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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生44巻10号

1980年10月発行

雑誌目次

特集 コミュニティ・スポーツ

コミュニティ・スポーツ—その現状と将来の展望

著者: 伊東春雄

ページ範囲:P.672 - P.680

■はじめに
 割と広く全国の新聞,雑誌,機関誌に目を通す機会のある者には,世の中はコミュニティ・スポーツのオンパレードといった感じさえします.中央政府13省庁の健康・体育・スポーツ・レクリエーションの55年度予算が3,590億円,それもさまざまの装いをこらして《コミュニティ》を目玉施策としてあげています.これを受けて地方自治体(県・市町村)がさらに輪をかけ,予算をつけてきめの細かいコミュニティ・スポーツ行政を展開しようとしています.それらの関連投資は,中央・地方あわせて,おそらく5,000億円を下らないでしょう.マスコミがそれをかついで《地方の時代到来》とはやし立てると,いまやスポーツ人口5,000万人といわれる人たちが各施設,会場に押しかけ,群がる——それがオンパレードの印象となるのかもしれません.
 だが,いまのコミュニティ・スポーツは,その名にふさわしい,必要で十分な条件を整えているのでしょうか.コミュニティ・スポーツが当面する課題を解決しているといえるのでしょうか.

ハイリスク・グループに対する身体トレーニングについて

著者: 紅露恒男

ページ範囲:P.681 - P.689

■はじめに
 近年とみに健康に対する価値観が高まり,比較的に経済的にも困難の少なくなった社会の中で,元来《遊び》の要素を持つスポーツが《健康増進》なる正当化の根拠を得て,すっかり市民権を獲得してしまったようにみえる.これはまた一方,物質的に満たされてきたわが国での,食餌の過剰摂取,それに反比例するかのような機械化による生活様式の変革が,ますます人を身体活動の必要性から遠ざけ,いわゆる文明病なる範疇に属する疾病(subclinicalを含む)を増加せしめたことに対する一種の《自然への回帰運動》の様相をも有しているようにみえる.
 ともあれ,農耕・狩猟の時代においてと大きな相異もない形態と機能を備えた人類が急速に身体的活動を減らしていけば,身体活動を支える主柱である循環系の機能は一種の廃用性退化に追いこまれて,緊急の需要に十分対応するのに困難をきたす事態を招き得る.このような危険は,高齢者であれば経年変化による身体機能容量の減少として不可避的現象ともいえるが,近年は上記の理由にもより,いわゆる中年についてもすでにこの種の危険の内在する群が問題となってきている.

余暇としてのコミュニティ・スポーツ

著者: 松田義幸

ページ範囲:P.690 - P.693

■レジャー問題の今日的意味
 スポーツのサービス・システムはいかにあるべきかについて述べる前に,なぜ余暇問題が緊急性を持つかについて,社会的視点と個人的視点からふれておこうと思う.

企業内におけるスポーツの問題

著者: 古川幸慶

ページ範囲:P.694 - P.698

■はじめに
 人間が普通の健康状態で生活するとき,3つの広場があるといわれる.その第1は生活の本拠である住居という広場であり,第2は生活の糧を確保するための仕事をする広場であり,第3は仕事とはまったく違った遊びをしたり楽しむための広場である.
 与えられた課題は,「企業におけるスポーツの問題」であるが,第2の広場の延長が企業のスポーツで,企業の要望に拘束されるものであり,第3の広場のスポーツがコミュニティ・スポーツで,個人のやるかやらないかの意志で左右されるものといえる.

保健所における「環境に耐える体力つくり」(肥満対策)

著者: 笠原久弥

ページ範囲:P.699 - P.704

■はじめに
 1.健康対策は体力つくりから
 保健所における対策として,死亡順位上位の脳血管疾患,悪性新生物,心臓病などの成人病対策や母子保健対策も必要ではあるが,これらの病気にかからないようにするための健康の保持と,体力の増強がより必要であることは当然である.そして,健康を保持するために健康診断を受けることも大切で,常日頃の摂生が基本でもあり,さらに体力の増強によって,これは保持されるものである.

障害者のスポーツ

著者: 藤原進一郎

ページ範囲:P.705 - P.709

■はじめに
 国民スポーツ運動が,国を挙げての課題として,文部省や厚生省はもとより多くの省庁をはじめ,日本体育協会や日本レクリエーション協会などたくさんの民間団体も含め国民の健康・体力づくり運動が進められるようになってきた.これはわが国だけのことではなく,世界の文化国家共通の課題として取り上げられている.このように,スポーツが健康との係わりで重視されるということは,健常者以上に障害を持つ人たちにとっては,重要な課題といえる.

総合コミュニティセンターづくりと健康づくりのフロアの役割

著者: 池田貫徹

ページ範囲:P.710 - P.715

■はじめに
 戦後の激しい社会構造の変化は,人びとに衣食住などの生活様式はもちろん価値観までも変えさせた.このようにして人々は,物質化の方向へと顕著な動きを示すようになったが,これは本市でも例外ではない.
 まず,焦土からの復興は千葉港の建設に始まり,内湾の埋立てによるコンビナート工場群の進出によって,消費都市から生産都市へと移行する点が大きな特徴であろう.

講座 感染症とワクチン

【Ⅲ】百日咳患者発生と百日咳ワクチン

著者: 杉下知子

ページ範囲:P.725 - P.730

 百日咳は,百日咳菌(Bordetella Pertussis)によって気管支および小気管支が冒され,特有の咳を伴う伝染病である.戦前までは乳幼児を中心として大流行し,人口の70%前後が一度はかかったものと推定され,とりわけ乳児では重症化し致命的になる例も珍しくなかった.
 我が国では,1948年から百日咳ワクチンの接種が始まり1),また抗生物質の使用などで,患者数が激減し,一時百日咳は見当たらなくなったかに思われたが,1975年のいわゆる三混事故以後の接種中断によって患者数が急激に増加した.これは,百日咳ワクチンがいかに有効であるかを実証したことになった.ワクチンが使用されていない発展途上国では,百日咳は今なお重症な小児伝染病である.ワクチンの改良も世界に先がけて我が国で進められているので,これらの動向を紹介する.

臨床から公衆衛生へ

糖尿病の知識

著者: 平田幸正

ページ範囲:P.720 - P.721

はじめに■
 糖尿病は,きわめて複雑な疾患であり,むしろ一つの症候群というべきものである.一口に糖尿病といっても,その中には多数の独立した疾患を含むといえる.
 今日,世界的な傾向として,糖尿病罹患人口は増加を示し続けており,文明国では人口の1〜2%を占めるといわれている.また,急激な西欧化の進んだピマ・インディアンとか,ナウール島住民とか,特種の民族では最近になって人口の30〜40%が糖尿病に罹患する,という注目すべき事態もみられる.

研究

家庭健康管理におけるCMIの活用とその評価—13年間の追跡調査結果より

著者: 水野徳美 ,   野原聖一 ,   堀内久二 ,   有泉誠 ,   岡本学 ,   窪田道男 ,   成瀬優知 ,   鏡森定信 ,   岡田晃

ページ範囲:P.731 - P.736

Ⅰ.緒言
 家庭は社会生活を営む上での最小の単位と考えられ,その構成の基盤としての家族は共通の社会的・経済的および自然環境的な条件を有している.したがって,家庭単位で健康の背景因子を考えることは有用なことと考えられる.その家庭単位での健康管理を昭和37年以来,金沢市内の一地域で実施してきており,その成績については既に報告されている1)〜3)
 健康管理を行なう際,各個人の健康度を正確に把握する必要があるが,そのために毎年1回の定期健診の実施と,加えて昭和41年より隔年ごとに自覚的症状から健康度を把握するCornell Medical Index(CMI)健康調査が行なわれてきた.CMIの応用はわが国では進んでおり,多くの報告4)がみられるが,家族集団に応用した例はほとんどない.

調査報告

婦人の自覚症状

著者: 大山昭男

ページ範囲:P.737 - P.741

はじめに
 健康相談や衛生教育の場で各種の自覚症状を訴える婦人が多いし,人間ドックの問診カードに検査結果と結びつかない自覚症状を数多く記入するのも,婦人に多い.婦人の自覚症状の内容と頻度をN.S.T.(京都大学名誉教授・宮田尚之創案のNeurosis Screening Test)によって求め,精神健康管理を考えるための予備調査をした.

発言あり

ワークホリック

著者: ,   ,   ,   ,  

ページ範囲:P.669 - P.671

心身とも無防備の日本経済の旗手たち
 昔から40歳代は男の働き盛り.仕事への充実,落ち着き,自信は男性の魅力で,彼が家庭の大黒柱でもあった.ところが,である.GNPで世界2位の経済大国の担い手たちは,その成長期を食糧暗黒時代に過ごした欲求不満を高度経済成長,所得倍増へ向けはじめ,止めてくれるなおっかさんとばかり,ロケット打ち上げのサインなみのダイナミックさで事態は回転しはじめた.トマラナイ,トマラナイ…….そして,その家族も家庭も,日本全体も止まらない星をめぐる衛星の如く,忙しく回転することになる.
 子供は働き中毒の予備軍として勉強中毒者,女性は「クレイマー,クレイマー」よろしく自立願望中毒者,老人は医療,薬づけ中毒者,農業従事者は農閑期のない多角営農による豊作貧乏中毒者,などなど.とまれ80年代,日本人はまったく素晴らしい.石油危機がエネルギー節約型技術革新の引き金となって,日本の産業構造がイノベーションの時代を迎えた.それは欧米諸国の2倍近いテンポで進み,産業再編成で世界優位に立つと予測されている.吸収,適応,弾力のたくましき能力にまず拍手.

人と業績・4

ヒポクラテス(460-377年BC?)

著者: 小栗史朗

ページ範囲:P.718 - P.719

 「欧米医学の父」と称されるヒポクラテス(Hippocrates)は,医師の理想像とされ,医学が何らかの問題状況に陥った時,「ヒポクラテス医学に還れ」と叫ばれて,健康と疾病の問題解決の原点とされてきたし,今日でもそうである.
 「ヘブライ人は欧米人に道徳律の世界を与えたが,ギリシャ人は人類に自然の法則の世界を最初に明示した」(ウィンズロー).そのギリシャ人の自然観察と哲学により,ヒポクラテス医学は,健康と疾病を自然過程の結果であると認識する観点と方法論を確立した.これは,それまでの超自然的呪術医療を切り換えていく医学史・人類史の画期的創業であった.

大学とフィールド

個別的課題から普遍的課題への修練—〈熊本大学医学部公衆衛生学教室〉

著者: 二塚信

ページ範囲:P.722 - P.723

●はじめに
 公衆衛生学が《生活の科学》であり,生活の場の観察を通して課題を発見するに際して,生活の場としてのフィールドは,われわれにとって単なる研究の対象あるいは材料としての意味をこえた意義を持っている.特に地方に位置する大学には,昨今はやりの地域主義を持ち出すまでもなく,地域としてのフィールドの持つ意味は大きい.

日本列島

OTおよびPTの養成について—岐阜

著者: 井口恒男

ページ範囲:P.689 - P.689

 岐阜県内には,運動療法室,作業療法室を有する病院がそれぞれ38および6病院(54年末)あるが,県内に従事する理学療法士(PT)は24〜25名であり,作業療法士(OT)は皆無に等しい状況である.
 一方,県内でのリハビリテーションの需要度は,人口の高齢化に伴い,脳卒中後遺症に代表されるように,年々増加している.老人の4〜5%に当たると思われる寝たきり老人をみても,その大半が発病直後に適正な処置がとられなかったがためのようであり,リハビリテーション体制の不備によるものともいえる.

休日夜間救急診療所の患者状況—沖縄

著者: 伊波茂雄

ページ範囲:P.698 - P.698

 沖縄県における休日夜間救急診療は,昭和48年6月に,那覇市において本県初の,県・市によるいわゆる公設の,県医師会と市医師会による民営方式で設置された「那覇市立休日夜間救急診療所」によって,はじめて市町村医療業務としてスタートした.同救急診療所は翌49年6月からは市直営として専従医師も配置し,再出発した.それから去年6月で満5カ年を迎えたことになるが,このほど,5カ年間の診療実績等をまとあた『五年の歩み』という記念冊子を発刊した.
 同診療所の診療科目は内科,小児科,外科(整形外科も含む),産婦人科で,平日は午後7時半から翌朝8時まで,休日は24時間(ただし,日曜日の昼間は市医師会に依頼して内科,小児科のみは宅直)としている.医療要員は専任医師1人のほかは診療所協力医師協議会(国公立医師約130名)と市医師会の応援体制で確保されている.また看護婦7,薬剤師,X線技師および臨床検査技師が各1人配置されている.

全国胃集検合同研究会—名古屋

著者: 井口恒男

ページ範囲:P.709 - P.709

 5月12日,第6回全国胃集検合同研究会が名古屋(愛知県中小企業センター)において開催された.翌日13日は第19回日本胃集団検診学会総会が引きつづきセット方式で,同会場で催された.
 合同研究会は胃集検業務に従事するco-medical要員に焦点をあてたものであり,教育講演として,①胃X線診断,②胃集検で保健婦に期待すること,の2講演が,またシンポジウムとして,①胃集検撮影技術を高めるために,②胃集検における保健婦のかかわり方,③胃集検システムのあり方--企画からフォローまで,の3テーマでそれぞれ催された.

随想

80年代の保健と医療—医療社会事業をとおして

著者: 堤隆信

ページ範囲:P.717 - P.717

 80年代は,福祉の充実がはかられる時代であるといわれるが,その中でも特に保健と医療との整合が急務の課題である.なぜならば,個々の保健・医療施策が,地域レベルにおいて融合された形で個人に作用するための方策が立てられることが課題だからである.
 ところで,保健と医療の接点が望まれる80年代を思う時,戦後改定された新保健所法の中に新しく取り上げられた業務である医療社会事業が,多分に保健と医療との接点を試行した典型的な業務であるように感じられる.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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