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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生43巻4号

1979年04月発行

雑誌目次

特集 学校保健の実際

学校保健の法的周辺

著者: 白戸三郎

ページ範囲:P.224 - P.233

■はじめに
 1.学校保健の意義
 学校保健という用語は,最近では多くの人々に用いられるようになったが,その内容がどれだけ正しく理解されているかを考えると,まだ問題が少なくないように思われる.

保健教育と組織活動

著者: 箕輪真一

ページ範囲:P.234 - P.240

■はじめに
 学校教育の目的が,自主的精神に充ちた心身ともに健康な国民の育成にあるとするならば,学校教育の中の保健教育は重要な位置にあるべきである.しかし,現行の学校においては他教科の谷間にあって,将来の社会生活において必要でしかも期待される保健行動(保健的行動力)の育成のための保健指導も,甚だ弱体である,というほかはない.こうした"保健教育の軽視"は多くの識者が指摘しているが,学校保健に直接携わる現場のわれわれ校医も常にこのことを痛感し,苦悩しているわけである.
 筆者は校医になってまだ10年しかたっていないが,この間,高崎市(人口22万,小学校27校,中学校13校)の学校保健会や校医会の役職にあった関係で,当市の最大規模のT中学校,新設のO小学校,N小学校などの校医を引き続き担当してきた.さらには,市・県・全国レベルの学校保健に関する学会,研究会,協議会などに出席する機会も多かった.こうした経験をふまえた上で,あくまで現場の校医の立場から頭書の標題について述べてみたい.

学校内外の環境問題

著者: 平木陽一

ページ範囲:P.241 - P.246

■はじめに
 学校環境衛生の目的は,児童・生徒の健康の保持増進と学習能率に悪影響を及ぼすおそれのある環境条件を整備することにある.しかし,近代社会において学校の環境問題は,単に学校内整備によってその目的が達せられるわけではなく,学校を取り巻く環境(学校外環境)に大きく影響されるようになった.
 これまで学校設置上の条件は「地域の児童生徒の分布を考慮し,その重心的な位置で通学のための距離や時間はあまり疲労しない程度」1)とされていた.したがって,学校はその地域の中心的な,比較的道路の集中する地帯に所在する傾向にあった2).そのために,例えば,交通公害による地域環境の悪化が必然的に学校に波及することとなり,学校の環境問題は地域と切り離しては考えられなくなった.

公害教育

著者: 大森暢久

ページ範囲:P.247 - P.252

■はじめに
 人類は長い歴史を通じて高度な文明社会を築き上げた.そして,生産流通の技術革命の結果,さまざまの汚染物質を排出し,人類自身を傷つけてきた.東京都公害防止条例の前文に「文明は自然を破壊し,大気の汚染,水質の汚濁,騒音,振動,地盤の沈下,悪臭などによる公害をもたらした.すなわち,公害は人間がつくり出した産業と都市にその発生原因が内在し,明らかに社会的災害である」としている.
 1972年6月,ストックホルムにおける「国連環境会議」のスローガン"かけがえのない地球(Only One Earth)"を守るために,人間環境宣言や行動計画として107の勧告が採択された.人間環境宣言19において「環境問題についての若い世代と成人に対する教育は個人,企業および地域社会が環境を保護向上するよう,その考え方を啓発し,責任ある行動をとるための基盤を拡げるのに必須のものである」として,公害教育の必要性をうたっている.公害により,何ものにも代えがたいわれわれの健康がむしばまれている現実を考えると,学校教育の中に公害教育や自然保護教育を導入し,これを推進し,児童・生徒に公害についての正しい認識と理解を得させ,公害をなくしていこうとする生活態度を身につけさせる必要があると思う.

学校保健と性教育

著者: 田能村祐麟

ページ範囲:P.253 - P.256

■はじめに
 およそ学校が行なう教育活動は,文部省の示す教育課程編成の基準に則り,学習指導要領に準拠して実施されなければならないが,性教育に関してはなにも示されてはいない.しかも,これまでほとんどの教師が性教育について専門的な教養を身につけておらず,性について多様な意識や価値観を持っているために,学校が性教育を行なう必要があると強調されながらも,多くの学校がこのことに対して消極的である.最近は,性教育を研究し,実践している教師が増加しているとはいうものの,学校として組織的・計画的に性教育を行なっている学校はきわめて少ない.また,今日いわれている性教育の必要性や性教育の実践の中には,性教育を単に人間の性の生理学的・解剖学的な知識の伝達や性非行,性被害を防止するための教育としてとらえているにすぎない場合も少なくない.
 このような現状の中では,まず学校が行なう教育活動としての性教育はどうあるべきかを明確にしたうえで,学校保健がそれにどうかかわればよいかを考えてみる必要があろう.

肥満児対策

著者: 笠原久弥

ページ範囲:P.257 - P.261

■はじめに
 肥満児は薬を飲めば治るというものではなく,特に女生徒にとっては体型を気にするあまり,学業も手につかないほど悩むというケースがしばしばみかけられる.
 肥満児の出現は昭和35年頃で,その頃は肥満児に対する保健指導要領が確立されていなかったため,十分な対策がなされず,肥満児の実態把握が急がれた時代であった.

腎・心疾患対策

著者: 石井敏和

ページ範囲:P.262 - P.267

■はじめに
 学校保健においては,保健的行事,例えば腎臓検診,心臓検診などが単に管理のための検診ではなく,直ちに保健教育に結びつけられねばならぬというところが,他の職域における管理のための健康診断と極めて大きく相違するところである.しかし,戦後育った若い人,特に母親の保健知識,健康に対する意識は,ぬるま湯のような社会環境の中にあるとはいえ,あまりにも低すぎる.なぜか.謙虚に従来の学校保健の敗北を認めざるを得ない.誰の責任か,どこに欠陥があるのか,今はその詮索より冷静な情勢判断に立って,その失敗の上に正しい学校保健を打ち立て,あまり遠くない将来,望ましい地域保健環境に塗り変えるのが,現在学校保健に携わっている者の責任ではあるまいか.

学校歯科—横浜市鶴見区学校保健会の実践活動

著者: 内藤真一

ページ範囲:P.268 - P.270

■はじめに
 近年"よい歯の学校表彰"の成果を見ても,う歯の処置率が大変上がり喜ばしいことであるが,一方,文部省の調査によると,う歯を持つ者が小学生で93.4%,中学生で93.5%,未処置の者がそれぞれ78.5%,64.0%と手のつけようもないような数字が出ている.処置歯は増えたが,う歯は減らない.これではのれんを押すようなもので,今までのようなやり方,考え方では,保健関係者が日夜努力してもその成果を上げることは不可能ではないかと思われる.
 では,その問題点はどこにあるのだろうか.一般社会では学校保健とは,怪我をした子供の手当て,気分の悪くなった者の処置,歯科ではう歯の処置勧告,フッ素の塗布くらいにしか思われていないのではないだろうか.学校保健の本当の目的は,子供の健康の保持・増進であることは勿論だが,自分で自分の健康を管理できるように教育するのが学校保健の真の目的であると考える.アメリカでは,高校を卒業するまでに,将来親になったとき歯科に対してどのように子供を育て,しつけるかということまで教育される.わが国ではどうか.教師を養成する大学ですら,歯科の教育がなされていない.保健関係者が長年にわたってその非を指摘し,要望を続けているが,改善されない.教師は自分で進んで学ばない限り,歯科に関しては素人なのである.これは致命的であると思わざるを得ない.

保健室

著者: 江見愛子

ページ範囲:P.271 - P.274

■はじめに
 私たちは,憲法第25条を基に,健康で文化的に,毎日をよりよく生きようと努めている.住みよい環境をつくり,自分の健康を守りながら,時には家族や同僚のことにも気を配り,みんな健康であることを願って生活している.

講座 公衆衛生従事者のための食生活指導・2

手持ちの食事調査資料を活用する新しい方法

著者: 豊川裕之

ページ範囲:P.285 - P.291

■はじめに
 公衆衛生従事者にとって,とりわけ公衆栄養担当者にとって当面する難問題として,次の2点を挙げることができる.
 第1の問題は,栄養調査の生データを中央に提出するが,それが国民栄養調査であれ,県民栄養調査であれ,被調査者の個人に有益な形で戻ってこないことである.被調査者だけではなく,実際に調査に携わり,食生活指導の第一線で働く栄養士,医師,および保健婦にとっても有効なアウト・プット・データが戻ってこないことも問題である.返ってくるデータは,全国または県レベルでの平均値(平均摂取量)と個人の,または世帯の平均値(1人1日当たり)であって,近年になって標準偏差値が追加されたけれども,地域保健指導の場では直接に役立つものではない.当事者はいつも靴下掻痒の思いをさせられるものである.

臨床から公衆衛生へ

先天異常

著者: 日暮眞

ページ範囲:P.277 - P.279

先天異常予防の重要性■
 近代医学の進歩は,小児の疾病構造を大きく変えた.すなわち,感染症を中心とする外因性疾患の急速な減少と,内的要因,とくに出生前ないし周生期に原因の求められるものが目立って多くなってきた.
 WHOの報告,その他を根拠として推定すると,すべての新生児の5〜5.5%は,その生涯の中で,遺伝的要因が重要な役割を果たす疾患に罹患すると見られる.その内訳は,単一遺伝子の異常によるもの1%,染色体異常によるもの0.5〜1%,奇形2.5%,体質的欠陥によるもの1%という.

発言あり

プライマリー・ヘルス・ケアと保健婦

著者: ,   ,   ,   ,  

ページ範囲:P.221 - P.223

保健婦よ,どこへ行く
 保健婦の専門性が問われてから,すでに久しい.しかし,第三者に理解し得る解答はないようである.核のない勝手な主張はたくさんなされているが,それらの主張の中に共通の原理を求めようと努力をしても,共通点が見出されない議論が多い,共通の要素として「看護を基盤として」という言葉をよく耳にする.そこで「看護とは」と問うても要領を得なく,不明確度は自乗されて,ますます理解できなくなる.
 第三者的な立場で,主張とは関係なく,保健婦を心情的に眺めてみると,保健婦とは尊い職業であると法律ででも決めてくれ,と言っているようにも思える.

地域保健施設の活動

"健康からの医療"を求めて—日赤熊本県支部健康管理センター

著者: 小山和作

ページ範囲:P.275 - P.276

センターの位置■
 熊本市の東部,旧空港跡地に,一つのメディカルキャンパスが広がる.東西に一直線に延びる旧滑走路のあとは,一本の道路となり,それに沿って西側から,日赤血液センター,日赤熊本県支部,看護婦宿舎をおいて,450床の熊本赤十字病院が白亜の姿をみせ,そしてその東側に,鉄筋2階建て,2,820m2の建物が建っている.これが日赤熊本県支部健康管理センターである.さらにつづいて,県心身障害者職業センター,県身障者リハビリセンター,県身障者福祉センター,体育館,運動場と並んでいく.予防からリハビリまで,文字通りの包括的医療と福祉のキャンパスの中心にセンターはある.

目で見る衛生統計 国際比較

4.死因統計(その2)—悪性新生物(がん)

著者: 大森文太郎 ,   小田清一 ,   藤崎清道

ページ範囲:P.280 - P.281

 悪性新生物は現在,先進諸国において死亡原因の1位か2位を占めており,国民衛生上重大な問題となっている.その発生機序はいまだ解明されておらず,多方面からの研究が続けられているが,近年特に発がん物質に関する研究が国際的規模で精力的に行なわれていることが注目されよう.
 ●図1で全がんの死亡率の年次推移を見ると,男が女に比して死亡率の増加が大きいことがわかる.また日本は,5ヵ国中最低のがん死亡率を示し,その増加の速度に関しては他の4ヵ国とほぼ等しくなっている.

保健・医療と福祉

二つの在宅老人福祉サービス—老人給食と短期入院制度

著者: 北浦春夫

ページ範囲:P.282 - P.283

 「独り暮らしのお年寄りたちに給食を……」と考えて,新規事業として老人給食の実施案を練る段階になって,私がまず考えたのは「温かい手づくりの食事を食べてもらおう」ということであった.老人給食を実施している先進市の例をみると,老人ホームや病院に調理を委託,配食のみをボランティアの協力を得て実施している市が多いようである.
 病院に入院した折の,あの冷たい,ユニフォーム給食にうんざりした経験のある私には,もし老人給食をするならば,ボランティアの市民にもう一歩つっこんだ奉仕を期待して,手づくりの温かい食事をお年寄りに食べてもらいたい,という気持ちが頭にあった.そうすれば,ただ単に給食ということだけではなく,いっしょに食事をしながらの会話の中で,老人同士の仲間づくりや,ボランティアとの心のふれあいなどで,孤独感の解消も図れようとの一石二鳥のねらいである.

医師会の地域活動・3

医師会の指導により住民が自主的に「健康を守る会」を作るまでに—寒河江市西村山郡医師会(山形県)

著者: 鈴木武一郎

ページ範囲:P.292 - P.293

はじめに■
 よく"健康の自己責任"ということが言われる.「自分の健康は自分で守る」ということで,それ自体は何ら間違っていない.しかし,地域医療を推進する場合において,そこにみんなが助け合う生活があり,生活の基に健康がある,という地域医療の原点に立ち返って見れば,われわれの健康はわれわれで守ろう,ということが最も適切である.
 そこで,その考えに立って,住民が自主的に「健康を守る会」を作るまでに至った経緯について述べてみたい.

病院の地域活動

呉市医師会病院

著者: 野間祐輔

ページ範囲:P.294 - P.295

呉市について■
 呉市は,瀬戸内の温暖な気候に恵まれた,天災の稀な小都市である.軍港,海軍工廠の物的・人的遺産は戦後,海上自衛隊基地,貿易港に,そして目下不況産業指定となった造船,鉄鋼関連業種を基幹とする大企業に受け継がれ,ようやく24万人を超えかけた人口が僅かずつ流出の傾向にある.
 官公立などの大病院は国立呉病院(癌センター,救急センターがある.前身は海軍病院),呉共済病院(前身は海軍職工病院),済生会呉病院,中国労災病院の4病院があり,開業院長会員213名,家族医29名,勤務医141名だが,非会員を含めると医師総数407名,開業会員病院29(そのうち精神科3),一般病床2,616,精神病床952,結核病床292,伝染病床44である.

日本列島

臨床および公衆衛生研修事業について—沖縄県

著者: 伊波茂雄

ページ範囲:P.233 - P.233

 沖縄県内では県立中部病院と国立琉球大学保健学部附属病院の2病院で,医師の卒後臨床研修が行われている.このうち県立中部病院では昭和42年からハワイ大学医学部と契約し,同大学から指導医を派遣してもらい,継続して行っている.
 研修は1年次インターン,2年次レジデントと,全診療科ローテートするカリキュラムが組まれ,希望者については同病院スタッフやハワイ大学医学部スタッフから成る研修委員会が選考のうえ,3年次,4年次まで研修を受けることができるようになっている.このいわゆる後期臨床研修によって,それぞれの診療科の専門分野で勉強することになるが,マンツーマンによる指導方法により,レベルの高い,実力ある医師が養成され,その実績は高く評価されている.

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用語解説

著者: 箕輪真一

ページ範囲:P.252 - P.252

▶学校保健安全計画
 学校保健法第2条に「学校においては,児童,生徒,学生又は幼児及び職員の健康診断,環境衛生検査,安全点検,その他の保健又は安全に関する事項について計画を立て,これを実施しなければならない」と示され,さらに文部省体育局長通達に「この計画は健康診断,健康相談,学校環境衛生などの他に,諸活動,たとえば学校保健委員会の開催とその活動などの計画なども含み,年間および月間計画を立ててこれを実施させるべきものであること」としている.
 本来,法や通達はその最少限度必要な方向性と指示をしているものであって,常に保健管理の教育的意義を認識して,円滑に適切に実施されるよう企画・立案されるべきである.なお,一般的には学校保健計画は保健管理が中心になっているが,学校保健は保健教育と保健管理の二大領域から構成されているので,この計画には,この両領域の有機的関連を意図した計画を示さなければならない.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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