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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生42巻7号

1978年07月発行

雑誌目次

特集 環境アセスメント

環境アセスメントとその今日的課題

著者: 丸田頼一

ページ範囲:P.420 - P.422

はじめに
 わが国における昭和30年代から40年代にかけての急速な経済成長には,目を見張るべきものがあったが,その反面,公害問題や環境破壊が顕在化した.政府,地方自治体や企業が30年代においては線的に,40年代以降においては面的に,それらへの対応を試みるようになり,特に産業廃棄物や都市問題に対しての各種の判決が,公害や環境問題を国民の身近なものに化す導火線になってきている.
 アメリカにおいては,1962年にレーチェル・カーソン女史の『沈黙の春(Silent Spring)』の発刊により,農薬物の環境上の悪影響が示されるや,全米のベスト・セラーとなり,アメリカ国民の環境問題への関心を呼ぶ結果となった.1963年には,大統領科学諮問委員会科学特別委員会の報告書に,その点が強調され,以後,連邦諸機関も環境保全を前面に打ち出し,大気保全法,水質汚染規制法などの制定,運輸省設置令や国家史跡保存法の改正などにその影響がみられることになる.

環境アセスメントの考え方

著者: 沼田真

ページ範囲:P.423 - P.428

I.環境アセスメント発生の背景
 1960年代以降は,まさに環境の時代である.環境という用語はずいぶん古くから使われてきたし,「生物と環境」といった章は生物の教科書ではずっと使ってきた.しかし,それは動植物や微生物の環境であって,人間の環境ではなかった.ところが,環境問題でいう環境はまさしく人間の環境であって,ひとごとではないのである.

大気に関する環境影響評価

著者: 鈴木伸 ,   阿部史朗

ページ範囲:P.429 - P.434

I.環境影響評価ということ
 わが国の環境庁によれば,環境影響評価については,「開発行為等が空気,水,土,生物等の環境に及ぼす影響の程度と範囲,その対策について代替案の比較検討を含め,事前に予測と評価を行なうこと」と定義している.また国連環境部は,環境アセスメントを「人間の行動が環境を変える恐れのある時,どうしたらよいかを確認し,予測し,分析し,公表する行動」と定義している.
 これらの定義は,両者の間の重要な差異を端的に表わしている.アメリカではEnvironmental Impact Assessment(EIA)とEnvironmental Assessment(EA)を区別して,前者は特定の事業等によって環境に与える影響を考え,後者はより広い意味で環境の現状把握を行い,将来予測につながるもので特定の原因にはこだわる必要はない.本題の「大気に関する環境影響評価」はまさしく前者の大気関係のことであり,大気に特定すれば,はじめに引用した環境庁の定義そのものといえよう.

水質に関する環境影響評価

著者: 山根靖弘

ページ範囲:P.435 - P.440

はじめに
 環境における水質汚濁は,水俣病をはじめ幾多の疾病を惹起し,社会的問題となったが,その後の汚染対策により,疾病との関連はほとんどなくなって来た.しかし,人口の集中する都市およびその周辺,工場の立地する地域などにおいては,水質の汚濁の進行の止まないところが少なくない.したがって,各種の開発行為が行われるに先立って,その環境に及ぼす影響について十分な予測,評価を行い,環境の保全を維持することができる範囲において開発を行う,という基本的な考え方のもとに,環境アセスメント,すなわち,その影響を評価する条例化が各方面で検討されるにとになり,すでに川崎市では条例化されるに至っている(昭和52年10月4日,川崎市条例第41号).
 水質汚濁の対策の歴史を振り返ってみると,汚濁発生源があり,そこから排出された汚濁物質が河川,海域を汚染して,そのために利水者が被害を受けるというかたちにおいて,水質汚濁の研究は被害の実態調査から始まった.

気候変化と生態系

著者: 吉野正敏

ページ範囲:P.441 - P.448

まえがき
 気候変化と生態系の問題は,ふたつある.その第一は,気候が変化したときに,生態系はどうなるかであり,第二は,現在の生態系を破壊したときに,気候はどう変化するかである.
 この両方とも,人間の生存に関して根本的な問題であるが,残念ながら,明確な結論をここに述べるほどわれわれの知識は十分ではない.以下には,現在わかっている範囲で,上記のふたつの問題に関連したことがらを述べてみたい.

大気汚染の植物によるモニタリング

著者: 中村拓

ページ範囲:P.449 - P.454

はじめに
 最近,東京都内のケヤキやスギ等が目立って生気を回復してきたことに,気づいた人も多いことであろう.これらの樹木は大気汚染に弱いため衰弱が甚しく,一時はこのままでは首都圏から消滅してしまうのではないかと見られていたのである.しかし,二酸化硫黄の排出規制が進み,その汚染が年々減少するに伴って,効果が現われてきたものと思われる.
 これにたいして近年は,光化学オキシダントによる植物の被害が広域に発生するようになった.この被害はすでに昭和40年代のはじめごろから,首都圏の野菜栽培農家の間で"もや(靄)病"と呼ばれる障害として知られていたもので,春先から夏にかけてもやの濃かった日の翌日,ホウレンソウ,コマツナ,ネギ,ハツカダイコン等の葉に白い斑点が発生し,これらの野菜に甚大な損害を与えている.この被害は関係研究機関の調査,研究により,光化学オキシダントに起因すること,および被害発生地域は都市化の進んだ所ではほぼ全国的に認められることが,次第に明らかになった.大気汚染による植物の被害の研究が進み,各汚染物質ごとの被害様相が明確になったものが多いので,植物を観察することにより,その周辺の大気環境の状態を知ることができる.以下に,植物を指標とする大気汚染の調査方法について紹介する.

連載 図説 公衆衛生・19

精神衛生対策の現状と課題

著者: 安西定 ,   安西定 ,   柳川洋 ,   高原亮治 ,   川口毅

ページ範囲:P.413 - P.416

 精神衛生対策が公衆衛生上主要な問題として行政上とりあげられるようになったのは,昭和25年の精神衛生法の制定を契機としている.
 その後,昭和40年に精神衛生法の改定が行なわれ,通院医療費公費負担制度の導入や精神衛生センターの設置,ならびに精神衛生関係者の守秘義務規定の設置等地域精神衛生活動の推進が図られた.同時に,たまたま発生したライシャワー米国大使刺傷事件に関連して新たに制定された緊急措置入院制度や精神障害者に関する申請通報制度の改定も行なわれ,この是非について社会的にいろいろと論議されたのは,いまだ記憶に新しいところである.

発言あり

嫌煙権

著者: ,   ,   ,   ,   ,   神山恵三 ,   佐久間淳 ,   多田羅浩三 ,   原田章 ,   山崎京子

ページ範囲:P.417 - P.419

我々の空間
 今春,阪大医学部を一人の医学生が卒業した.M君.いたって普通の医学生であった.ところが医学部の諸先生の間では,彼がどこへ進むか,ひそかな関心を集めていた.というのは,M君はここ数年,厳格なる嫌煙家として有名だったからである.講義中はもとより,ポリクリでも,実習中でも,彼は断固として同室者の喫煙を認めようとはしなかった.
 タバコ天国の医学部.タバコをプカプカやりながら,喫煙の害毒が大声で論じられる.それでも"紳士"をもって任ずる天国の住人は,「タバコをやめて下さい」というM君の非妥協的な一言に,しぶしぶでもやめざるを得ない.住人にとっては,M君が「うちへ来てもろうては困る」というのが正直な気持であろうか.

綜説

有害物質のアセスメントと規制—国際的動向

著者: 滝澤行雄

ページ範囲:P.455 - P.460

はじめに
 有機塩素系化合物や重金属類の化学物質が,国の内外で有害物質として注目されてから久しい.日本では,PCB汚染が大きな社会問題となったことが契機となり,化学物質の総点検や事前評価を行なうことを目的とした「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律」1)(昭和49年4月16日施行)が制定された.従来,化学物質の安全性が医・農薬,食品添加物などごく一部の化学物質についてのみ認識されていたのに対し,ここに,工業材料などすべての化学物質について,その安全性の検討が行なわれることになった.
 当時,この種の法律としては世界的にみて類のないものと考えられ,OECD環境委員会ではこれを高く評価した.ちなみに,同委員会化学品セクター・グループ2)は,人間環境における化学物質の作用を事前に処理するために,環境を汚染し,人の健康を損うおそれがある特定化学物質の製造,輸入,使用等には厳しいクローズド・システム化を要求しており,その勧告には日本のテクノロジー・アセスメントの立法内容が導入されている.

調査報告

脳卒中の登録に関する研究

著者: 辻千代 ,   長井洋子 ,   松本トシ子 ,   水島サダ子 ,   安田たか ,   緑礼子 ,   金木丈干 ,   鏡森定信

ページ範囲:P.461 - P.465

I.緒 言
 富山県小矢部保健所では昭和41年から脳卒中の登録システムを採用し,管内の医師の届出保健婦の訪問活動の発見,一般住民やリハビリテーション友の会(昭和47年)などの連絡により,保健所が把握した脳卒中後遺症者を系統的に登録していく試みを開始した.昭和43年から脳卒中後遺症機能回復センターを開設し,地域の居宅の脳卒中患者を対象にリハビリテーションを実施している.
 脳卒中後遺症のような,長期にわたり継続する健康障害では,社会経済的な要因も関与して治療が中断されることがしばしばあり1〜3),その結果後遺症が悪化進展し,高齢者においてはいわゆる「ねたきり老人」を生み出す大きな原因ともなっている4)

人間ドックによる健康管理の問題点—ドック受診後死亡した例の検討

著者: 鈴木九五 ,   井上幹夫

ページ範囲:P.466 - P.470

はじめに
 成人病は無自覚のうちに発生し,進展することが多いので,その予防あるいは早期発見のためには健康診断が必要である.人間ドックでは,この目的のために各種の検査を行っているが,人間ドック受診にもかかわらず,壮年で死亡した例もみられる.これには現在の医学水準では不可抗力と考えられる面もあるが,他方,人間ドックのあり方自体に反省を要する面もあるであろう.
 この報告は,某会社の人間ドック受診者で在職中に死亡した例の検討から,これまでの健康管理について1つの評価を試みたものである.

読者レポート

健康診断書について

著者: 岡田道子

ページ範囲:P.471 - P.473

 本誌第42巻第1号に「診断書かきを止めようではありませんか」との提案があった.まさにタイムリーな合理化案であると思う.しかし,健康診断書を保健所で書いてもらえないその受験生も,現状ではどこかの医療機関で書いてもらっているにちがいない.御提案のように全国の保健所が書くのをやめたとしても,今のままでは全国の受験生はどこかの医療機関へ行くだろうし,医療機関はこれを安易に受け入れるであろう.現行の健康診断の仕事は簡単で,医療機関にとっては経済的効率はよいのだから…….そして,災難を被るのは受験生ではないのか.
 あまりに安易に,責任のがれのために使用されている健康診断書について,ただ目前の混乱を取り除くだけでは,勇猛ではあるが,むしろ根本的な解決を混乱させ,一層おくらせることになろう.根本的に考え,矛盾を是正するために,文部省,労働省等に対して関係者の働きかけを是非お願いしたい.

日本列島

市民は市政に対して何を望んでいるか—北九州市

著者: 園田真人

ページ範囲:P.428 - P.428

 北九州市は新年度(昭和53年)の予算編成と今後の市政をすすめる上で参考にするため,20歳以上の男女を対象にして,選挙人名簿から抽出した3,855人のアンケート調査をまとめた.この調査は,昭和44年からはじめられ,今年ですでに9回目になるが,市氏の政治に対する意識がよく反映されており,参考にするところが多い.
 調査は「つぎの24項目の中から,どれに力をいれるべきだとお考えですか,2つ選んでください」という質問になっている.

北海道環境影響評価条例案の提出

著者: 吉田憲明

ページ範囲:P.448 - P.448

1.瓔珞磨く石狩の 源遠く訪いくれば 原始の森は暗くして 雪解の泉玉と涌く
2.玟瑰赤き磯辺にも 鈴蘭香る谷間にも アイヌの姿うすれゆく 蝦夷の昔を想うかな
 これは北海道大学櫻星会歌であるが,まあ北大校歌といってもよいであろう.
 北海道がまだ蝦夷といわれた頃には,熊や狼やえぞ鹿が山野を駆けめぐり,早春の日本海の磯には鰊の大群が押し寄せ,秋の河川には鮭や鱒が産卵のために遡上して群れていたのである.

タリウム中毒集団発生—沖縄県

著者: 伊波茂雄

ページ範囲:P.465 - P.465

 昭和51年7月30日,県立中部病院小児科に脳炎症状を主徴とする4歳の男児が入院したが,8月11日には顕著な脱毛が始まった,さらに,8月30日に同様の症状を呈する3歳の女児が入院した,家族の話で,その女児の兄(4歳)も同様の症状で他病院に入院し,7月下旬に死亡していることがわかった.
 臨床症状からみて,主治医がタリウム中毒あるいは中枢神経系感染症が疑われると示唆したため,患児1名の血清および髄液からエンテロウイルスの検出,および9月に入って患児2名の尿からタリウムの検出を県公害・衛生研究所に依頼したが,いずれも陰性であった.その後,10月に入って5歳男児,4歳女児,さらに3歳女児と同一地区から同様の症状を呈する患児が発生した.ここで環境保健部は原因不明疾患対策本部を設置し,組織的に原因究明に乗り出した.その結果は次の通りである.

救急医療医師研修会—岐阜県

著者: 井口恒男

ページ範囲:P.470 - P.470

 県からの委託事業として,岐阜県医師会が主催した表記研修会が,2月11日に実施された.この研修会は毎年恒例となっており,医師会の自主的な研修会であるが,今回は,他県の状況視察も兼ねたもので,大津市の急病診療所の見学と滋賀県医師会・藤野滋理事の「滋賀県における救急医療体制の現状について」,および大阪大学・小川道雄博士の「地域医療としての救急医療のあり方」の講演が,約3時間にわたって行われた.
 講演内容は,50年7月,滋賀県をはじめ関西医師会連合の行った休日急患の実態調査結果からの考察のほか,今後の地域における救急医療のあり方など幅広い内容のものであり,日常の医療を担当する医療従事者にとって,非常に有意義なものであった.特に,小川氏は関西医師会連合の実態調査を高く評価し,救急医療の需要状況の把握の重要性を強調され,また,日頃の医療従事者の研修業務を通じて得られた経験に基づき,一般に蘇生法の原則や方法が十分に浸透していない現状を述べられた.救急医療活動の中で,応急処置の重要性は認識されながら,気道確保,人工呼吸法,心マッサージの蘇生の3原則でさえ,医学生をはじめ一般医療従事者,一般住民に対して十分な教育がなされていないようであり,救急医療に関する教育の体系化が緊急課題と思われる.

離島からの急患移送—沖縄県

著者: 伊波茂雄

ページ範囲:P.473 - P.473

 沖縄県には本島以外に約40の有人離島があるが,そのうち一般病院があるのは宮古島と石垣島のみで,他は一般診療所のみしかない.したがって,その診療所では対応できない疾病などは,船または航空機で患者を最寄りの病院へ輸送しなくてはならない.
 急患輸送は,昭和47年の日本復帰までは琉球警察が事務を取扱い,米軍が輸送に当たっていたが,復帰後は消防法に基づき県総務部消防防災課が主管となった.しかし,勤務態勢の関係もあって夜間,日曜,祝祭日,土曜の午後は,県警に委託されている.最近の取扱い件数は昭和47年5月15日以降51件,48年136件,49年156件,50年122件,51年151件,52年175件と徐々に増加の傾向がみられる.

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用語欄

著者: 西川滇八

ページ範囲:P.440 - P.440

▶汚染者負担の原則(PPP;Polluter Pays Principle)と汚染者処罰の原則(PPP;Punish Polluters Principle)
 環境汚染によっておこる人の健康被害と農作物,その他の物的被害は,汚染者が負担して補償すべきである,という考え方が,"汚染者負担の原則"である.それは,汚染防除費用を政府が負担するのでは,納税者全体が負担することになり,これでは不公平である,ということからの発想である.しかし,汚染者が防除費用を負担することになれば,製品価格にこれを加えることとなり,消費者負担になることは明らかであるが,あまりこのことは広く理解されていない.多くの人達は,環境汚染は単に汚染者が有罪であり,処罰されなければならない,という"汚染者処罰の原則"として認識している.一方,国際的な経済原則としては,消費者負担の原則は,国際貿易におけるダンピングの歪みを防止することと,資源の配分を均等化するのに役立つ,という効果があるとされている.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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