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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生43巻8号

1979年08月発行

雑誌目次

特集 "国民健康づくり"を考える

Health Educationからみた"国民健康づくり"の課題

著者: 宮坂忠夫

ページ範囲:P.528 - P.531

■はじめに
 "国民健康づくり"をどのように捉えるかについて,述べておく必要があるのではないかと思う.昨年4月,この問題に関連して,同じ厚生省公衆衛生局長から,2つの通知が出されている.一方は4月11日付,知事と指定都市長宛てで,「国民の健康づくり地方推進事業及び婦人の健康づくり推進事業について」と題されており,他方は4月24日付,知事宛てで,「市町村における健康づくり実施体制の整備等について」と題してある(「資料」参照→556ページ).
 前者を読むと,「……自分の健康は自分で守るという認識のもとに,各人が日常生活において栄養,運動,休養のバランスをとることを基調として……」とあって,いわゆる健康増進をねらいにしているように思われる.

地域保健活動と"国民健康づくり"

著者: 新泰雄

ページ範囲:P.532 - P.535

■はじめに
 筆者は岡山県医師会にあって,10年余り主として地域保健部門を担当してきた.何の成果もあったわけでなく,視野も狭いので,この小文を発表するには忸怩たるものがあったが,先輩,本域明郎氏の激励により提出することとした.見苦しい点が多々あるものと思うが,ご容赦願いたい.
 昭和22年に定められた県医師会の定款には,目的として公衆衛生の向上,社会福祉の増進がうたわれている.今だったら,これが"地域保健"とか"健康づくり"とかいわれたであろう.当時は"地域保健"という言葉はなかった.公衆衛生が背景の変化に対応して,地域保健へと変わったとも考えられ,その概念はほとんど同じともいえるが,全く同じ内容ではない.それは,地域住民の積極的参加のある,なしによると思われる.今日,"公衆衛生"という言葉は使用されることが少なくなり,"地域保健"は頻繁に用いられるようになった.しかし,医学部の教育過程には"公衆衛生学"はあるが,"地域保健学"はない.一方,医師は地域保健の専門家として取り扱われている.筆者は地域保健は公衆衛生学の実践の場であり,社会活動がそれであると考えている.

食生活と身体の退化—歯科臨床を通しての健康作りのために

著者: 片山恒夫

ページ範囲:P.536 - P.540

■はじめに
 私たちは健康でいるときは,病気のこと,病人のことなどをほとんど考えない.病気になると,ある日突然に病気に取り憑かれたと思い,健康のありがたさを感じる.幸いに回復すれば,喉元すぎれば何とやらで,苦痛も悩みもやがて忘れ,同時に健康のありがたさも感じなくなってしまう.そうして,それが繰り返された時には,不治の大病を患う.

"国民健康づくり"の基本的視点

著者: 苫米地孝之助

ページ範囲:P.541 - P.544

■はじめに
 先日,ある座談会で保健所長さんから,「自分たちは戦後一貫して,健康づくりに取り組んできた.結核はなくなるし,乳児死亡は減ってきた.現在,成人病予防にも一生懸命取り組んでいる.保健所の仕事は即,健康づくりではないのか.今さら健康づくりを取り上げるということは,一体どういうことか」という質問があった.確かに,これは一つの見方であろう.
 一般に国民の健康の指標として平均寿命,乳児死亡,訂正死亡の3つが挙げられるが,このいずれをとっても,わが国はすでに世界最高の水準に到達している.そして,この成果が公衆衛生や医療を担当しておられる方々の血のにじむような努力の結実であることは,誰もが認めるところであろう.これ以上,一体何をしようというのか,という疑問が,関係者の間に出ることは当然である.

—提言—市民が話し合い,実践する健康づくりの組織を,他

著者: 小松五郎 ,   高木寛治 ,   笹出千秋 ,   石田セイ子 ,   下江喜代 ,   高橋勝美 ,   雄川美代子 ,   松村栄子 ,   新田則之

ページ範囲:P.545 - P.554

 市民運動は本来,住民自身が自己をとりまく諸問題を主体性を持ちながら解決し,新しい集団が論理と価値を形成・組織化していく過程として重要な課題をもっている.医療の場合は,それが本来もっている特殊性に加えて,健康現象を生死という幅で考察する必要からサービスの購入を差しひかえたり貯蔵したりしておくということは不可能である.また市民は,サービスの質や寄与された価値を選択する自由をもっていないという点で,本質的に他のサービスと異なっている.
 昭和52年の国民健康調査によると,昭和28年に比較して,高血圧は15倍に,急性咽頭炎は6倍に,貧血は4倍に,不慮の事故は2倍に,胃・十二指腸潰瘍は3倍に,肝臓病は2倍に,先天異常は3倍にそれぞれ増加している.死因では昭和10年に比較して,細菌性疾患は7%に減少し,成人病は不変,妊産婦・乳幼児疾患は10%に,外因死は76%に減少している.急性伝染病と肺結核の予防と治療については,全国の保健所網と国公立病院網と法規制により,世界でも類のないくらいの効果が上がった.

資料

—衛発第328号昭和53年4月11日—各都道府県知事・各指定都市市長宛厚生省公衆衛生局長通知「国民の健康づくり地方推進事業及び婦人の健康づくり推進事業等について」,他

ページ範囲:P.556 - P.559

 国民の健康づくり対策は,地域の実情に応じ住民に密着したきめ細かい施策を推進することが肝要であり,このため全国の市町村に健康づくりに関する総合的な方策を検討する推進協議会等を設置するなど市町村における健康づくり対策を積極的に推進することとした.
 また,婦人の健康については,肥満,貧血等食生活と密接な関係がある疾病等が重要な問題となっており,これらの疾病等に対する対策が強く要請されている.このため,健康診査の機会に恵まれない家庭の主婦や自営業の婦人等を対象に健康診査を実施するとともに,食生活改善推進員による地区組織活動を推進することとした.

講座

費用便益分析(上)

著者: 前田信雄

ページ範囲:P.578 - P.582

■はじめに
 経済活動の場で多く用いられるこの費用便益分析が,広義の保健事業分野でも使われだしたのは,実は比較的以前のことである.19世紀,ロンドンのような大都市での水道設置事業計画あたりで,既にこの考えが入っていたといわれる.つまり,長期にわたる大がかりな事業で,しかも社会的投資により社会的便益を得ようとする場合,投資1単位当たり便益の最も高いものを探そうとするのは当然であった.
 費用便益分析(cost benefit analysis)と銘打った手法が一般化したのは,実はそう古くはなく,第2次大戦後である.とくに,それが本格的に保健分野に導入されるようになったのは,やはり1960年代後半に入ってからである1).伝染性疾患や腎臓病あるいは精神障害など,個別の傷病への対策の費用便益分析が進められたのと,いまひとつはドローシイ・ライスの傷病費用に関する全体的調査・研究が挙げられよう.この分析は,主としてアメリカの公衆衛生学者や公衆衛生の行政分野でよく取り上げられてきたものだが,1960年代後半の頃,一時その研究発表は少なくみえた期間もあるが,オイルショック以降の財政難,医療費の高騰,新たな保健サービスの模索のなかで,1970年に入ってから,また熱心に調査・研究の実際に移されてきた手法である.

臨床から公衆衛生へ

伝染性眼疾患

著者: 森茂

ページ範囲:P.570 - P.571

はじめに
 今日,眼科領域において,伝染性眼疾患として挙げられるものは,主としてウイルス性眼疾患であり,かつ伝染の原因となる分泌物などを直接外に排出する結膜疾患が,大部分を占めている.しかし,伝染性疾患であっても,これらがすべて重症な経過をとり,また重篤な予後を有するものではないが,一過性にしろ,患者に苦痛を与え,かつ,これが伝染力を有して,多数の人間に広がれば当然,予防対策が必要であろう.また,ウイルス感染症では,見かけ上,単に眼科的な一過性の感染症と思われるものでも,後に,全身的感染症として思わぬ影響が出現して来ないともかぎらない,ということを十分に配慮し,長期にわたる検討も必要であろう.
 以下に,伝染性眼疾患のいくつかを挙げて述べてみよう.

海外事情

Rural Health Centres in Burma

著者:

ページ範囲:P.583 - P.587

Ⅰ.Introduction
 Burma is a country with a population of about 28 millions, 85 percent of which live in rural areas having engaged in agriculture as their livelihood. Only a very rudimentary type of health and medical facilities had been improvised to these people during the pre-World War Ⅱ years. The country was subjected to British colonialism for about half a century. Then came the Second World War. Whatever had been existing was almost totally devastated during the war. There was complete breakdown of all the public health and medical facilities.

調査報告

歩行開始時期とその発達指標としての意味—乳幼児健診の立場から

著者: 上田礼子 ,   藤井光恵

ページ範囲:P.588 - P.592

はじめに
 乳児の歩行開始時期には個人差の幅が大きく,したがって,歩行開始の時期を発達の指標として正常児と異常時を判断することは,かなり困難であることが知られている1).また,正常に発達している乳幼児の歩行開始には,生物学的因子のみならず,生育環境が関与していることを示す知見がある.
 C. B. Hindley2)は,歩行開始時期についてヨーロッパ5カ国の都市における国際比較を行い,国によって差違のあったことを報告している.G. NeliganとD. Prudham3)は,イギリスの乳幼児を対象に養育環境の歩行開始時期への影響を検討した.そして性別,出生順位の違いによって歩行開始時期に差はなく,社会階層の違いにより有意差があったことを述べている.さらに,C. M. Super4)はアフリカの乳幼児を対象にして,養育行動の違いが歩行開始時期に関与していることを観察している.上田5)らは,東京と宮古群島・八重群島(沖縄)の乳幼児の発達を比較して,歩行開始に至る乳児後期の粗大運動発達に差異のあることを見出し,その理由として,養育方法とその背景にある気候・風土・歴史・経済などの,より広い生活環境の差異が関与していることを報告した.

トピック

ペット猿も罹患した宮城県の赤痢発生例

著者: 土屋真 ,   安海通 ,   加藤宗男 ,   庄子卓郎 ,   阿部功 ,   佐藤徳男 ,   高橋千男子 ,   三浦光恵 ,   加藤忠典

ページ範囲:P.593 - P.596

はじめに
 赤痢は相変わらず多く,いつも鑑別を迫られる伝染病である.このたび当県に発生した赤痢は,最初,食中毒を思わせたが,亡くなった老女やその家族のみならず,最近のペットブームで購入したアカゲザルからも赤痢菌が証明された例に遭遇したので,報告したい.ことに,老女の粘血便から食中毒とともに赤痢を疑い,念のため早期に強く患家を指導したため,幸い葬儀による集団発生を防ぐことができた.

資料

青梅管内保育園,幼稚園における手足口病の罹患状況

著者: 駒井恵美子

ページ範囲:P.597 - P.599

はじめに
 手足口病は1)2)3)1957年,ニュージーランドにおいて,Seddonにより初めて記録された.その後,カナダのトロントで患者からcoxsackie A 16が分離されて以来,新しい疾患として注目され,1960年から64年にかけて,英国,アメリカ,ニュージーランドと各地で,局所的流行がみられた.日本でも1960年,松江地方に4)本症の流行があったとの報告もあるが,1963年来,日本各地で流行の報告が相ついだ.
 1970年,全国的に大流行.その後,次第に終息したかにみえたが,1978年春頃から東京都内に再び流行,東京最西部に位置する青梅にも,5月中旬から7月末にかけて,流行がみられた.以下,これについて報告する.

発言あり

水危機

著者: ,   ,   ,   ,  

ページ範囲:P.525 - P.527

大切なのは節水の心を育むこと
 世界の年平均降雨量の2.6倍という豊かな水資源に恵まれ,私たち日本人は,水はいつも欲しいだけ与えられると思ってきた.都市で恒例的になっている夏の渇水の時でさえ,この一時を我慢すればあとはまた何とか,と空を仰いで雨を待ち,水に対する生活習慣は変えようとはしない.
 だが,昔から水はふんだんに使えたわけではない.例えば,江戸では家康開国当初から多くの人口を賄うため,水道の敷設に多くの技術と苦労があった.また,その維持管理には莫大な費用を要し,その負担者である地主の頭痛のたねは,火事,祭礼,水道料金であったそうだ.水道が廃止された本所,深川界隈では,水が売買されていたとも聞く.金を湯水のように使うという譬えがあるが,江戸の町人の間ではむしろ水の浪費を悪徳とし,水は貴重品として節約されてきた.

医師会の地域活動・6

多面的な活動に取り組む"相模原方式"—(神奈川県)相模原市医師会

著者: 大塚知雄

ページ範囲:P.574 - P.575

はじめに
 地域医師会は,医療担当者の組織する専門団体として,厭でも応でも,その占める地域の医療に取り組まねばならない.それが消極的であるにしろ,積極的であるにしろ,地域社会の医療は,医師会員個々の医療活動により成立している.地域医師会の地域医療に対する姿勢によって,医師である会員個々の能力の発揚の場は狭くもなり,広がりもする.
 会員個々の能力が,自由に,そして種々の保障のもとに高められ,十分に発揮できるように努力することは,地域医師会の義務だと考えられる.

病院の地域活動

財政的,人的な協力のもとに住民と密着した実践の場—大宮市医師会市民病院

著者: 勝呂長

ページ範囲:P.576 - P.577

環境と生いたち■
 大宮市は,都内の上野駅から40分の至近の距離にあり,首都の北玄関として東北線,上信越線,ここが始発駅の京浜東北線,川越線,東武野田線,さらに現在建設中の東北,上越新幹線などが交差し,埼玉県内最大の交通の中心地である.また,人口34万,昭和60年までには50万都市に膨脹すると目されている,県下随一の商業都市でもある.
 大宮市医師会市民病院は,市の北部に位置する宮原町の一隅,大宮駅からバスで20分,高崎線宮原駅から徒歩で15分のところにある.まだ,雑木林や松林など武蔵野のおもかげの多く残された,閑静な佇まいの中にある.

保健・医療と福祉

大阪府尾崎保健所管内における障害児対策—(その1)障害児歯科対策

著者: 石神文子

ページ範囲:P.562 - P.563

はじめに■
 大阪府下の保健所に精神衛生が加えられた昭和41年に,私は尾崎保健所の精神衛生相談員として配属され,現在に至っている(昭和51から兼務).
 それ以前の5年間を,府の研究機関で,児童精神科領域のソーシャルワーカーとして過ごしてきた私にとって,地域精神衛生活動の最初に手がけたのが障害児であったことは,自然な成りゆきであったろう.

海外ニュース 〈CDC報告〉

アメリカにおける先天異常の動向

著者: 中江公裕 ,   日暮眞

ページ範囲:P.566 - P.567

■はじめに
 先天異常の発生には,遺伝的要因,環境的要因がそれぞれ独立に,またはお互いにかかわりあって関与する.しかしながら,原因を明らかにできない先天異常も多く,その動向は,環境汚染の進行と相まって世界中で注目されている.わが国でも最近,この点に関し論争がみられたが,ここでは,米国の先天異常モニタリングプログラム(Birth Defect Monitoring Program:BDMP)の成績を紹介してみよう.

目で見る衛生統計 国際比較

8.社会保障費・医療費統計(1)

著者: 大森文太郎 ,   小田清一 ,   藤崎清道

ページ範囲:P.568 - P.569

 今回と次回にわたって保健衛生とかかわりの深い社会保障費,医療費についてみていくことにしよう.社会保障という用語がどの範囲までを含むのかは議論のあるところであるが,ここでは社会保障制度を,①社会保険,②生活保護(公的扶助),③公衆衛生および医療,④社会福祉,の4つの制度を包含したものと考えることにする.今回の国際比較に用いられたILOの資料(The Cost of Social Security)も大旨,上のような諸制度を総合して社会保障費を算出する方式をとっている.
 ある国が"福祉国家"と呼ばれるための必要条件は,社会保障のための支出(財貨の流れ)が,かなりの程度に多いことであろう.その精度(質)については,ここでは比較すべき術をもたないうらみがあるが,社会保障に関する支出を幾つかの図を用いて比較観察してみることにする.

日本列島

保健医療圏の設定—岐阜県

著者: 井口恒男

ページ範囲:P.599 - P.599

 衛生行政分野においては,市町村,保健所の業務分担が比較的明確な面が多いが,総合保健としての地域的分担は不明確であり,まして臨床面においては,その体系は全く放置状態といってもよい.昨年,地域保健医療体系の確立が叫ばれているが,その基本は,包括医療体制が一定地域内に完備することであろう.
 岐阜県保健医療対策協議会は,54年1月以来,2回の会議を重ね,5月30日,県下の保健医療圏域を設定した.この圏域設定の内容は,原則として,初期(1次)保健医療体制は市町村単位で,2次体制については広域市町村圏を圏域として整備し,3次体制については県内5ブロックで検討して行くというものである.

随想

列車食堂の中で

著者: 園田真人

ページ範囲:P.592 - P.592

 ひさしぶりに汽車の旅をすることができた.航空機は早くて便利だがゆったりとした風情がなさすぎる,といったところで汽車の楽しみをもとめたのだが,まったく面白くないことの連続であった.
 九州へ帰る,列車の中でのことである.東京駅で買い入れたサケずしを食べようと思ったが,夜7時すぎのため寝台の用意をはじめた,せっかくの料理だから,おいしく食べましょうと食堂車にでかけた.座席は6分くらいの混雑であった.

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用語解説

著者: 橋本正己

ページ範囲:P.540 - P.540

▶KYB運動
 アメリカ健康財団の設立者,Wynder博士の提唱する新しい健康づくりの運動である.KYBとは"Know Your Body"の略で,小学校の低学年の児童を対象とし,魅力的なデザインのヘルスパスポートと呼ばれる一種の健康手帳を交付して定期的に健康診断を行い,その結果をパスポートに記録して子供の時から自分の健康状態を正しく理解し,異常があれば早期に措置をとることがねらいで,現在,同博士の積極的な働きかけにより,アメリカのみならず西欧諸国にも拡がりつつある.小学校低学年を対象としたのは,自分で自分の健康について理解しうる最も早い時期だからである.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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