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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生42巻5号

1978年05月発行

雑誌目次

特集 アルコール中毒

アルコール中毒と公衆衛生

著者: 額田粲

ページ範囲:P.292 - P.294

今日の飲酒量は西欧並み
 飲酒の習慣は,第2次世界大戦後世界の主要国では,文字通りpandemicな様相を呈している.このような飲酒量の急激な増加により,これらの国では飲酒に係わる病気(alcohol related disease)が多発し,WHOの報告によると,医療,公衆衛生,社会福祉,社会保障の面で多くの問題をひきおこし,病院の病床の過半数が飲酒に係わる患者で占められたり,保健サービス予算の4割がこれらの患者の医療のために費やされたりする例もみられる1)
 戦後急速な経済成長を遂げた日本も,先進国の一員として例外ではない.日本人の飲酒量は戦後一貫して直線的に増加し,飲酒量は国民1人当たりで年間7lを軽く突破し,西欧水準に近づいている.現在,日本でも,アルコール問題が社会問題化していることは,新聞,テレビの報道にみるように,調査の必要もないほど周知の事実となっている2)

統計にみる日本人の飲酒

著者: 佐藤信

ページ範囲:P.295 - P.300

I.生 産
 1.国内生産
 酒類の製成(生産)数量の推移を図1に示した.上図は,みりん(飲料ではないため除く)と雑酒(少量のため省く)以外の全酒類の推移を示したものであり,下図は,ウイスキー,しょうちゅう,果実酒,リキュール,スピリッツだけを拡大してみやすくしたものであり,両図の縦軸の単位は異なる.

日本人の飲酒状況

著者: 佐々木武史

ページ範囲:P.301 - P.308

 文部省科学研究費総合研究の「アルコール飲料の社会医学的研究」(昭和45〜46年),「問題飲酒の疫学的研究」(昭和47〜48年)により,全国的な地域,職域について実態調査を行った.これらの資料およびその後の調査資料に基づいて,飲酒様態(パターン)について以下にまとめた.飲酒様態の指標としては,回数,量,種類,場所,食物,飲酒開始年齢,20歳未満の飲酒率,動機,飲酒についての価値などがある.

首都圏一般人口における「大量飲酒者」と「問題飲酒者」

著者: 斎藤学

ページ範囲:P.309 - P.317

はじめに
 アルコールが関与する諸問題(飲酒問題)のうち医療の対象となる部分がアルコール症(alcoholism)であるが,その限界を定める作業は,「医療」という概念の暖昧さもあって,なかなか厄介であり異論も多い8).アルコール症はほとんど飲酒問題全体をさすほどに拡張した意味を持って使われることもあるし,伝統的な「慢性アルコール中毒」,「アルコール性精神病」の用語のもとに極く狭い一部の症例のみをさして用いられることもあり,こうした概念上の混乱がいまだに続いている.したがって,この問題の疫学的,社会学的調査にたずさわってきた研究者たちは,従来これを単一の疾患単位として取り扱うことを避け,「大量飲酒者」や「問題飲酒者」(逸脱飲酒者,アルコール乱用者)を彼らの観察対象としてきたのであるが,これらと「アルコール症者」という"病人"との異同については,今までのところ,十分な吟味がなされているとはいい難いようである.
 飲酒人口中の大量飲酒者の割合を推定する方式は,Ledermann4),de Lint1)らによって工夫され,額田6)7)はこれを日本の飲酒人口に適用して,"純アルコール150ml/day=清酒5.2合/day"以上の超大量飲酒者の実数を150万人前後と推定している.

諸外国のアルコール症対策の歴史とわが国における問題点

著者: 河野裕明

ページ範囲:P.318 - P.323

はじめに
 飲酒問題は人間の普遍的な精神衛生の問題であり,それを基礎として発生するアルコール症問題は,生物学的な身体的障害を地盤としながらも,その人の住む広範な社会・文化的背景の影響を受け,その人独自の歴史の中に深刻な極印を押してきた.要するにアルコール症とは,全人間存在の構造を包括した現象なのである.
 したがって,WHOもアルコール症を,人間の「自ら求めて」酒を求めるその自発性から,その人の生活している社会・文化的風土およびその薬物エタノールの作用を包括した人間の行動的な動態としての疫学的—生態学的概念をもって定義している.

地域保健活動とアルコール中毒—主として保健所活動の体験から

著者: 増田陸郎

ページ範囲:P.324 - P.331

はじめに
 このたび本誌で「アルコール中毒」の特集が企画され,表題でのアプローチを求められた.目黒保健所では,昭和46年4月からアルコール中毒者に対する「断酒学級」を開設して,今日に至っている.その詳細については,本誌40巻10号(昭和51年10月)に「保健所における断酒学級」として述べらいるので,今回は,これと重複しない範囲で述べたい.
 今や,私たちが,断酒学級を始めた当時とは異なり,地域社会においても,地方自治体においても,国においても,アルコール中毒対策に前向きの姿勢ができ上がっている.まさに時至れり,の感がある.福祉(福祉事務所)においても,公衆衛生(保健所)においても,この時流に乗り遅れないためには,本問題の特殊性を理解した上で,その重要性とともに,今日なぜこれが大問題になりつつあるかに思い至らなければならない.以下,この順を追って述べてみよう.

連載 図説 公衆衛生・17

健康増進活動の現状と課題

著者: 安西定 ,   柳川洋 ,   高原亮治 ,   川口毅

ページ範囲:P.285 - P.288

 健康の定義としては,WHOの提唱による「身体的,精神的および社会的に完全に良好な状態にあること」が,最も一般的に使われている.「健康」の概念を,従来の「疾病がない状態」から「自然環境や社会環境への適応力」へと発展させ,健康増進とはこの「適応力」をつけていくことであるとする考え方が,健康増進活動の基本的な姿勢である.したがって,健康の保持・増進はまず個人の問題であるから,健康増進の実践に際して最も重要なことは,各人が健康の価値を認識することであり,自らの努力によってこれをかちとっていくことに,この活動の原点がおかれる.健康増進の基本的なあり方として栄養,運動,休養の3つの要素が互いに調和を保っていなければならないが,現代のようにモータリゼーションの普及,食品流通機構の発達などによって生活が便利になると,運動不足,栄養過剰による肥満傾向をはじめ,糖尿病,痛風,心臓病など栄養のアンバランスから来る疾病の増加傾向がみられる今日この頃である.ここに,健康増進活動の現状と問題点を明らかにするとともに,厚生省が昭和53年から始めた「国民健康づくり運動」の一端をも併せて紹介する.

発言あり

著者: ,   ,   ,   ,  

ページ範囲:P.289 - P.291

利害を客観的なデータによって語らせよ
 私どもが学生の頃の講義で,日本では欧米のようなアルコール中毒の患者は多くはないと聞いていた.しかし,近頃は日本でも,しばしばアルコール中毒が問題になってきている.昔,日本に少ないといわれたのは,幻覚や振戦,譫(せん)妄などを伴うようなアルコール嗜癖ないしは慢性アルコール中毒のことと理解されるが,今日,このような患者が増してきたのだろうか.高歌放吟したり,泥酔,嘔吐など銘酊状態を呈す,いわゆる酔っぱらい(急性アルコール中毒)の如きは,昔も今も,わが国の夜の巷でみるほどには,諸外国でみることはない.それは,日本で目につく感心できない風景として,外国人からも指摘されている.
 北欧などで,ときに,泥酔者をみかけることはあるが,酔っぱらい群というのは稀で,多くは孤独な泥酔者である.そして,世間も酔っぱらいを大目にみる気風が少なく,泥酔者への眼は冷静なようである.ヨーロッパで醸造酒から蒸溜酒へと酒造方法が発展するとともに,慢性アルコール中毒は健康上の重大な問題として,社会にクローズアップされてきたという.日本でも近年,洋酒や焼酎が好まれる傾向と,慢性アルコール中毒患者の増加が伴っているともいうが,この辺のことは確かには知られない.

学会トピック

第105回アメリカ公衆衛生学会に出席して

著者: 前田信雄

ページ範囲:P.332 - P.335

 105回目の学会,会員約50,000人,年次総会出席者11,000人,発表演題(スピーカー)300余というマンモス学会であるアメリカ公衆衛生学会が,首都ワシントンD・Cで1977年11月に開催された.カナダ,中南米,ヨーロッパからもかなりの参加者のある,国際色豊かな専門学会であったが,日本からはどうしたことか,筆者ひとりだけであった.以下に,本会議の5日間のなかで目立った話題や行事,注目すべきトピックスを紹介しよう.

調査報告

小笠原諸島における乳幼児の体位と家族計画に対する態度

著者: 西岡和男 ,   野田伸 ,   生田恵子 ,   斉藤リツ

ページ範囲:P.336 - P.340

はじめに
 小笠原諸島は昭和43年6月,わが国に復帰し,翌昭和44年12月に制定された小笠原諸島復興特別措置法に基づく復興計画の推進により,新しい小笠原村の建設の途上にある3).昭和51年10月1日現在の人口4)は,男852名,女533名の計1,385名である.そのうち人種的には,欧米系の在来島民が153名(男79名,女74名),旧小笠原島民が649名(男352名,女297名)で,残りが来島者(国および東京都からの派遣職員とその他の一般民間人)である.
 東京都では昭和50年度から,小笠原諸島(父島,母島)における乳幼児健診をはじめた.

地域における母子の保健・医療と福祉の連携の実態および今後の方向

著者: 野沢秀子

ページ範囲:P.341 - P.344

はじめに
 母子保健を進めて行くとき,保健指導を必要とする人人に対するサービスのあり方について,多くの解決を要することがらが残されている.住民の健康を守るためには,保健・医療・福祉機関が関連をもち,総合的なサービスがなされることがのぞまれる1)2)3)
 筆者らは,東京都豊島区豊島池袋保健所管内における保健・医療・福祉サービスの実態と住民の評価および要望を調査し,母子にとってよりよい保健,医療,福祉のあり方と連携について検討し,考察した結果,若干の結論を得たので以下に報告する.

日本列島

第14回沖縄県学校保健研究大会開かる

著者: 伊波茂雄

ページ範囲:P.294 - P.294

 「ゆとりある学校生活をおくり,人間性豊かな児童生徒を育成するにはどうしたらよいか」を主題に1月13日,第14回沖縄県学校保健研究大会が沖縄市内の小学校で開かれた.同大会は,学校保健や学校安全の当面する諸問題について,幼稚園から小中高校,特殊学級にいたる教師,学校医,各市町村教育委員会などの担当者が一堂に集まって,研究,討議を行うもので,約600人が出席した.
 大会は,まず大浜県学校保健会会長の挨拶で始まり,学校保健,安全教育につくした教師や学校医9人と健康優良校として宮古の城辺小校,安全優良校として沖縄市立諸見小学校が,またよい歯の学校など14校が表彰をうけた.このあと,全国学校安全研究会の石井会長が「学校における安全教育のすすめ方」と題し約1時間講演し,今年7月30日に実施される沖縄の交通方法変更にむけて,学校として取り組むべき問題や交通安全指導の効果的なすすめ方などについて意見を述べた.

人間優先のまち「吉備高原都市」の建設をめざして

著者: 板野猛虎

ページ範囲:P.345 - P.345

 最近,人びとの生活欲求は多様化し,とくに従来のように物的な豊かさよりも,むしろ質的,内面的な充実を求める傾向が強まっている.そして,人や自然のふれあいのある,真に人間らしい暮らしが求められている.しかし,現代の都市には,必ずしもこうした欲求にこたえるだけの設備や環境は備わっていない.そこにはむしろ,過密や公害など生活環境を悪化させ,人間関係を破壊するような,多くの要因がひそんでいるものといえよう.
 また,新しい福祉社会を目ざすわが国においては,国民の健康の増進や教育の充実,文化の発達など多くの課題をかかえているが,現在の都市が持っている機能には限界があり,これらの課題の解決は容易ではない.

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用語欄

著者: 西川滇八

ページ範囲:P.340 - P.340

▶コスト・ベネフィット分析(cost-benefit analysis)
 「費用便益分析」と訳しているが.標記のように用いることが多い.特定の保健医療に関連した目的のために,Aの方法によって使用された費用を,仮りに他の目的にふり向けるか,あるいはBの方法によって使われた場合と比較して,利益と恩恵を受けるものの多少を分析することである.主として上下水道計画などの長期的な投資に対して意義がある.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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