icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生43巻11号

1979年11月発行

雑誌目次

特集 喫煙問題

喫煙流行制圧の公衆衛生的意義

著者: 平山雄

ページ範囲:P.756 - P.760

■はじめに
 1979年6月,スウェーデンのストックホルムで開催された「第4回喫煙と健康世界会議」の席上,WHOのマーラー事務総長は歴史的な発言をしている.同年発表された「喫煙流行制圧」(Controlling the Smoking Epidemic)と題するWHO専門委員会報告書を片手に,「現在,世界における最大の"流行病"として喫煙をとらえ,WHOが痘瘡,結核,マラリアなど世界を覆う流行病と闘ってきたように,今世紀末までの最大の課題として,喫煙の流行制圧に全力を集中すべきである」と強調したのである.

喫煙の心理学

著者: 後藤啓一

ページ範囲:P.761 - P.764

■はじめに
 喫煙に関する心理学的研究については,主に喫煙動機形成についての分析や,あるいは喫煙習慣にみられる心理学的徴候についての研究が多い.これらに関する代表的な論文は,1973年にウィリアムL. ダン(William L. Dunn, Jr.)によって "Smoking behavior--motives and incentives" としてまとあられた.この論文集は,喫煙行動を世界で最初に取り上げた学際的な研究の集大成といわれている.これらの論文は,1975年に広田君美教授(関西大)らを監訳者として,たばこ総合研究センターによって翻訳された1).それらに所収されている論文は,主に「喫煙行動をささえる動機は何か」をめぐって医学者,生化学者,心理学者,社会学者,文化人類学者などによって検討が加えられたものであった.
 本論ではまずはじめに,それらの論文のなかから心理学的な研究のいくつかを紹介し,ついで筆者が行なった青少年の意識調査のなかから喫煙に関するデータをもとに青少年の喫煙動機にふれ,さらに成人の生活意欲調査における喫煙と保健への態度の関連分析のデータを通じて,喫煙行動の社会心理学的側面について考察していくことにしよう.

喫煙の生理衛生学

著者: 浅野牧茂

ページ範囲:P.765 - P.775

■はじめに
 喫煙,とくにシガレット喫煙と関連した健康障害については,WHOを初めとして各国の専門家たちによる警告と,その裏付けとなっている調査研究の報告が最近に至っても相次いでおり,本年に入ってからでも,既に米国保健教育福祉省から1,100ページを超える公衆衛生総監報告書『喫煙と健康』が出版され,前後してWHOの喫煙制圧に関する専門委員会報告『喫煙流行の制圧』が発行されている(U. S. Department of Health, Education, and Welfare:Smoking and Health. A Report of the Surgeon General, Public Health Service, 1979;WHO:Controlling the Smoking Epidemic. Report of the WHO Expert Committee on Smoking Control, Technieal Report Series, No. 636, 1979).喫煙の生体影響としては,疾病の発生やそれによる死亡のように主に慢性の器質的変化を来たすものと,直ちに疾病と結びつくとは限らないが,主として急性の生体機能変化を示すものとに大別することができる.本篇では,この機能的側面に焦点を絞って,喫煙の生理衛生学的知見の幾つかを簡単に紹介したい.

喫煙の動向

著者: 林高春 ,   中田明子

ページ範囲:P.776 - P.780

■はじめに
 この20年間に,喫煙の実態に大きな変化が起こったことは,周知のとおりである.先進諸国では,喫煙と健康の問題から,タバコの製品も変わりつつあり,さらに嫌煙権論議も加わって,喫煙習慣も大きく変化しつつある.発展途上国においても,喫煙問題についての関心が,次第に高まりつつある.
 わが国においても,喫煙に関する調査,報告は数多く見られるが,系統的な調査は少なく,大部分は散発的で調査方法も一定しておらず,比較評価が困難である.日本においても,外国に見られるような情報センターができて,必要な資料が容易に得られ,また幾つかの情報源の異なった資料を対比させた検討ができるようになってほしいものである.

喫煙と肺癌

著者: 野々瀬宣夫

ページ範囲:P.782 - P.785

■はじめに
 近年,わが国においても,肺癌による死亡が著しく増えており,喫煙問題は公衆衛生対策上の重要な課題になりつつある.
 平山らは昭和40年から現在にかけて,40歳以上の男女26万人を対象とした計画調査を実施してきている4).このような喫煙の健康に及ぼす影響に関する研究のほか,最近では,喫煙による経済的損失1),タバコ価格と消費量の関係2)3)など,社会経済的な面についても検討され始めてきた.これは喫煙問題の幅の広さを示している.

喫煙と健康障害—文献解説

著者: 青山光子

ページ範囲:P.786 - P.793

■はじめに
 1964年,アメリカで公衆衛生総監の諮問委員会が「喫煙と健康に関する報告」を発表して以来,シガレット喫煙は大きな社会問題として広く関心が持たれるようになり,喫煙と呼吸器疾患,心血管疾患あるいは種々な癌発症との関連などについての研究が,世界各国で次々に発表されてきた.最近では,各種臓器への影響ばかりでなく,女性の喫煙による妊娠,出産に及ぼす影響あるいは出生児への影響についても種々な角度から検討され,その研究報告はきわめて多数に上っている.
 今回,喫煙と健康障害について取り上げるに当たり,最近5年間に行なわれた喫煙の健康問題に関する研究の数と内容を,MEDLARS**により機械検索した.その結果,喫煙に関する医学的研究は約6,000件にも上ることが明らかとなった.これを臓器別にみると,図1のように,肺に関するものが最も多く,血管がこれに次ぎ,胎児,心,肝,胎盤,胃,腸管の順で,生殖器に関するものはきわめて少なかった.また,これを疾患および妊娠あるいは奇形についてみると図2のように,心血管疾患の報告が最も多く,肺疾患,悪性新生物,気管支疾患の順で,妊娠,奇形に関するものもかなりみられるが,全体の件数からみればやや少ない傾向であった.

喫煙と火災

著者: 塚本孝一

ページ範囲:P.794 - P.797

■はじめに
 毎年,火災の原因の第1位はタバコであると宣伝されてきた.「全国火災統計」をみると確かにそのとおりで,10年以上もこれが続いている.この火災には家屋,車両,林野などといろいろな種類がある.その被災の程度も,家屋でいえば,幾棟かの家屋が焼失する場合,1棟が全焼・半焼する場合,またごく一部分が焼けただけというボヤ火災の場合とさまざまである.それに死傷事故を伴う場合もある.こういうわけで,タバコは出火件数が多いというだけでは,その火災危険の大小を示すものとは限らない.
 そこで東京における状況をみると,昭和51年度まではタバコがが第1位であったが,52年以降はこれが放火に代わってしまった.それでもタバコは全体の19%余を占めているが,このところやや減少の傾向がみられる.

喫煙の経済損害と禁煙による費用便益

著者: 前田信雄

ページ範囲:P.798 - P.803

■喫煙による経済損害
 本稿では,喫煙による経済損害のうち,主に健康障害に起因する損害を取り上げよう.

喫煙と健康—これからの重点研究課題

著者: 平山雄

ページ範囲:P.781 - P.781

 1.喫煙と心臓病 この分野では,喫煙のHDL(high-density lipoprotein:高比重リポ蛋白)に対する影響の研究が重要である.
 HDLはコレステロールの多いLDLが動脈壁の細胞(内皮細胞,平滑筋細胞および線維芽細胞)の中に入るのを妨げるとともに,コレステロールをこれらの細胞から除去することを促進して冠動脈疾患に対する予防効果をもたらすとされているが,そのHDLが喫煙者では低値を示すのである(Poznerら,Millerら,など).1978年の国際心臓学会でもこのことが論ぜられた.各種疾患におけるHDLCは,虚血性心疾患において著しく低値を示し,脳血管障害,糖尿病,肝疾患などでも低値を示すものが多い.肥満や喫煙はHDLCを減らし,アルコールはHDLCをふやす(五島)のである.

資料

公衆衛生からみた喫煙—第30回北海道公衆衛生学会シンポジウム

著者: 三宅浩次 ,   並木正義 ,   福田勝洋 ,   後藤啓一

ページ範囲:P.804 - P.807

■はじめに
 このたび本誌の特集として「喫煙問題」が取り上げられたが,国内の公衆衛生関係学会の中でシンポジウムとして初めて喫煙問題を扱った北海道公衆衛生学会での報告ならびに経過を,資料として発表するよう要請を受けたので,本シンポジウムの経過,演者の講演要旨,フロアからの発言の要旨などをまとめてここに公表する.なお後藤啓一担当の部分は,本誌特集における「喫煙の心理学」と重複するので本報告からは割愛した.

研究

呼吸器の免疫学的防御に及ぼす喫煙の影響

著者: 市川誠一 ,   戸沢隆 ,   杉田暉道 ,   小城原新 ,   村林博志 ,   宍戸昌夫

ページ範囲:P.809 - P.815

Ⅰ.緒言
 呼吸器に及ぼす喫煙の影響としては,慢性閉塞性肺疾患,肺癌の罹患率の増加,および呼吸機能の低下などが主に報告されている.しかし,呼吸器の免疫系を主とした防御機構に関する報告は数少ない.Mediciら1)は,軽症の気管支炎患者の喀痰に含まれるIgAは炎症性刺激によって顕著に増加するが,長期重症患者ではそのような反応のないことを報告した.Falkら2)は,IgA欠乏の慢性閉塞性肺疾患患者の気道洗浄液中には,IgGとIgMが高濃度に存在していたことを報告した.またWebbら3)は,IgA欠乏の慢性閉塞性肺疾患の患者の家系を4代にわたって調べ,IgA欠乏と慢性気管支炎や肺気腫との関連を示唆した.これらの報告は,気管支で分泌される免疫グロブリンが呼吸器疾患の進展に対し,防御的役割を担う因子であることを示している.
 そこで筆者らは,喀痰および唾液に含まれる免疫グロブリンやアルブミンを測定し,口腔および呼吸器の局所の免疫学的防御機構に及ぼす喫煙の影響を検討した.

資料

禁煙法の研究—「5日でタバコがやめられる」法の検討

著者: 林高春 ,   山西輝 ,   上田建 ,   藤田潔 ,   青木英子 ,   福田和子

ページ範囲:P.816 - P.819

Ⅰ.緒言
 1962年のイギリス内科医師会報告1)および1964年のアメリカ公衆衛生局長官報告2)以来,世界各国,特に先進工業国においては,喫煙者は減少しつつある,アメリカの成人喫煙者率は,1965年には42%(男子52%,女子32%)であったが,1975年には34%(男子39%,女子29%)に減少した3).日本では1970年には46.6%(男子76%,女子16%)であったが,1978年には45.5%(男子75%,女子16%)でほぼ横ばいの状態であり4),国民の保健上憂慮される問題であるといわなければならない.
 近年,喫煙の環境汚染が取り上げられるようになり,嫌煙権などに代表されるように非喫煙者の権利意識が強くなって5),公共の場所における喫煙制限も次第に強化される傾向が見られる.

調査報告

未成年者の喫煙調査

著者: 大山昭男

ページ範囲:P.820 - P.823

はじめに
 最近,公衆の中でタバコをすう高校生を見ることが多い.喫煙が各種疾患のリスクファクターであることは,すでに多くの研究者が明らかにしているので,未成年期に喫煙者が増加することは,将来,喫煙による健康障害を増加させる誘起条件と考え,未成年者の喫煙の程度を知るために調査をした.

昭和52年・山谷地域宿泊者の緊急入院患者予後調査

著者: 木村健一 ,   阿久沢節男 ,   今村昌耕 ,   小池昌四郎 ,   汐田弥太郎 ,   鈴木義雄

ページ範囲:P.824 - P.827

Ⅰ.調査目的と方法
 いわゆる山谷地域は,東京都の台東,荒川両区にまたがる,簡易宿泊所などが密集した地域の総称で,面積は約0.84〜1.7km2である.山谷地域の総人口は約40,100人と推計され,209軒の簡易宿所と約80軒といわれる簡易アパートを利用している推定宿泊者は,8,300人といわれている.そのうち男子は96%を占め,10人のうち9人が単身者であり,年代の中心は30歳代(昭和45年)から40歳代(同47年)へと老齢化の傾向にある.
 山谷地域で宿泊する人たちが病気になった場合の治療を受ける方法としては,健康保険制度や労災保険制度で一般になされている方法とは別に,東京都城北福祉センター——荒川・台東福祉事務所の連絡による医療体制がつくられている.城北福祉センターの健康相談室では,毎年延べ4〜6万の人々の無料医療に当たってきた.その内訳は,肝・消化器疾患が約30%,労働・交通災害および泥酔による外科あるいは整形外科疾患が約30%,呼吸器疾患(その半数が肺結核)が15%,老人病を含む心臓・高血圧疾患が約10%,その他が15%である.その多くの疾患は,アルコールと無縁とはいいきれない.

新聞の死亡欄に関する調査

著者: 長尾長男 ,   深尾勝枝

ページ範囲:P.829 - P.831

はじめに
 筆者らは,昭和52年6月1日〜53年5月31日の1カ年間に,「朝日新聞」(中部版)の死亡欄に掲載された,いわゆる有名人およびその家族の年齢,職業,死因などについて調査・分析してみたので,その概要を報告する.ただし,対象は日本人に限定し,外国人は除外した.

発言あり

保健道徳

著者: ,   ,   ,   ,  

ページ範囲:P.753 - P.755

現代社会の健康問題対策の出発点
 「自分の健康」を保ち,増進させるために,現代のわれわれは皆,強い関心をもち,そのためにかなりの努力をしている.「健康法」に関するハウ・ツーものの手軽な読み物がずいぶん出回っているし,「ジョギング」などという言葉の流行もそのあらわれと考えられる.私の住まいの近くの川原でも,日曜日には早朝からかけ足をする人の数が日を追って増えている感じである.
 いわゆる「現代医療」が,本当に人間の健康に対して万能ではないという認識が,一般の人々の頭の中にかなり入りこんでいるようにも思えてならない.いずれにしても,病気にならないための積極的な健康づくりに一般人の関心が非常に高まっているといえよう.

日本列島

道立身体障害者総合援護施設(福祉村)の開設—北海道

著者: 吉田憲明

ページ範囲:P.775 - P.775

 脳性マヒ,重度身体障害者の人たちが,生きがいのある快適な生活が送れるようにと,北海道民生部が空知管内栗沢町字最上に建設していた身障者福祉村が一部完成,6月に開村された.収容入員は50名で,最終的には400名の入所定員を予定している.
 「全体計画概要」によると,福祉村は,約100ヘクタールの用地に,身体障害者福祉法に定める重度身体障害者更生援護施設,授産施設および療護施設などの社会福祉施設をはじめ,身体障害者向け福祉住宅や福祉会館,体育館,スポーツ・レクリエーション施設等を整備し,いわば一つの村づくりを目指す予定である.

全麻による重度心身障害児(者)の歯科診療の実施—沖縄県

著者: 伊波茂雄

ページ範囲:P.815 - P.815

 沖縄県の歯科医師数は昭和53年12月末現在208名で,人口10万対19.3となっており,人口比全国平均(昭52年)40.0の約48%である.しかも,これらの歯科医師の約1/2が那覇市に集中している.
 診療状況をみると,国民健康保険給付は1カ月平均約23,000件,支払基金による給付は同じく約20,000件,合計43,000件である.このような事から,特に小児歯科診療については,受療しにくいため,学童などは夏休み期間に集中して受療したりしている状況にある.

--------------------

用語解説

著者: 西川滇八

ページ範囲:P.793 - P.793

▶ジョツギング(jogging〔英〕)
 体の状態をリラックスさせて,ゆっくりと走ることである.競技の時にも行なわれるが,日常の練習を始める前や,練習の終わった後で行なえば,身体の調子を整えるとともに,疲労を回復させる効果がある.健康づくりの運動が広がるとともに,体力づくりの目的で実施する人が増えている.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up

本サービスは医療関係者に向けた情報提供を目的としております。
一般の方に対する情報提供を目的としたものではない事をご了承ください。
また,本サービスのご利用にあたっては,利用規約およびプライバシーポリシーへの同意が必要です。

※本サービスを使わずにご契約中の電子商品をご利用したい場合はこちら