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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生43巻5号

1979年05月発行

雑誌目次

特集 小児喘息対策 小児喘息の最近の動向

疫学面から

著者: 吉田亮

ページ範囲:P.300 - P.304

■はじめに
 厚生省では昭和23年から毎年1回,「患者調査」を実施している.これは,調査の客体となる施設を全国の病院・診療所から層化無作為抽出法により選定し,7月の第2水曜日の患者について,性,年齢,職業,傷病名,治療費の支払方法などを調査しているものである.
 表1は「患者調査」から推計された,喘息の人口10万対受療率の推移を示しており,図はこれを主要年齢階級について示したものである.これらをみると,喘息の受療率は,昭和35年の24から,昭和52年の63まで上昇しており,増加傾向は5〜14歳の小児期と65歳以上の老人に顕著なことがわかる.

臨床面から

著者: 馬場実

ページ範囲:P.305 - P.308

■はじめに
 小児気管支喘息は過去10年間,増加の傾向にあり,小児科臨床においても,最も関心を集あつつある疾患である.とくに,原因としてのアレルギーへの関心が高まったことと相まって,公害,とくに大気汚染のその発症に及ぼす影響が解明されるに伴い,単に医学的な面からのみならず,社会医学的にも解決を迫られるべき疾患となってきた.
 本稿においては,小児気管支喘息の最近の動向について臨床面からの問題を,とくに発作の治療と減感作療法にしぼって述べてみたい.

心理面から

著者: 吾郷晋浩

ページ範囲:P.309 - P.312

■はじめに
 小児の気管支喘息(以下,喘息と略記)の発症ならびにその後の臨床経過に,心理的な因子が重要な役割を演じている場合が少ないことは,すでにMiller & Baruch1)の "Maternal rejection theory",Abramson2)の "Mutual engulfment theory",Peshkin3)4)の "Parentectomy" やPurcellら5)6)の "Reversed parentectomy" の概念などによってよく知られている.とくに,Parentectomyの概念は,わが国においても,施設入院療法として生かされている.
 本稿では,これらの考え方を考慮に入れて,最近の小児喘息に関する研究の動向について,二,三のテーマにしぼって述べてみたい.

施設における喘息児の管理と指導

著者: 石橋祝

ページ範囲:P.313 - P.318

■はじめに
 わが国で気管支喘息児の集団療法を最初に提唱したのは遠城寺(1959)1)であり,体質的因子とともに精神的因子を重視している,施設長期入所療法(以下,施設療法と略す)は,永山2),久徳3),根本4)らが述べている通り,身体面の治療と同時に,精神面の治療と指導を合わせ行なう総合療法である.病院に通院したり,あるいは短期入院を繰り返しても,症状の改善されない治り難い症例を入所させ,長期にわたり医療と教育と生活指導を総合的に行なう治療法である.
 本稿では,主として施設療法の中でも重要な要素である心身の指導と治療について述べる.

病院における喘息児の生活指導

著者: 岡崎禮治

ページ範囲:P.332 - P.337

■はじめに
 喘息という病気の特徴は第一に,その発作が可逆性を持っていることであり,いかなる重症者といえども非発作状態が存在することである.第二に,空間的には家族ぐるみ,時間的には患者の生涯に関する疾患であることである.
 したがって,病因の究明にもその除去にも,包括的かつ長期的な取り組みがなされねばならない.ここに喘息児に対する長期入院療法,集団鍛練療法の意義が存在する.

喘息児の生活指導と体力の強化

著者: 飯倉洋治 ,   渡辺清子

ページ範囲:P.338 - P.341

■はじめに
 喘息児の日常生活上,問題になる特徴の一つは,繰り返す呼吸困難発作を呈することといえます.そこで,こういった喘息児が,健康児と一緒に生活した場合,喘息発作が急に起こると周囲は驚き,次からは激しい運動は制限され,また特別扱いされてくることが,一般の喘息児の悩むところでもあります.そして,このような状態が長く続くと喘息児は消極的になり,ひっ込みがちになってしまうこともしばしばで,一見周囲は暖かく見守ったつもりが,逆効果につながる結果になってきます.
 最近,筆者らが調べた東京,横浜の小・中学生約5,600名中,喘息患者が2.7%であったことから,今まで以上に喘息児の扱いについて,積極的知識の収集が必要になってくると思います.

喘息児童のグループ指導

著者: 山田ユキ子

ページ範囲:P.342 - P.345

■はじめに
 喘息は学校疾病の中でも年々増加の傾向を示し,学校保健においてもその対策が重要視されている.喘息児は発作を起こすと,身体的活動が制限されるために体力に自信をなくし,生活全体が消極的になって,学習,性格,生活全般に受ける影響が大きい.
 喘息は生後6歳までに約80%が発病し,小児気管支喘息は6〜7歳と12〜13歳頃に治癒する者が多いといわれている.この治癒に向かう時期が学童期であることから,小学校において,喘息児に自ら積極的に治そうとする強い意志を持たせ,健康増進に必要な具体的方法を理解させる.また保護者とたえず連絡をとりながら,喘息児が他の児童と同じように教育活動に参加できるように,早期に適切な指導や管理をすることが治癒傾向を早め,良好な予後を得ることができるのではないか,と考えた.

喘息児童の集団生活指導の試み

"文京方式"喘息児サマーキャンプに参加して

著者: 木内信二

ページ範囲:P.319 - P.320

■はじめに
 気管支喘息は喘鳴を伴う発作性の,呼吸困難を反復する気管支疾患であり,その病因として,アレルギー的因子,感染因子,自律神経因子,精神的因子など実に多彩なものが関与してくる.日常診断において,薬物療法とともに環境調整・鍛練療法・母親教育などの重要性は諸家の一致するところであろう,しかし,鍛練療法や精神的因子の改善指導は,日常診療の中での実施が大変難しいのが現状である.それらの1つの契機としてのサマーキャンプの意義や限界については,飯倉1),西間2),曽弥3),高島4)らの報告があるが,どういう対象を,どの機関を中心に,どんなグループで,どういう方法で施行していくのが最良なのかは,これからの課題と思われる.

"文京方式"喘息児サマーキャンプの生活指導を担当して

著者: 清水敏信

ページ範囲:P.321 - P.326

■はじめに
 筆者の所属する兼松学校に,文京区から公害喘息児童転地療養の生活指導を依頼され,筆者はヘッドカウンセラーとして兼松学校で養成されたカウンセラーとともに,計5回派遣された.
 ここに生活指導スタッフとして"文京方式"の指導方法を紹介しながら,軽症児童の転地療養について考えてみたい.

"文京方式"喘息児サマーキャンプ後の追跡調査

著者: 塚原洋子

ページ範囲:P.327 - P.331

■はじめに
 昭和51年から3年間にわたって行なった文京区サマーキャンプの意義,キャンプの実際,今後の課題などについては木内・清水が前述した.ここでは,サマーキャンプ後に実施したアンケート調査の中から若干の知見を得たので,アンケートの内容と結果を述べる.

講座 公衆衛生従事者のための食生活指導・3

食生活の類似性を測るために

著者: 丸井英二

ページ範囲:P.352 - P.355

■食生活指導と類似性
 社会の変動に伴って,公衆衛生活動およびその一部門としての食生活指導の際に問題となる点が大きく変化してきました.欠乏症から過剰摂取の問題へ,また,緊急を要する食中毒や急性感染症のような"事件"中心から,長期間にわたる観察や調査が必要な慢性非感染症へと重点が移動しています.そうなると,病的状態にある少数の対象だけを相手にするのではなく,健康者が大部分を占める一般の集団に対する調査や評価なしには何も言えない,ということになります.そこで,それに対処するために,新しい方法論や手法が開発され,導入されます.それらを適切に現場で利用していく際には,なぜそのような方法が使われるのか,ということを了解しておかねばなりません.単なる数字の計算に終わらないためには,このような,背後にあって見えない考え方そのものが重要となります.
 さて,そこで「似ているか,似ていないか」という問題を取り上げてみましょう.これはもう少し固い表現をすれば,"類似性"の問題であるということになります.私たちは「似ている」,「似ていない」という言葉を,ごく感覚的に日常使っています.これが一体どのような意味と背景を持っており,より客観的な表現をするためにはどうしたらよいか,考えてみましょう.

臨床から公衆衛生へ

プロスタグランディン

著者: 相馬広明

ページ範囲:P.366 - P.367

プロスタグランディンとは■
 過去10年間のうち,医学の分野で,数多くの作用と用途が開発され,おびただしい数の報告がなされているのは,プロスタグランディンに関する知見ではなかろうか.
 既に40数年前にVon Eulerらによってヒト精液抽出物の中に,平滑筋の収縮作用のあることが見出されており,これが前立腺(prostata)から分泌されるという考えから,プロスタグランディン(prostaglandin,Pgと略す)と名づけられた.しかし,この精液Pgは精嚢から分泌されることが後年確かめられたが,プロスタグランディンという名称は,そのまま存続してきた.当時Von Eulerらは,その物質が脂肪酸の誘導体であり,その生物活性はヒトだけでなく,サル,ヒツジ,ヤギなどの精液中にも存在することを見出した.その後Bergstrom(1960年)らにより,ヒツジの精嚢腺からprostanoic acidである不飽和脂肪酸が分離された.これは,8個の炭素鎖および末端にカルボキシル酸グループを有する7個の炭素鎖が接続する5員環から成る(図).

発言あり

国際児童年

著者: ,   ,   ,   ,  

ページ範囲:P.297 - P.299

母親が地域社会に広くかかわろう
 「現在世界には15億の子供がいて,その1/3の5億の子供は,栄養,医療,教育も満足に与えられず,開発途上国では,3割近い子供が5歳迄に死んでいる.学校に行けるのは3人に1人,卒業出来るのは4人に1人,30年前,日本の子供を支えたユニセフのミルクのお返しを,今度は世界の恵まれない子供達にしなければならない」と新聞にありました.
 日本の現状では,貧困,飢え,伝染病はありませんが,登校拒否,非行,家庭内暴力,受験地獄,子供の自殺など,親にとっても子供にとっても厳しい社会です.

医師会の地域活動・4

安房医師会(千葉県)

著者: 野原宏

ページ範囲:P.356 - P.357

沿革■
 安房医師会が戦後再出発した時の定款に,目的および事業として既に「……公衆衛生の向上を図り社会福祉を増進するを目的とし……」と記されている.
 当時の混乱した世相の中で,小学校講堂で市民の健康診断や梅毒血清検診を行なったり,ユネスコ活動の中核となったりした事実は,医師が自ら社会の健康と福祉の責任を負っていかねばならないという,わが医師会の気風が伝統的なものであることを物語っている.

病院の地域活動

下関市医師会病院

著者: 山崎剛弘

ページ範囲:P.358 - P.359

はじめに
 昨年11月1日,日本医師会設立記念医学大会の席上,われわれ下関市医師会病院は,地域医療活動に対する会員の努力を評価され,日本医師会最高優功賞受賞の栄誉に浴した.
 近年,産業構造や環境の著しい変化に伴い,疾病構造も複雑多様化し,一方,社会意識の高揚と医療情報過多の昨今,いまや個々の医師が過去の知識,経験と技術のみで対応するのは到底不可能な時代である.

海外ニュース 〈CDC報告〉

アメリカ人の肝炎

著者: 三宅由子 ,   豊川裕之

ページ範囲:P.362 - P.363

 アメリカではCDCが主体になって,ウイルス性肝炎のサーベイランスを実施している.その報告書から,疫学的に関連の深いものを抜粋して紹介する.

目で見る衛生統計 国際比較

5.死因統計(その3)—伝染病・事故など

著者: 大森文太郎 ,   小田清一 ,   藤崎清道

ページ範囲:P.364 - P.365

 衛生水準の国際比較を行なう際に必要な死亡統計のうち基本的なものについては,前回までの人口動態統計(Ⅰ)(Ⅱ),死因統計(Ⅰ)(Ⅱ)において考察した.今回は,これまでにふれられなかった幾つかの死因について見ていくことにしよう.
●"公衆衛生"の進歩とともに伝染病による死亡が減少し,成人病死亡割合が高くなっていく,という現象が見られる.わが国の伝染病死亡割合は依然として,西欧の先進諸国より高くなっているが,その原因として結核死亡率が高いことが挙げられる.図1から,日本の伝染病死亡率が結核死亡率によって押し上げられていることがわかる.しかし,1977年の死亡率は7.8,死亡順位は糖尿病に10位の席をゆずって11位になっており,結核による死亡数はわが国において着実に減少している.そして,近い将来に先進諸国の水準に達するであろう.

保健・医療と福祉

国立犀潟療養所(新潟県)

著者: 石田央

ページ範囲:P.370 - P.371

はじめに■
 国立犀潟療養所は昭和23年,結核療養所として発足したが,近年の結核患者減少傾向2)に伴い,42年からは精神療養所に転換し,病床数100床から出発した.その後12年を経た現在,地城住民の要望も強く,精神科病棟を増床(300床),小児神経内科病棟(40床),児童精神科病棟(40床),神経内科病棟(40床),身体障害者用の機能訓練棟が併設された.さらに52年には,理学療法士(RPT),作業療法士(OTR)の養成を目的とした付属リハビリテーション学院(1学年=PT 20名,OT 20名)3年制が開校された.
 当所は,地理的には日本海側の中都市に隣接し,文化的にも多くのハンディキャップがある.しかし,当施設に対する医療,リハビリテーション,福祉への地域住民の期待は大きく,その設立理念も地域医療,福祉への貢献を最重点としている.

日本列島

施設における疥癬の集団発生—宮城県

著者: 土屋真

ページ範囲:P.318 - P.318

 昭和53年暮れの11月から12月にかけて,県内の某精薄者施設で疥癬の流行をみました.衛生環境の改善された今日,稀となった皮膚病だけに施設では不名誉と考え,興味本位に取り上げられるのを嫌がりました.私は公衆衛生の一従事者の立場から概要を報告します.

反省期をむかえる成人病対策—北九州市

著者: 園田真人

ページ範囲:P.337 - P.337

 北九州市の衛生行政の特徴は,企画から実施について,プロジェクトをつくっておこなわれていることである.母子衛生は昭和43年から,結核対策は昭和48年から委員会をつくり,それぞれ成績をあげている.
 成人病対策委員会(委員長=筆者)は昭和49年8月に発足し,成人病対策は果たして保健所でやらねばならないのか,といった原点から討論をかさね,5年目をむかえている.構成メンバーは,保健所長2,予防課長1,係長2,保健婦長2,検査室長2,栄養士2,合計11名に事務局(衛生局)が2名である.

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用語解説

著者: 長崎護

ページ範囲:P.331 - P.331

▶α,β受容体
 平滑筋は,アドレナリンにより収縮あるいは拡張するが,内臓血管では収縮し,気管支では拡張する.このように,同じ平滑筋であっても器官により異なる反応をとることに対し,Szentivanyi(1968)は,平滑筋にはα受容体とβ受容体とがあり,各器官におけるα受容体とβ受容体のバランスの相異が,このような現象をもたらす,とした.
 アドレナリンによる交感神経刺激により,α受容体は収縮的に働き,β受容体は拡張的に働く.また,β受容体はβ1,β2の二種に分けられ,β2受容体刺激により気管支拡張がみられる.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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