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雑誌目次

雑誌文献

公衆衛生44巻6号

1980年06月発行

雑誌目次

特集 人畜共通伝染病

人畜共通伝染病—わが国における現状と問題点,とくにその行政対策

著者: 今泉清

ページ範囲:P.380 - P.384

■はじめに
 人畜共通伝染病は広い意味では,人と動物に関係のあるすべての感染症を指すが,普通は狭義の,動物から人へ感染する感染症をいう.
 人畜共通伝染病は動物と人との結びつきから,大別して5群に整理される.

動物検疫からみた人畜共通伝染病の実態

著者: 千田英一

ページ範囲:P.385 - P.393

■はじめに
 動物検疫は,海外からの家畜の伝染性疾病の侵入を防止することにより,わが国の畜産経営の安定を図り,畜産の振興に寄与することを目的としているが,この目的のためには,家畜の伝染性疾病に汚染しているおそれがあると考えられる家畜に類する動物,およびその産物,つまり畜産物の検査を主体的に実施することになる.一方,これらに対応してわが国からの輸出により,諸外国に家畜の伝染性疾病を広げることがないように,動物,畜産物,その他のものの輸出検査を行ない,わが国の国際信用を高め,究極的にはわが国の畜産の振興に寄与することも目的としている.これらの検査は,法的には家畜伝染病予防法に基づくものである.また,狂犬病予防法に基づき,輸出入犬についての狂犬病感染の有無の検査を行なうことも,わが国の動物検疫の主要な業務となっている.

輸入冷凍食肉のサルモネラ汚染の現状

著者: 鈴木昭

ページ範囲:P.394 - P.404

■はじめに
 ヒト,動物間の共通疾患の原因菌として,食品衛生の分野においては古くからサルモネラが最も重要視されてきた.最近,わが国において食中毒および下痢症などから検出されるサルモネラ菌の型は多彩をきわめている.しかも,国際化の傾向を示しているといわれ,その主原因は国際的な規模で流通している輸出入食品,主として食肉に汚染しているサルモネラの影響であるといわれている.そこで10年以上にわたり,輸入食肉(馬肉,家禽肉)によりわが国に搬入されるサルモネラの汚染状況の現状について述べ,わが国への影響について考えてみるための参考に供する次第である.

家畜伝染病予防の現状

著者: 小山国治

ページ範囲:P.405 - P.409

■はじめに
 昭和30年代までのわが国の畜産は,農業の構造全体の中でも副業的な経営形態で認識されていたが,40年代に入ってから専業的な経営に変貌するとともに,その大型化が目立つようになった.そして,家畜の飼養形態も急速に集約的かつ過密化の度合を深め,家畜衛生の対象も,個体から集団としての畜群へと転換を余儀なくされてきた.このような変化の中で,生産性の著しい発展,向上があった反面,疾病の多発や新たに畜産による環境の汚染,医薬品の多用による畜産物の汚染などの問題が生じ,経営環境もいっそう厳しくなっている.かくして,家畜衛生の対応する分野も多様性を増し,複雑さを深めている.しかしながら,最近における家畜衛生行政は,全般的に比較的平穏のうちに推移しており,喜ばしい状況にある.その背景として,昭和40年代初頭まで続いた豚コレラ,ニューカッスル病など,特に急性伝染病の全国的な流行の繰り返しによる損失と混乱の中で,多くの困難を克服しながら,一応その防疫に着実な成果を収めてきた経験と自信の裏づけがあるものと考えているが,全国的な家畜衛生体制が整備される一方,獣医学の進歩を受けて技術の応用,普及がはかられ,さらに畜産関係者の衛生思想の向上などの種々の要因の相乗的効果によるとも考えている.
 ここでは,わが国の家畜の伝染性疾病の防疫について述べることとする.

食肉衛生と人畜共通伝染病

著者: 勝部泰次

ページ範囲:P.410 - P.416

■はじめに
 われわれ人類は,遠い昔から,動物の肉,内臓を食物として利用してきた.この"肉食"ということは,人の生命,健康にプラスとマイナスの関係を持っている.すなわち,人の生命,健康の維持に不可欠であるタンパク質を補給するという点で,"肉食"は重要な意義を有している.一方,肉,内臓は人に有害な病原体の病原巣あるいは感染源となったり,医薬品,農薬,その他の環境汚染物質など好ましくない化学物質を残留させ,蓄積することがあるといった面で,"肉食"は人の生命,健康にマイナスの働きをする可能性がある.
 ここでは食肉(肉および内臓)を介して伝播される人畜共通伝染について,と畜場に運びこまれた食用動物(と畜)における実態を中心として紹介する.

高度危険ウイルス感染症の動勢

著者: 山内一也

ページ範囲:P.417 - P.421

■はじめに
 高度の危険性を有するウイルス疾患のほとんどは,表1にまとめたようなウイルス性出血熱である.これらのうち,韓国型出血熱を除いては我が国に存在しない,いわゆる輸入伝染病に相当する.中でも,ラッサ熱,マールブルグ病,エボラ出血熱の3疾患は,厚生省国際伝染病委員会で「国内に存在せず,予防法,治療法が確立していないため,致命率が高く,かつ伝染力が強いので,患者および検体の取扱いに特殊の施設を必要とする疾患」という定義に基づく国際伝染病に指定されている.これらの疾患の病原体であるラッサウイルス,マールブルグウイルス,エボラウイルスはいずれも,予研の実験室安全管理規程の中の病原体の危険度分類で最高度の危険度であるクラス4に分類されている.いずれのウイルスも野生動物由来であることが証明され,またはその疑いが強く,人畜共通伝染病の病原体とみなされている.
 これらの出血熱ウイルスのほかに,高度の危険性を有する人畜共通伝染病の病原体としては,東南アジア産のマカカ属サルに潜在感染し,サルを使用する研究者への感染の危険性が問題になっているBウイルスもある.しかし,Bウイルス感染はこれまで散発的に20数例が実験室内で起きているだけで,流行の様相を示したことはない1).したがって,実験室内感染防止とBウイルス・ブリーのサルの確保が当面の課題であって,ラッサ熱,マールブルグ病,エボラ出血熱のような防疫対策はとくに検討されていない.

日本脳炎の最近の動勢

著者: 高橋三雄

ページ範囲:P.422 - P.427

■人畜共通伝染病としての日本脳炎
 日本脳炎ウイルスが,ヒトのみならず多くの種類の哺乳類や鳥類などに感染を起こし,かつ障害を引き起こすことはよく知られている.その古典的な最も有名な例はウマの脳炎である.1948年の流行では,日本全国で3,678頭のウマが罹患し,1,511頭が死亡した.対10万の罹患率で表わすと実に337.1という数字になる.ウマの脳炎は,この年以来不活化ワクチンによる予防接種が実施されるようになり,現在ではほとんど問題となっていない.
 動物の日本脳炎に関して次に問題となったのは,ブタである.ブタの場合はウマと異なって,肥育豚や母豚自体への感染は多くの場合,不顕性感染か一過性の熱発に終わるが,妊娠豚が感染を受けると高率に異常分娩を引き起こし,大きな経済的損失となる,1969年の農林省(当時)統計によると,母豚の異常分娩率は全国(40道府県)で32.5%に達しており,さらに以前の時期にまでさかのぼると,異常分娩率が70%を超えた記録も存在する.ブタの死産予防のためには以前から不活化ワクチンが使用されていたが,1970年前後から弱毒生ワクチンが開発され,一部ではこれが増幅動物対策として肥育豚にも用いられ,ヒトの日本脳炎予防にも試用された.

破傷風の現状と対策

著者: 海老沢功

ページ範囲:P.428 - P.432

■はじめに
 破傷風は中毒性感染症(フランス語でtoxiinfectionという)の代表的疾患で,窒息を起こして死亡する疾患である.欧米では予防接種の最重要疾患として積極的に取り上げられているが,日本では伝染性がなく患者が減少しつつあるという理由で等閑に付されている.大学の医学部学生でも予防注射を受けている者は5〜10%にすぎないが,これは欧米の学者には理解できない現象である.
 人畜共通感染症の公衆衛生学的立場と,実際患者を見て対策を考えている医師の立場との両面から,破傷風を考えてみたい.

論考

疫学からみた日本の食中毒

著者: 稲葉裕

ページ範囲:P.439 - P.442

■はじめに
 戦後のわが国の衛生状態の改善には,めざましいものがあり,平均寿命の伸長に象徴されるように,急速に欧米先進国に追いつき,追い越したとさえいえるようになった.また,各種の伝染病についても,罹患統計ではなお先進国に及ばぬ疾患がいくつかあるにしても,その減少ぶりからみて遠からず追いつくことは確実と考えられる.
 しかし,食中毒に関しては,死者数の減少は確かに著しいが,患者数には,年による増減は多少あるものの,この25年間はっきりした減少傾向はみられていない1)(図1).

発言あり

オリンピック

著者: ,   ,   ,   ,  

ページ範囲:P.377 - P.379

スポーツや体力づくりとは別物
 オリンピック規則によると「どの競技者も宗教,皮膚の色,政治的理由で資格を失わない」,また「競技は個人対個人,団体対団体で,国家間ではない」とあるが,五輪開催時期となると,その時代の国際政治の影響をもろに受け,あちらの国が参加するならこちらでは選手を引き揚げたり,人種差別に対する抗議,果てはゲリラ襲撃事件に巻きこまれたりであった.そして,とうとうモスクワ五輪では,ソ連のアフガニスタン介入に伴い,世界の大国同士の争いにまでエスカレートしてしまった.
 近代オリンピックは,参加者が地球全体に広がり,「世界は一つ」「世界平和祭典」にマンモス化していったが,その結果,国家の多大な経済援助なしには運営できなくなってしまった.経済力のない小国は大会開催国にはなれないため,どうしても大国の政治的介入が出てくる.また受け入れ側としても巨大な競技場や選手村などの建設が必要となり,開催のたびに自然破壊が論議される.揚句には,市民生活までも物価高とインフレに脅かされ,最後のつけは,国が多額の赤字として背負込む状態となる.これではオリンピック精神は一体どこへ,ということになる.

日本列島

岡山県における,その後の「保健文化賞」

著者: 堤隆信

ページ範囲:P.443 - P.445

■はじめに
 「保健文化賞」は,戦後の荒廃した社会状況からようやく脱しつつあった昭和24年に設置されたが,それから30年を経過し,今年で32回目を迎える.
 この間,個人182,団体238の受賞は,全国津々浦々にまで及んでおり,また最近10年間の応募件数の平均をみると,85件という数が示すように,この賞がわが国の保健衛生分野において最高に権威があり,同時に社会的評価の高い賞であることが明らかであろう.

健康管理情報システムの開発—三重・岐阜

著者: 井口恒男

ページ範囲:P.445 - P.445

 昭和49年に発足した(財)医療情報システム開発センター(MEDIS)では,救急医療情報システム,共同利用型病院情報システム,へき地医療情報システムなどの開発につづき,54年度からは新たに健康管理情報システムを開発するべく,モデル県を指定して現状調査を進めている.
 東海地方では,三重県で都市型健康管理情報の,岐阜県で農村型健康管理情報のそれぞれシステム開発に取り組むべく調査を進めている.三重県では伊賀地域など都市を含めた広域地域を対象として,乳幼児,学童から勤労者,老人に至る各種検診などの情報の実態調査に入っている.また,岐阜県では農村地域の「保健所管内の3カ町村において,成人を中心として,住民検診,循環器検診などの検診システムや情報の流れなどについて現状調査に取り組んでいる.

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法令解説

著者: 高橋直人

ページ範囲:P.446 - P.447

■法令の形式とその内容について
 戦後わが国は日本国憲法を制定し,民主主義国家への道を歩み始めたが,近代民主主義国家では,国民の自由の保障のため,国民参政,基本的人権の保障,権力分立,法の支配などの原則が要請された.日本国憲法もこれらの原則の上に立ち,国民の代表から組織される国会を国権の最高機関であり,国の唯一の立法機関であるとした.内閣は,憲法上,三権のうち国会の立法権および裁判所の司法権以外の行政権を有するものとされているが,現代国家の行政は,経済・社会の進展に伴い,複雑多岐にわたり,行政権はかなり広い領域にわたっている.こうした現在の行政は,近代民主主義の要請である法の支配の原則の下に,国権の最高機関である国会の制定する法律に基づいて行なわれている.
 憲法の定める立法の形式は,行政に関するものでは法律と政令があり,このほか国家行政組織法によって機関各大臣はその担当する行政事務について,法律または政令を施行するため,その特別の委任に基づいて,省令等を発することができることとされている.

基本情報

公衆衛生

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1170

印刷版ISSN 0368-5187

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