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講座 臨床から公衆衛生へ
自然気胸
著者: 武野良仁12
所属機関: 1日産厚生会 2玉川病院外科
ページ範囲:P.886 - P.887
文献購入ページに移動公衆衛生学の領域では,自然環境とか自然保護といった言葉がしばしば用いられる.当然,ここにいう自然とは天然自然(nature)の意であり,一般に好ましい状況をさしている.
ところが,同じ自然でも肺の急性虚脱である自然気胸となると,これは少し趣を異にするといわねばならない.元来,自然気胸はspontaneous pneumothoraxの和訳であって,この「自然」はむしろ「自然に」「ひとりでに」といった意味の自然なのである.しかし,spontaneousにもof one's own accord,unrestrainedのほか,natural,voluntaryのような義もある.したがって,spontaneous pneumothoraxを自然気胸と訳したのも,あながち誤りと断定することはできない.ましてや,かつて肺結核華やかなりし時代,人工気胸術が盛んに行なわれた頃にしてみれば,この人工に対して自然という字句を当てる方がむしろシゼンというものであろう.当時は自然気胸はすべて結核によるものとさえ考えられていた.自然気胸を考える際,このような時代の変遷を知ることも興味がある.
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