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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生44巻11号

1980年11月発行

雑誌目次

特集 医師会活動とプライマリ・ケア

医師会活動とプライマリ・ケア—日本の場合

著者: 勝沼晴雄

ページ範囲:P.746 - P.748

■はじめに
 既によく知られているように,1978年にアルマ・アタで開催されたプライマリ・ケアに関する会議の結果が,宣言としてまとめられた.このWHOアルマ・アタ宣言を要約すると,次のようになる.
 (1)健康は基本的な人間の権利であること.

プライマリ・ヘルスケア概念の視点からみた世界の主要諸国における保健医療活動の動向

著者: 丸地信弘

ページ範囲:P.749 - P.758

■はじめに
 筆者が本誌編集室から依頼を受けたテーマは,「世界におけるプライマリ・ケアの動向」であった.
 わが国で"プライマリ・ケア"(以下,PC)というのは,アメリカやイギリスでいう医者と患者の〈first contact〉を重視した考えで1)2),一般開業医が患者とその生活環境に注目し人間的な継続ケアを強調する合言葉と理解したい.近代西欧医学の専門分化により提供側の一方的論理による患者不在を招いた現代医療社会への反省として,わが国の医師が患者の人権を"PC"ということで叫び始めたなら,それに賛意を表したい.

地域包括医療とプライマリ・ケア

著者: 加藤邦夫

ページ範囲:P.759 - P.770

■はじめに
 プライマリ・ケアの論議はWHOのアルマ・アタ宣言以来一段と華やかであるが,プライマリ・ケアの受け止め方と概念はまだ定着していない.プライマリ・ケアは"基本医療"であるといわれ,そしてまた"21世紀の医療制度"であるといわれている.この未来の"基本医療"とは地域包括医療の中でどのような位置を占めるべきか,どのような構造と機能を持つべきか,筆者のフィールド・ワークの経験と考え方をもとに以下に私見を述べてみたい.

わが国におけるプライマリ・ケアの実践

著者: 渡辺淳

ページ範囲:P.771 - P.778

■プライマリ・ケアとは具体的に何をさすか
 ここで,プライマリ・ケアについての概論的な解説をすることは省略したい.誌面も少ないし,すでにわが国においてもこれについてはようやく多数の論文が現われつつあり,しかも外国では勿論のことであって,「プライマリ・ケアとは何か」を語る論文は,いちいち目を通すことさえなかなか難しいほど,次々と発表されているからである.また,筆者自身もすでに,このテーマでいくつかの論文を書いているからでもある.
 筆者は現在,プライマリ・ケアを次のように定義している1).「プライマリ・ケアとは住民個人個人に対し,又地域乃至は職域の医療体制としてその地域又は職域の人々全体に対し,身近かな医療として存在し,その人々の疾病より健康に及ぶあらゆる医療,保健問題とともに,社会福祉,社会保障についても,一連のものとして,すべて包括的にとらえ,住民各自の参加を得て主治医として,又医療専門職として,主導的に行動し,すべての人々の個人的な幸福のためと,我々人類にとってより良い社会をつくるためとにのみ,医療業務を役立たせることをいう」.

座談会

開業医とプライマリ・ケア—高崎市医師会の場合

著者: 箕輪真一 ,   清水敏一 ,   神田清 ,   善如寺秀 ,   石橋英男 ,   小平良貞 ,   小山芳文

ページ範囲:P.780 - P.790

はじめに
 司会(箕輪) 本日ご出席いただいた先生方は,すべて高崎市内で開業しておられる高崎市医師会員です.高崎市医師会の活動は,本誌(Vol. 43 No. 1)で既に紹介されているように,先駆的であり,地域社会活動が熱心であります.それによって昭和46年には日本医師会最高優功賞を受けています.先生方は,すべてこうした医師会の理事をやってこられた経験者であり,開業医歴は15〜20年,年齢は48〜55歳という,いわば最も油ののった開業医の集まりだと思います.

連載 戦後の公衆衛生

【Ⅵ】保健指標(上)

著者: 麦谷眞里 ,   北井暁子

ページ範囲:P.791 - P.798

■はじめに
 「保健指標」という考え方が出てきた背景は,次のようなものである.WHOが提案したプロジェクト「西歴2000年までにすべての人に健康を」(Health for all by 2000)では,まず各国別に戦略を立てて保健政策としてのゴールを設定し,そのゴールに到達するまでの個個の目標を定めることを第一に謳っていること。次いで,自国がその戦略達成途上のどの位置にいるのかを評価するために,指標の使用を提案していること.
 ところで,「すべての人に健康を」といっても,では,どんな状態を健康というのか,という質問に答えるのは容易ではない.なるほどWHOの憲章には,「単に虚弱や疾病がないというばかりでなく,肉体的,精神的ならびに社会的に完全に良好な状態」と謳われているが,この定義に従って各国(およびその国民)の健康度を評価するのは甚だ心もとない.そこで,もっと具体的に健康を捉え,かつ評価するために共通の指標を設定しようというのは,むしろ自然な考え方であるといえる.

資料

行政からのプイライマリ・ヘルスケアへのアプローチ(1)—松戸市の例

著者: 太田重二郎 ,   中山章 ,   津田真 ,   加藤まち子 ,   木谷重代

ページ範囲:P.807 - P.812

■松戸市の概況
 ——特に著しい人口増加とそれへの対応
 1978年,ソ連邦のアルマ・アタでWHOとUNICEFの共催によるプライマリ・ケア国際会議が開かれた.その概念については周知の通りである.
 プライマリ・ヘルスケアについては,種々いわれており1)〜13),大谷公衆衛生局長は,「プライマリ・ヘルスケアは社会正義である」と述べている14)

大学生に流行した風疹

著者: 山崎力 ,   藤田宣士 ,   糸賀敬 ,   宮崎重武

ページ範囲:P.813 - P.817

 昭和51年4月から同年7月にかけて大分市内の一国立大学学生のあいだに風疹が流行した.受診した患者数は230名で,全学生の約8.4%であった.この学生にみられた臨床所見や,一部の学生で測定した風疹HI抗体価の推移などについて検討した.
 (1)患者は5,6月に集中的に受診した.また男子寮の学生に最も多く75名に上った.1〜2年,特に1年生に有症者が多かった.
 (2)男子29名,女子12名でpaired serumのHI抗体価を測定した.風疹の既往を有するものは5名いたが,HI抗体価に一定の傾向はみられなかった.41名中5名で初回血清HI抗体価8倍であったが,そのうち4名では第2回目の血清で128倍に上昇していた.
 (3)学生の抗体保有状況は推定困難であった.不顕性感染が疑われるものも10名以上みられた.特に女子学生では在学中に風疹罹患の既往の有無を確認し,ワクチン接種該当者を発見することも重要である。
 (4)明らかに発疹のみられた185名について主な臨床所見をみると,高熱,強い頭痛や咽頭痛などを訴え臨床的に重篤と考えられるものが9名(5%)みられた.腹痛や下痢を訴えるものも6名みられ,1名はそのため入院治療を要した.
 (5)髄膜脳炎,関節炎,栓球減少性紫斑病などのいわゆる風疹合併症を併発したものはいなかった。

発言あり

"たばこ無害論"

著者: ,   ,   ,   ,  

ページ範囲:P.743 - P.745

喫煙の害とその他の負荷因子の多い現代を憂慮
 たばこはすわない方がいい.無害であると主張できる根拠は持っていない.煙をすうよりは,新鮮な空気をすっているのがよいことは,幼児だって断定するだろう.都会の空気汚染地帯に住んでいる者は格別で,好むと好まざるとにかかわらず,刺激性物質の吸入を強いられているのであるから,その上喫煙によって刺激を加えれば結果はよい方向にむかうはずがない.さらに,現代生活のストレスが健康に及ぼす影響は非常に大きく,むしろこのストレスこそ,たばこ以上に問題があるのではないだろうか.
 世界の三大長寿国として,パキスタン北部のカラコルム山中にあるフンザ王国,南米エクアドルのアンデス山中にあるビルカバンバ地方,ソ連の西南部のコーカサス地方があげられている.これらの地方では100歳以上でも性生活が可能で子宝に恵まれ,130歳位までは30〜40歳の若い人たちと一緒になって働いているといわれ,酒もたばこもあるが,いずれにしても全くストレスのない生活がつづけられている.また,これらの国は標高1,000〜2,000メートルの高地で,空気,水,湿度などの自然環境が抜群にすぐれた地帯である.生活は自然に密着し,食物には野菜,果物,山羊乳から作るヨーグルトなどがふんだんに用いられ,その土地でとれたものをできるだけ自然に近い形で食べている.しかも,一般に小食でやせている体形が共通している.

人と業績・5

エドウィン・チャドウィック(1800-1890年)

著者: 小栗史朗

ページ範囲:P.800 - P.801

 今日の公衆衛生は,19世紀中葉において,資本主義の最先端に立ってその矛盾が最も激烈に現われた英国で,その解決のため着手された環境衛生革改運動に始まる.その運動の組織者であったチャドウィック(Chadwick, Edwin)は,公衆衛生創設者としての金字塔を遺した.
 彼の功績は,当時猖獗したコレラなどの諸伝染病の蔓延をおさえて死亡率を減らし,平均寿命を大幅に伸長させたことのみでなく,健康を侵され子供は殺され,悲惨な生活を甘受せざるをえないとした当時の労働者大衆の「ぬくべからざる運命主義を,物理的環境の社会科学的コントロールによって変換,改善しうるという新しい信念におきかえた」(ウィンズロー)ところにある.

大学とフィールド

地域と一体の関係—その歩み—〈愛媛大学医学部公衆衛生学教室〉

著者: 高橋弘

ページ範囲:P.802 - P.803

●ささやかな一歩の始まり
 愛媛大学医学部は昭和48年に開校されたが,公衆衛生学教室はその2年後に開設され,今年で6年目を迎えた.それは,当初から地域に根ざした"手づくりの医学部"をめざした医学部に対して,地域医療の旗手としての県民の期待は大きく,なかんずく地域との接点の大きくて然るべきわが教室が何を為すべきかに悩み,ともかくもできるところからと模索しつつ県内をとび回った5年余であった.
 初年度は,当時,今治保健所長で非常に活動的と定評のあった材木先生とともに,管内5町村の当事者と話し合いを持ち,木村慶教授ともども3人でテーマを分担し,どさ回りよろしく地元住民を、対象とした講演,PR活動をして回った.幸い,そのうち4町村において,その年度内に何とか循環器疾患を中心とした成人病の検診,調査を実施することができ,4町村合せて延べ11日,約1,000人の受診者であったが,ささやかな一歩を踏み出すことができたのであった.

講座 臨床から公衆衛生へ

腰痛症

著者: 金田清志

ページ範囲:P.804 - P.806

臨床像と病態生理■
 腰痛症とは病名ではなく,腰痛を引き起こす疾患の総称である.腰痛を引き起こす原因は複雑であり,腰痛と一口にいっても,その表現は患者個々人により異なる."だるい","重だるい","ズキンズキン痛む","刺しこむように痛い","腰から足に電気が走るように痛む","しびれて痛い"などと種々様々である.また疼痛の場所も異なり,腰部痛のみのもの,腎部痛や下肢痛をも伴うものといろいろであり,運動痛の場合や自発痛の場合もある.
 常時軽いが鈍痛が持続性のもの,急に腰痛が起こって激烈なもの,一日の生活の中でも時間帯や生活動作によって異なるもの,など腰痛の内容には千差万別のものがある.

日本列島

県立病院への共同利用型病院情報システムの導入—岐阜

著者: 井口恒男

ページ範囲:P.758 - P.758

 岐阜県では,県立3病院において数年来の懸案事項であった窓口会計や診療請求書(レセプト)の電算処理を55年度から開始した.
 病院の業務のうちレセプト関連事務は,現在の保険医療制度が続く限り存在するものであり,電算処理になじむものである.すでに各県の主要病院において,単独あるいは共同処理でオンラインあるいはバッヂ処理などコンピューターを利用した各種のシステムを導入しているところが多い.

随想

ツベルクリン反応の思い出

著者: 園田真人

ページ範囲:P.799 - P.799

 昭和15年の秋,全国一斉に17〜19歳の男子230万人を対象としてBCG接種が実施され,つぎの昭和16年度は15〜19歳の男子を対象として290万人にツベルクリン反応が実施された.
 当時,旧制中学の3年生だった私は,あざやかにその様子を思い出すことができる.

本の紹介

三浦 豊彦 著『〈労働科学叢書52〉労働と健康の歴史』(第三巻)—明治初年から工場法実施まで』

著者: 西川滇八

ページ範囲:P.798 - P.798

 本書は『労働と健康の歴史』第三巻で,古代から幕末までをまとめた第一巻が1978年11月に出版されてから,本年二月に明治初年から工場法実施までの第二巻に次いで,矢継ぎ早に刊行されたものである.著者が20年来書きためた研究業績を取りまとめて読者のために発刊された芳著である.わが国の労働と健康の歴史に盛衰があるとすれば,悲惨な労働から合理化への曙光をまさぐり,手応えのあった大原孫三郎の倉敷労研創立から満州事変の開始される昭和初期までが豊富な写真や統計資料を駆使してまとめられている.
 全篇は序章を含めて15章から成り,巻末に労働と健康年表(1917〜1933年)が収録されており,総索引が付いている.特記すべきこととしては,序章において19世紀から20世紀初頭わたる欧米の労働衛生が,本書所載のわが国の労働衛生の国際的背景を描いてくれている.第1章は大原社会問題研究所創立前後で,高野岩三郎・暉峻義等の社会調査が述べられている.第2章は農商務省工場鉱山衛生調査室と倉敷労働科学研究所創立時代で,当時の労働衛生の研究状況と研究者が紹介されている.第3章は農村保健衛生調査で,第4章が女工哀史,炭鉱夫哀史時代を紹介している.

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法令解説

著者: 貝谷伸 ,   中澤一隆

ページ範囲:P.778 - P.778

◎予防接種法施行令の一部を改正する政令
 今回の改正は.①定期の予防接種を行う疾病から痘そうを除くこと,②予防接種による健康被害の救済に係る各種給付の額の引上げを行うことを内容としている.
 ①については,本年5月8日の世界保健総会における天然痘根絶宣言が直接の改正動機となったものである,②については,(ア)医療手当の額を月額2万2千円から2万4千5百円に,月額2万円から2万2千5百円に,(イ)障害児養育年金の額を1級月額7万4千円から7万9千8百円に,2級月額4万4千円から4万7千3百円に(障害児が施設に収容されている場合には1級月額3万6千円から3万8千8百円に,2級月額2万4千円から2万5千8百円に,(ウ)障害年金の額を1級月額16万5千円から17万2千8百円に,2級月額10万8千円から11万3千円に,3級月額8万千円から8万4千8百円に,(エ)葬祭料の額を8万円から8万5千円に,それぞれ引き上げるものであり,①及び②とも本年8月1日から施行された.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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