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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生42巻3号

1978年03月発行

雑誌目次

特集 地域保健と産業衛生

地域保健と産業保健の現状

著者: 高田勗

ページ範囲:P.144 - P.147

I.地域保健とその活動
 近年,医療の概念は,包括的に深化,拡大してきている.すなわち,医療は医学を社会的に適用することであり,健康時の健康擁護を出発点として,健康破綻の予防,さらに疾病発生時の対策,健康破綻からの回復,リハビリテーションを包括し,母子保健,乳幼児の栄養,学校保健,産業保健,老人養護,生活環境の造成等,広範なものを含むとされている.この包括医療の考え方は,日本医師会から,「医療制度調査会答申」(昭和38年)および「医療総合対策」(同44年)によって明らかにされている.
 包括医療は,人間と社会との接触面を包括するものであるが,この場合社会とは,第一次的には人間をとりまく生活環境,すなわち地域社会であろう.医療における地域概念の重要性は,医療需要の出会いが一定の地域に結びついて行われ,医療そのものが医師と患者が直接相対する人間的結びつきを基礎として行われる,という医療の本質からも確認され,包括医療が地域と密着して行われるべき理由が明らかとなる.つまり,包括医療はそれが展開される地域を基盤としており,地域医療という形で実践される.そこで,地域医療は地域における人々の生活を原点とし,個々の医師と人々との直接対応の場を主軸として,その人々の生活の場全体を健康たらしめる活動の一切として理解されなければならない(「日本医師会地域医療検討会答申」—昭和47年より).

労働基準法30年

著者: 宮野美宏

ページ範囲:P.148 - P.154

はじめに
 労働基準法が公布されたのは,昭和22年4月である.以来,30年の歳月を経た.この法律の発足当初は,戦前の社会慣習になれた一般社会の眼からは,極めて新しいものとして受け取られ,労働の実態を無視して理想のみに走った法律であるとか,戦後の混乱期が生んだ悪法である,という批判もあった.
 しかし,時の移るにしたがって,こうした批判も昔語りとされるようになった.今や労働基準法は,一般社会においてその名を知らない人がほとんどないまでに定着している.

労働安全衛生法およびその関係法令と地域保健

著者: 古屋統

ページ範囲:P.155 - P.161

I.労働安全衛生法制定の経緯とその背景
 労働安全衛生法は,昭和47年6月に公布された.それまでは,労働者の安全と衛生に関する事項は,労働者の保護に関する問題であるため,身分の保全,賃金の確保,労働時間の規制などと同様に,労働基準法の中で取り扱われてきた.労働基準法が制定されたのが昭和22年である.労働基準法から,労働者の安全と衛生に関する部分が分離独立するまでの期間が,25年に及んでいる.この25年間に何が起こり,どんな理由があって労働安全衛生法の制定となったのか,その経緯と社会的な背景を知っておくことは,この法律の内容を知る糸口として必要なことと思われる.

生涯健康管理としての職域健康管理

著者: 西川滇八

ページ範囲:P.162 - P.168

I.生涯健康管理の重要性
 健康管理(health care administration)の概念には,D.Appleがいうように,健康な入たちを対象として行う養護に限定している狭義の概念と,American Public Health Associationが定義しているように,医師,歯科医師,看護婦,および他の保健関係者によって提供される予防・診断・治療からrehabilitationにいたるまでの,対人保健サービスであるmedical careをも包含する広義のものがある1)
 職域健康管理では,職場という人工的な環境において,多くは8時間が基本であるが,1日のうちの一定時間,特定の拘束された時間帯に,定められた作業に従事している労働者を対象として行われる.

地域における産業衛生と医師会活動

著者: 右近文三

ページ範囲:P.169 - P.173

はじめに
 物を造るのに工法が変わったり,新しい原料・材料が出たりして,それらによる健康障害,環境汚染,各種有害物質の解明等,産業衛生には多くの問題がある.さらに,産業従事者は年々増加し,特に中高年労働者の増加が目立ち,農村地帯においても,事業場の進出,出稼ぎ,共働き等の問題があって,兼業農家は今や90%台にもなろうとし,農業労働者の健康管理も,ただ農業労働だけを取り上げるのでは解決しない状態にある.したがって,国民の健康管理という事柄の中で,産業衛生は大きなウェイトを持ち,地域医療活動の中の一環として,真に重大な要素となっている.しかも,わが国の産業の特徴として,中小企業が99%以上を占め,産業医のうち97.5%が嘱託医でパートタイマーであるということは,真に重大なことであると考える.
 このような現状から,各都道府県医師会においても,産業医部会活動を展開し,研修会の開催,実務書の出版,各種協議会の開催等の事業が行われているが,日本医師会はつとに産業保健の重要性に着目して,昭和40年来産業医学講習会を催し,48年以降はこれが労働衛生コンサルタント試験に対する認定講習になっている.わが国の産業衛生の現状を考え,労働者の安全と健康を守り,快適な作業環境づくりを促進するために,嘱託産業医の使命は今後ますます重要さを増してくると考える.

地域産業衛生における健診機関の役割

著者: 戸田弘一

ページ範囲:P.174 - P.179

I.産業衛生に関する地域社会のニーズ
 大平洋戦争後の急速な産業の勃興と重化学工業化の結果,産業の場における労働者の健康障害が広範囲にかつ数多く発生し,次第に世人の関心を引き始めたが,時も時,例の水俣病が有機水銀に原因するものであることの判明から,世人の眼が一様に,産業の場で使用せられる有害物質に向けられることとなった.
 それまで自分の健康を経営者にあずけて,のほほんとしていた労働者は,急に自分の健康のことが不安になり,自分が従事している業務や取り扱っている原材料が,自分の健康とどんなかかわりを持つかについて,あらためて見直して欲しいという強い希望を表明するようになった.なかには,自分の取り扱っている原材料や作業環境によって,今にも自分の健康が障害されるのではないか,と不安を持つものもあらわれてきた.

中小企業密集地域における保健活動

著者: 島正吾 ,   立川壮一 ,   加藤保夫

ページ範囲:P.180 - P.187

I.緒言
 近時,わが国の産業社会における急速な技術革新の浸透と生産合理化の推進は,ことに労働者の健康問題に関して,大企業と中小企業の間に質的・量的格差をますます大きなものとし,後者におけるこの課題への対応は,その企業体質とあいまって,次第に深刻な様相を呈しつつある.
 さらにまた,地域における中小企業密集地帯では,この種の企業群が住民の間にモザイクのように散在し,その劣悪な労働環境要因の影響は,単に労働者ばかりでなく,地域住民の健康をも巻き込むような特異なパターンを構成している.したがって,こうした中小企業密集地域における保健活動のあり方を検討するに当たっては,一つには中小企業自体が内包する健康問題に対処すべき方策と,いま一つには地域住民の健康面からするアプローチが求められてくる.この労働者,住民が混然一体をなしている労働・生活環境に対応し,かつ効果的な保健活動を展開するためには,それなりの発想法の転換と保健行動への人的,時間的ならびに経済的起動力がすみやかに確保されねばならない.

連載 図説 公衆衛生・15

環境保全の現状と課題

著者: 安西定 ,   高原亮治 ,   川口毅

ページ範囲:P.137 - P.140

 1960年代の高度成長によって,わが国の経済は急速に発展し,国民の生活水準は著しく向上したが,その反面,汚染列島と呼ばれるような,環境汚染の全国的な加速度的拡大もみられるようになり,それによって深刻な健康被害も数多く発生した.
 その結果,環境の受容能力が無限ではなく,放置するならば,人類の生存の基礎である自然をとりかえしのつかないまでに破壊し,現在および将来の人類の運命を危機におとしいれるのではないか,という反省がみられるようになった.

発言あり

むし歯とフッ素

著者: ,   ,   ,   ,  

ページ範囲:P.141 - P.143

広く専門家の意見から指針を
 むし歯予防のため上水中にフッ素を添加することの是非が,理論上の論争だけではなく,実施の可否をめぐる対立にまで発展してきているが,このことは,公衆衛生の性格を端的に抽象しているように思われる.
 もともと臨床医学に比較すると予防医学の価値大系は極めて複雑で,そのため公衆衛生の第一線で活躍しておられる方はずいぶんと苦労されているわけであるが,そればかりでなく,一つの方針を決めようとする場合,常にそれに対する評価が大きく分散し,論争が絶えないことになる.

綜説

保健医療専門職における女性就業のライフ・パターンの動向について—医師・歯科医師および薬剤師の調査に基づく分析

著者: 草刈淳子

ページ範囲:P.190 - P.197

はじめに
 保健医療分野における婦人労働問題は,従来,女性の職業として歴史が古く,数の上からも絶対的多数を占め,かつ夜勤という特殊勤務があるため,専ら看護婦(看護職)についてのみ論じられてきたきらいがある.ことに,昭和35年の病院ストを契機として顕在化した"看護婦不足"の事態は,医療供給側の緊急問題となり,その実態については,かなりの資料の蓄積がみられている.
 しかし,"医療"が包括医療として把握され,医療サービスの内容が多様化するに従い,保健医療分野における婦人労働は,単に看護婦に限られた問題ではありえなくなってきている.

日本列島

岐阜県における成人病予防対策の今後の方向

著者: 井口恒男

ページ範囲:P.147 - P.147

 岐阜県成人病予防対策審議会は,昨年2月に諮問のあった表題について,11月9日答申した.答申内容は,①保健教育活動の積極的推進,②検診体制の強化,③健康管理体制の確立,④研究研修体制の確立の4点について詳述されている.第1の保健教育活動については,早期発見,早期治療のいわゆる第2次予防が中心となっていた教育活動から,第1次予防である発生要因の除去についての活動強化を説き,学校教育の場での保健教育の重要性を指摘している.第2の検診体制では,従来から県直営で実施している胃がんおよび子宮がんの検診車のブロックごとでの配車や検診体制づくりの確立を説き,循環器検診については保健所に健康管理院(AMHTS機関であり,心電図の自動解析,血液の自動分析など地域での活用が期待されている)との連携のもとでの2次検診体制の整備を進めている.第3の健康管理体制では,市町村に対し,保健婦の確保,成人病管理計画の策定,成人病予防推進会議などについて指導援助するよう説き,第4の研究研修体制では,保健教育,保健指導,健康管理,細胞診,X線読影技能など幅広い研究研修機能の整備を進めている.

東海・北陸胃集検の会

著者: 井口恒男

ページ範囲:P.154 - P.154

 11月25日金沢市において,第7回東海・北陸胃集検の会が開催された.「胃集検の隘路」と題してのシンポジウムを中心として,活発な発言がなされた.今回のシンポジウムは,医師以外のコ・メディカル・スタッフが演者となり,日常の検診業務の中で遭遇する諸種の問題点が披瀝され,討議されたことは,現場で活動している参加者にとって益する点大きいものであったと思われる.
 各演者の発表内容を項目ごとに主要なものをあげてみる.

北海道総合医療協議会の設置

著者: 吉田憲明

ページ範囲:P.173 - P.173

 昨年,北海道医師会(会長・山崎武夫氏)の要請をうけたかたちで,堂垣内知事は表記の協議会の設置を決意し,昭和52年8月18日に初会合が持たれた.
 設立趣旨は,本道の医療と福祉の将来像を総合的に検討する場として設置したものである.

意外な管内事情—岡山

著者: 板野猛虎

ページ範囲:P.187 - P.187

 某日,県薬務課長から話を聞いたが,全く初耳であった.
 ○「あへん」の国内生産地は,僅かに数県であること.

第29回北海道公衆衛生学会に出席して—小樽市

著者: 吉田憲明

ページ範囲:P.189 - P.189

 晩秋から初冬への移り変わりのなかで,樹木はすでに紅の衣を落として裸木となり,すっかり殺風景な姿となってしまったが,いまだに明治,大正,昭和初期の古い都のただずまいをみせている小樽の街で,第29回北海道公衆衛生学会が開催された.
 会長は小樽政令市保健所長・小川敬氏で,会場は小樽公園入口,明治のよき時代の面影を残す富岡町界隈,医師会と保健所とが仲よく同居している比較的新しい建物である.

スポット

住民にも医学知識を

著者: 前田信雄

ページ範囲:P.188 - P.188

 「アメリカ公衆衛生学会雑誌」1977年9月号に寄せられた読者からの手紙の内容である.筆者はマイアミ医学校の講師K.C.シェルである.
 今日,医療関係の専門職には非常にたくさんの情報が入り,また使われている.その情報処理についてのいろいろな技術や設備も大変進んでいる.例えば,メドラースといわれる医学図書館システムを通じてその医療情報の提供がある.これらに関連して筆者は,消費者に対して,もう少しはっきりした形の情報提供ができないかという問題を提起している.現在われわれの周りには,実際に使える保健や医療,あるいは予防に関する情報をどこからどういう形で手に入れたらいいか,必ずしもはっきりしていない.そういうシステムができていない.そこで公衆衛生情報システムというのを作る,一つの提案が寄せられた.発想の基になるのは,現在専門職に提供されている各種の医療情報である.したがって,一つは,まず消費者に対して医療情報を提供する医療図書司を導入する,という考え方である.医療情報司つまりメディカル・ライブラリアンは,医学図書館に,あるいは一般の公共図書館に勤務する.住民は医学・医療に関するものであれば,彼または彼女を通じてリクエストするというシステムである.

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用語欄

著者: 西川滇八

ページ範囲:P.168 - P.168

▶ポジティブ・ヘルス(positive health)
 個人および集団の健康状態を積極的に向上させる目的で行う活動のことである.個人としては遺伝的欠陥を除去したり,生理学的な変動範囲を拡大するとともに,十分な成長発育を図り,老化過程を緩和することが考えられる.集団としては,ヘルス・ニードの質的変化に対応する保健・医療条件の整備,健康水準の向上,平均寿命の伸長などが考えられる.そのためには日常生活の保健指導と医療・福祉体制の強化,労働条件の改善を図るとともに健康に対する価値感を向上させるように指導する必要がある.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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