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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生43巻2号

1979年02月発行

雑誌目次

特集 小さなコミュニティにおける公衆衛生活動—方法論を中心として

小さなコミュニティにおける公衆衛生活動の問題点と今後の展望

著者: 豊川裕之

ページ範囲:P.76 - P.81

■はじめに
 保健所が曲がり角に立っていると言われるようになって,既に久しい.保健所のあり方が問われるようになった原因は,いろいろ挙げられる.たとえば,医療水準や生活水準の向上に伴う地域住民のニードの変化に保健所が十分に対応し切れなくなったことが,基本的なものであろう.そして,それらの水準が向上したことによって派生的に生ずる諸事が保健所の立地条件を変質させ,その対応をますます困難にしたことも考えないわけにはいかない.しかし,公衆衛生学の専門家として,看過できない理由がもう1つあると思うのである.それは,公衆衛生学において,保健所の実務にとって主たる対象になる小さな地域集団に対する方法論が,確立されていないことである.
 保健所には,年報として行政報告書にまとめることのできるものもあるが,実際には管内の健康障害を抱えた地区は小さな人口規模のものであって,そこにおける保健活動や公衆衛生活動について,しっかりした方法論ができあがっていない.

メッシュ法をめぐって

著者: 大久保利晃

ページ範囲:P.82 - P.87

■メッシュ区分法の概要
 メッシュ統計とは,地域メッシュを用いた地理区分により,諸統計の観察・解析を行うことである.地域メッシュは,地図上に正方形,またはこれに近い小区画をしたもので,地理学では古くからこの方法が用いられていたが,衛生統計の分野ではほとんど用いられることはなかった.わが国ではメッシュという呼び方が一般的となっているが,英語ではgridという表現を用いて,grid square,grid coordinate system,block gridなどという呼び方が多いという.
 メッシュ法の利点としては,行政区域にとらわれることがないので,小地域区分が可能である,行政区分では必ずしも適切に区分されない大気汚染等との関係分析に便利である,行政区域の変更などの影響を受けない,任意の地域について,その地域内のメッシュを統合して,その地域のデータを作成できる,など多くをあげることができよう.また,統計技術上の点からは,各地域の形が等しいので相互比較が容易で,縦横の関係が規則的なので位置が簡単に決まり,電子計算機により大量のデータ処理,地図の作成が可能である,などの利点がある.

統計学の切れ味

著者: 三宅浩次

ページ範囲:P.88 - P.93

■はじめに
 ある小地域(ある特定集団)に,ある疾患(ある特性)が多いようだ.このような直観的な観察の結果を,実際の数値を利用してまとまった形にすることは,公衆衛生活動の最初の段階として,極めて重要なことはいうまでもない.しかし,現実にこの手続きが巧みに行われているか,ということになると,話は別である.
 公衆衛生活動の担当者は,たいてい研修や学校での授業を通して,この手続き(ときには統計学という科目として)を学習してきたはずである.ところが,その学習の結果が血や肉にならないまま,現場の錯雑とした情報の前に立往生していることが多いのではなかろうか.この点について,教育の問題を論ずることもできようが,ここではさておいて,統計学という硬い論理的構造を基盤とした科学を,いかに現実の柔らかい公衆衛生活動の領域で生かし得るかということについて,統計学の考え方を中心に考察してみよう.

保健所管内における各地区ごとの保健婦活動をいかに評価するか

著者: 簑輪眞澄

ページ範囲:P.94 - P.98

■はじめに
 強い行政権限を持ち,集団防衛のためには各種の禁止や隔離,時には交通遮断さえできる伝染病予防に比べ,今日のわが国の公衆衛生にとって最も大きな課題である成人病予防や老人保健のために,一般の住民に何かを強制することはできない.疾病を予防するためのより健康的な生活を,いろいろの方法で指導することができるだけである.したがって,直接住民に接して保健指導を行っている公衆衛生従事者にとって,どのような内容をどのような方法で指導するのかは,重大な関心事であるはずである.
 また,指導内容や指導方法は,基本的には全国に共通なものが多いと思われるが,その具体的な展開には,その土地の風土と人情に応じた工夫が必要であろう.昭和52年度から始まった1歳6カ月児健康診査や,昭和53年度から始まった国民の健康づくり地方推進事業や保健センターの設置が市町村を主体として進められているのも,このような主旨に基づくものと思われる.したがって,これからの公衆衛生活動,特に対人保健サービスのためには,都道府県単位あるいは保健所単位というよりも,もっと小さな市町村単位や,場合によってはさらに小さな旧町村単位で,きめ細かな計画が立てられなければならないであろう

僻地の健康水準の評価—僻地活動の体験的考察から

著者: 金子勇

ページ範囲:P.99 - P.104

■はじめに
 僻地の健康水準をどのような方法によって評価するのか,すなわち評価の技術的側面に論及することが,本論に要請された課題である.
 一般に,地域における健康の評価は,一定の統計的処理を施した諸指標に基づいて,全国あるいは他地域と比較して,相対的に下されるのが通例である.

コミュニティにおける精神衛生活動

著者: 逸見武光

ページ範囲:P.105 - P.108

■はじめに
 与えられた課題に関しては,わが国においてもこの十数年間,多くの精神科医が論じており3)5)1960年代からの最大の問題といっても過言ではない.したがって,ここで総花的に論じてみても,それほど意味のあることとは考えられない.また,ある意味では,1960年代の後半から各国で一斉に始まった精神障害者の地域社会におけるケア・サービス活動が,いま大きな壁にぶつかって,これからどのように方向づけていくのかを判断できずに,途方に暮れている状態にある,ともいえる.そこで,またしても抽象的なかけ声を,具体的方法の提示を欠いたままでかけることには,気恥ずかしさというよりは,無責任さを覚えるので筆がとり難い.

過去帳による山梨県住民の死因に関する疫学的観察

著者: 中澤忠雄 ,   中澤良英

ページ範囲:P.109 - P.115

■研究経過
 一昨春筆者らは,26年前に死去した伯父・佐藤佐吉が,生前三十数年かけて蒐集,整理した『郷土史史料』15巻の中に,上万力村(現在の山梨市万力)の3寺院の過去帳の写しを見た.伯父はこれらを郷土史や家系の解明に用い,ところどころに「この年子供の死多し」と註記してあるのを見,医師としてその死因解明の方法はないものかと考えた(写真).死亡年齢によって大人と10歳未満の子供("幼"と称す)との長・幼2段階の死亡曲線がはっきり違うのに気付いた.
 その後,立川氏著書『日本人の病歴』を読んで知った,須田氏の「飛騨○寺の過去帳の研究」の原著をいただき,その病名の明らかな「82年間の資料」を筆者らなりの上記の方法で整理した.その結果,痘瘡,傷寒,麻疹,痢症などがそれぞれ独自の死亡曲線を示していることを知った1)

過疎地帯における脳卒中予防効果の判定とその障害

著者: 関龍太郎

ページ範囲:P.116 - P.122

■はじめに
 わが国における脳卒中予防対策は,ますます重要性を増している.それは,脳卒中が昭和26年来,死因順位の第1位であること,高血圧対策を推し進めることにより減少すること,65歳以上の6%前後いるという「寝たきり老人」の主要原因疾患であること,などによると考えられる.
 一方,予防医学の第一線の機関である「保健所」においても,近年,しだいに伝染病,結核が克服されていくなかで,脳卒中は公害病,職業病,精神障害,癌などとともに,行政的施策を講ずるべき重要な疾患となっている.

講座 公衆衛生従事者のための食生活指導・1

長野県における健康教室のあり方をめぐって

著者: 金木歌子

ページ範囲:P.137 - P.143

はじめに
 長野県の健康教室は,主婦の栄養教室に始まり,栄教室,健康教室と,地域の人々の要望にこたえ,時代の流れに沿って,名称も内容も変化しながら,地域に定着してきた20年余の歴史を持っている.すなわち,①昭和30年から10年間続いた栄養の話,料理を中心にした主婦の栄養講座,②昭和41年に始まった食生活改善を進めるために,地域の中間指導者育成を重点的にねらった栄養教室の時代,そして③昭和49年に始まった,健康をさらに増進させることをねらって,「栄養」,「運動」,「休養」の三拍子をそろえたうえで,さらに個人レベルの啓蒙・啓発をはかる健康教室や病態栄養の教室,この各時期に分けられる20年間である.
 この間,それぞれ特色を生かし,指導方法を工夫し,実践してきたことについて,それなりの評価はなされてきたと思う.しかし,問題がなかったわけではない.特に「健康教室」となって,個人の健康測定や運動処方などを含む総合化された指導の中での"食生活のあり方"について,われわれ栄養士の新しい指導理念を持たなければならなくなったのである.

臨床から公衆衛生へ

小児の腎疾患

著者: 山本博章

ページ範囲:P.129 - P.131

予想外に多い腎疾患■
 学童の長期病気欠席(連続50日以上)の病因ワーストスリーは,心臓病,喘息とともに腎疾患であり,順序の変動はあるが,例年,これらがトップグループを占めている.
 厚生省特定疾患慢性腎炎調査研究班とネフローゼ症候群調査研究班は,1974年と1975年の2年間,慢性腎炎,ネフローゼ症候群および慢性腎不全の患者数について,全国疫学調査を実施している2)3).1975年の1,505施設の回答の結果によると,慢性腎炎患者総数は18,630人(同年度新患数3,225人)で,そのうち14歳以下の小児は2,841人(15.25%),ネフローゼ症候群患者総数は7,958人(同年度新患数2,064人)で,うち14歳以下の小児は2,960人(37.20%)であった.両研究班の推定によると,わが国における慢性腎炎の患者数は153,000人,慢性腎不全は35,000人,ネフローゼ症候群は18,800〜23,800人,うち15歳未満の推定ネフローゼ有病率は人口10万人当たり30〜35人,全国のネフローゼの推定小児患者数は7,500〜8,800人と述べている.

発言あり

試験管ベビー

著者: ,   ,   ,   ,  

ページ範囲:P.73 - P.75

試験管ベビーの必要性をなくしたい
 "試験管ベビー" の成功は,科学がもはやここまで来たかと,まず驚かされた.もっとも月面に人間が降り立つ時代であれば,これまた当然のことかも知れないが,いずれにしろ,長いあいだ不妊症に悩んでいた女性にとっては,まさに救世主の再来とも思えたにちがいない.かつての「嫁して三年子無きは去る」の昔から,「石女」(うまずめ)の言葉の通り,不妊の原因が一方的に女性にのみ転嫁されていた時代とは違って,現在では "男性不妊症" と "女性不妊症" に分けられており,この女性不妊症の中で高い比率を持つ「卵管障害」による不妊症の場合,特にこの "試験管ベビー" が活躍することになるのであろう.しかし,この "試験管ベビー" も一応成功したとはいえ,そう簡単なものでないことは容易に想像がつく.
 婦人にとって,自然に妊娠できれば,これに勝る幸いはないのである.

目で見る衛生統計 国際比較

2.人口動態統計(その2)

著者: 大森文太郎 ,   小田清一 ,   藤崎清道

ページ範囲:P.132 - P.133

A.乳児死亡率,周産期死亡率,妊産婦死亡率
 母子衛生の指標として,乳児死亡率,周産期死亡率,妊産婦死亡率を取り上げた.これらは妊娠および出産の前後の環境に左右されやすく,単に母子衛生の指標となるだけでなく,集団の衛生状態を示す指標としても有用なものである.このうち,周産期死亡統計が特に現在,注目されており,WHOからも第9回ICD改正に伴い,周産期死亡統計に関して幾つかの勧告が出されている.

保健・医療と福祉

断酒会活動の試み—川崎市断酒新生会

著者: 皆川修一

ページ範囲:P.126 - P.127

はじめに■
 川崎断酒新生会は,昭和44年の秋頃,国立久里浜病院を退院した4人のうちの1人の家に,断酒を誓い合うため自主的に集まり,いわゆる家庭例会を始めたが,それが母体となり,そのとき,家庭を会場に提供したのが,現会長のS氏である(否S氏夫人であったかもしれない).

病院の地域活動

国立長崎中央病院(大村市)

著者: 岩崎栄

ページ範囲:P.134 - P.136

病院の積極的医療への脱皮とプライマリー・ケア■
 西九州最大の規模を有する国立長崎中央病院(総定床685床,うち一般630床,精神55床,臨床研修医24名を含む医師数80名)が,その地域の医療活動に参加するのは,ごく当然のことであり,医療に対するニードとデマンドからも自明の理といえる.そして,今日の病院の機能が病人のみを対象として,彼らの来診を待つがごとき消極的診療から脱皮し,地域の中へ自らを参加させる積極的医療形態へ変革しようとしていることも事実である.
 しかも現状においては,ようやく人口に膾炙され始めたプライマリー・ケアが,従来から医療には求められてきたにもかかわらず,今日の医学教育は依然として,あまりに細分化し,専門化された極端な専門医志向型の医学生を誕生させている.このような医学の動向の中で筆者の病院ではプライマリー・ケア教育への学習・実践を通して,将来への地域医療への積極的推進役のかなめともなるべき若き医学徒が育成されようとしている.

医師会の地域活動・2

札幌市医師会

著者: 笹原克己

ページ範囲:P.123 - P.125

地域医療活動の推進■
 札幌市医師会は,現在1,300名を越える会員を擁し,地域医療活動の推進を活動計画の大きな柱の一つとして取り組んでいるが,これには,れ幌市における各種審議会,協議会,委員会に参画しているほか,具体的には次の事項が上げられる.
 ①札幌市医師会夜間急病センターの運営

日本列島

身体障害者専用福祉センターがオープン—札幌市

著者: 吉田憲明

ページ範囲:P.131 - P.131

 道内では初めて,全国でも大阪市に次いで2番目の身体障害者専用の福祉センターが,札幌市西区24軒2条6丁目に完成し,昨年8月1日からオープンした.
 この施設の概要は,
 敷地面積 2,000m2
 建築面積 1,323.75m2
 総床面積 3,394.59m2
 構造は鉄骨,鉄筋コンクリート造りで,総工費は約9億円である.

保健婦研修会・研究発表会開催される—沖縄県

著者: 伊波茂雄

ページ範囲:P.143 - P.143

 本県は30年間,県職員である保健婦を全市町村に駐在させる制度をとってきたが,この制度は,市町村の約1/2が人口数千人以下で,しかも離島市町村の多い本県では,保健婦の確保・定着および保健婦業務の質的・量的均一性と公衆衛生事業実施の同時性と普遍性を確保するうえで有利である.
 保健婦はそれぞれの市町村を所管する保健所に属し,市町村の保健衛生行政と連携をとりつつ,担当地区の保健医療需要を把握して業務計画を作り,実施している.この県職員である保健婦は現在174名で,これを含めて本県には190名の保健婦がいて,ほぼ全国平均となっている.そのうち40名は厚生省のいう無医地区保健婦に相当しているし,県職員以外の者は養護教諭,大学教官である.

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用語解説

著者: 豊川裕之

ページ範囲:P.104 - P.104

▶レパラダイム(範型,paradigm)
 クーン(Thomas Kuhn)が『科学革命の構造』(みすず書房,The Structure of Scientific Revolutions,1962)でこの言葉を提起して以来,よくゆきわたっている.クーンは「パラダイムとは,一般に認められた科学的業績で,一時期の間,専門家に対して『問い方』や『答え方』のモデルを与えるもの」と定義している.つまり,明文化された理論体系を指しているが,またある場合には漠然とした価値観や世界観を指していることもあるので,現在では多少の混乱が生じている.村上陽一郎は『近代科学を超えて』(日本経済新聞社)において,科学理論の客観性が「パラダイム」を共有する「科学者集団」とその周辺の社会のなかでのみ保証されている,と述べているが,これは注目すべきである.なお,科学革命とは新しいパラダイムができあがること,とクーンは述べている.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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