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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生42巻6号

1978年06月発行

雑誌目次

特集 新しいヘルス・ボランティア

新しいヘルス・ボランティア

著者: 橋本正己

ページ範囲:P.356 - P.357

 近頃,さまざまの分野でボランティアの問題が改めて注目され,盛んに論議が行われている.改めて,というのは,この問題はすでにわが国においても新しいものではなく,特に戦前の社会事業の分野などにおいては,ボランティアと呼ばれるにふさわしい活動事例が少なくなかったのであり,今日の状況下におけるこの問題の論議に,改めて,という実感が強いからである.
 本来,ボランティアの精神やその実践としての諸活動は,主として19世紀末葉以来,キリスト教的伝統に培われた西欧諸国にはじまったものであり,わが国においてもその特質から戦前にはもっぱら社会事業の分野でみられたものである.戦後は,新憲法下の新しい社会環境の中で,とりわけアメリカ的文化の強い影響によって,さまざまの新来語とともに保健・福祉の領域にもアメリカ的な考え方や活動が導入され,公衆衛生の分野においてもボランティアという言葉と活動が,深くその本旨を掘り下げることもなくとりあげられるようになったといえる.

ボランティア活動の思想的基盤と今日の課題

著者: 阿部志郎

ページ範囲:P.358 - P.362

ベテルの旅
 16年前に西ドイツのベテルを訪ねたときのことを,私は忘れることができない.
 1962年の夏,ヨーロッパ,アメリカのキリスト教社会福祉セミナーに出席するため,ビェフェルトに直行した.最初の晩に25名の参加者が初顔合わせをし,そこで,はじめの4日間は施設・機関・行政官庁を訪問するバス旅行,あとの3日間は訪問旅行の学習経験をふまえての討議,という1週間の日程説明を受けた.最初の訪問施設は,ベテルであるという.私にとって,聞いたこともない施設の名である.

国際的にみたボランティア活動の動向

著者: 柴田善守

ページ範囲:P.363 - P.368

はじめに
 ボランティア(volunteer)ということばがいつ日本に入ってきたかは明確にはわからないが,大正後半には,一部の社会福祉の専門家や社会福祉に自発的に奉仕している学生にこれが使用されていたにとは事実である.このころの新しい社会福祉はセツルメント事業であり,この事業に参加している人たちが自らボランティアと称していたようである.
 第2次大戦後,各地でボランティア活動がみられるようになったが,ボランティアということばが一般化し,日本語のなかに定着するのは,昭和40年代後半のにとである.しかし,ボランティアということばの意味は各人各様であり,いまこそこのことばのもつ意味を明確にしなければならない.

保健領域におけるボランティア活動とコミュニティの形成

著者: 園田恭一

ページ範囲:P.369 - P.373

I.ボランティア活動とは何か
 「保健領域におけるボランティア活動」という場合,「ボランティア」とは何か,ということが第一に問題となろう.
 そこで,この点をまず代表的な英英辞典である "The Random House Dictionary of English Language"(1973)でみてみると,サービスや企てを自身で自発的に提供する人,自らの自由意志でサービスに乗りだす人,その行為がいかなる法律的義務にも基づかないで行為する者,高価な報酬なしに財産移転をしたり,約束を与えるもの,等の規定がなされている.

地区保健組織活動にボランティア像を探る

著者: 新井京子

ページ範囲:P.374 - P.379

公衆衛生行政の圧迫点への働き
 長野県下には,15市・25町・39村に保健補導員会,健康推進委員会,母子保健委員会などの名称をもつ,地区保健組織活動がある.この活動は国民健康保険事業とともに推進され,県下自治体の65%を占める市町村が支持してきた.このことは,行政補完型という評を免れがたいものとしている.しかし,こうした地区保健組織活動とのよい提携をはかり,住民の健康を高めた実績によって公認の評価を受けた市が3つある.
 保健文化賞を受けたその1つである須坂市は,保健婦主導型から脱皮して,昨年,保健補導員会20週年記念行事を主婦達の手で行った.健康スローガンを大書したプラカードをもって市中を行進する各町内主婦層を,須坂市民は初めて見たのである.また,佐久市は医師主導型から会の自主行動へと転換する努力の最中であり,飯田市は都会化する中で,開業医数の増加と歩調を合わせるかのように活動が低迷している.

刈谷市における心身障害児たちとのコミュニティ・ケア

著者: 伊藤うら

ページ範囲:P.380 - P.385

ある日の訪問から(Y君との出会い)
 昭和35年,保健婦Iさんは,市内の未熟児Y君を訪問した.
 Y君は生後40日,虚弱な体つきで,目やにがいっぱいのまぶたを開いてみると,極めて小さなひとみであった.

保健・福祉領域におけるボランティア活動—吹田母子会の活動

著者: 剣吉淑子

ページ範囲:P.386 - P.390

はじめに
 吹田市は大阪市の東北に境を接する衛生都市で,蝙蝠(こうもり)が羽を広げて西に向かって飛んでいるような形をしている.広さは36km2,人口は30万余で,昭和15年に市制が敷かれた.国鉄東海道線と名神高速道路が市を斜めに横切っており,また中国縦貫道路の起点でもある.大阪京都線,大阪中央環状線,御堂筋線など主要な鉄道網が発達していて,阪急千里山線や大阪の地下鉄も深く乗り入れているので,交通は便利である.
 近頃の吹田市は,世界的な舞台になったりしてまことに華やかな脚光を浴びているが,25年頃に母子会が誕生したときは,実に寂しい姿の町であった.戦禍のためにその後も廃虚の跡がきびしく残り,不衛生きわまる町であった.乳児の葬式がやたらと多く,母親の顔色も一向にさえなかった.戦後の混乱がいくらか収まりかけたとはいうものの,不潔でジメジメした町には生彩がなく,住民は食うに追われ,明日への希望をもつことさえ忘れがちだった.保健所としても,どこから,どのようにしたら,と手の着けようがなく,困っていた.母と子の健康ということでアドバイスをしてくれる方があって,PTAの女性たちと会い,いろいろ話し合った結果,人工中絶の問題,乳児死亡の問題,家庭の健康管理の問題など,話が身近であるだけに,打てば響くようにして関心が高まり,女性の力でこの町を明るい健康な町に改めようと,一斉に立ち上がった.

連載 図説 公衆衛生・18

伝染病対策の現状と課題

著者: 安西定 ,   柳川洋 ,   高原亮治 ,   川口毅

ページ範囲:P.349 - P.352

 わが国の公衆衛生行政が伝染病対策,とくにコレラ防疫対策に端を発していることはよく知られているが,戦後,医学,医療,薬学,公衆衛生の進歩により,コレラをはじめとする各種の伝染病は急激に減少した.伝染病の罹患率や死亡率は,従来から地域における公衆衛生水準をよく反映するものとして,一つの健康指標に用いられてきた.しかし,個々の伝染病別にはインフルエンザや,ある種の溶連菌感染症のように,開発途上国よりも開発国に,あるいは農山村部よりも都市部の方において罹患率が高い疾病もあり,また伝染病届出システムがどの程度完備しているかによっても,把握される程度に差があり,地域の公衆衛生水準の測定に利用するためには,慎重な検討が必要である.
 伝染病が流行するためには感染源,感染経路,感受性の3要因がそろっていることが必要条件である.最近,新聞・テレビで報道されている川崎の河川で発見されたコレラ菌騒動も,コレラ菌が人の口に入るまでの感染経路やコレラ菌の病源性,ならびにコレラ菌に対する人の感受性などの条件がそろわなければ必ずしも流行に結びつかないことを物語っている.このほか,最近話題になっている伝染病のラッサ熱やマールブルグ病などのように,アフリカの一部の地域の伝染病が交通網の発達や輪人動物などにより,免疫を全くもっていない開発国にもちこまれ,死亡者を出した例があげられるが,にのことは今後,国際的視野に立った伝染病対策が必要なことを教えている.

発言あり

新しいヘルス・ボランティア

著者: ,   ,   ,   ,  

ページ範囲:P.353 - P.355

国民総ボランティア化を
 よい健康状態で長生きがしたい,健康は何ものにも代え難い貴重なものである,病苦に悩み,障害に苦しんでいる人達に援助の手をさしのべたい,などの思いは,誰しも少なからず持っているものであろう.しかし,現実の社会を見てみると,このような考え方にそった生活や活動をしている人は,非常に少ない.あまりにも物質文明だけが先行して発展したせいか,多くの人が毎日金を稼ぐことや消費生活を楽しむことにのみ気をうばわれ,自分達の大切な健康のことにさえも十分に気をくばらず,まして他人のために自分の持っている能力を提供するなどということは,とうてい簡単にはできないのが現実の姿である.
 日本にはボランティア活動は育たない,ということがよくいわれる.確かに,何か人に頼まれて行動をすれば,すぐにその代価を要求するし,またそれがなければ,自分の方から積極的に動こうともしない風潮が,あまりにも強すぎるように思われる.

海外事情

タイにおける地域保健計画の発展と最近の動向

著者: 松田正己 ,   丸地信弘 ,   田中恒男

ページ範囲:P.392 - P.399

はじめに
 世界における最近の保健活動では,計画性・地域性の重視が注目を集めている.これらは,限られた資源の中で地域特性に適した保健活動をより効果的に展開しようという認識に基づいている1)2)3).ところで筆者らは1977年1月,タイにおいて「東南アジア諸国の地域保健計画と保健情報」に関するミーティングに参加したが,東南アジアの開発途上国が保健計画や地域保健活動に寄せる関心の高いことを痛感するとともに,各国で現在進行中の地域保健計画の中に幾つか新しい試みが含まれていることを学んだ.それは保健サービスの総合効率化,そしてボランティア活用による保健マンパワー不足の解消,住民参加の促進等である.
 ところで,筆者らは上記のミーティングに先立ち,その一環としてタイ北部のChiangmai Province(県に相当)で主題に関するフィールド・サーベイに参加し,タイの地域保健計画およびその活動の実際に触れる機会を得たことから,同国における地域保健計画に深い関心を寄せるようになった4).そこで,本稿ではそれら具体例も含め,タイにおける地域保健計画の発展と最近の動向を考察し,その概要を紹介したい.

論考

松江保健所における脳卒中予防対策の現状と問題点

著者: 小谷勉 ,   関龍太郎 ,   長岡美津江 ,   熊谷成男 ,   恩田晴夫

ページ範囲:P.400 - P.405

はじめに
 脳卒中による死亡は,わが国では昭和26年来,死因の首位を占めている.多くの研究者によって,「高血圧の総合的対策」を実施するならば,脳出血,脳梗塞のいずれも減少すること,また,日本人の脳卒中には,欧米とは異なった特異性のあるにとが明らかにされている1)2)
 島根県松江保健所においては,1960年来脳卒中対策をおしすすめるとともに,管内各地において行政的研究をおしすすめてきた3〜14).今回は,その概略について述べる.

調査報告

製紙工場における健康調査成績

著者: 黒沢和夫 ,   三浦良一 ,   山崎敏実

ページ範囲:P.406 - P.409

はじめに
 勤労者の健康管理は大きな企業体ではかなり体制が整備されてきたが,健康管理の中心は職業病的なものから漸次,一般疾病,殊に成人病に移行する傾向がみられる.また若年の従業員が多い職場では,精神衛生の面に対する配慮も大切である.以上の観点から筆者らは,本年の健康診断時にUPIを中心とした種々の健康調査を実施したので,その成績の一部を報告する.

日本列島

自動販売機の功罪—沖縄

著者: 伊波茂雄

ページ範囲:P.385 - P.385

 中・高校生の飲酒,喫煙の原因は,自動販売機で手軽に買い求めることができること--激増する少年非行防止に中・高校生の生の声を反映させようと,昨年9月12日,県教育庁主催の児童・生徒健全育成懇談会の席上,つぎつぎにいろいろな意見が出された.
 出席したのは,中・高校生8人で,その話によると,中・高校生の間では喫煙や飲酒が,近ごろますます増えてきているが,それは自動販売機があって容易に手に入るからだ,という.そのほか,非行化の原因については「中学生の場合,甘やかす,厳しすぎる,両親の不仲などがきっかけになる.80パーセントまでは親の教育で決まる」,「酒やたばこなどに対して好奇心も強い」等,多くの意見が出た.ここで酒やたばこの自動販売機がやり玉にあがっているが,その他ポルノ雑誌やコンドーム等の自動販売機についても,青少年健全育成の立場から大きな問題となっている.

農協主催の「農民の健康会議」等の開催について—宮城県

著者: 土屋真

ページ範囲:P.391 - P.391

 近年,農協や農業改良普及所などの農業関係者の健康活動に対する深い関心と指導が,県内各地でも目立ってきている.私ども保健所長の立場からみても,これを自主的活動のよい傾向と受けとめるとともに,反省させられ,また学ぶべきものも大きいと感じさせられている.

忙しいということ

著者: 園田真人

ページ範囲:P.399 - P.399

 フランスのP神父さんのお話をうかがう機会があったので,その内容を紹介すると,
 「日本に来てかなりの年数がたちましたが,いまでも不思議に思うことがあります.それは,日本人が,いつも忙しい忙しいという挨拶をすることです.日本人は,忙しいことをよいことのように考えているようですね.とくに,日本の開業医のみなさんは,1日中患者をみていて,労働時間が長いのにおどろきます.フランスの医者は,1日20人くらいしか診察しません.ゆっくりとした気持ちで患者をみないと,患者の病気はなおせるかもしれませんが,患者の心の病気はなおせませんよ.そういう意味では,医者はひと一倍の休養が必要だと思います.

地域保健・医療協議会の発足—京都市

著者: 山本繁

ページ範囲:P.405 - P.405

 京都市では,昭和49年8月に,市民の健康と福祉に関する委員会が設置され,昭和51年7月には,「市民の健康と福祉に関する総合政策体系のあり方」(答申)が市長に提出されている.
 この答申にもとづき,この度(昭和52年11月),京都市地域保健・医療協議会が発足し,活動を展開するにとになった.

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用語欄

著者: 橋本正己

ページ範囲:P.368 - P.368

▶地区(衛生)組織活動
 公衆衛生の分野でこの言葉が公的に用いられるようになったのは,昭和28年以降であり,その直接の契機は,昭和24〜25年頃からの環境衛生改善活動である.これは戦後間もない農山村で,悪疫流行との闘いとしてはじまったもので,その特色は,村や部落単位での地区ぐるみの住民の組織的な実践活動である.当初,民衆組織活動と呼ばれ,そのめざましい成果が注目され,その後,公衆衛生の各種の分野に拡大する動きの下で,厚生省が地区(衛生)組織活動という用語を提唱したものである.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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