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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生44巻2号

1980年02月発行

雑誌目次

特集 公衆衛生における栄養

公衆衛生における栄養

著者: 田中平三

ページ範囲:P.80 - P.89

■公衆衛生学と公衆栄養学
 主たる観察対象が細胞(分子)レベル,個体レベル,集団レベルであるかどうかによって,医学は基礎医学,臨床医学,公衆衛生学に分類されている.栄養学も広義の医学の中に包含されていることから,この医学分類に対応させ,観察対象に基づいて,基礎栄養学(栄養生理学,栄養生化学,特殊栄養学),臨床栄養学(病態栄養学),公衆栄養学に分類されている1)2)3).公衆衛生学と公衆栄養学は観察対象が同じで集団レベルであること,目的が同じで集団の身体的・精神的・社会的健康の維持・増進をはかるものであること,地域医療の概念の下に実践を伴うものであること,などから,両者は"競合"の関係3)にあると言われている.筆者は,両者の競合,差異に対して実践活動論の立場から考察を試みた.
 地域における公衆衛生活動は,次のステップを踏んで展開されている.

公衆栄養—その経緯と諸説を中心として

著者: 藤沢良知

ページ範囲:P.90 - P.96

■はじめに
 「公衆栄養」が栄養士養成の教科として取り上げられて数年を経たが,いまなお定説的なものにまでは発展していない.そこで,ここでは科目設定の経緯,公衆栄養の概念,栄養指導とのかかわり,現時点における公衆栄養の諸説を紹介するとともに,公衆栄養活動としての成人病予防,および健康増進対策における栄養問題についてふれてみたい.

生活科学における栄養—食生活学への期待と栄養学研究のあり方を考える

著者: 木村修一

ページ範囲:P.97 - P.102

■はじめに
 まず,初めにお断りしなければならないことは,編集子から与えられたテーマとは内容が大分ずれているということである.筆者は現在,生活科学をやっている者ではなく,栄養学の一研究者である.したがって,表題のテーマを論ずる資格に欠けているのである.ここで述べようとしていることは,一口で言えば「食生活学」ともいうべきものへの期待と,栄養学をやっている者の反省といったものになろう.それにもかかわらずあえてペンをとったのは,まず第一に,食生活をよりよいものにするために,栄養学がどれだけ寄与してきたのであろうかという,筆者の中にあった疑問をベースに,今後,栄養学の進むべき方向を考えてみようと思ったこと,第二に,かつて生活科学とは何ぞや,生活科学における食の研究はどうあるべきか,等々について,ささやかながら筆者らのグループがアプローチを試みたことがあったが,それらに関するディスカッションの要点などをここに述べておくことが,今後のこの面での議論に役立てばという気持ち,そして第三には,日本における食生活研究がどのような人,グループによって推し進あられてきたか,その歴史を振り返り,これからの食生活学とでも言うべきものの今後のあり方を考えてみたいと思ったこと,これらの事由からにほかならない.
 もちろん,筆者の独断も多く,本論文の内容についての責任は,すべて筆者にあることは言うまでもない.

社会栄養学とその視点

著者: 高木和男

ページ範囲:P.104 - P.109

■はじめに
 "社会栄養学"という言葉を創造した筆者の頭の中のいきさつは,何か,国民大衆というより,一般大衆の栄養改善を目的とした学問にふさわしい名称はないか,と考えた末のことであった,公衆栄養という言葉も,その頃厚生省の栄養士養成の規準の中に使われ出したのであるが,これは恐らく,筆者の意図するものと同じ方向のものだと思ったのであるが,これについての各方向の意見はごたごたしていて,むしろとりとめのないように見受けられたのであった.栄養士養成施設協会からも,このことについての意見や討議の結果が出されたが,筆者にはまだ不足が感じられたのである.
 筆者は,広義の栄養学を考えた場合,これには栄養生理(生化)学,食品学,調理学,栄養指導学などの領域が含まれると考えている.栄養学発達の歴史から考えると,その初期には,栄養学は広義の意味であったのであろうが,科学技術の発達につれてこれが分化して,以上のような各部門に分かれるようになったのであろうと思うのである.

食生活改革への支援方法

著者: 坂本弘

ページ範囲:P.110 - P.114

■はじめに
 ひもじさをしのぐために口に入るものを探し求めた時代,栄養価のすぐれた食物を指向した時代,変化に富んだ食事で栄養素バランスを求めた時代,そして過剰摂取に対応しなければならなくなった今日というように,ここ35年くらいの間にわが国の食課題は急テンポに変化してきた.これを戦争の傷跡からの脱却過程,すなわち一過性の出来事とみるよりも,むしろ社会の進展に伴う現象推移と認識したほうが将来展望を容易にする.Frederiksenは時代の推移に伴う保健上の諸問題を論述し,その中で栄養状態側面を挙げて,社会の近代化による変遷過程を示している1),このことからもわかるように食課題は時代や社会の影響を強く受けるものといえる.
 現代の食課題は,豊かで老化した社会の産業化した経済のために,食物が豊富で過剰栄養となることであるという1).しかし,この課題がいつまで続くかの予測は立てにくい.資源の有限性がいわれ出してから,人口,食糧,資源,汚染などの関係が論議され,比較的近い将来に地球的規模での食糧危機到来がいわれている2).したがって本稿では,当面する食課題内容に関連した改革を論ずるというよりも,人々の食生活が改革に迫られた場合における,人々のそれへの適応に焦点をしぼって概説することにしたい.

栄養指導における素材提供—住民の生活実感を大切に

著者: 古川綾子

ページ範囲:P.115 - P.121

■はじめに
 地域住民が健康であることは,最もすぐれた価値である.その価値を実現するうえで,一つの指標として「よい栄養状態」が挙げられる.
 栄養状態を改善する県行政機関の主軸となっているのは保健所で,疾病予病や健康増進に努力されている(保健所法,栄養改善法).また,栄養改善そのものを直接の目標とはしないが,一つの業務段階を経てその域(健康)にたどり着こうとする行政がある.その代表的なものに,農業者と他産業従事者の経済格差の是正で始まり,現在では,生産と生活の調和を求めて健康な村づくり活動に取り組んでいる,農業改良普及事業がある(農業改良助長法).

幼児栄養の問題点と対策

著者: 岡田玲子

ページ範囲:P.122 - P.130

■はじめに
 満1年から小学校就学前まで(満5年)の幼児期は,それまでの乳児が独り立ちをし,乳児期に次いで速やかな発育を続け,運動は極めて活発になり,知識欲に目ざめ,精神的・知能的に急速に発達していくとともに,基本的な生活習慣が形成される時期である.
 この成長,発育しつつあるものの栄養がいかにあるべきかということは,極めて基本的かつ重要な問題である1).さらに,人の生涯の心身の健康の礎は幼児期に形成される生活習慣にあるといわれ,なかでもこの時期の食生活の適否は重要であることが明らかになってきた.乳幼児時代に親から与えられた食物パターンが食習慣を形成する上で大きな要因となり2)3),引き続き18歳頃までに経験した味覚が人の生涯をとおして定着し4),これら食習慣や食嗜好は食物選択に影響し,その結果として生涯をとおしての栄養状態に反映されるものと推測されている5)6)7).J.Mayer8)は「こどもは大人の父であり,同様に老人は青年期および成人期のこどもであって,われわれは絶えず若いころにたちかえらなければならない」というスコットランドの医師兼栄養学者のR.C.Garryの意見を引用し,栄養および個人衛生の分野においてこれより真実なものはどこにもない,と述べている.

講座 公衆衛生従事者のためのソーシャルワークの手引き

—〈その1〉—危機介入(上)

著者: 荒川義子

ページ範囲:P.141 - P.144

■医療場面における危機
 ソーシャルワーカーをはじめ保健婦,看護婦は,医療および地域のさまざまな生活場面で危機に直面し,あるいは危機状態に陥っている人たちに遭遇する.これらの人たちは一般に,思いがけない疾病や障害のために引き起こされた経済的・社会的および情緒的問題などで危機状態に陥っている.したがって医療従事者は,できるだけ早くその危機を回避するか,またはその状態から脱することができるように,その人たちの当面している問題の解決に助力することが必要である.
 医療従事者がこの人たちを援助していく場合にまず理解しなければならないことは,これらの人たちが疾病や障害をどのように受け止め,その疾病や障害を受け入れて再適応していくか,ということである.次に,この再適応過程に応じた援助の方法が決められねばならない.

臨床から公衆衛生へ

一酸化炭素中毒

著者: 牛尾耕一

ページ範囲:P.134 - P.136

疫学的実態■
 わが国の昭和45年の一酸化炭素(CO)中毒死1)は,同年の「薬用」を主としない物質による死亡4,973名の56.4%,2,805名を占めている.その後,49年2)の3,460名,50年3)の3,800名,51年4)の3,598名,52年5)の3,563名,53年6)の3,434と推移している.そのうち,偶発的なCO中毒死は45年の統計では749名で,全CO中毒死の26.7%に当たる.原因別では,家庭用燃料の不完全燃焼,都市ガスによるものがそれぞれ49.3%,43.4%であり,自動車の排気ガス,その他によるものが少数ある.発生場所としては家庭内が77.4%,580名と断然多い.
 偶発的CO中毒死以外は何によるものか.職業性CO中毒は三井三池炭鉱の大災害を除くと意外にわずかである.労働省の統計では49年7)には16名発症し,うち7名が死亡.53年8)はそれぞれ40名,4名であった.こうしてみると,残りは自殺目的のCO中毒死と考えられる.事実,昭和49年の自殺死亡統計9)では,自殺者総数19,105名中,家庭用ガス,その他のガスによるものがそれぞれ2,112名,665名の計2,772名で,同年の全CO中毒死の80.1%に当たることからうなずけよう.

連載 戦後の公衆衛生

【Ⅰ】 国民の衛生教育

著者: 麦谷眞里 ,   北井暁子

ページ範囲:P.145 - P.148

■はじめに
 国民の健康状態は,医学・医術の進歩および公衆衛生の発展によって著しい改善をみせてきた.特に,戦後のわが国の平均寿命の伸長には顕著なものがあり,今や世界一の長寿国となるに至っている.
 ここに至るまでには,文化の発達を基礎にさまざまな場で健康づくりに対する努力がなされてきた.このような情況の中で,今回は,国民の衛生教育をテーマに時代的変遷と今後の課題について述べることにしよう.

発言あり

健康食品

著者: ,   ,   ,   ,  

ページ範囲:P.77 - P.79

食は上薬
 「食は上薬にして,医薬は下薬なり」という言葉を,料理研究家の島津忠彦先生に教えられた.この食とはもちろん,自然食でなければならない.また古来より「生命は食にあり」といわれているが,たとえどのような妙薬があっても,医薬を浴びるほど服用しても,肝心な食物がなければ生命を保つことができないのが自然の摂理である.食物が生命を維持させ,活力をつくっているのであるから,食物の良し悪しが,健康か不健康か,短命か長寿かにつながるのは当然のことである.
 食物はもともと自然のものであるが,あまりにも不自然な加工食品が氾濫し,同じ食物であっても,その内容に違いができてしまった.人間の健康のもとになる正しい食物を,有害無益な食物から区別する必要が出てきたために,自然食という言葉ができたのである.私はこのような理由で,健康食品とは自然食品であると考えている.自然食品は誰にも必要なもので,決して贅沢なものではない.自然食品はとくに飾り立てたりするものではなく,自然の摂理にかなったものであり,人間の健康のもとになる正しい食物である.正しい意味での自然食には,次の要件を備えている必要があると思う.

海外ニュース 〈CDC報告〉

アメリカ合衆国におけるサルモネラ症

著者: 稲葉裕

ページ範囲:P.137 - P.140

 1977年にCDCに報告されたヒト由来のサルモネラ菌は27,462例であり,前年より4,177例(17.9%)の増加を示し,1963年以来最高となった.上位3つの血清型はS. typhimurium(copenhagen変種を含む),S. newportおよびS. heidelbergであった.

医師会の地域活動・10

沼津医師会病院と広域沼津夜間救急医療センター

著者: 勝呂安

ページ範囲:P.150 - P.151

はじめに■
 沼津医師会は,静岡県東部の沼津市,裾野市,駿東郡長泉町,清水町を区域とし,人口30万,会員数243名(うち開業医170名)から成っている.
 昭和52年には新制沼津医師会創立30周年記念式典を行ない,記念事業の一つとして『沼津医師会史』を発刊した.

日本列島

「保健所業務報告書」に見る40年前の保健所活動(上)—岡山

著者: 堤隆信

ページ範囲:P.132 - P.132

 暮れを間近にしたある日の午後,「40年前の保健所業務報告書が見つかったが,見てみないか」という吉報がもたらさられた.よくもそんな古書が残されていたものだという驚きとともに,早く見たい一心から,執務時間が終わらないかと思いつつ退庁時間を迎えた.
 そして,その日の夕刻資料を見るために総社市へ向かった.報告書が見つかったのは岡山県総社保健所である.この保健所は,岡山保健所(昭和13年)の次に古い歴史を持ち,昭和14年3月に開所し,今日まで当時の建物が使われていたが,55年1月の開所を目差して改築されていた.そして,新しい保健所へ移転するに当たって書庫を整理している中から出てきたのが,昭和14年から以降の『岡山県総社保健所事業報告書』(年鑑となっている年もある)である.ページ数や内容は年度により異なっているが,50ページ位で大きさはA5版ないしB4版,和紙にタテ書き騰写印刷で,コヨリとじとなっていた.

北海道対がん協会創立50周年記念式典と第14回ガン予防道民大会に出席して

著者: 吉田憲明

ページ範囲:P.140 - P.140

●北海道対がん協会創立50周年記念式典
 北海道対がん協会(会長=武田勝男北大名誉教授)が,設立以来,昨年9月で半世紀を迎えた.
 協会設立日の9月13日,創立50周年記念式典を開催し,半世紀にわたる足跡を振り返りながら新たなガン征圧活動の推進を誓い合った.昭和4(1929)年9月,全国に先がけて有志が集い,対がん協会の設立を計画し,今裕博士を会長,有馬英二博士を副会長,市川博士を理事長に財界,官界の要人も役員に加わりスタートした.

随想

亡霊の正体

著者: 園田真人

ページ範囲:P.133 - P.133

 これは,私自身の経験である.
 若いころは外科医になりたくて,どのようなチャンスものがさずに手術の助手をつとめた.ある病院に手伝いに行っていたときのことである.

スポット

タイ国サケオにおけるカンボジア難民の健康状態

著者: 山上雅子

ページ範囲:P.103 - P.103

 カンボジアの西部国境付近での戦闘のため,昨年の10月には,数千人のクメール人(カンボジア人)が身の安全を求めてタイに流入した.10月24日に,バンコクの北東250km,カンボジアータイ国境から50kmにある町であるサケオ付近のキャンプに31,000人の難民が収容された.この難民たちへのヘルスケアの供給については,国際赤十字委員会とタイ赤十字が責務を担うことになったが,これら赤十字の担当者,タイ国の県衛生担当宮,医科学研究所の専門家およびアメリカのCDC専門家により共同で報告された,この難民の健康状態に関する調査の結果は,以下のとおりである.
 サケオの難民キャンプでは,4日以内に1,000人以上を収容する病院が設立され,国際赤十字加盟の,またボランティアの医師や看護婦が治療に当たっている.病院では,助産サービス,重度の栄養不良者に対する給食活動も行なっている.ここでは11月8日現在,すでに40人余りの乳児が誕生した.タイ赤十字による外来部門では,1日当たり3,000人以上が治療を受けている.

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用語解説

著者: 豊川裕之

ページ範囲:P.130 - P.130

▶栄養素密度(Nutrients Density)
 1977年に,米国のユタ州立大学栄養食品科学研究所(Institute of Nutrition and Food Sciences,Utah StateUniversity,Logan Utah,USA)のR. G. Hansen教授とB. W. Wyse助教授は栄養教育のために「栄養素密度」(Nutrients Density,略号ND)を新しく概念づけた.これは当初,食品の栄養的質を表わす指標として"Index of Nutritional Quality"という名称を付けたが,現行の栄養所要量に幾多の疑問点が残されている以上,質を規定することは正しくないという学会での批判を受けて,質の良し悪しではなく,ただ単に栄養素の含有密度を示すこの名称に変更されたものである.
 人には性・年齢,労働および妊娠・授乳の生理的状態に応じて熱量,蛋白質,ビタミン類,ミネラル類などの所要量(Recommended Dietary Allowance,略してRDA)が推定されている.一方,食品にはそれらの栄養素がいろいろな割合で含有されている.いま,ある個人の栄養素所要量が所与の条件に応じて推定され,かつその個人が摂取するある食品または料理の栄養素含有量がわかっていると,その個人にとって,その食品のRDAに対する割合(%RDA)が計算できる.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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