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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生43巻10号

1979年10月発行

雑誌目次

特集 心身障害児

心身障害児対策の現状と課題

著者: 尾村偉久

ページ範囲:P.680 - P.687

■はじめに
 わが国の心身障害児対策は,今次大戦の終結を迎えるまでは,富国強兵の国策に覆われて皆無に等しく,すべて個々の家庭の問題として自然淘汰の流れに委ねられていたと言っても過言ではない状況であった.戦後,経済復興,国民生活の尊重という社会の潮流とともに,福祉国家建設の基本思想のもとに,社会的・生活的な弱者——母子,生活困窮,心身障害,老齢など——に対する対策が急速に進展,整備されてきたのであるが,心身障害児対策もその流れに乗って,施設対策を主として著しい進展を遂げてきた.しかしながら,わが国はもとより,世界の多数の国々が,数年来の石油資源問題以来,従来の高度経済成長から減速安定経済社会に転換せざるを得なくなり,政策転換のシワ寄せが,ややもすると福祉政策,特に単純に社会的な負担と軽視されがちな心身障害対策に転嫁されることを惧れるものである.

心身障害児の早期発見・早期治療—新生児期スクリーニングについて

著者: 鴇田恵美子 ,   成瀬浩

ページ範囲:P.688 - P.692

■はじめに
 編集室から,「心身障害の予防と発見」という課題が与えられたが,現在,この問題は,医学的において一つの重要な分野になりつつある.この課題に忠実に従えば,出生前診断および遺伝相談の問題が重要な部分となるであろう.なぜならば,心身に障害のある児をもつ親が次の子を妊娠した時には,遺伝相談を受けて,羊水診断を希望する例が急激に増えているためである.この場合,羊水診断によって染色体異常や治療不可能な代謝異常が発見されれば,親の希望いかんによっては,妊娠中絶という手段が採用される.この事柄は,倫理的見地からの批判にもかかわらず,多くの国国でなされている.
 さらに最近,遺伝相談としてではなく,一般の妊婦について,ある種の出生前診断が行なわれるようになってきた.それは,妊婦の血液中のα-Fetoproteinを測定し,Neural tube defectsを早期発見する試みで,一部の地域で現実化されてきた.また,同じく妊婦の血液を用い,トキソプラズマ抗体を測定し,妊娠中のトキソプラズマ感染の対応策を考えることも,一部の地域で行なわれつつある.

障害児地域ケアの課題

著者: 大塚隆二

ページ範囲:P.693 - P.696

■はじめに
 わが国の障害児療育の主流は,長い間「施設収容療育」であった.このことは,障害児殺しや,障害児を道連れにした親子心中事件が起こるたびに,世論は障害児を養育する父母,家族の精神的・肉体的労苦に対して同情し,障害児福祉対策の遅れや「施設」の不足を批判する声が起こり,「施設」に対する期待の大きさを物語っている.

地域障害児施設の経験—障害児を抱えた一家心中を一件でも防ぎたいという願いから

著者: 矢野享

ページ範囲:P.697 - P.700

■はじめに
 筆者が重症心身障害児の母子通園施設「希望の家」を建てたのは,昭和50年5月であった.この施設は,在宅障害児のための定期的訓練施設であり,また障害児の母親に対しては,心身ともに憩いの場たるべく建てられたものである.昭和53年5月には,第二期計画である約64名の入院施設が完成し,さらに翌年昭和55年4月には定員100名となる予定である.
 筆者に重症心身障害児との関わり合いをつけてくれたのは,筆者の長女である.彼女は昭和30年に未熟児で生まれ,生後2週間目に大学病院で重症肺炎となり,奇跡的に一命をとりと止めたものの,脳性麻痺となった.以来24年,医師としての,また重症児の親としての生活が続く.おかげで「重症心身障害児を守る会」のお世話をさせていただきながら,多くの障害児と,その御家族に接する機会を持たせていただいた.また特に,筆者の妻は小児科医として,母親として女性特有の感覚でこの問題に接して来た.以下の文章は,一施設としての発言というよりは,重症児を持つ医師として,いやむしろ,親としての意見が強く反映されたものとなるかもしれないが,その点ご了解願いたい.

人間と生活環境—障害論の立場から

著者: 日比野正己

ページ範囲:P.701 - P.706

■はじめに
 今年は,国際児童年である.そして,2年後の1981年は国際障害者年である.国際的に,児童や障害者の問題が,大きくとりあげられていることは,喜ばしい,しかし,逆にいえば,今日,世界的に児童や障害者のかかえる問題が,それだけ深刻になっているともいえよう.
 「日本国憲法の精神にしたがい,児童に対する正しい観念を確立し,すべての児童の幸福をはかるために」制定された「児童憲章」(1951年5月5日宣言)は,前文でつぎのようにうたっている.

障害児保育の問題

著者: 茂木俊彦

ページ範囲:P.707 - P.710

■新しい課題としての障害児保育
 障害児保育が障害乳幼児対策の中で重要な位置を占めることが社会的に認識され,数多くの不十分さを残しながらも一定の制度的裏づけをもって進められるようになったのは,ごく最近のことである.そのことは,次のような諸施策がとられ,また実態上の変化が出てきたのがいずれも1970年代の前半のことであること,そして,これらがそのまま今日におけるわが国の障害児保育の主要な諸形態(ないし保育の場)となっていることをみれば,即座にうなずかれよう.
 (1)保育所における障害児保育,すなわち厚生省の「障害児保育事業」の開始(1974年).

障害児教育の問題—奥中山学園の経験から

著者: 本庄義雄

ページ範囲:P.711 - P.714

■障害児にされてきた子どもたち
 旭君が学園に入園したのは,今から4年前,8歳の時でした.ヨチヨチ歩きでオムツをつけ,言語はありません.要求や不満を表わすのに,舌をギーギーと鳴らしたり,頭をこぶしで強くたたいたりするのでした.不思議なことに,日中頻繁に尿をもらしているのに,夜尿が全くないのです.
 旭君の家は,生活を維持するため動ける大人はみんな,農作業につかなければならない状態でした.祖母が,寝たっきりの祖父と炊事,そして旭君の子もりを引き受けていたのです.しかし,看病と炊事に追われて旭君の子もりまで手がまわらなくなり,旭君がやっと立てるようになった3歳の頃,家の真ん中の柱に,2メートル位の帯でつないだのです.そして,そんな彼をなぐさめようとテレビをつけ,おやつを与え,母親は昼と夕にむれたオムツを取りかえてやるのでした.脳をはじめ身体の諸機能が全般にめざましく成長発達する幼児期の旭君の環境はそうだったのです,それに加え,母親を呼ぶ手段として,舌をギーギー鳴らしたり,自分の顔や頭をこぶしでおもいっきりなぐって,ギャーと泣くことが身についていったのでした.

「医療+教育」これぞ原点—障害児をもつ親からの提言

著者: 山田典吾

ページ範囲:P.715 - P.719

■裸の子と裸の馬――ベーテルの町で
 わたしは国際映画祭へ毎年のように出かけるが,その都度,西ドイツのハノーバーで飛行機を降り,ドイツ語の通訳を伴ってベーテルの町を訪れる.
 ベーテルの町――7,000人くらいの人口で,精神薄弱児(者)と彼ら彼女らを世話するボランティア,シスター,職員,教師らとの町.

講座 臨床から公衆衛生へ

心身障害児

著者: 奥田六郎 ,   須藤正克 ,   林寺忠 ,   奥野武彦

ページ範囲:P.720 - P.728

■はじめに
 心身障害児の定義は,簡単なようで難しい.ここでは,心身障害児を身体的ならびに神経学的なハンディキャップを長期にわたって有する小児と広義に理解すると,多くの疾患がその原因として挙げ得る.
 原因別に分類してみると,表1のごとくになる.心身障害児の発生,病像,発見法,治療法,介護の理解のためには表示したすべての疾患について,その発生,その他を記述するのがよいけれども,それにはかなりの頁数が必要で,限られた頁数ですべてに触れることは不可能である.そこで,小児の心身障害の原因となる主要な疾患として,先天異常のうち特に代謝異常,神経系疾患,循環器系疾患を中心に,なるべく予防,あるいは効果的な治療法のあるものを主として取り上げる.ただし,先天的異常の一部には,神経系疾患として扱われているものとoverlapしているものがあることをお断りしておきたい.また,心身障害の発生を防ぐには,その予防とともに早期発見,早期治療が最も重要であることは,断わるまでもない.したがって,予防,早期発見にもなるべく重点を置いて述べる.なお,病因が不明で小児精神医学の領域に属するものは,別項として最後に簡単に触れることにする.

放射線管理

著者: 鎌田力三郎 ,   浦橋信吾

ページ範囲:P.730 - P.735

■はじめに
 わが国でも放射線防護と管理は,国際放射線防護委員会(ICRP)の勧告に基づいた諸法規に従って,実施されている.
 最近,放射線防護に関連する問題や,低レベル放射線被曝による生物学的効果などの知見が,より明らかにされてきた.これに伴い,ICRPの放射線防護などに関する考え方も変わってきた.原子力を含めた人工放射線と放射性物質の利用は医療をはじめ,あらゆる産業分野で今後も増加すると考えられる.放射線利用の健全な発展には,科学的な裏づけのある知見を基礎にした放射線安全管理が行なわれることが重要である.また,放射線作業従事者が放射線に関する知識を十分に有していることも必要である.そこで本講座では,(1)放射線の種類と被曝線量,(2)放射線障害,(3)医療被曝,次いで(4)放射線管理および筆者らの施設における放射線作業従事者の被曝の実情を述べ,(5)1977年のICRPの要点について解説し,読者の参考に供したい.

海外事情

エスキモーの住環境

著者: 田中正敏

ページ範囲:P.736 - P.740

■はじめに
 住宅は,厳しい自然から人々の生活を守る保護環境として,気候,風土に密接な関係をもってきた.これまでの長い生活史のなかで,住宅の形体,機能が培われ,その地方特有の住宅を生じさせてきている.そうした家屋の地方性成因の一つには,直接に人々に作用する風土,気候の影響とともに,家屋を作る材料,材質による制限のあったことは否めない.
 エスキモーの住む環境は,多くが北極圏内に属し,建築部材としての木材,草などの育たない極寒の地である.夏の白夜,そしてある期間は太陽が全く現われないといった季節による太陽の出没である(写真1).こうした環境下に,エスキモーは彼ら自身の生理的な自然への適応よりも,むしろ衣服,住居,暖房により,北極圏での生活を可能としてきた.社会的・行動的適応といわれる.生活必需品のすべては,その地でとれ,工夫されたものであった.狩猟により得た毛皮の衣服,動物の脂肪,クジラの脂肉を燃やしての光,氷による家などである.エスキモーの住まいというと,ドーム状の氷の家"イグルー"を想起する.しかし,古くから北アラスカでは,マッケンジー川が南部から運んでくる流木を使い,木材と土を重ねて積み上げた住居であり,形体的にも東部エスキモーのイグルーとは異なっていた.

発言あり

実子あっせん

著者: ,   ,   ,   ,  

ページ範囲:P.677 - P.679

日本の社会の貧しさの中での一つの告発
 事件というにしては,あまりにも事件らしくない「赤ちゃんあっせん事件」です.関係者に,いわゆる悪人がいるわけではなく,胎児の命を救おうとする切羽詰まった人間的悩みと,法律の建前の矛盾です.
 結局,医師が法律違反を問われ,一応一件落着となりましたが,確かにそれがもし許され一般化するとなれば,不純な動機による出生証明書の書き換えが,欲もからんで多数横行しそうな風土が日本にはあり,混乱は目に見えていて,残念ながら止むを得ないことと思います.

目で見る衛生統計 国際比較

10.栄養と体格

著者: 大森文太郎 ,   小田清一 ,   藤崎清道 ,   石塚正敏

ページ範囲:P.742 - P.743

 戦後,わが国の学童の体位が著しく向上してきたことに,食生活の改善が寄与するところはきわめて大きい.本稿では,近年の日本人の栄養と体格が諸外国に対し,どのような位置にあるかを検討した.
●図1で各食料品目別に年間消費量をみてみると,わが国は穀物消費の多さが目立つ.しかし,欧米ではイモ類の消費が多いので,糖質全体としては著しい差はなくなっている.

地域保健施設の活動

保健センター構想を先取りし,医師会とも協力—磐田市健康増進センター

著者: 林宏治

ページ範囲:P.744 - P.745

磐田市の概況■
 磐田市は静岡県の西部,天竜川の東岸に位置し,西岸の浜松市と隣接している,東西9.2km,南北17km,面積64.3km2の南北に細長い土地で,北部のなだらかな台地から中心部の市街地を経て,南部の田園地帯が遠州灘に接しており,市内を東名高速道路,国道1号線,東海道本線および東海道新幹線が東西に走っている.人口は約7万4千人である.
 市内には1500年前の頃の古墳が多い,天平時代には国府がおかれ,国分寺跡があり,昔から栄えていたと思われる.江戸時代には「見付の宿」としてにぎわい,明治維新後は,気候風土に恵まれて,たばこ,茶,みかん,メロンなどの栽培が盛んであったが,最近では,豊富な水と便利な交通に注目されて,東洋ベアリング,鈴木自動車,東京製綱,日本楽器,ヤマハ発動機などわが国有数の企業が進出して操業を始め,工業都市として急速に面目を一新してきた.

海外ニュース

リベリア共和国の病院事情を視察して

著者: 高木篤

ページ範囲:P.746 - P.748

■はじめに
 私は昨年の9月から10月にかけての1カ月間,国際協力事業団の委嘱を受けてリベリア共和国の医療事情を視察する機会を持った.同国の保健社会福祉省が日本大使館を通じて,同国病院整備に日本からの援助を要請してきたので,とりあえず現状を視察することが必要となったためである.

保健・医療と福祉

民間アパートを利用した障害者の社会復帰

著者: 渡辺朝子

ページ範囲:P.750 - P.751

はじめに■
 高茶屋病院は,昭和25年に津市に開院し,193床,職員28名で発足した.昭和32年には,いち早く開放化に踏み出し,各種のリハビリテーション活動を行なってきた.54年現在,550床,職員375名,二類看護で,開放率80%の病院となった.各職種も専門分化し,同時にチーム医療も細かく組まれている.

ずいそう

片目の鈍魚(どんこ)

著者: 園田真人

ページ範囲:P.741 - P.741

 北九州市の東南に足立山(あだちさん)という標高597メールの山がある.近辺でもかなり高い山であり,頂上から北九州市の市街地を一望できるすばらしいながめである.
 この足立山の南に湯川というところがあるが,古くは温泉場であったという.

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用語解説

著者: 長崎護

ページ範囲:P.710 - P.710

▶身体障害者福祉司
 身体障害者福祉法第9条の規定にもとづいて,都道府県の設置する福祉事務所には必ず配置しなければならないことになっている.身体障害者福祉司は,身体障害者の更生援護について技術的指導を行なうほか,福祉事務所職員の技術的指導も担当する専門技術職員であって,社会福祉主事でかつ身体障害者の更生援護等に2年以上の経験のあるもの,医師,身体障害者福祉司として必要な学識経験を有するものなどの中から任用されている.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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