年の10月1日から本年3月31日までに百歳になるのは,男57人,女233人で,いずれも女性の方が4〜5倍も多い.
 都道府県別にみると,最も多いのは東京都の45人,次いで鹿児島34人,北海道32人,沖縄31人となっている.しかし,これを人口10万当たりで計算すると,最長寿県は沖縄の2.75人で,昭和48年以来5年連続トップの座を占め,2位の鹿児島が1.97人,3位が鳥取1.54人となっている.

今月の本

—M. Horváth 編—"Adverse Effects of Environmental Chemicals and Psychotropic Drugs"—Neurophysiological and Behavioural tests, volume 2

著者: 西川滇八

ページ範囲:P.135 - P.135

 この書物は,国際労働衛生協会とその評議員会に所属する機能的毒性研究グループの研究集会の記録である.英語とドイツ語のレポートが混っている.
 発表者のタイプ原稿をそのままグラビア印刷したものであるが,内容は専門的で高度のレベルであり,3部から成っている.第1部は,医薬品および環境化学物質のヒトに対する影響の研究である.ここには16篇の研究報告が収録されている.その内容は,実験的研究において化学物質による障害発生のおそれのある作用,医薬品と車輛運転に関する検討,とくにexprenololとalcoholの影響,ことに複雑な作業における視覚と運動機能へおよぼすalcoholの作用,注意維持機能に対する作用,一般に使用される医薬品の少量服用時の感覚機能の変化,混合溶剤の行動科学的作用,alcoholおよびその他の有機溶剤蒸気による精神動力学的行動への影響,プラスチック・ボート工場労働者の反応時間に対するスチレン蒸気の影響,ジェット燃料に長期間曝露した労働者の神経系統への影響調査,塩素アルカリ工場労働者にみられた自覚症状と神経生理学的所見との相関関係,水銀蒸気に曝露した労働者の精神心理的検査,レイヨン工場2カ所において行った二硫化炭素に曝露した労働者の精神能力と人格的変化に関する比較研究,ならびに精神障害をおこす物質に曝露した場合の精神心理学的診断の可能性についてなどである.

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用語欄

著者: 田中喜代史

ページ範囲:P.89 - P.89

▶成人病(degenerative〔senile,adult〕disease)
 脳血管疾患,悪性新生物,心疾患,高血圧症,動脈硬化症,糖尿病などは40歳ごろから特に多くなり,このような壮年以降に増加する疾病を,わが国では一般に成人病と呼んでいる.しかし,外国にはこれに相当する医学用語はない.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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